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学園創設編
135 リヒトの婚約者 01
しおりを挟むカルロが補佐官業務を学んでいる間、私はライオスや第二補佐官と話し合いを繰り返し、二人と話した結果を今度は両親と宰相、第一補佐官と話し合うという流れで魔法学園創立の準備を進めていった。
両親たちとの話し合いは話し合いというよりはほとんど報告で終わった。
オーロ皇帝が出資者で、魔塔も関わっているため、下手に何か意見するわけにもいかなかったのかもしれない。
あとは、親バカなため、「リヒトの好きにしたらいい」という感じが強かった。
もちろん、オーロ皇帝と魔塔主にも何か決まるたびに報告を行った。
しかし、この二人からも細かい指摘や意見は特になかった。
オーロ皇帝は早く魔法学園を作って、帝国傘下の王族からさっさと金を巻き上げろ、王子王女や優秀な魔法使いになりそうな貴族の情報を寄越してくれればそれでいいという感じだった。
魔塔側は才能のある学生がいればそれは嬉しいが、その確率は非常に低いためそれほど期待していない。
それよりも、気に入らない奴がいたら、すぐ退学にするからそのつもりでという注意を毎回聞かされた。
その点については入学希望の王侯貴族たちに繰り返し伝えるつもりだ。
とにかく、魔塔の魔法使いを怒らせるな……と。
秋の初めから建築が始まった。
建築場所はティニ領地の中心街とヴィント公爵領の間くらいの場所だ。
なぜその場所にしたかというと、中心街に近い場所だとティニ公国が破滅した発端となったエトワール王国に反意を持つ領民に魔法学園建築の妨害を受ける可能性があるからだ。
ちなみに、公国はもともと公爵領だったので、国としての領土はそれほど広くなく、管理するために貴族たちに分割しているということもなかった。
公国内にいた公爵以外の貴族は伯爵家ひとつ、子爵家ふたつ、男爵家ふたつで、彼らは中心街に屋敷を構えて住んでいる。
公爵家であるライオスの屋敷はもちろん、中心街の中心にある。
建築が始まってからというもの、私がライオスのところに行くたびにライオスは建築の視察に行きたがった。
しかし、私が一緒に転移できるのは自分ともう一人だけだ。
護衛騎士を付けずに転移することを許されていない私は自分で転移する場合には護衛騎士しか供にできないのだ。
私は仕方なく魔塔主を連れてライオスの元へと通うようになった。
最初は魔塔主に感激し、興奮していたライオスも回数を重ねるうちに魔塔主に慣れて落ち着いてきたようだ。
魔法学園が始まる前に魔塔主に会わせておいて正解だったようだ。
ちなみに、屋敷内でフェリックスが魔塔主を見かけて、「クロイツだ。久しぶり」と声をかけた瞬間、ライオスはフェリックスを殴っていた。
よほど動揺したのだろうが、人は殴ってはダメだと叱った。
ついでだから、フェリックスとハンナにも魔塔主の正体を明かすと、フェリックスはぽかんっとし、ハンナは真っ青な顔になっていた。
その一年は第一補佐官の元で学びを重ねるカルロを応援しつつ、ライオスと魔法学園についてのあれこれを決めたり、視察に行ったりしながらそれなりに忙しく日々を過ごした。
そうして、11歳になった私に、父上は言った。
「魔法学園入学に向けて、リヒトの婚約者を決めたいと思う」
その時、私はおそらく、ものすごく間抜けな顔になっていたと思う。
「……魔法学園入学と私の婚約者に何の因果関係があるのでしょうか?」
「オーロ皇帝からの提案でもあるのだ。リヒトが魔法学園に入学する前に婚約者を決めておいた方がいいだろうと」
「なぜなら」と父王は神妙な顔をした。
「リヒトはあまりにも優秀すぎるため、帝国傘下の他の国から申し込みが殺到するはずだと」
オーロ皇帝は一体何を父王に吹き込んでいるのだ……
「私もオーロ皇帝の意見に大いに賛同する。リヒトには婚約の申し込みが殺到するに違いない」
親バカぶりに拍車をかけるようなことを言わないでほしい。
「オーロ皇帝からはナタリア様を推薦された。確かに、帝国の姫様を婚約者にさせてもらえればそこに割って入ってこようとする国はないだろう」
オーロ皇帝は私の中身が52歳だということを知っているのに、中身50代のおっさんを可愛い孫娘の婚約者にすることに抵抗感はないのだろうか?
いや、むしろ、ナタリアのモテ期の盾として役に立ち、その後、別れさせる時の説得がラクでいいと考えているのかもしれない。
「しかし、ナタリア様と婚約した場合、将来的にはリヒトをオーロ皇帝に取られてしまうため、私はヴィント侯爵の申し出を受けた方がいいのではないかと思っている」
「乳母の勧めですか?」
乳母から令嬢の話など一度も聞いたことがなかったが、乳母が認める優秀なご令嬢がいるのだろうか?
「ああ。カルロを一時的に婚約者としてはどうだろうか?」
「……え?」
あまりにも想定外なことを言われた私は、すぐには父王の言葉の意味を理解できなかった。
「……今、なんとおっしゃったのですか?」
「カルロを婚約者としてはどうだろうか? 他に気になっている者もいないようだし」
どうやら、私の聞き間違えということではないようだ。
カルロを婚約者になんて、とんでもない。
カルロにはナタリアと結ばれるという輝かしい未来があるというのに、私になんて縛りつけてはいけない。
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