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周遊編
122 エラーレ王国 04
しおりを挟む「リトはどこの宿屋に泊まってるのさ!?」
エラーレ王国に通って数日、フェリックスが聞いてきた。
頬を膨らませるフェリックスに私は笑って答えた。
「この街には泊まってませんよ」
テキトーに答えても、街の者たちに慕われているフェリックスには隠せないだろう。
「森で野宿をしているので、フェリックス様は来ないでください。危ないですから」
「なんで、貴族のリトが野宿なんて……」
そこでフェリックスは、ハッとした表情になった。
「家族から冷遇されていたのか? それで、家出を? 資金がないから野宿なんて……」
何か勘違いし始めたフェリックスは私の手をぎゅっと握った。
「やっぱり俺の離宮に来い! 森よりも安全だし、ベッドだってあるぞ!」
そこでまたしてもヘンリックがずいっと前に出た。
「オルニス国に侵攻しようとしている国の城になど行けません!」
「それは……」
フェリックスの戸惑った様子からも、オルニスへの侵攻の話があるのは本当なのだろう。
「フェリックス、良ければ、詳しいことを教えてくれませんか?」
私の顔をじっと見てから、フェリックスは頷いた。
エラーレ王国がなぜオルニス国に侵攻しようとしているのか、フェリックスは詳しく説明してくれた。
まだ帝国に統一される以前、エラーレ王国は何度も光り輝くオルニス国へと侵攻したそうだ。
しかし、周辺国に常に侵攻されていたオルニス国は天空にあり、弓矢程度では攻撃は届かず、風属性の魔法使いでもオルニス国の高さまで昇ることは難しかった。
そもそもその高さまで行けたところで魔法使いの人数も魔法の質も圧倒的に優れたオルニス国のエルフと戦って勝てるはずもなく、そのような無茶な侵攻を行おうとするオルニス周辺国の魔法使いたちは徐々に他国へと生活拠点を変えたそうだ。
エラーレ王国からも魔法使いはいなくなったが、王族や貴族の天空都市への憧れは強く、魔法使いがいなくても飛べる飛行技術の研究を始めたのだという。
周辺国が全て帝国に統一された後、オルニス国が天空ではなく山の切り立った部分に都市を定着するようになったことから、都市を天空に浮かしておくほどの魔力がなくなったのではないかと推測され、それまで飛行技術の研究を渋っていた貴族や大商人たちも資金を出し始めた。
さらに魔法使いたちも徐々にエラーレ王国に戻ってきたのだという。
私はフェリックスの説明を聞きながら徐々に眉間に皺を寄せそうになるのをなんとかこらえた。
天空都市だった頃のオルニス国を数度の侵攻で難攻不落と諦めることができなかった時点で、この国の王族の愚かさには底がないように感じた。
「フェリックス様もオルニス国侵攻に賛成なのですか?」
グライダーの独自の研究もそのためのものなのだろうか?
まぁ、滑空するためのグライダーでは天空都市に届くのは到底無理だろうが。
「いや、侵攻には反対だ。国民に多くの犠牲を出しても、我々がオルニス国に勝つことはできないし、俺は宝石都市には興味がないから」
「宝石都市? 天空都市ではなくて?」
「しばらくは天空にはなかっただろ? それにあの宝石のような輝きにこそエラーレの王族は注目しているんだ」
つまり、完全に欲に目が眩んでいるだけの愚か者ではないか。
ちなみに、エラーレ国以外のオルニス周辺国家は自国から魔法使いたちが消えた時点で侵攻を諦めたらしい。
ただでさえ貴重な魔法使いという存在を浪費してまで侵攻するのはただの愚行だ。
「フェリックスは王に魔法使いとして協力するように言われてはいないのですか?」
「俺の属性は水魔法だし、王である兄上には嫌われているから」
私はそこで思わずフェリックスの顔を凝視してしまった。
「王は、フェリックスのお兄様なのですか? お父上ではなく?」
「父は、兄に殺されたんだ」
想定外のフェリックスの言葉に私が呆然としていると、フェリックスは明るい笑顔を作って「そんなことよりも」と話題を変えた。
フェリックスが私が思っていた以上に追い詰められた立場にあることを察したが、私はそれ以上何も言えなくて、フェリックスの誘導するままに話を変えた。
「魔鳥を見てみたいんだけど、街の門を出ればすぐに見れるかな?」
エラーレ王国は飛行技術の研究の際に小型の飛行できる魔導具を作っては魔鳥を攻撃していた。
そんなところにわざわざ魔鳥が好き好んで近寄るわけがない。
魔導具を警戒して、今や大小関わらずにどのような魔鳥もエラーレ王国の空を飛ばないのだという。
「門を出てすぐに魔鳥を見るのは無理でしょう。少なくとも、森の中をある程度進む必要があると思います。それでも、魔鳥は人間を警戒しているでしょうから、出会える確率はかなり低いでしょう」
「そうかぁ~」と、フェリックスは落ち込むような声を出した
「フェリックスは、この国から逃げ出したいとは思わないのですか?」
この世界の成人は16歳で、一般的な家の子供でも10歳くらいから働き始める。
11歳のフェリックスが長旅をするのは難しいかもしれないが、冷遇されている状況から、遠くに行きたいと考え始めても不思議ではないと思った。
しかし、フェリックスは首を横に振った。
「ハンナをおいては行けないから」
ハンナというのは時々話に出てくるフェリックスの乳母だ。
フェリックスによると、ハンナは元は貴族だったが今は平民に位を落とされているそうだ。
おそらく、前王を殺したという現王のフェリックスの兄が、フェリックスの立場を弱くするためにフェリックスの乳母の爵位を奪ったのだろう。
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