62 / 250
お披露目編
61 謝恩会 後編
しおりを挟む「ナタリア様とは、誰なのだ?」
ああ、話が全然そらせていなかった。
カルロがナタリアのことを話したことで明らかに事態は悪化したが、しかし、カルロが悪いわけではない。
帝国の騎士団長がエトワール王国の騎士たちの指南役をしてくれていたことなど私は知らなかった。
そのことを前もって知っていたなら、もう少しマシな説明ができたはずなのだが、急に知らされたことに私もオーロ皇帝が私に対して格別な待遇をしてくれていたことを隠す言葉が瞬時には出てこなかったのだ。
私はこれまでずっと両親にはオーロ皇帝と夕食を共にしていたことなど、私に対して他国の王子以上の格別な待遇を受けていたことは隠してきたのだ。
そのような話をすれば、私を養子にと格上の帝国が言ってきたらどうしようと両親が心配することはわかっていたからだ。
実際に、オーロ皇帝は冗談とは言えど、養子とかナタリアの婿にどうかという話をしてきたわけなのだから、そのようなことを知った親バカな私の両親は落ち着いてなどいられないだろう。
「ナタリア様とはオーロ皇帝の孫娘です。ご両親がすでに他界していることからオーロ皇帝の庇護の元、お城に住んでおりました」
ナタリアはずっとオーロ皇帝の元にいるため、父親だけでなく、もしや母親も? とは思っていたけれど、どうやらなんらかの理由で母親も亡くなっていたらしい。
カルロはちゃんとナタリアの話を聞いて、大国のお姫様ではなく、一人の人間として接していたのだろう。
うちの子はなんて優しくて賢くて尊いのだろう。
私が無意識のうちにカルロのサラサラな髪をなでなでしていると「リヒト」と母上の声が耳に入った。
「養子だの婚約のお話などがあって、どうしてわたくしたちに何も教えてくれなかったの?」
「そのような話、オーロ皇帝の冗談ですから、母上と父上に無用なご心配をおかけしたくなかったのです」
「万が一、冗談じゃなかったからどうするのだ?」
両親に怒られる私の腕をカルロは引っ張った。
「王様! 王妃様! 僕がリヒト様をお守りしますので大丈夫です!」
「カルロ、今度、リヒトがまた何かを一人で解決しようとしていたらすぐに私たちに教えてくださいね」
王妃からの願いではカルロが断れるはずもない。
そう思ったのだが、カルロは私の腕にしがみつくように腕を回して、王と王妃に立ち向かった。
「僕はリヒト様のことを全力でお守りしますが、リヒト様の侍従ですので、リヒト様のご命令が一番大事です! 王様と王妃様はその次です!」
ああ~! カルロが可愛い~! すごく可愛い~~~!!
でも、それは言っちゃダメだよ~!
私は両親からカルロを守るために身構えたが、母上は「それはそうね」とあっさりと納得していた。
王国の最高権力者である王に次ぐ権力……いや、父上が母上に頭が上がらないという意味では、実質、母上が最高権力者と言っても過言ではないのにも関わらず、自分の命令を一蹴した者に対して怒るでもなく納得するとは、私の両親が無闇に権力を振るうような人たちではなく良かった。
それどころか、カルロの回答にどこか満足そうでもある。
「母上、なんだか嬉しそうですね」
「リヒトに必ず味方になってくれる人がいると改めて確認できて嬉しいのよ。帝国はきっとエトワール王国なんかより素晴らしいところだったでしょう? それでも、カルロはそこに残りたいと思うこともなく、この先もずっとリヒトに仕えてくれるってことでしょう?」
「もちろんです! 私は絶対にリヒト様のそばから離れません!!」
成人してナタリアと婚儀を結ぶまではきっとカルロは私の側で仕えてくれるだろうが、その後はエトワール王国にいてもいいし、帝都に行ってもいいように準備をしなければいけないな。
「私たちもリヒト様にお仕えし続けたいです!」
「我々も、エトワール王に、そして将来的にはリヒト様に忠誠を捧げます!」
我々の近くで話を聞いていたらしい帝国に随行してくれたメイドや騎士たちまでそう言ってくれた。
「リヒトは皆に慕われているな」
父王の言葉に私は笑った。
「父上と母上の子だからでしょう」
息子大好きな親バカな両親が震えている間に私は料理を取りに向かった。
両親のところには給仕の者が並んでいる料理とは別に一皿ずつもってきていたが、私は自分で取りに行くからと断っていたのだ。
私はカルロと共に食べたい料理、気になる料理をお皿に取り分けて他の者と一緒に立ったまま食べた。
「リヒト様、これ美味しいですよ!」
「私はこちらがおすすめです」
私たちに気づいた者たちが自分たちのおすすめの料理を教えてくれる。
王や王妃の前でハメを外しすぎるのは良くないため、お酒は提供していないが、美味しい料理に騎士たちは満足げだ。
メイドたちはもうスイーツに移行している。
この場では仕事をすることは禁じていたため乳母は私の専属メイドたちと一緒に、そしてグレデン卿は他の騎士たちと一緒に食事を楽しんでいた。
シュライグもこの会場にいるはずなのだが、すぐに探し出すことができずに食堂内を見回すと部屋の隅の椅子に座って一人で食べていた。
立食パーティーではあるが、座りたい者もいるだろうと壁にはいくつか椅子を並べていたのだ。
シュライグは元々この城に勤めていた者でもないし、執事で随行したのは彼だけだからこの場には仕事仲間もいない。
私は彼への配慮が足りなかったことに気づいて急いでシュライグの元へと行った。
「シュライグ、すみません。一人で食べさせることになるなんて」
「気になさらなくても大丈夫ですよ。執事は他の使用人よりも人数が少なく、普段から順番で一人ずつ食事をとっていますから」
それならなおのこと、このような場で仕事をしてはいけないなどの命令をするべきではなかっただろう。
カルロの世話焼きとしてそばにいれば、少なくともこのように部屋の隅で一人で皆の様子を見ながら食事を摂る必要はなかったのだから。
私はカルロと一緒にシュライグの隣に座った。
「お待たせしてしまいましたが、一緒に食べましょう」
「一人でいたために気を遣わせてしまったようですね。すみません」
シュライグが困ったように眉尻を下げた。
「リヒト様とカルロ様に気を遣わせてしまうくらいならメイドさんたちのお誘いを受けるべきでしたね」
それはどういう意味だろうと話を聞くと、何人かのメイドに一緒に食べようとか隣に座ってもいいかと声をかけられたそうだがそれを断ったらしい。
それを聞いて、私はもしかすると私たちが来たことによってシュライグに声をかけるというメイドたちのチャンスを奪ってしまったのかもしれないことに気づいた。
一人でいるからといってシュライグははぶられているわけではなかった。
むしろ、モテていた。モテモテだった。
「シュライグはモテるだろうとは思っていましたが想定以上にモテていましたね」
私の言葉にシュライグは眉尻を下げて笑った。
「シュヴァイグと比べたら私などモテているなどとは言えません」
そこでなぜコミュ力おばけのシュヴァイグと比べるのだろう。
二人は兄弟でも全然タイプが違うため、その比較はあまり役に立たないように思えた。
シュヴァイグはシュライグによく似た端正な顔立ちでその上明るくてコミュ力がすごいのだ。
シュライグには話しかけ難いという子でもシュヴァイグになら気軽に声をかけることができるだろう。
「兄さんは前から僕の方がモテると勘違いしているみたいだけど、僕に話しかける半数くらいの子は兄さんのことを聞きに来るんだよ?」
執事の仕事で食堂にいたのであろうシュヴァイグが話に入ってきた。
半数くらいの女性はシュライグの話だが、残りの半数はシュヴァイグ狙いということだろう。
モテモテ執事兄弟め。
私たちが話をしていると室内を照らす魔導具の光を遮って影が差し掛かった。
何事かと視線を上げるとガタイのいい若い騎士たちが数名立っていた。
「あの、どうしたらシュライグさんたちみたいにモテるのでしょうか?」
どうやら彼らはこっそりと聞き耳を立てていたようだ。
その誰もが真剣な眼差しだ。
「どうしたらと言われても……わかりません」
シュライグはモテようと思って振る舞っているわけではない。
むしろ、だからこそモテているのだと思う。
騎士たちががっかりと肩を落としたが、ここはコミュ力おばけのシュヴァイグの出番だ。
「たいていの女の子たちは優しい人が好きですよ。困っていたらすぐに手を貸してあげたり、優しい言葉をかけてあげたらいいと思います」
ふむふむとシュヴァイグの話に騎士たちは真剣な顔をして聞き入っている。
「シュヴァイグは誰とでもすぐ仲良くなれてすごいですね」
「リヒト様も誰とでも仲良くできるではないですか?」
「いや、私のは……」
シュライグの言葉に私は戸惑った。
たいていの人間が子供のように見えているからだとは言えない。
大人とは、年下の若者に親切にするものだろう?
1,185
お気に入りに追加
2,965
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。


普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる