上 下
127 / 213
周遊編

126 ナタリアの誕生日 03

しおりを挟む
 ナタリアの誕生日にはカルロだけを同伴させる予定だったのだが、パーティーが開かれる大広間には護衛が付き添えないだろうという話になり、ヘンリックも従者として同伴させるようにと両親、乳母、グレデン卿などの大人たちから説得され、渋々とヘンリックも連れて行くこととした。
 できるだけヘンリックとナタリアが接点を持たないように気をつけなければならないだろう。

 魔塔主にお願いして、私とグレデン卿、そしてヘンリックをルシエンテ帝国の城の私が以前使っていた部屋に転移させてもらった。
 今回は私だけではないため、オーロ皇帝の執務室に直接転移するのは絶対にやめてほしいと繰り返しお願いしたため、きちんと部屋に転移してくれた。
 部屋に到着してからまたメイドか誰かを捕まえる予定でいたのだが、部屋にはノアールが待っていてくれた。

「リヒト様、ようこそおいでくださいました」
「ノアール、二日間、お世話になります」

 私はノアールにヘンリックを紹介した。
 従者として紹介したのだが、ノアールはすぐにヘンリックが剣を扱えることを見抜いたようだった。

「パーティー会場にグレデン卿は入れませんからな」

 相変わらず鋭い老執事に私は苦笑する。

「ヘンリック様の衣装もこちらでご用意いたします」

 そう言ってくれたノアールに後からカルロも来ることを伝えると、カルロの衣装はすでに用意してくれていると教えてくれた。

 衣装を試着し、サイズに問題がないことを確認の上、髪型や装飾品を決めていく。
 そんなことをしている少しの合間、人がいなくなった隙をついてカルロが私の影から出てきた。

 「リヒト様、お待たせいたしました」

 微笑んだカルロはなんだか大人っぽくなっていた。
 カルロは前と同様に私の部屋の中にある従者専用の部屋を使っていたが、第一補佐官の元で仕事を学んでいるカルロは忙しく、私もフェリックスの研究資料をまとめる手伝いに忙しかったため、最近は顔を合わせる時間が極端に減っていた。

 席を外していた使用人たちが戻ってきてカルロの姿に少し驚いたようだったが、魔塔主をちらりと見てすぐに冷静にカルロの分の衣装や装飾品も準備し始めた。
 ノアールだけはカルロの姿に驚きの表情を見せることもなく淡々としている。

 成長の早い子供の衣装だというのに、私の衣装はピッタリに仕上がっていて直すところなどなかったが、カルロの衣装は少し手直しが必要だった。
 それを不思議に思っていると、「リヒト様は先日、ネグロと会っていますから」とノアールが教えてくれた。
 つまり、私の衣装はネグロの目算でより正確に作ることができたということだった。



「お久しぶりです。リヒト様」

 衣装合わせが終わりノアールの案内で食堂へと向かうとナタリアがいた。
 エトワール王国の後宮、両親の執務室が並ぶ一角でナタリアを叱って以来だ。
 もちろん、その話を蒸し返したりはしない。

「お久しぶりですね。ナタリア様。お元気でしたか?」
「はい。お祖父様の元、平穏な日々を過ごしておりました」

 チラリとナタリアがカルロに視線を向けた。

「カルロ様もお変わりないようですね」
「ナタリア様は少しお変わりになったようですね」

 オーロ皇帝は二人が想い合っているというのは私の誤解だと言っていたけれど、やはり、二人はお互いを意識していると思う。
「変わらずに元気そうでなによりです」「以前より美しくなられましたね」なんて想い合っていなければ交わさない言葉だろう。

「ナタリア様、こちらは新たに私の従者となったヘンリックです」

 少し緊張しながら私はナタリアにヘンリックを紹介したが、二人はよくある挨拶を交わしただけだった。
 特に、お互い何かを意識したような様子はない。



「待たせたな」

 オーロ皇帝が食堂に入ってくるとすぐに料理が運ばれてきた。

 ルシエンテ帝国に滞在していた時同様にカルロは私の隣に座り、そして、私の従者としてヘンリックも席についた。
 グレデン卿は護衛として私の後ろに立っている。

 私がヘンリックを紹介すると、オーロ皇帝は意外そうな顔をした。

「リヒトがカルロ以外に従者をおくとは思わなかったな」

 オーロ皇帝の後ろに控えていたネグロが、オーロ皇帝に何やら耳打ちした。
 すると、オーロ皇帝のヘンリックを見る目が一気に変わった。

「其方、従騎士なのか?」

「はい」とヘンリックは短く明確な返事を返した。

「リヒトは魔法も得意だが、剣技もなかなかのものだ。リヒトに勝てとは言わないが、同程度の腕前でなければ護衛は務まらないぞ?」

 ヘンリックは緊張に表情を固くしたが、その目には強い意志があった。

「はい。心得ております」

 そのヘンリックの眼差しに機嫌をよくしたようで、オーロ皇帝はニィッと口角を上げた。

「いい目だな。明朝にでも手合わせをしてやろう」

 オーロ皇帝の言葉に私は慌てた。

「明日はパーティーのある日でもありますし、そもそもヘンリックはまだ子供です! 剣豪であるオーロ皇帝の相手などさせられません」

 誕生日パーティーに招かれたはずなのに、ヘンリックに怪我などさせてユスティーツ公爵家に帰すわけにはいかない。
 私の慌てぶりが面白かったのか、オーロ皇帝の機嫌はますますよくなった。

「子供相手に怪我などさせぬ。それに、リヒトは6歳の頃に私の相手をしていたではないか?」

 確かに、中身が52歳だからあまり気にしていなかったが、当時6歳の私に本気でなかったにしろそこそこの力で打ち込んできていたオーロ皇帝は大人気ないとも言える。
 それに、今はオーロ皇帝は私の中身の年齢を知っているのだから、私とヘンリックを比べるのはおかしいだろう。

「リヒト様、私もぜひ、オーロ皇帝に稽古をつけていただきたいです!」

 ヘンリックがそう言ったので、私は渋々と了承した。




しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

処理中です...