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学園創設編
131 我が国の王子 02(第二補佐官視点)
しおりを挟むさて、そうして私は元ティニ公国の領土にある元ティニ公爵家のお屋敷に派遣されることになったわけです。
リヒト王子とのやりとりを第三補佐官と第四補佐官に伝えると、抜け駆けだとかずるいとか卑怯だとかそんなことを言われましたが、だからどうしたというのでしょうか?
職場だって戦場なのです!
自分が望む場所を手に入れるためには戦わなければならないのです!
リヒト王子と関われる権利を手にした私が派遣された元ティニ公爵家のお屋敷にはライオス様とエラーレ王国の王子であるフェリックス様がおられました。
初日はリヒト王子が魔塔主に頼んで転移魔法で一緒に元ティニ公爵家のお屋敷に行ってくださり、お二人のことも紹介してくださったのですが、このお二人、コミュニケーション能力をどこかに置き去りにしてきたようで、だいぶ自由です。
ライオス様は魔法学園のアイデアが永遠と出てくるのか、ずっと紙にアイデアを書き出しています。
以前、リヒト王子が引いたという学園の図面を参考に、新しい図面を作り、そこにもどんどん書き込みを加えています。
フェリックス様は空を飛ぶ道具として脱滑空機なるものの研究をされています。
具体的には平民でも購入できる小さな魔石で、人が飛べるような魔導具を作りたいらしいのですが……
道はかなり険しそうです。
お二人とも年齢に見合わずに才能あふれる方々なのでしょうが、自分のやりたいことに夢中になりすぎてコミュニケーションを取りません。
リヒト王子がいる時だけは意識がリヒト王子に向くようですが、リヒト王子がお帰りになった途端に自分の世界に没頭しています。
いや、正確にはリヒト王子が二人が好きなことを受け入れて付き合うのが上手いのです。
子供のやることを否定せず、見守る親のようです。
私はライオス様が書き散らしたアイデアをまとめて原案の形にしていくという仕事で、それ以上は特に求められてはいないのですが、ライオス様とフェリックス様の様子が気になってしまいます。
お二人は同い年の子供が同じ屋敷にいるというのに、お互いのことに驚くほど興味がないようです。
果たしてこれでいいのでしょうか?
とても健全な状態には見えません。
リヒト王子がお二人の様子を見に来られた際に気になっている点を言ってみると、「確かにそうですね」と私の意見を真剣に考えてくれました。
その際、じっとカルロ様を見つめておられたので、カルロ様にも同年代との関わりが必要だとお考えになったのかもしれません。
リヒト王子はしばし考えた末に何かを閃いたような表情になりました。
そのお顔がとても可愛かったのです。
やはりこの仕事、ずるい、卑怯だと言われつつもゲットして正解でした。
ちなみに、リヒト王子の可愛らしい様子に、カルロ様は震えておりました。
この方、リヒト王子に見つめられている時には愛らしい少年なのですが、リヒト王子の視線が外れているとちょくちょく病的な様子が伺えて、正直怖いです。
「みんなでピクニックに行くというのはどうでしょうか?」
「ピクニックですか?」
そう疑問を口にした私とは違い、リヒト王子の乳母とカルロは「いいですね! そうしましょう!」とすぐに動き出しました。
リヒト王子の要望を叶えるためのフットワークが非常に軽いです。
「天気もいいですし、外に出ればライオスもフェリックスも気分転換になるでしょう。環境が変われば行動も変わりますから、自然と二人とも話すようになるかもしれません」
リヒト王子は察しの悪い私にもちゃんと説明してくださいました。
さすがの優しさです。
リヒト王子は慈愛と優しさでできているのではないでしょうか?
「では、皆様で楽しんできてください」
私はその間に仕事を進めておこうと思ったのですが、リヒト王子に微笑まれました。
「第二補佐官も行きますよ?」
「私は勤務中ですので……」
「ライオスとコミュニケーションを取るのも仕事のひとつですし、せっかく同じ屋敷に住んでいるのですから、仕事以外の場面でも親しくしてあげてください。もちろん、フェリックスとも」
リヒト王子にそのように微笑まれては断るわけにはいきません。
ライオス様の護衛騎士はもちろんのこと、フェリックス様の乳母や料理長、メイドまで誘って本当にみんなで一緒にピクニックへと出かけました。
ちなみに、フェリックス様の料理長はライオス様のお屋敷の料理長となり、私もお屋敷に来てから美味しい料理を作っていただいています。
「リヒト様からいただいたドワーフ鍛冶屋の包丁のおかげでますます美味い料理が作れるようになりました」
そのように料理長はリヒト王子にお礼を述べておりました。
リヒト王子は下の者にも気を遣ってくださる素晴らしい主君です。
ピクニックの場所についてから敷物を敷くのかと思いきやテーブルや椅子が用意され、料理長がサンドイッチなどの手軽に食べられる料理はもちろんのこと、他にも大皿に盛られた料理などを出してくるのでどういうことかと思ったら、カルロ様が自分の影の中からせっせと色々なものを取り出していました。
「闇魔法ってすごいですね」
「そうなんです。うちのカルロはすごいんです!」
リヒト王子は従者自慢ばかりすると、城のメイドたちがよく噂していましたが、その通りだったようです。
確かに珍しい闇属性で、さらに魔法をあそこまで使いこなす魔法使いは少ないです。
それもカルロ様はまだ子供ですから、自慢されるくらいすごいことです。
でも、みんな知っています。
カルロ様がすごいのはリヒト様のおかげなのだと。
カルロ様だけではなく、ライオス様だって、フェリックス様だって、私や料理長やメイドたちだって、大小あれど、リヒト王子が成長を促してくれた部分があるのです。
そんなリヒト王子がやはり一番すごいと思います。
「ここの計算間違っていますよ」
ライオス様がフェリックス様の図面を覗き込んで指摘しています。
フェリックス様はどうしてピクニックに図面など持ってくるのかと思っていましたが、ライオス様の手にも魔法学園の図面があります。
「ライオスのだって、ここの比率おかしくないか?」
「あ……」
陽の光が降り注ぐ青い空の下で図面を見比べる子供たち……
おかしな光景ではありますが、お二人らしいと思えば、微笑ましくもありました。
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