不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【奨励賞☆ありがとうございます!!】

はぴねこ

文字の大きさ
上 下
68 / 231
お披露目編

67 証

しおりを挟む

「失礼いたしました。私はドレック・ルーヴ、先ほどリヒト殿下の前でヴィント侯爵とそのご子息に無礼を働いてしまったルーヴ伯爵の弟です。兄の無礼を詫びに参りました」
「弟君が家長の無礼を詫びるなど、そのようなこともあるのですね。勉強になりました」
「家長ではありますが、今は私の事業を手伝っている私の部下でもありますので」

 周囲で聞き耳を立てている貴族たちが冷笑を浮かべる。
 家長が弟の事業を手伝うなど本来はあり得ないことだ。
 領地を持たない貴族たちはそれぞれ仕事をしているが、それでも家長が先導して弟妹はそれに従うものだ。
 もしくは、全く別の仕事を行なっていたり、それぞれ王宮に仕えたりするが、その際も長子の役職が上になるのが普通だ。
 弟の下で働くなど長子にとっては恥でしかない。

「リヒト殿下には我が社で作っている品をお持ちしました」

 ドレック・ルーヴは懐から小さな箱を取り出して蓋を開けて中身を見せてくれた。
 大人の手のひらサイズの箱の中にはカードが入っており、最初はトランプかと思ったが、書かれていたのは数字ではなく文字だった。

「カルタですか?」

 私の言葉にドレック・ルーヴは満足そうに微笑んだ。

「リヒト殿下はすでに文字を覚えておられるようですから必要ないかもしれませんが、カルロ様や他のお友達と遊ばれる時にお使いください」

 乳母の視線を受けてシュライグがドレック・ルーヴからカルタを受け取った。
 ドレック・ルーヴは「贈答用におもちゃやゲームがご入用の際にはお声がけください」と商売人の愛想のいい笑顔を見せて去っていった。
 最初から最後までカルロには視線を向けなかった。
 ゲームのドレックとは違い、カルロに興味を持っていないのか、それとも、そのように演じて隙ができるのを見計らっていたのかはわからない。

 ドレックとの対面で疲れた私は子供の特権を生かして早々に会場を後にした。



 カルロを連れて自室に入り、そこでやっと一息ついた。

「お食事をお持ちします」と乳母が厨房へ行こうとする。

「メイドに頼んだらいいのではないですか?」

 食事を摂りに行くのは乳母の仕事ではないだろう。
 しかし、乳母ははっきりと否定の言葉を口にした。

「このように多くの者が城の中にいる時には誰がどのような考えで場内に入り込むのかわかりませんから、リヒト様のお食事には十分に注意しなければなりません」

「リヒト様はカルロとお待ちください」と乳母はカルロに目配せして部屋を出た。
 グレデン卿も部屋の前で護衛をすると言って部屋の扉を閉めた。

 私がソファーにだらしなく座ると、カルロが「少しお待ちください」と足早に従者の部屋へ行った。
 部屋からすぐに戻ってきたカルロの手には小箱があった。
 式典前に言っていた誕生日プレゼントだろうか?

「リヒト様、改めましてお誕生日おめでとうございます」

 カルロが差し出してくれたプレゼントを私は受け取る。

「ありがとう。カルロもお誕生日おめでとう」

 カルロから受け取ったプレゼントを早速開けて、私は小箱の中身に驚いた。
 そこには、リングが二つ。

「僕、リヒト様とお揃いのものがどうしても欲しくて……つけなくてもいいので、持っていてもいいですか?」

 二つの指輪はどう見ても子供には大きなサイズで、親指にさえはまらずに落ちてしまうだろう。
 そんなサイズの指輪を贈ってきたのはきっとつけられないことをわかっていての配慮というか、遠慮の気持ちがあったのだろう。

 お揃いのものをどうしても欲しかったという気持ちも、そんな遠慮の気持ちも可愛くて私は笑った。

 私はカルロの手を引くと、隣に座らせた。
 そして、ポケットからカルロとお揃いの懐中時計を出すとそのチェーンに指輪を通した。

「これで、一緒に持ち歩けるだろう?」

 カルロの瞳がキラキラと輝き、自分のポケットから懐中時計を取り出した。
 私はそれを受け取ると同じようにチェーンに指輪を通した。

「リヒト様、僕、この指輪が指につけられるくらい大人になった時もリヒト様の隣にいたいです!」

 今の私たちには大きな指輪だけれど、子供の成長は早い。
 おそらく、十代半ばくらいでこの指輪をはめることは可能になるだろう。
 その頃ならまだカルロもナタリアと結婚まではしていないだろうから、きっと私の隣にいる。
 そう思って、私は頷いた。

「もちろん、カルロは私の隣にいるよ」

 ちゃんとナタリアと幸せになるまでは私が守るからね。



「そういえば、なぜリヒト様はこのカードの名前をご存知だったのですか?」

 食事を運んできた乳母がドレック・ルーヴが献上したカルタをさして言った。

「なぜというのは?」
「ドレック・ルーヴは遊具作りの天才と言われ、これまでも子供たちのための商品を色々と作っていましたが、私はこのカルタというカードを初めて見ました。おそらく、これから売り出す新商品をリヒト様に献上されたのだと思います」

 私は乳母の語った内容に驚いた。

 確かに、私が子供の頃に与えられたカードゲームはトランプだけだった。
 まだこの世界になかったカルタを作り、そして、ドレック・ルーヴには私がカルタを知っていたことに驚く様子がなかった。

 もしかして、彼は私がゲームで見てきたドレック・ルーヴとは別人なのだろうか?
 私と同じ転生者なのだとしたら、カルロに全く興味を示さなかったことも理解できる。

 そして、もし、彼が転生者なのだとしたら、おそらく、私も転生者なのかもしれないと勘付いているのだろう。
 だから、わざとこの世界の人間が知らないカルタを持ってきた。

 ドレック・ルーヴについては情報ギルドが詳しく調べてくれているはずだ。
 多くの情報の中から私が欲している情報だけを知らせてくれていただろうから、今度は彼がこれまで作ってきた玩具について聞いてみよう。

 何か転生者だというヒントが隠れているかもしれない。




しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

王子の恋

うりぼう
BL
幼い頃の初恋。 そんな初恋の人に、今日オレは嫁ぐ。 しかし相手には心に決めた人がいて…… ※擦れ違い ※両片想い ※エセ王国 ※エセファンタジー ※細かいツッコミはなしで

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

処理中です...