上 下
136 / 169
学園創設編

135 リヒトの婚約者 01

しおりを挟む

 カルロが補佐官業務を学んでいる間、私はライオスや第二補佐官と話し合いを繰り返し、二人と話した結果を今度は両親と宰相、第一補佐官と話し合うという流れで魔法学園創立の準備を進めていった。
 両親たちとの話し合いは話し合いというよりはほとんど報告で終わった。
 オーロ皇帝が出資者で、魔塔も関わっているため、下手に何か意見するわけにもいかなかったのかもしれない。
 あとは、親バカなため、「リヒトの好きにしたらいい」という感じが強かった。

 もちろん、オーロ皇帝と魔塔主にも何か決まるたびに報告を行った。
 しかし、この二人からも細かい指摘や意見は特になかった。

 オーロ皇帝は早く魔法学園を作って、帝国傘下の王族からさっさと金を巻き上げろ、王子王女や優秀な魔法使いになりそうな貴族の情報を寄越してくれればそれでいいという感じだった。

 魔塔側は才能のある学生がいればそれは嬉しいが、その確率は非常に低いためそれほど期待していない。
 それよりも、気に入らない奴がいたら、すぐ退学にするからそのつもりでという注意を毎回聞かされた。
 その点については入学希望の王侯貴族たちに繰り返し伝えるつもりだ。
 とにかく、魔塔の魔法使いを怒らせるな……と。



 秋の初めから建築が始まった。
 建築場所はティニ領地の中心街とヴィント公爵領の間くらいの場所だ。
 なぜその場所にしたかというと、中心街に近い場所だとティニ公国が破滅した発端となったエトワール王国に反意を持つ領民に魔法学園建築の妨害を受ける可能性があるからだ。

 ちなみに、公国はもともと公爵領だったので、国としての領土はそれほど広くなく、管理するために貴族たちに分割しているということもなかった。
 公国内にいた公爵以外の貴族は伯爵家ひとつ、子爵家ふたつ、男爵家ふたつで、彼らは中心街に屋敷を構えて住んでいる。
 公爵家であるライオスの屋敷はもちろん、中心街の中心にある。

 建築が始まってからというもの、私がライオスのところに行くたびにライオスは建築の視察に行きたがった。
 しかし、私が一緒に転移できるのは自分ともう一人だけだ。
 護衛騎士を付けずに転移することを許されていない私は自分で転移する場合には護衛騎士しか供にできないのだ。
 私は仕方なく魔塔主を連れてライオスの元へと通うようになった。
 最初は魔塔主に感激し、興奮していたライオスも回数を重ねるうちに魔塔主に慣れて落ち着いてきたようだ。
 魔法学園が始まる前に魔塔主に会わせておいて正解だったようだ。
 
 ちなみに、屋敷内でフェリックスが魔塔主を見かけて、「クロイツだ。久しぶり」と声をかけた瞬間、ライオスはフェリックスを殴っていた。
 よほど動揺したのだろうが、人は殴ってはダメだと叱った。

 ついでだから、フェリックスとハンナにも魔塔主の正体を明かすと、フェリックスはぽかんっとし、ハンナは真っ青な顔になっていた。

 その一年は第一補佐官の元で学びを重ねるカルロを応援しつつ、ライオスと魔法学園についてのあれこれを決めたり、視察に行ったりしながらそれなりに忙しく日々を過ごした。



 そうして、11歳になった私に、父上は言った。
 
「魔法学園入学に向けて、リヒトの婚約者を決めたいと思う」

 その時、私はおそらく、ものすごく間抜けな顔になっていたと思う。


「……魔法学園入学と私の婚約者に何の因果関係があるのでしょうか?」
「オーロ皇帝からの提案でもあるのだ。リヒトが魔法学園に入学する前に婚約者を決めておいた方がいいだろうと」

「なぜなら」と父王は神妙な顔をした。

「リヒトはあまりにも優秀すぎるため、帝国傘下の他の国から申し込みが殺到するはずだと」

 オーロ皇帝は一体何を父王に吹き込んでいるのだ……

「私もオーロ皇帝の意見に大いに賛同する。リヒトには婚約の申し込みが殺到するに違いない」

 親バカぶりに拍車をかけるようなことを言わないでほしい。

「オーロ皇帝からはナタリア様を推薦された。確かに、帝国の姫様を婚約者にさせてもらえればそこに割って入ってこようとする国はないだろう」

 オーロ皇帝は私の中身が52歳だということを知っているのに、中身50代のおっさんを可愛い孫娘の婚約者にすることに抵抗感はないのだろうか?
 いや、むしろ、ナタリアのモテ期の盾として役に立ち、その後、別れさせる時の説得がラクでいいと考えているのかもしれない。

「しかし、ナタリア様と婚約した場合、将来的にはリヒトをオーロ皇帝に取られてしまうため、私はヴィント侯爵の申し出を受けた方がいいのではないかと思っている」
「乳母の勧めですか?」

 乳母から令嬢の話など一度も聞いたことがなかったが、乳母が認める優秀なご令嬢がいるのだろうか?

「ああ。カルロを一時的に婚約者としてはどうだろうか?」
「……え?」

 あまりにも想定外なことを言われた私は、すぐには父王の言葉の意味を理解できなかった。

「……今、なんとおっしゃったのですか?」
「カルロを婚約者としてはどうだろうか? 他に気になっている者もいないようだし」

 どうやら、私の聞き間違えということではないようだ。
 カルロを婚約者になんて、とんでもない。
 カルロにはナタリアと結ばれるという輝かしい未来があるというのに、私になんて縛りつけてはいけない。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

天使の声と魔女の呪い

狼蝶
BL
 長年王家を支えてきたホワイトローズ公爵家の三男、リリー=ホワイトローズは社交界で“氷のプリンセス”と呼ばれており、悪役令息的存在とされていた。それは誰が相手でも口を開かず冷たい視線を向けるだけで、側にはいつも二人の兄が護るように寄り添っていることから付けられた名だった。  ある日、ホワイトローズ家とライバル関係にあるブロッサム家の令嬢、フラウリーゼ=ブロッサムに心寄せる青年、アランがリリーに対し苛立ちながら学園内を歩いていると、偶然リリーが喋る場に遭遇してしまう。 『も、もぉやら・・・・・・』 『っ!!?』  果たして、リリーが隠していた彼の秘密とは――!?

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

処理中です...