不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【奨励賞☆ありがとうございます!!】

はぴねこ

文字の大きさ
上 下
137 / 240
学園創設編

136 リヒトの婚約者 02

しおりを挟む
「だ、だめです。そんなの、カルロが可哀想です」
「ヴィント侯爵からはこの申し出はカルロが望んだことだと聞いているが?」

 私はゾッとした。
 またカルロは私のためだと思って自分を犠牲にしようとしているのだろうか?

 私の顔色が変わったことに気づいたのだろう。
 父上は困ったような表情を見せる。

「リヒトが望むならば、ナタリア様との…」
「それはありません!」

 私は慌てて否定した。
 私はナタリアと婚約したくて、カルロとの婚約の案を拒否したわけではない。

 ナタリアにはカルロを幸せにしてもらわなければいけないのだ。
 ゲームのように、またしてもリヒトにナタリアを取られるわけにはいかない。

 私の顔をじっと見つめていた父上は私を安心させるようにその表情を緩めた。

「まだ時間はあるから、一時的にでも誰か婚約者を定めることを考えてみてほしい」
「……わかりました」

 私は父上の執務室の中で仕事をしていた第一補佐官に声をかけた。
 彼の近くにカルロはいない。

「あの、カルロと話をしたいのですが、カルロは今どこに?」
「第四補佐官と一緒に文官に書類を届けに行きました。もう少しすれば戻ってくると思います」
「戻ってきたら、カルロをお借りしてもいいですか?」

「もちろんです」と第一補佐官は快く了承してくれた。



 第四補佐官と父上の執務室に戻ってきたカルロを連れて、私は勉強部屋へと戻った。

「カルロ、どうして私の婚約者になんて名乗り出たんだ! またそうやって自己犠牲なんてして、私が喜ぶわけないだろう!?」
「自己犠牲じゃありません!」

 カルロの強い声に私は驚いた。

「自己犠牲なんかじゃないです……」

 カルロが私に抱きついてきて、カルロの身長が私と並んでいることを実感する。
 11歳の誕生日パーティーの衣装を準備している時には気づいていたが、改めてこうして抱きつかれると本当にほぼ同じ身長なのだとわかる。

「リヒト様の婚約者になるのは僕が本当に望んでいることです。僕は本当に……リヒト様が思っている以上に、僕はリヒト様のことが好きなんです」
「カルロが従者として私を慕ってくれているのは知っている。けれど、一度婚約者になってしまえば、いくら一時的とは言えどナタリア様の心象はよくない」

 カルロが一度体を離して、不満そうに私を見た。

「リヒト様はいつまで僕がナタリア様を好きだと勘違いしているのですか?」
「勘違いなんかじゃ……」
「勘違いですよ! 僕は一度もナタリア様を好きだったことなんてありません!」

 な……なんだって!?
 あんなに仲良さそうに見つめ合ったりしていたのに、好きじゃないだと!?
 だとしたら、カルロはナタリアにかなり思わせぶりな態度をとっていたことになる。

「ずっとリヒト様のことが好きなんです! 従者と主人という立場でももちろんお慕いしておりますが、それ以上にリヒト様にキスしてほしいくらいに好きなんです!!」

 キスしてほしい……
 つまり、プロポーズしてほしいということだろうか?
 カルロがナタリアのことを好きじゃないという衝撃に加えて、さらなる衝撃に私は動揺する。

「い……いやいやいやいやそれはダメだよ!!」
「リヒト様が僕を好きじゃないからですか? 僕には望みがないんですか?」

 それは聞かないでほしい!!
 嘘はつきたくない。
 でも、嘘をつかないと、カルロを幸せにできないかもしれない。

「……そうだ。私は、カルロにはキスできない……」
「嘘ですね」

 速攻で見破られた。
 カルロは強い口調でキッパリと言った。

「リヒト様、今躊躇してました」
「それは、カルロを傷つけることになるから! 私はカルロを傷つけたくない」

「そうですよね」と、カルロの瞳が細められる。

「リヒト様は僕に優しい」

 カルロの顔が再び、ぐいっと私に寄せられた。
 私は一歩下がった。

「リヒト様に初めてお会いした時は誰にでも優しいのかと思っていました。確かに、子供たちには優しいですが、リヒト様は特に僕に優しいんです」

 カルロがにこりと微笑む。
 会ったばかりの頃のはにかむような笑顔ではない。

「一度はリヒト様を怒らせてしまって、そのまま嫌われてしまうかもしれないと怖かったですが、それでもやっぱりリヒト様は僕に一番優しかった」

 オルニス国でカルロに対して怒ってしまってからしばらくはカルロは自信なさそうに、また怒られることを恐れているように慎重に私に接していたけれど、あれから2年ほどが経ち、カルロも大人になって恐怖を抱いている様子もない。

「リヒト様は僕のこと好きです」

 むしろ、以前よりも確信を持っているように言った。

「だから、僕は神様に恋をするなんて、無謀なことをしてしまったのですから」
「乳母とグレデン卿!」

 私は居た堪れなくなって、部屋にずっといた二人を呼んだ。

「申し訳ないが、カルロと二人きりにしてください」

 私とカルロの会話をそれまでずっと聞いていたはずの二人は顔色ひとつ変えていない。
 あんな恥ずかしいカルロの話を聞いていて、なぜ顔色をひとつ変えることなくいられたのか不思議だ。

「扉の前におりますので、カルロに襲われそうになったら呼んでください」

 乳母がそう言って扉を閉めた。
 ちなみに、メイドたちのことはすでに乳母が下がらせている。
 乳母はこのような展開になることを予想していたのだろうか……

「僕の失態を隠すためにお二人を外に出したのですか?」

 カルロがまた一歩、私との距離を詰め、私はまた下がる。
 きっと、今の私の顔は真っ赤だろう。

「いや、違う」と、私は首を横に振った。
 そして、覚悟を決める。

「カルロに、私の秘密を打ち明ける」

 そうでもしないと、カルロの暴走はきっと止まらないだろう。
 カルロの暴走が止まってくれないと、私の鼓動も落ち着かなくて困るのだ。

 私は自分を落ち着かせるためにソファーに座り、カルロに向かいのソファーに座るように示したが、カルロは定位置である私の隣に座った。
 カルロとの距離がいつも通り近くて、これではすぐに心臓の音が落ち着くのは無理だと、私はため息をついた。
 仕方なく、私は自分のうるさい心臓の音を聞きながら話をすることにした。

「驚くと思うが、落ち着いて聞いてほしい」

「はい」と、微笑むカルロの顔が近い。

「私には前世の記憶があり、前世で死んだ時の年齢が52歳なんだ」

「はい」と、カルロは驚いた様子ひとつ見せずに返事をした。

「……だから、つまり、私の中身は52歳なんだ」
「それで大人びていたのですね。格好いいです」

 気持ち悪いと距離をおかれるはずが、先ほどよりもカルロの顔が近い。

「違う!! 気持ち悪いだろう? 52歳のおじさんが子供のふりをして無邪気に笑ったり、カルロを抱きしめたりしてしまっていたんだよ!?」
「前世が52歳でも実年齢は11歳ですよね?」

 ……カルロの冷静さが裏目に出ている。
 52歳のおっさんが子供たちに混じっている気持ち悪さがわかっていない。

「それに、リヒト様が52歳でも僕は絶対にリヒト様のことを好きになります」

 そう言って、カルロは私の唇に自分の唇を触れさせた。

「っ!?」

 私は驚いて、反射的に自分の唇を手で覆った。




しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ
BL
貴族の間で婚約破棄が流行し、歪みに歪んだサンドレア王国。 飛竜騎士団率いる悪役令嬢のもとに従者として転生した主人公グレイの目的は、前世で成し遂げられなかったゲームクリア=大陸統治を目指すこと、そして敬愛するメルロロッティ嬢の幸せを成就すること。 前世の記憶『予知』のもと、目的達成のためグレイは奔走するが、メルロロッティ嬢の婚約破棄後、少しずつ歴史は歪曲しグレイの予知からズレはじめる…… *主人公の股緩め、登場キャラ貞操観念低め、性癖尖り目、ピュア成分低めです。苦手な方はご注意ください。 *他サイト様にも投稿している作品です。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

処理中です...