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お披露目編

79 計略の外側

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 ジムニとゲーツ・グレデンが想定していた通り、貴族に買われた少年たちの環境はエトワール王国がルシエンテ帝国の傘下に入って帝国法が施行されてから急速に変わったようだった。

 本来は帝国法が施行される前にやりとりされた子供たちを助けることは難しいと考えていたのだが、オーロ皇帝が契約書もなしに売られた子供たちの全てを一旦は解放するようにと私のお披露目の日のパーティーで話したのだ。

 解放後に子供自身がその屋敷に住み続けたいという希望を持って、子供の意思で戻ってきた場合には屋敷に居続ければいいということだった。
 そもそもほとんどの場合は契約書もなくやりとりされた子供たちなので、逃げたところで彼らを縛り付ける法はエトワール王国の法にもないのだ。

 もちろん、パーティーでオーロ皇帝がそう言ったからと言って従う人間ばかりではないが、貴族の中には素直に従う者もいて、そうした屋敷から解放された子供のうち、両親の元に戻れない者や戻る気のない者を情報ギルドのメンバーが見つけては保護しているそうだ。

 これから保護した子供たちには読み書きや計算を教えて、仕事を探すことになる。



「街の見回りをしながらそういう子供たちがいたら保護するための人員は減らしたくないので、私も彼らの教師役をすることにしたのです。あと、護身術も習って欲しいので、騎士たちを数名連れて行く予定です。ですので、次に下町に行く時には馬車で行きますから、乳母とカルロも一緒に行きましょう」

 あまり二人を放置してはまた怒られるだろうと思ってそのように言ったのだが、乳母は早急にやらねばならない仕事ができて、カルロもその手伝いをするそうだ。
 その代わり、シュライグを私の世話係兼教師役の補充員として連れていくようにと言われた。

「シュライグ、乳母とカルロがしなければいけない急な仕事とはなんでしょうか? ヴィント侯爵領のことでしょうか?」

 下町に向かう馬車の中でシュライグに聞いた。

「私も詳しいことは教えていただけなかったのですが、おそらく掃除ではないでしょうか?」
「掃除、ですか?」

 それはメイドやフットマン、下働きの者たちに任せればいい仕事ではないだろうか?
 しかし、それ以上の情報をシュライグから聞き出すのは無理そうだった。



 そうして私が下町に通っている間に季節が過ぎ、夏になった。
 そして、意外な情報がもたらされた。

「え? へんた……お祖父様が避暑地に行かれたのですか?」

 晩餐の席で父王から聞いた話に私は驚いた。
 変態が私を迎えに来た日以来、変態の姿を見ることなく過ごしていたが、急に何をするかはわからないため、ずっと警戒はしていたのだ。
 それが、あれ以上の行動は特になく、避暑地に行ったという。

 皆が警戒していたほどには私は変態の好みには当てはまらなかったということだろうか?
 もしくは、それほど執着するタイプではなかったということか?

「父上がいつも連れている従者からそのように報告があった」
「それが本当ならば私もそろそろ帝国に戻っても大丈夫だろう」

 オーロ皇帝の言葉に父上は明日にでも事実確認をすることを約束した。



 そして翌日、第一補佐官が別宮に変態も従者もおらず、変態の愛妾たちが残されていたことを報告した。

 愛妾たちは自分たちだけが取り残されてしまったことに戸惑い、困惑し、別宮でぼんやりと過ごしていたそうだ。
 オーロ皇帝がパーティーで話していた、一旦は少年たちを自由にするようにという言葉を前王は完全に無視していたようだ。

 少年たちの処遇をどうするか考えるために彼らを本宮のお茶室に呼んでもらって話を聞くと、驚くことに前王を嫌っている者は一人もいなかった。
 むしろ、慕っている者の方が多いほどだ。

 やはり、あれだけの美しい人間となると初老だろうが関係なくその見た目を好む者がいるということなのだろう? 中身など関係なく。

 そう思ったが、少年たちは一様に前王が優しい人物だと称した。

 夜伽の時など丁寧に準備をしてくれて……と頬を染められた時には、私は慌ててカルロの耳を塞いだ。
 純粋無垢なカルロの前で何を言ってくれてるんだか。マセガキどもめ。

 ゲーツ・グレデンの時の印象とは随分と違うが、要するに好みかどうかで態度を変える変態だったということだろう。

「とにかく、前王があなたたちのことを置いていった以上、あなたたちはもう前王の庇護下にはありませんので、王宮にいたいのならば働いてもらわなければなりません」

 私の言葉に何を勘違いしたのか、数名の少年たちは私に期待のこもった眼差しを向けてきた。
 背筋に凄まじい寒気が走る。

「それでは、私たちのことは今度はリヒト様がおそばに置いてくださるのでしょうか?」
「もしくは、王様?」

 そんな怖いことを言う少年もいる。
 私は深く深くため息を吐いた。

「私や私の父上の側で仕事をしたいというのならば、文官になるための試験を受けることは止めません。しかし、十分な知識と教養がなければ、試験に合格することは難しいでしょう。無償でそのような高度な教育をあなたたちに与えるためには、食い扶持くらいは自分たちで稼いでもらわなければいけません。そのためには洗濯や食器洗い、掃除など、できる仕事からやっていただく必要があります」

 少年たちは愕然としたようにその口をポカンッと開けた。

「どうしてですか? 僕たちはこれまでそのような仕事はしたことがありません」
「急にそのような仕事をしろと言われても……」

 戸惑う声が多い中、少年たちの中でも年齢が上で、十を少し過ぎたくらいに見える少年が手をあげた。

「僕は別館での帳簿付けを任されていたのですが、そのような仕事はありませんか?」
「すでにそのような経験があるのであれば考慮しましょう」

 どうやら彼は愛妾とはいえど、事務的なことを主に任されている立場だったようだ。

「おそらく、前王と従者様は戻って来られないでしょう」

 彼はそう言って、不安そうな少年たちを見た。

「戻ってきたとしても、皆が成長した姿では再び寵愛を得られる可能性は低いです。リヒト様が慈悲を与えてくださっている間に仕事を手にしなければ、生きる道を失いますよ」

 彼の説得で他の少年たちも仕事をすることを前向きに考えてくれるようになった。

 一人ずつ名前や年齢を確認するとやはり彼が一番年長者だったので、今後も少年たちの取りまとめをお願いすることにした。
 急に引き離すのも可哀想なので、住居は別館の部屋をそのまま使うことにして、別館の管理と本館の仕事の手伝いを少年たちに割り当てた。



 乳母とカルロの仕事はいつの間にか終わったようで、私が下町に行く時にはついてくるようになった。
 教師役が二人増えたようなものなので正直とてもありがたかった。

 貴族の屋敷から解放された子供たちの年齢も教育の進捗もバラバラで、知識量によってグループ分けをする必要があったのだ。




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