上 下
139 / 168
学園創設編

138 リヒトの婚約者 04

しおりを挟む

 魔塔主の執務室で充分に気持ちを落ち着かせてから私は勉強部屋に戻った。
 私が戻った時、カルロは乳母にお説教されていた。

「リヒト様を追い詰めていはいけないと何度も繰り返し教えたにも関わらず、あなたは一体何をしているのですか?」

 乳母に叱られながらもカルロはなんだか少し拗ねているようだった。
 その姿が妙に可愛くて、先程の見知らぬカルロではないことにホッとした。

 それにしても、乳母の言葉が気になった。

「あ、あの、もしかして、乳母はカルロの気持ちに気づいて……」
「リヒト様、カルロの気持ちはリヒト様以外の皆が知っています」

 皆と言われて、私は思わずグレデン卿やグレデン卿と交代のために来ていたヘンリックにも視線を向けた。
 二人とも無言のままこくりと頷いた。

 その時、「失礼します」とシュライグが部屋に入ってきたので、シュライグにも聞いてみると、その表情を明るくして感動された。

「リヒト様はやっとカルロ様のお気持ちに気づいてくださったのですね!!」

 本当に、私以外のみんなが知っていたのか……
 魔塔主のところで気持ちを落ち着かせてきたというのに、驚きの衝撃で今度はめまいを覚える。
 少し揺れた私の体をすぐにヘンリックが支えてくれた。

「リヒト様、大丈夫ですか?」
「ありがとう。ヘンリック」

 カルロの眉間に皺が寄る。
 時々、あのような顔をしていたけれど、まさか、あれは嫉妬していたのだろうか?
 そう考えると、これまでに似たような場面は何度もあったような気がする。

 カルロは本当にずっと私を好きだったのだと理解した途端、顔が熱くなった。
 やばい、これは恥ずかしい。

 とはいえ、私は恋愛的な意味でカルロを好きだったことがない。
 同い年という認識もなかったし、ずっと大人としてカルロの成長を見守ってきたし、大人として子供時代の推しキャラまじ天使だと思ってきた。

 こんな私が、いくらカルロが私のことを好きだと言ってくれるからと言って、婚約者となり、自分に縛りつけてもいいのだろうか?

 ……いや、よくない。
 全然よくない。

「いいですよ」

 不意に、すぐ近くでカルロの声がして、私はいつの間にか思いっきり瞑っていた目を開いた。

「……え?」
「リヒト様、今、僕のことで悩んでましたよね?」
「よくわかったね」
「すごく顔に出てました」
「そっか……」
「いいですよ」

 カルロはもう一度同じ言葉を繰り返したが、私にはさっぱり意味がわからなかった。
 意味がわからないから話しをしたいが、前世の話が出てしまうかもしれないから、みんながいる前では迂闊なことが言えない。

 困って乳母を見ると、すぐに察してくれた乳母はみんなを連れて部屋の外に出てくれた。
 扉を閉める前には「カルロに襲われそうになったらすぐに呼んでください」と言って閉めた。
 乳母が息子を全く信用していないことが伺える。

「カルロ」
「はい」

 先程のように逃げ道を塞がれると困るので、私は立ったまま話した。

「いいって、何がいいんだ?」
「リヒト様は僕のことを好きだし、大切だけど、それは恋愛的な意味じゃないというところで悩んでましたよね?」

 え? 闇属性の魔法って読心術もあるの? 怖い……

「別に、恋愛感情がなくても、僕のことを婚約者にして、他国からの婚約話を断る口実に使ってもいいです」
「良くないだろ!?」

 私が考えていたことを全部理解しているのすごく怖い……

「リヒト様は僕の前でお気持ちを隠したことがないので、考えていることは大体わかります」
「……言われてみれば、確かに、カルロの前で気持ちを隠したり、コントロールしたことはないかもしれない」

 だって、カルロはこの世界に転生した私にとって一番馴染みのある存在だったから。
 前世からずっと知っていて、ずっと守りたかった存在。

「……カルロのことは、恋愛的な意味では好きじゃないけど、ずっと守ってあげたいって思ってる」

 カルロが私に一歩近づいて、私の手を握った。

「それは、私が中身おじさんだから……カルロより、ずっとずっと大人だから」

 カルロがもう一歩近づいてきて、私は思わず一歩後ろに逃げた。

「大人として、カルロのことを守ってあげたいと思ってきたんだ」

 恋愛的な意味でカルロのことを好きなわけじゃなくて、中身がおじさんで、カルロとは色んな意味で不釣り合いなんだけど……

「それでも、いいのかな?」
「十分、幸せです」

 それなら、カルロを婚約者にしてもいいのかもしれない。

「あ、他に好きな子ができたら…「絶対ないです!!」」

 食い気味に即否定された。



 両親にカルロと婚約することを報告すると、「やっとか」とどことなくホッとされた。
 本当に、私以外のみんなが気づいていたようだ。
 自分の鈍さが恥ずかしい……





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。 目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。 人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。 しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで… 色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。 R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

天使の声と魔女の呪い

狼蝶
BL
 長年王家を支えてきたホワイトローズ公爵家の三男、リリー=ホワイトローズは社交界で“氷のプリンセス”と呼ばれており、悪役令息的存在とされていた。それは誰が相手でも口を開かず冷たい視線を向けるだけで、側にはいつも二人の兄が護るように寄り添っていることから付けられた名だった。  ある日、ホワイトローズ家とライバル関係にあるブロッサム家の令嬢、フラウリーゼ=ブロッサムに心寄せる青年、アランがリリーに対し苛立ちながら学園内を歩いていると、偶然リリーが喋る場に遭遇してしまう。 『も、もぉやら・・・・・・』 『っ!!?』  果たして、リリーが隠していた彼の秘密とは――!?

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...