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お披露目編
69 学園設立計画
しおりを挟むお披露目の翌日、私はライオスを招いてお茶会を開いた。
昨日、執事に頼んでライオスのために部屋を用意してもらい、ライオスには実際に城に一泊してもらったのだ。
驚くことにライオスは護衛騎士一人だけを連れてエトワール王国へと来ていた。
「リヒト王子、昨日は庇っていただきありがとうございます」
席に着くとライオスはすぐにそのように頭を下げた。
しかし、ライオスを困らせるような質問をしてしまったのは私の方だったので、私は「いえ」と首を横に振った。
「配慮に欠ける質問をしてしまい申し訳ありません。このように改めて話をするためにどこに使いの者をやればいいのかを聞こうと思っただけなのですが、不快な思いをさせてしまいました」
私の言葉にライオスは驚いたような表情をした。
「改めてお時間を作ってくださるおつもりだったのですか?」
「はい」
「なぜですか?」
「ライオス様が現在どのような環境で過ごしているのか気になったものですから」
そんなことを気にしてくれるなら国を返せとか言われてもまぁ困るのだが。
「オーロ皇帝のご配慮により、以前と変わらずに公爵邸で……いえ、以前よりも伸び伸びと公爵邸で過ごしております」
「そうですか」
オーロ皇帝はそういうことをスマートにするところが大人の男という感じでかっこいい。
「元ティニ公爵が囚われた影響を受けて不便な生活をしているということがなくてよかったです」
昨日は忙し過ぎたし、ドレック・ルーヴや祖父などの変態、それ以外の貴族たちなど気にかけなければいけないことが多く、すぐに気づくことができなかったが、ライオスはゲームの攻略対象の一人だ。
私の記憶にあるのは10年後くらいの姿だが、艶のある紺色の髪に前わけヘアスタイル、そしてメガネをかけた真面目キャラという面影がしっかりあるし、何より同じ名前だ。間違えはないだろう。
ライオスは魔法学園を舞台にした乙女ゲームには珍しい魔法が使えないキャラクターだ。
魔法が使えないからと言って魔法に興味がないわけではなく、むしろライオスは攻略対象の中で一番魔法を愛していた。
だからこそ、魔法が使えない自分の代わりに他の生徒が魔法を使っているところを見て、魔法に対しての学びを深めるために学園に通っていたのだ。
そんなキャラクターだからか、昨日出会った時点では決して私に好意的でなかった様子だったのが、今日はちょっと頬を染めてもじもじとしている。
この原因はやはり、昨日エトワール王国に転移してきた魔塔の存在が大きいのだろう。
案の定、ライオスはその目を輝かせて声を弾ませた。
「あの、リヒト王子は魔塔主とお知り合いなのですよね!?」
ライオスの言いたいことは聞かなくてもわかる。
「魔塔主に私をご紹介いただけないでしょうか!?」
「やめておいたほうがいいでしょう」
私は即答した。
こんな子供の頃から心に傷を負う必要はないだろう。
憧れは憧れのままにしておいた方がいいのだ。
ライオスは見るからに落ち込んだ。
「そうですよね……帝国のオーロ皇帝でさえも会おうと思って会える人物ではないと聞きますし、私のような子供に会ってくれるわけがないですよね」
「ライオス様もご存知の通り、魔塔主は忙しい人ですからね」
「無理を言って申し訳ございません」
実際のところ、魔塔主が忙しいかどうかは知らない。
私が帝国に行く前も私の魔法の授業には講師として来ていたし、私がカルロに魔法を教えている間も来ていたし、私が帝国にいる間もちょくちょく城に来たり、課外授業に連れて行ってくれていたから、暇なような気もする。
だがしかし、それをわざわざライオスに教えて会えるかもしれないと希望を抱かせるのは可哀想だろう。
ゲームの中のライオスは魔法が使えない代わりに魔石と魔法陣を使った魔導具の研究を熱心にやっていた。
自身の中に魔力がほとんどなくて一人では魔法は使えないが、自作の魔導具でみんなを助けてくれたり、複数人で協力して強力な魔法を使うためのアドバイザーだった。
今の私は一人で複数属性使えるが、ゲームの中では一人一属性しか使えなかったのだ。
しかし、ライオスがいれば彼のアドバイスによって複数人で協力して強力な魔法を使うことができた。
ゲームの中では魔力がなくても誰よりも魔法を使いこなしていたわけだが、それでも魔塔主はおそらくライオスに興味は示さないだろう。
魔塔主が欲しているのは研究員ではなく、研究材料なのだ。
「ライオス様は魔法に興味があるのですね」
私の言葉にライオスは眉尻を下げて苦笑した。
「私自身は魔力が少なすぎて使えないのですけどね」
本当に残念そうに言うライオスに私はある提案をした。
「ライオス様、一緒に魔法学園を作りませんか?」
この世界に転生して情報ギルドを作ってからゲームの舞台となる魔法学園を探したのだが、エトワール王国内にも帝国傘下の国にも、帝国周辺の他国にもそれらしき学園はなかったのだ。
そして、私はゲームの舞台となる魔法学園はまだこの世界に存在していないと結論づけた。
おそらく、私が魔法学園を作らなくてもゲームの強制力でいずれは魔法学園ができるはずだ。
しかし、万が一にもできなかった場合、ゲームのストーリーが動き出さず、カルロとナタリアが恋心を育む環境がないということになってしまう。
それでは困るのだ。
カルロには絶対に幸せになってもらわなければいけないのだから、私がその舞台を整えてあげなければいけない。
私が魔法学園を作った後でもっと素晴らしい魔法学園ができるならばそれはそれでいい。
ただ、万全の準備をして、ゲームのストーリーが始まる時に備えておこうと思った。
そのために魔法に並々ならぬ情熱を燃やすライオスに協力を求めることにしたのだ。
私の誘いにすぐには反応できなかったライオスだったが、私の言葉を理解するとその表情を明るくした。
「ぜひ! ぜひ! ご協力させてください!!」
「では、建物の外観やどのような教室が必要か、授業科目など、理想の魔法学園について案を出してもらえますか?」
私はメイドに紙の束とペン、それからインク壺を用意してもらい、ライオスに渡した。
「ライオス様は基礎的な算学、帝国法や帝国の歴史学、経済学などの基礎は学びましたか?」
それまで目をキラキラさせていたライオスの表情が曇る。
「残念ながら、叔父は私にそのような機会は与えてくれなかったので……」
「元ティニ公国の邸宅にはすぐに戻らなくてはなりませんか?」
「いえ、そのようなことはございませんが……」
「では、この城に留まって基礎学力を身につけて帰るというのはいかがでしょうか?」
ライオスの表情が再び明るくなった。
ゲームの時には常に冷静沈着な様子で、これほど表情が動くキャラクターではなかったのでなんだか新鮮だ。
「ぜひ、そうさせてください!!」
ライオスは紙の束を抱きしめるようにして部屋へと戻った。
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