不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【奨励賞☆ありがとうございます!!】

はぴねこ

文字の大きさ
上 下
121 / 233
周遊編

120 宴の準備

しおりを挟む

「まぁ、それでお帰りになったのですね」

 オルニスに戦争を仕掛けようとしている国に留まることはできず、結局、私たちはエトワール王国に帰ってきた。
 乳母に事情を説明し終えた私は部屋の中を見回した。
 しかし、そこにカルロの姿はなかった。

「カルロなら、今は王の部屋にいますわ」
「父上のところにですか?」

 乳母は頷き、最近のカルロは第一補佐官から事務仕事を学んでいるのだと教えてくれた。

「カルロはまだ9歳ですよ? そのような仕事は荷が重いのではないですか?」

「それは……」と乳母は少し言い難そうにした。

「カルロがとった誤った行動はわたくしのせいかもしれないと思い、第一補佐官の元で主人に仕える姿を学ばせようかと考えたのです」
「乳母のせい……なぜですか?」
「わたくしは、万が一、リヒト様に前王の手が伸びれば、この身を挺してお守りする所存でした」

 乳母の話でやっと、私はカルロの行動が理解できた。

 変態の性的対象は同性の、それも子供だったから、乳母が私を守るために前に出たところで乳母が実際に襲われる可能性は極めて低い。
 それに反して、オルニスの女性たちは実際にカルロと肉体関係を持つつもりでいたのだから、結果はまるで違うものになっていただろう。

 しかし、その根本は同じなのだ。
 身を挺して私を守ろうというカルロの考えは、カルロから発露した身勝手な自己満足ではなく、カルロにそう考えさせてしまう見本があった。

 カルロは私の守り方を、この悍ましい慣習のある国で学んでしまったために、事情の違う他国でも同様に行動してしまったのだ。

「わたくしの教育に落ち度があったために、リヒト様には不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」

 乳母はそう深く頭を下げたが、これは別に乳母が悪かったわけではない。
 全てはこの国の悍ましい慣習と冷静になれなかった私が悪いのだ。

「乳母は悪くありません! 頭を上げてください!」

 私は乳母の手に触れて、頭を上げさせた。

「それで、わたくしの元だけで学ぶのは不十分と判断し、第一補佐官の元で学ばせているのです」

 なるほどと、私は頷いた。

「これから父上に帰還の報告をしに行きますから、カルロの様子も見てきましょう」



 父王の執務室の扉をノックすると、中から執事長が顔を出した。

「リヒト様、お帰りになったのですね」

 そう微笑む執事長に私は頷いた。
 その瞬間、扉の隙間から部屋の中が見え、小さな姿が床に膝をつき、それを三人の大人が見下ろしている状況に血の気が引いた。
 私は慌てて執事長の体を押し除けて部屋の中に入った。

「な、何をしているのですか!?」

 私は床に膝をついているカルロを庇うように立ち、父と宰相、第一補佐官を見上げた。

「カルロが何か粗相をしましたか!? それでしたら、主である私を罰してください!」

 そう告げると、父も宰相も第一補佐官もその目を見開き、そして笑った。

「リヒト様、勘違いですよ」

 宰相の言葉に私は首を傾げた。

「カルロは書類を落としてしまって、拾っていたのです」

 第一補佐官の言葉に後ろを振り返れば、確かに床には書類が落ちていた。

「な……なんだ。驚きました」

 カルロを見れば顔色もいいし、元気そうだ。
 私はすぐに父王に向き直って騒いでしまったことを謝罪した。

「勘違いして騒いでしまってすみません。父上に帰還の挨拶とオルニスとの交易締結の報告をしに参りました」
「そうか、では話を聞こう」

 父王は嬉しそうに私にソファー席を勧め、自分も私も前に座った。

「王妃様を呼んで参ります」

 第一補佐官が一礼して扉へ向かうと、カルロもその後をついて行った。
 聞いてはいたが、カルロが第一補佐官と行動している姿は新鮮だった。
 父上はカルロの後ろ姿に一瞬目をやった。
 第一補佐官とカルロが一緒に部屋を出て扉が閉まると、父上が聞いてきた。

「カルロがリヒトを怒らせたと聞いているが?」
「少し見解の違いがあり怒ってしまいましたが、私がもっと冷静に考えるべきだったと今は反省しております」
「詳しい事情は父には話してくれないのかい?」

 すでに乳母から報告を受けて聞いているだろうに父王はそのようなことを言った。
 私の口から直接聞くことが大切だと考えてくれているのかもしれないが、私としてはもうオルニスでのカルロとのすれ違いを蒸し返したくはない。

「私の未熟さゆえにカルロを怒ってしまっただけですので、父上にお話しするのは恥ずかしいのです。報告を求められればもちろん報告はいたしますが……」

 報告という体裁を整えては話をするが、その際に自分の感情を見せるつもりはないことを伝えると父王は「いや、それは不要だ」とあっさりと引いてくれた。
 私の両親は私の頑固さをよく知っていて、それを受けていれてくれるからありがたい。

 母上が部屋に入ってきて、執事長が淹れてくれたお茶を一口飲んでから、オルニスとの交易についての報告を始めた。

「リヒト様は初めての外交も難なく成功させ、素晴らしいですね」

 従者 兼 従騎士として同行していたヘンリックの言葉に、父王も母上も、宰相も第一補佐官も、執事長も私も「「「え?」」」とその目を瞬いた。

「確かに!」

 最初にそう声を上げたのは宰相だった。

「リヒト様は帝国でオーロ皇帝と交渉していたり、お忍びで周遊していたから気づきませんでしたが、存在を公表してから初めての外交でした!」

 次に第一補佐官がそう言い、父王と母上はソファーから立ち上がり、執事に命じた。

「宴だ!」
「宴よ!」
「お待ちください!!」

 私は慌てて止めた。

「私が公務にあたるのは当然のことです! 大袈裟なことはしなくてもいいです!」

 執事長が父上と母上に頭を下げた。

「王様、王妃様、大変申し訳ないのですが、宴の準備をするには時間が足りません」

 さすが執事長、時間をおいて、二人を落ち着かせる作戦のようだ。

「国中の貴族たちに招待状を送り、大広間でのパーティーの準備をするにはひと月はかかります」

 具体的な提案をしておけば、両親も大人しくしておくだろう。
 しかし、ひと月とは随分と長い。
 流石に数日で落ち着きを取り戻すと思うのだが……

「ひとまず、王妃様には招待状の内容を考えていただき、王にはリヒト様への褒美を選んでいただきましょう」

 執事長をはじめとして、両親と宰相、第一補佐官が集まって相談をし始めた。
 これは両親を落ち着かせるための策ではなく、本気でパーティーの準備を進めているのだと気づいた私は慌てて大人たちを止めることになった。




しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...