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学園創設編

132 会議室での一波乱 01

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 春になり、10歳の誕生日パーティーを終えた後、ライオスに面会を求められた。
 話の内容はわかっていたものの、ジト目を向けられるとすこし緊張してしまう。
 ライオスには魔法学園の構想から具体的な計画まで任せっきりだったので、怒られても仕方ない。
 昨年の秋に第二補佐官をライオスの元に派遣し、実際に王に提案し、会議にかけられるまでの書類を整えてもらったことによって痺れを切らしたのだろう。

「私もリヒト様の言いつけ通り、基礎教育を終えましたし、オーロ皇帝が資金を提供してくださるとも聞き及んでおります。リヒト様ももう10歳になられました! そろそろ、学園の建設をしなければなりません!」

 ライオスの計画では12歳になる年に入学し、4年間学ぶ計算になっている。
 前世でプレイした『星鏡のレイラ』も同じ設定だった。
 これが偶然の一致なのか、必然なのかはわからないが、ライオスが考えた魔法学園が『星鏡のレイラ』の舞台となるのだろう。

 叔父に両親を殺された後は幽閉されて学ぶことさえも禁止されていたにも関わらず……いや、だからだろうか?
 ライオスの学園創設の熱意は強く、よく考えられていた。
 ライオスの考えを具現化できるように父王より第二補佐官を借りてライオスの補助をお願いしていたのだが、彼もライオスのことを高く評価していた。

「では、ティニ領とヴィント侯爵領、足りなければ他のところからも大工さんを集めて作業に入りましょう」

 ちなみに、元ティニ公国の領土は結局はティニ領と呼ぶことになった。
 現在は私の管轄となっているが、後々はライオスに返す予定だ。

 魔法学園の設計図もライオスが引いている。
 もちろん、建築の専門家に相談し、助言をもらいながらだ。

「資金提供してくださるオーロ皇帝からは王族からは入学金、授業料の他にも寄付金を取ること、しかし、学園内では他の生徒と平等に扱うこと、それが守られなければ教師である魔塔の魔法使いから厳しい罰則を与えることと言われています。魔塔主からは入学試験をし、基準を満たした者のみを入学させること、基礎も理解していない者を教えなければいけないような無駄なことを魔塔の魔法使いにさせないことということです」

 オーロ皇帝と魔塔主の要望を伝えるとライオスの表情に少し不安が浮かぶ。

「入学試験に魔力量は関係しますか?」

 ライオスは基礎魔法をやっと扱える程度の魔力しかない。
 これほどまでに情熱を持って作り上げた魔法学園にライオス自身が入学できないのは可哀想だろう。

「実技試験も行いたいとは聞いていますが、それほど難しいものではないと思います」

 ライオスに関しては魔法学園創設に最も尽力した者として温情を与えてもらえるように試験管となる魔法使いにお願いしておこう。
 本当は特別枠で試験なしで合格にしてあげたいところだが、さすがにそれは魔塔主が許してはくれないだろう。

 フェリックスにも基礎学力をつけるべく、ライオスと一緒に勉強するように伝えたのだが、フェリックスは最初自分にはそうした学問は必要ないと抵抗した。
 しかし、そこはライオスが説得したのだ。

「知恵や人脈がないと簡単に他者に自分の技術や夢は奪われます。そうならないためにも、そのような輩をいざという時には拘束して、亜空間に閉じ込めるくらいの力は必要じゃないですか?」

 ライオスにそう言われてフェリックスはやけに納得していたが、亜空間を作るとか、それはかなり高度な魔法で、使用する魔力も膨大だ。
 ライオスは理解していて自分のやりたい理想を口にしたのだろうが、フェリックスは全く理解できていない様子だった。
 しかし、それで勉強する気になったのだからいいのだろう。

 学園を作るには多くの人手がいる。
 実際に組み立てていく過程は大工などのプロに任せる必要があるだろうが、木やレンガ、石などの材料を運ぶだけなら冒険者や農閑期の農夫でもいいだろう。

 建築場所はライオスが魔塔の側がいいと言ったが、それは却下だ。
 魔塔の近くということは、エトワール王国の城の近くということになる。
 そんなところに他国の王族が来る可能性が高い魔法学園は作れない。
 エトワール王国が他国の王子王女を人質にとっているというような見方をされても困るし、逆に王子王女たちに気軽に城に近づかれても困る。

 ということで、一応、小国分の広い領地はあるものの、すでに国としては滅んでいるティニ領地内に魔法学園を作ることにした。
 何ならティニ領地全体を学園都市として栄えさせてもいいだろう。



 さて、ここは大会議室。
 貴族たちが集まって月に一度の会議を行う日なのだが、どういうわけか私はこの場に呼ばれた。

「リヒト様、ティニ領地に学園を建設予定だという噂が流れておるのですが、その真偽をお伺いしたいのですが?」
「すでに人員を集めておりますので、その人の流れを見れば私に事実確認をするまでもなく事実だと理解できることだと思います」
「リヒト様はまだお若いのでご存知ないのかもしれませんが、大規模工事には膨大なお金がかかるものなのですが、貴族たちに出資を求めるお話は聞いておりませんが、まさか、強制的に徴収されるご予定だったのでしょうか?」

 私が下の者に頼んで働き手の募集のチラシを出した領地の者たちはしれっとしている。
 今、私に強く出ている者たちは私が働き手の募集を行わなかった領地の者、つまり、学園建設の説明をせず、オーロ皇帝が出資者だと知らない者たちが、自分たちだけが利権から漏れていると思って強く出ているのだ。

 彼らは前王派で前王に自分の子供や下町で入手した子供を献上して利益を得てきた貴族たちだ。
 私は当然、そのような者たちに利益を渡す気はない。
 その領地に住む者たちには申し訳ないが、彼らの領民を建築に関わらせることで彼らに税金などでお金が巡っていくのだから彼らの領民たちを使うことさえも抵抗がある。

「本来は王に答えていただければよかったのですが、魔法学園についてはリヒト王子に一任されているということでしたので、もしかすると王は大事なことをリヒト王子にまだお教えしていないのではないかと思いお呼びしたのです」
「国が主導して学校を作ることに文句はございませんが、建築費用の出資についてはお早めにお声がけください。精一杯援助いたしますので」

 つまり、彼らが言いたいのは建築費用を一部負担するから利権を寄越せということだ。
 しかし、魔塔が深く関係している魔法学園には他国の王族も通う可能性が高いのだ。
 そこに王子、王女を送り込んで、魔塔の魔法使いから魔法を学ぶだけではなく、魔塔の魔法使いの誰か一人だけでも親しくなることができれば収穫は大きい。

 そんな場所の建築にあの変態の手下であろう者たちを関わらせて、どんなに小さな利権であってもくれてやる気はない。




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