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学園創設編

134 カルロのライバル

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 私と同じ誕生日のカルロには、10歳の誕生日に万年筆を贈った。
 カルロは第一補佐官の元でよく学び、収支の書類や会議の書類なども見るようになっていたから、筆記用具を贈ることにしたのだ。

 私がエラーレ王国から戻り、昼間もエトワール王国の城にいるようになってからもカルロは忙しく、私と顔を合わせるのは朝と寝る前だけだった。
 第一補佐官が私の従者としての仕事を優先してもいいと言ったそうなのだが、カルロは将来のために第一補佐官から文官の基礎くらいはしっかり学びたいと言ったそうだ。

「冬から、第五補佐官が出仕してくれていますが、正直、今はまだカルロの方が役に立ちます」

 そう第一補佐官が褒めるほどにカルロは優秀だという。
 第五補佐官は入ってきたばかりとは言えど、文官の中でも優秀な者しか挑戦できない補佐官の試験に合格した人物だ。
 そうした人物よりもまだ10歳のカルロの方が役に立つというのはかなりの高評価なのだ。

「そうなんです。カルロは優秀なのです」

 カルロが優秀なのは前から知っていたことなので特に不思議はなかったが、それでも私は嬉しくて、第一補佐官相手に思わず自慢してしまった。
 私の自慢に第一補佐官は嫌な顔をひとつすることなく微笑んだ。

「リヒト様はカルロのことを将来的にもそばにおくつもりですよね?」

 当然のようにそう言った第一補佐官に私は思わず、「え?」と聞き返してしまった。
 カルロが将来的にナタリアのためにルシエンテ帝国に行くかもしれないことは、ゲームの内容を知る私だけの秘密だ。

「違うのでしょうか? リヒト様の公務の手伝いができるように、カルロをもうすこし私の元で学ばせようかと思っていたのですが?」
「違くありません! 当然のことを聞かれてすこし驚いたのです!」

 私の言い訳に第一補佐官は苦笑して「そうだったのですね。申し訳ございません」と謝ってくれた。
 私が悪いのに、第一補佐官に謝らせてしまった。
 申し訳ないことをした。

 カルロがまた従者として私と一緒に過ごすのはもう少し先になるようだったが、第一補佐官の元で学んだことはきっと、ナタリアと結婚した後も役に立つはずだ。



「第一補佐官がカルロのことを褒めていたよ」

 最近、すこし大人びた表情をするようになったカルロにそう伝えると、カルロは困ったように曖昧な笑顔を見せた。

「まだです」

 カルロの言葉の意味がわからなくて私は首を傾げた。
 まだとは一体、何がだろう?

「まだ第四補佐官に勝てていません」
「第四補佐官と何か勝負をしているの?」
「大人の証明です!」

 話が全然見えない。
 そのことについて詳しく説明をすることもなくカルロは従者の部屋に入っていった。

 この後、カルロは湯浴みをしたり就寝の準備をして早々に寝るのだろうから、私は邪魔をしないようにベッドに横になり、乳母に天蓋のカーテンを下ろしてもらった。
 
 7歳になってからは寝ずの番のメイドも部屋にはいないため、天蓋のカーテンをせずとも良かったのだが、最近はカルロが眠っている私に気を遣わなくても良いようにカーテンをしている。



 後日、第一補佐官に第四補佐官とカルロが何か競っているのかと聞いてみると、第四補佐官は心がいまだに少年で、精神年齢が近いためかカルロに絡むのだそうだ。
 そして、今は育児休暇中の第三補佐官の仕事をどちらが早く覚えられるのか競争しているらしい。

「第四補佐官はもともと真面目なタイプじゃなかったのですが、今はカルロに勝つために新しい業務を覚えているので、集中して業務に取り組んでいます。彼が補佐官になってからあんなに真面目な様子は初めて見ました」
「あまり補佐官の皆さんと関わらない私から見ても第四補佐官は自由気ままな感じが見て取れましたが、不真面目だったのですか?」
「不真面目とまでは言わないのですが……余裕を持って仕事をこなすタイプではなく、期日ギリギリまでに最低限できてればいいと計算してこなすタイプです」
「ある意味、要領がいいということですね……」
「そうですね。彼にとって仕事はお給料をもらうためのものと割り切っていて、補佐官になったのも父親にうるさく言われないために、文官として自身の家柄で上がれる一番高いところを目指しただけですね」
「それなら、騎士ではなく文官を選んだのは、もしかして文官の方が肉体的疲労がラクだからですか?」
「おそらくそうでしょう。第四補佐官は体を動かすことを好みませんから」

 もしかしなくても、第四補佐官はめちゃくちゃ優秀なのではないだろうか?
 その優秀さもやる気を出してくれなければ効力は50%以下かもしれないけれど、第一補佐官の話からすると、そのやる気を今、カルロが引き出してくれているということだろう。

「うちのカルロはすごいですね!」
「リヒト様ならそうおっしゃると思っていました」

 第一補佐官に笑われてしまった。

 ちなみに、ティニ領に派遣している第二補佐官が専属で行っていた仕事はどうしているのかと問えば、手紙を送る魔導具で書類を転送し、今も第二補佐官が担当しているそうだ。
 つまり、私のせいで第二補佐官の業務は倍かそれ以上になっているということだ。
 あとで謝っておこう。

「カルロは第四補佐官に勝つことを大人の証明だと言っていたのですが、それが何のことかわかりますか?」

「ああ、それは」と第一補佐官が教えてくれた。

「カルロが私の元で補佐官の業務を学び始めた頃……」

『あの大人なリヒト様を怒らせるとは、お子ちゃまなカルロ様はよほどのことをされたのでしょうね』

 そう第四補佐官は言ったのだそうだ。

「そんなひどいことを……」
「そうですね。カルロはその時すでに反省していたので、私も第四補佐官を叱ったのですが、彼は中身が本当に子供なので、その後もカルロのことを度々『お子ちゃまカルロ様』などと呼んでカルロを揶揄いました」

 私は第一補佐官の話を聞いているうちに、第四補佐官に対して徐々に腹が立ってきた。
 しかし、次の話を聞いて、怒りはすぐに霧散した。

「揶揄い続けた結果、カルロも我慢の限界に達したようで、影から触手を出して第四補佐官をぐるぐる巻きにして、私が会議から戻るまでの四時間、放置していました」
「……うちのカルロが、すみませんでした」
「いえ、第四補佐官の自業自得ですので、仕方ありません……一応、鼻は塞がずにいてくれましたし……」
「………」

 カルロがやられっぱなしでなくて良かったけれど、下手をしたら同僚を殺害していたかもしれない。
 ちなみに、床に転がしていたのではなく、第四補佐官の席で椅子に座ったままの状態で放置されたそうで、同じ体勢をとり続けていた彼の体はガチガチになっていたそうだ。

「とにかく、そうした経緯があって、今のカルロは業務で第四補佐官に勝つことが目標で、第四補佐官はカルロに追い付かれないために集中して仕事をこなしており、非常に業務効率がよくなっているので、ある意味、お互いに刺激があっていい関係を築いているようです」

 つまり、第四補佐官はカルロの良きライバルということなのだろう。





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