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周遊編
97 冒険者ギルド 01
しおりを挟む「ジムニ、諦めろ。リヒト王子がこういう人だから、俺たちは救われているんだ」
ゲーツ・グレデンの言葉にジムニははぁ~と深くため息をついた。
「……じゃ、せめて、接触するのは俺たちが紹介する冒険者にしてください」
「今から冒険者ギルドに行こうと思っていたのですが」
私の言葉にジムニもゲーツ・グレデンもその目を瞬いた。
「冒険者ギルドはエトワールにはないですよ?」
ジムニの言葉に今度は私が目を瞬く。
「エトワールの王都にはないという意味ですか?」
「いえ。エトワール王国には冒険者ギルドは一つもないです」
「しかし、冒険者ギルドとは魔物討伐や魔物からの素材採取、薬草採取、時には護衛や警備、荷物運びなどの雑用など、そのレベルに合わせて様々な仕事を請け負う組織であり、国を跨いで連携も取るために各国に一つくらいはあると……」
思っていたのは、前世の小説や漫画、アニメの知識のせいだ。
「何かで読んだ気がしますが、間違っていましたか?」
なんとか方向転換した私の言い訳にジムニもゲーツ・グレデンも渋い顔をした。
「間違ってはいませんよ。その通りの組織です」
「それでも、エトワール王国にはないのです」
私が思っていた通りの組織なのに、エトワール王国にはないという。
どういうことなのだろう?
「どうしても冒険者ギルドを見たければ、元ティニ公国の方には多分、まだ、ギルドマスターがいると思うので、そこに行ってみたらいいと思います」
「元ティニ公国にはあったのですね? ジムニの言い方ですと、元ティニ公国にあった冒険者ギルドも今はなくなりつつあるということですか?」
「冒険者ギルドという看板はおろしていますね」
奇妙な話に私の眉間に思わず皺が寄る。
「まるで、徹底して、エトワール王国には冒険者ギルドを置かないようにしているみたいですね……」
「まあ、今は様子見ってところでしょうね」
「様子見、ですか?」
「……帝国法が問題なく施行されているかどうかの、様子見です」
「……もしかして、エトワール王国には冒険者ギルドがないのって、あの忌まわしき慣習のせいですか?」
ジムニもゲーツ・グレデンもゆっくりと深く頷いた。
私は久々に頭痛を覚えた。
「わかりました……では、今から元ティニ公国の方にいるギルドマスターに会いに行きます。ギルドマスターの特徴と居場所を教えてください」
本当はジムニを連れて行ければいいのだが、グレデン卿だけで転移魔法の定員オーバーなのでそれはできない。
「今からですか? それは絶対にダメです! 三日後にヴェアトブラウを盗んだ元ティニ公国の村に来てください! 衣装もこちらで準備します!」
「もしかして、ジムニも付き合ってくれるのですか?」
「リヒト様は危なっかしいので仕方なくです!」
ジムニは本当に優秀だ。
「私が王になったらジムニを補佐官にするのもいいかもしれませんね」
「それはダメです!」
冗談のつもりだったのだが、速攻で返答してきたゲーツの目がマジだった。
ジムニがいないと困ることをすでに実感しているらしい。
ジムニと約束した三日後に、私はグレデン卿を連れて、村の側の森の中へと転移した。
二人だけで出掛けてばかりでずるいとカルロに怒られたので、カルロは私の影を通っての移動だ。
念の為に森の中に転移したが、村は非常に閑散としており、ジムニは村の入り口で私たちを待ってくれていた。
気の利くジムニは「どうせカルロ様も来ると思いました」としっかりカルロの分の衣装も用意してくれていた。
「盗賊国家の盗賊村として有名になってしまったので、この村にはもう人はいないんですよ。それで、俺たち情報ギルドの者が元村長の家をねぐらにしています」
私たちを元村長の家に案内したジムニがそう説明した。
ジムニが用意してくれた冒険者風の衣装に着替えて、私たちはジムニが用意してくれた馬車に乗って元ティニ公国の中心街を目指した。
ちなみに、いまだにこの領地を元ティニ公国と呼んでいるのは、帝国傘下に入った影響による仕事が多く、この領地を管理する家門や領地名をいまだに決めることができていないためである。
領地の改善改革はできていないが、その代わり、税の徴収も行っていないので、おそらくだが元ティニ公国の国民にとってはそれほど悪い状況ではないのではないだろうか?
しかし、あまり放置しすぎると国民の中から自治権を求める声が出てくるかもしれないため、早々に管理者を決める必要はあるだろう。
正直、私は、補佐するちゃんとした大人がいれば、ライオスがこの地を治めてもいいのではないかと思っている。
馬車で走ること数時間、私たちは元ティニ公国の中心街へと到着した。
「ここが元冒険者ギルドの建物です」
そうジムニが紹介した建物には確かに看板がかかっていなかった。
そして、その建物の前には屈強な男性が一人仁王立ちで立っていた。
「そして、あれが元ギルドマスターのガルドロフです」
ジムニが「あれ」とぞんざいに指差した男は眉間に寄っていた深い皺をより深くして、ジムニを睨んだ。
「俺はまだギルドマスターだが?」
「冒険者ギルドを廃業したのだからマスターも何もないだろう?」
ガルドロフのことが気に入らないのか、ジムニは始終喧嘩腰だ。
「廃業したわけじゃねー。変態が治める国に税金を支払うつもりはないから様子を見ているだけだ」
「盗賊国家には税を支払えるのに?」
ちょうど考えていたことが耳から聞こえてきたので、思わず私は自分が声に出して考えを言ってしまっていたのかと思ったが、声の主は私の隣にいたカルロだった。
「ああ゛ん? なんだ? このガキは?」
ギルドマスターというか、ほぼチンピラである。
「私の従者が失礼しました」
そう私が微笑むと、眼光鋭いままにガルドロフは私に視線を向ける。
「……お前が、噂の王子様か?」
次の瞬間、ジムニがどこかから取り出したリンゴをガルドロフの口に突っ込んだ。
赤いリンゴは見事にガルドロフの大きな口を塞いでいた。
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