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お披露目編
80 保護施設
しおりを挟む「リト、次は子供たちに何を教えればいいのだ?」
細かくグループ分けをした方が効率よく教えることができるから教師役は多い方がいいのだが……だが、どうしてこうなったのだろうか……
「リト、聞いておるのか?」
まさか、オーロ皇帝まで来るとは思わなかった。
晩餐の席で、貴族たちから解放された子供たちは保護して教育をしているという報告をしたら、オーロ皇帝は面白そうだから自分も行くと言い出したのだ。
オーロ皇帝に教師の真似事などさせられないと私は言ったが、父上も母上もオーロ皇帝を止めることなど無理だと考えているようで、諦めた表情で「お好きなように」と言っていた。
オーロ皇帝が下町の服を着たところで漂うオーラは隠せないし、悪目立ちするに違いないと思ったのだが、下町の服を着たオーロ皇帝は自ら整えた髪型を崩して粗野な感じを装った。
さらに、情報ギルドには力仕事をしたりちょっと荒っぽい仕事をするガタイのいい人間たちもいるため、そうした者たちと並ぶとあまり違和感がない。
なんなら、私以上にオーロ皇帝は下町の者たちに溶け込んだでいた。
「そろそろお昼にしましょうか? 皆さん、食堂に移動しましょう」
私がそう午前の授業の終わりを告げると、男の子たちはすぐに席を立って、教室として使っている部屋から出て行った。
「食堂が別にあるのか?」
オーロ皇帝の質問に私は頷いた。
「はい。この施設は広めに作ったので、勉強部屋、食堂、子供たちそれぞれの部屋、ギルドの者たちが集まって話し合いができる部屋などがあります」
「それを3歳の頃に提案して、出資して作らせるとは、まさに神童だな」
「そんなことはありません」
オーロ皇帝に褒められると不思議と嫌な予感がするのだ。
「リトくん! 早く食堂に行こう!」
少女たちが私の手を引いた。
ここにいるのは少年たちだけではない。
女性の貴族に買われた少女たちもいる。
性別による性欲の強さの違いなのか、少年たちよりは人数は圧倒的に少ないが、それでも彼女たちが通ってきた道は少年たちと変わらない。
売られるために育てられ、お金や便宜や権力の代わりに自分たちの家門よりも上位の家門に売られたのだ。
そんな扱いを受けた彼女たちは大人の女性が怖いようで、逆に子供で異性の私にはよく懐いてくれている。
「リト兄さんはおじいちゃんに施設の案内をするからダメだよ!」
カルロが来るまでは私は少女たちの押しの強さに振り回されていたが、カルロも一緒に下町に来るようになってからはこうして間に入ってくれるようになった。
私が少女たちに懐かれていることを知ったカルロは眉間に深い皺を寄せて、「人たらしのリヒト様から目を離すべきではなかったです」なんてことを真面目な顔で言っていた。
私は別に人たらしになった覚えはないのだが。
ちなみに、オーロ皇帝をここでは「おじいちゃん」と呼ぶことになった。
本人の提案なので、不敬罪にはならないはずだ。
「カルロ君でもいいよ! 一緒に食堂に行こう!」
何人もの少女たちが頬を染めてカルロを誘う。
私にも少女たちの気持ちがわかる。
カルロは最近ますます美少年ぶりに磨きがかかっているのだ。
以前はあどけない様子が残っていたが、最近はキリッとした眼差しをするようになり、どこかミステリアスな雰囲気も醸し出すようになった。
最高に可愛くて格好いいのだ。
「僕はリト兄さんから……」
「離れるつもりはありません! でしょ? でも、最初はリト君だけが来てたじゃない?」
「約束を守れない男はダメよ?」
「カルロ君がいない間、リト君を守ってたのは私たちなんだからね?」
少女たちにそう言われるとカルロは拗ねたように頬を膨らませて、私の腕に腕を絡めた。
「これからはしっかりと僕がお守りしますから、みんなはさっさと食堂に行ってください!」
カルロの拗ねた表情を見た少女たちはどこか満足そうな様子だ。
少女たちは「すぐ来てよ!」と言って食堂へと向かった。
カルロは完全におませな少女たちのおもちゃになってしまっているようだ。
オーロ皇帝に施設の中の案内をして、食事を食べ終わった少年たちがボールを持って食堂から出ていくのと入れ違いに私たちは食堂へと入って食事をした。
オーロ皇帝に粗末な食事をしてもらうのはどうかと思い、一度城へと戻ることも提案したが、本人がみんなと同じ食事がいいと言ったので仕方ない。
「ボールも買い与えてやったのか?」
この世界ではまだまだおもちゃは高価なもので、貴族か豪商くらいしか買えない。
平民が持っているものは大半は親の手作りだ。
「あれはここの管理者の手作りですよ」
本当は私が買ってあげようと思っていたのだが、それだと施設の子供たちが特別扱いされているとかお金に余裕があるなどと考えられて下町の中に軋轢が生まれかねないということでジムニに断られたのだ。
その代わり、ジムニは私の意向を汲んで、子供たちのためにボールを作ってくれた。
「随分器用なのだな」
オーロ皇帝も感心するほどの腕前だが、やはりプロではないため、革袋の中に詰めた羊毛が均等ではなく、蹴っても思った方向に飛ばなかったり、バウンドしておかしな方向に行ったりしている。
しかし、それがまた子供たちには楽しいらしく、夢中になってボールを追いかけているのだ。
そんなボールを作ったジムニは今は夜な夜な女の子たちのための人形を作っている。
男の子たちにボールを作ってやったら、それを見ていた女の子たちから自分たちにもおもちゃを作って欲しいと言われたそうだ。
私のせいでジムニの裁縫力が上がっている。
申し訳ないが、ゲームで見ることなどないジムニの裁縫姿が面白くもあったりする。
「あそこの通りのケーキ屋さんのいちごのケーキが美味しくてね」
「知ってる~! 私も食べたことあるわ!」
食事を終えた少女たちはボールを持って外に出た少年たちとは違って私たちのテーブルに来るとおしゃべりを始めた。
純粋なおしゃべりなのか、マウントの取り合いなのかわからないおしゃべりが、正直、私は苦手だ。
「リト君はどこのお菓子が好き?」
私に向けられた少女たちの目は、まるで値踏みするかのようにギラついている。
「私はただのこの施設の手伝いだから、そんな高級なお菓子屋さんには行ったことがないんだ」
保護された子供たちには自分の立場を明かしていないし明かす気もないから、私は下町の普通の子供でただ手伝いに来ているだけという設定を突き通すつもりだ。
それに、下町とは違い賑わっている中心街のお菓子屋さんに足を運んだことがないのは本当のことだ。
普段食べているお菓子も城の料理人が作ってくれるのだから。
でも、帝国内の他の街ばかり行っていないで、エトワール王国の城下町をもっと歩いてみた方がいいかもしれない。
そんなことを考えていると外が騒がしくなった。
「リト君! 助けて!!」
外で遊んでいたはずの少年の数名が食堂に駆け込んできて私を呼んだ。
私とカルロ、オーロ皇帝、そしてすぐにそばで食事をしていたグレデン卿は少年たちの後を追って走り出した。
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