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お披露目編
83 誓い(カルロ視点)
しおりを挟むリヒト様は魔塔主が認めるほどの魔法の腕前で、剣だって暇を持て余したオーロ皇帝が楽しめるほどの腕前で、勉強はどの先生方も天才や神童と褒め称えるほどだ。
それなのに、リヒト様は自分には力がないと嘆かれた。
リヒト様が言わんとしていることはわかる。
リヒト様は何年もこの国の慣習を変えたいと動いてきた。
きっと自分に力があったならすぐに法律を変えて、子供たちを保護して、誰一人として傷つけることなく守ってあげることができたのにと思っているのだろう。
けれど、そんなのは王様だって無理だったのだ。
リヒト様の父上である王様は悪い人で、子供たちの置かれている理不尽な状況などどうでもいいと思っていたわけではない。
リヒト様ほどこの国の慣習に関してそれほど注目していなかったと思うが、それでもリヒト様には協力し、リヒト様が気にかけていることは解決したいと考えていたはずだ。
実際、そのように動いていたのだから。
そんな王様でもすぐに問題を解決することなど無理だった。
この国の最高権力者であるはずだが、子供の僕でも身近で見ていればわかる。
王様とはいえど、その権力が絶大で絶対的なものというわけではないのだ。
むしろ、豪商や上級貴族よりも自由に動くことが許されない存在のように感じる。
王様でさえもそうなのに、王子であるリヒト様が力がないと嘆くのであれば、実際、リヒト様がやりたいことを思うように自由にするにはお力が足りないのだろう。
きっと、リヒト様には魔塔主のような絶対的な力が必要なのだ。
それならば、僕がリヒト様の手足になって、一人じゃ足りない分を補います。
テオや他の子供たち、大人たちだってリヒト様のお役に立ちたいと思っている者は多い。
本当は、僕だけがリヒト様のお役に立って、リヒト様に褒めていただきたいけれど、味方になる者が多ければ多いほど、リヒト様の力は増すはずだ。
だから、僕はリヒト様の力となる者を集め、リヒト様の邪魔をする者は排除します。
「リヒト様」
夜、寝台で眠る端正な顔の白い頬を撫でる。
今日は、初めてリヒト様が目覚めている時に頬に触れた。
前はよくリヒト様は僕を慈しむように頬を撫でてくれた。
僕も真似して、リヒト様が眠った後に撫でるようになった。
意識があるリヒト様に触れたのは今日が初めてだったけれど、リヒト様が嫌がる様子はなかった。
それどころか、「大好きだ」と言ってくださった。
いつも可愛いとは言ってくださっても、好きだという言葉は聞いたことがなかった。
嫌われているとは思っていないけれど、好きだと言葉にされるのは格別だった。
きっと、ヴィント侯爵がいたらそのような言葉を従者に言ってはいけないと怒られたことでしょう。
それこそ、他の者が聞けば、リヒト様が僕を婚約者に考えていると思ったかもしれません。
僕としてはそのような誤解をされることは好都合ですし、むしろ、誤解ではなく真実になってほしいですが、リヒト様のことを一番に考えているヴィント侯爵は後々リヒト様が困るような状況にならないようにと細心の注意を払っているのです。
僕は再びリヒト様の頬を撫でます。
「リヒト様、僕は、リヒト様のものです」
リヒト様のものは、きっと僕だけじゃない。
ヴィント侯爵だって、グレデン卿だって、テオだって、帝国のナタリア様だって、きっとリヒト様のものだ。
だけど、願わくは、僕が一番近くにいたい。
そう願ってリヒト様の頬にキスをする。
最初はリヒト様の側にいるだけで幸せだったのに、それが一番近くにいたくなって、指先に触れたくなって、手を握ってほしくなって、リヒト様の香りがわかるくらいまで近づきたくなって、肌に触れたくなって、キスをしたくなって、触れてほしくなって……
僕の浅ましい欲望には際限がない。
「ん……」
リヒト様が身動ぎ、僕は緊張した。
こんな夜更けに勝手にリヒト様の寝姿を覗き見ていたなんて知られたら怒られるかもしれない。
リヒト様の瞼がゆっくりと開き、寝ぼけ眼で僕の姿をじっと見つめていた。
怒られるならまだしも、嫌われたらどうしよう。
緊張感が徐々に恐怖心に変わってきた頃、リヒト様は優しく微笑み、そしてその唇がゆっくりと動いた。
「カルロ、どうした? 眠れないのか?」
リヒト様はご自身にかかっていた掛け布団を少しだけめくって、ご自身の隣をポンポンッと軽く叩いた。
「寂しくて眠れないのなら一緒に寝るか?」
僕は寂しくはない。
ずっと一人だったから、寂しいという感情はずっと幼い頃にどこかに置いてきてしまった。
しかし、リヒト様はよく僕が寂しく感じていると勘違いしてくださる。
そして、とてもとても優しくしてくださるのだ。
僕は寂しさは感じないけれど、リヒト様の優しいお気持ちは温かくて、リヒト様に心配していただけるのが嬉しくて、胸の奥がぎゅ~~~ってなる。
僕はリヒト様のベッドに上がって、リヒト様の隣に寝転がる。
すると、リヒト様が掛け布団をかけてくださる。
リヒト様の頭と同じ高さに頭を置くと、額をこつんっとくっつけてくださるし、そこよりも下に頭を置くと、リヒト様がぎゅうっと僕を抱きしめてくださる。
今日は抱きしめてほしくて、僕はリヒト様の頭が置かれている枕よりも下のところに自分の頭が来るように寝転がった。
そうしたら、やっぱりリヒト様は僕をぎゅうって抱きしめてくださった。
「カルロ、カルロのことは、私が守るからね」
リヒト様は寝ぼけている時によくそのようにおっしゃいます。
とても嬉しいのですが、リヒト様を守るのは僕の役目です。
「リヒト様のことは僕が守ります」
僕は改めてそう誓って、大好きの気持ちが伝わるように、リヒト様のことを抱きしめて眠りについた。
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