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帝国編
26 交渉 後編
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「リヒト様、皇帝とのお話はうまくいかれたのですよね?」
私の弟になる案を速攻で拒否したカルロは話題を変えた。
そんなに私の弟になるのは嫌だったのだろうか?
「え? うん?」
私は拒否られた動揺を隠し切れずに生返事を返した。
「王国は帝国の傘下に入り、帝国法が適用されるのですよね?」
「そうだね」
「帝国法では同性婚が許されているとハバルが言っていました」
「カルロもしっかり話を聞いてくれていたんだね」
カルロは6歳にして……いや、私に誕生日を合わせて6歳になっただけで実質まだ5歳だ。
そんなに幼くてもカルロはハバルの話を聞いてちゃんと理解しているのだ。
なんて利発なんだろう。
「リヒト様の弟には絶対になりません」
話題変えたのかと思ったら戻った。
というか、改めて拒否るほど嫌だったのか……
「カルロをずっと守っていくためにはいいアイデアだと思ったんだけど、私の弟は嫌だよね。ごめん」
なぜ嫌なのかは掘り下げないでおこう。
さらなるショックを受けたらしばらく立ち直ることができないだろう。
実はずっと嫌いだったとかだったらショックで死ねる。
……たとえ、私のことが嫌いだったとしても私の7歳のお披露目の時までは守りやすいようにそばにいてほしい。
「リヒト様」と、カルロが私の手を握った。
よかった! どうやら嫌われているわけではなさそうだ。
嫌いな者の手など握らないだろう。
「僕のことをずっと守ってくださるのなら、兄弟になるよりもずっといい方法があります」
「え? 何?」
「僕とけっ…」
「カルロ、それはあなたが決めることではありませんよ。立場をわきまえなさい」
乳母がやけに厳しい声を出した。
私には聞かせたことのない声だったので驚いた。
「乳母、構わない。私はカルロの提案を聞いてみたい」
しかし、カルロは首を横に振り、それ以上教えてはくれなかった。
その後、カルロは私の湯浴みを手伝い、着替えをさせてくれ、私がベッドに上がると従者の部屋へと下がっていった。
私は可愛いカルロのわがままならばいくらでも聞いてあげたいと思うが、王子と従者の立場ではやはりそういうわけにもいかない。
先ほどのカルロの提案がなんだったのかは気になるが、一日の疲れは瞼を閉じた私に全く考える時間を与えてはくれなかった。
夢さえも見ずに深く眠った私は翌朝5時に目覚めた。
6歳の少年の活力溢れる体のせいなのか、中身が52歳のおじさんだからなのか、はたまた、王族の優秀な遺伝子のせいなのか、こうして一度目覚めると目が冴えてしまって二度寝をすることは難しかった。
寝ずの番のメイドがいる時にはメイドに気を遣わせるため、目を瞑って羊を数えて6時になるのを待っていたが、今は帝国で寝ずの番のメイドはおらず、グレデン卿が扉の横の椅子でうたた寝をしている。
昨夜、寝る時になってから護衛騎士がグレデン卿一人というのは少なすぎることに気がついた。
一人では、グレデン卿が眠る時間がないのだ。
魔塔主に言って護衛騎士をもう少し連れてきてもらった方がいいだろう。
そもそも、転移魔法ではなく通常の方法でひと月以上かけて帝国まで来ていれば途中の盗賊や魔物対策としてそれなりの人数の騎士たちと一緒に来ることになっていたのだから、夜勤交代要員に困ることはなかったのだ。
「リヒト様は眠っている時もそんな気難しい顔をしているのですね」
目を開けると魔塔主が私の顔を覗き込んでいて驚いた。
「何をしているのですか?」
「久々に夜ぐっすり眠ったら早朝に目覚めてしまいまして」
魔塔主と同じ体質ということは、やはり、私が朝早くに目覚めてしまうのは中身がおじさんだからということだろうか?
私は上体を起こしてグレデン卿へ視線をやる。
彼はまだ眠っていた。
「もしかして、魔法をかけましたか?」
私が上体を起こしてもグレデン卿が反応する気配はない。
「起こしては可哀想かと思い、我々の声が漏れないようにしました」
「私の護衛騎士への配慮は感謝しますが、できれば私のことも寝かせておいていただきたかったのですが?」
「リヒト王子は起きていたじゃないですか?」
その通りなのだが、そもそも勝手に部屋に侵入しないという基本的な礼儀を守ることのない魔塔主を私は睨む。
「自分が起こしてしまったかもしれないとは思わないのですか?」
「確かに、その可能性もありましたね」
そんな風に言いながらも魔塔主に悪びれた様子はない。
「後でエトワール王国から私の護衛騎士を数人連れてきてくれませんか?」
「護衛騎士一人では不安ですか?」
「いえ。このままではグレデン卿が睡眠不足で倒れることになりそうですから」
「それならば魔塔の魔法使いをお貸ししましょう」
「護衛などできるのですか?」
「護衛の経験はありませんが、魔塔に忍び込もうとした愚か者ならばこれまで何度も返り討ちにしてきた者たちばかりですよ」
返り討ちにあった者たちの惨状が少し心配になったが、私は「なるほど」と頷いた。
「それならばお借りするのもいいかもしれませんね」
「意外ですね。断るかと思っていました」
「魔塔は今後エトワール王国に移動しますので、魔塔の者たちを警戒してもあまり意味がありませんから」
『魔塔』は魔法研究所の通称であり、魔塔に入ることが許されている魔法使いは50名ほどと組織としてはそれほど多くない。
ただ、魔法の研究をする彼らは研究に魔力を使えるほどの豊富な魔力と豊富な知識、複数の属性を扱えることが基本であり、魔塔の魔法使い一人で王国の首都一つを吹き飛ばすことが可能と考えられている。
魔塔が帝国にあったからこそ帝国を作ることができたとされるほど、魔塔を恐れる国は多い。
そんな魔塔の魔法使いが警護についてくれるとなれば、護衛騎士を百人待機させるよりも強固な守りとなる。
「魔塔の者たちが私を殺したいのでしたら、すでに私は殺されていると思いますし」
つまり、魔塔の魔法使いを警戒して護衛を断ったとしても無駄なのだ。
「ところで、ルシエンテ帝国にはどれくらい滞在される予定なのですか?」
「私はオーロ皇帝に呼ばれた立場ですのでいつまでと明確にはわかりませんが、昨日の話では魔塔の移動に関してはオーロ皇帝も納得してくださっていましたから数日で帰れると思います」
そう私は考えていたのだが、私の考えは甘かった。
多忙なオーロ皇帝と会うことができるのは夕食の席だけだと思っていたら、私は朝食に呼ばれて食堂へと向かった。
昨日の執事の説明では朝食は部屋に運んでくれるということだったのだが。
「1年、こちらに滞在せよ」
朝食の席にはナタリアは呼ばれていなかった。
そして、乳母には昨夜のように同じテーブルにつくようにとは言われなかった。
カルロのことはどうするべきかと私が迷っていると、「さっさと二人とも座れ」とオーロ皇帝は言ってくれたので、私も遠慮なくカルロを私の隣に座らせた。
魔塔主は一度魔塔に戻ったが、昨夜魔塔主が座っていた席は空けて、私は昨夜と同じ席に座った。
「……1年、ですか?」
「其方、エトワール王国を帝国の経済圏に入れてほしいと言っていたではないか」
「はい」と私は素直に頷く。
しかし、それとこれとは何の関係が?
「それならば、1年間、帝国の中心部で経済の流れを見て、自国のために勉強する必要があると思わぬか?」
確かにその通りではあるが、その勉強、私がする必要があるのだろうか?
「経済のことを学ぶのは私よりも適任者がいるように思うのですが?」
「確かに、経済に聡い文官や貴族を帝国に滞在させるのも手だろう。しかし、その者たちが学ぶための資金はどうするのだ? その者たちに持たせるのか? 王国が金を出すのか? 優秀な者であれば学び終わった頃に他の国が取り込むぞ。それに、エトワール王国が帝国の傘下に入れば、他の帝国傘下の国からすればエトワール王国は新しい顧客だ。これまで帝国内で出回ってきて、流行りが廃れた商品を売り込むのにちょうどいい国だ。そうした国たちとの交渉に使えるような商品がエトワール王国にはすでにあるのか? エトワール王国を帝国の傘下とするのを其方の誕生日にするとしても後1年間しかない。その間に、帝国内でどのような商品が出回っており、どのようなものが好まれ、どのような商品が廃れてきたのかを把握しなければ、他国の餌食になるだけだぞ? 其方以外の者でそうしたことを学ぶのに十分な資金を持ち、行動力を持ち、かつ、エトワール王国を絶対に裏切る心配のない者が他にいるのか?」
オーロ皇帝の怒涛の言葉に私は怯んだが、それでも帝国に一年間も滞在するなど簡単に了承できることではない。
「お言葉はごもっともなのですが、オーロ皇帝の目的はなんですか? やはり、魔塔が帝国の首都にないと困るということでしょうか?」
「私の目的は其方だ」
意外な返答が返された。
「……私ですか?」
「其方の能力は非常に興味深い。其方の成長を間近で見たくなったのだ。ちなみに、其方が帝国で1年間学ぶのであれば、滞在費は私が持ってやる。城で学び、食べ、寝ればいい。もちろん、其方の側近の者たち全員面倒を見てやる」
それは確かにものすごくお得だ。
私ならば当然他の国の引き抜きなどもないわけだし。
「……7歳の誕生日には私はエトワール王国へ戻る必要があります。期限は1年間でよろしいのですよね?」
「もちろん、其方がもっと学びたいというのであればもっといてもらって構わない」
私の質問の意図を正確に理解しているはずなのにオーロ皇帝はわざと曲解してそのように答えた。
「私には王子としての役割がありますので、1年後には帰らせていただきます」
正直、1年後にはこの国でもっと学びを深めたくなっている可能性は非常に高い。
しかし、私には他の者が代わりを務めることができない王子としての役割があるのだ。
7歳のお披露目が終われば私も、貴族のパーティーに顔を出すなどの公務をしなければならない。
これまでのように好き勝手に動くわけにはいかなくなるだろう。
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そんなに私の弟になるのは嫌だったのだろうか?
「え? うん?」
私は拒否られた動揺を隠し切れずに生返事を返した。
「王国は帝国の傘下に入り、帝国法が適用されるのですよね?」
「そうだね」
「帝国法では同性婚が許されているとハバルが言っていました」
「カルロもしっかり話を聞いてくれていたんだね」
カルロは6歳にして……いや、私に誕生日を合わせて6歳になっただけで実質まだ5歳だ。
そんなに幼くてもカルロはハバルの話を聞いてちゃんと理解しているのだ。
なんて利発なんだろう。
「リヒト様の弟には絶対になりません」
話題変えたのかと思ったら戻った。
というか、改めて拒否るほど嫌だったのか……
「カルロをずっと守っていくためにはいいアイデアだと思ったんだけど、私の弟は嫌だよね。ごめん」
なぜ嫌なのかは掘り下げないでおこう。
さらなるショックを受けたらしばらく立ち直ることができないだろう。
実はずっと嫌いだったとかだったらショックで死ねる。
……たとえ、私のことが嫌いだったとしても私の7歳のお披露目の時までは守りやすいようにそばにいてほしい。
「リヒト様」と、カルロが私の手を握った。
よかった! どうやら嫌われているわけではなさそうだ。
嫌いな者の手など握らないだろう。
「僕のことをずっと守ってくださるのなら、兄弟になるよりもずっといい方法があります」
「え? 何?」
「僕とけっ…」
「カルロ、それはあなたが決めることではありませんよ。立場をわきまえなさい」
乳母がやけに厳しい声を出した。
私には聞かせたことのない声だったので驚いた。
「乳母、構わない。私はカルロの提案を聞いてみたい」
しかし、カルロは首を横に振り、それ以上教えてはくれなかった。
その後、カルロは私の湯浴みを手伝い、着替えをさせてくれ、私がベッドに上がると従者の部屋へと下がっていった。
私は可愛いカルロのわがままならばいくらでも聞いてあげたいと思うが、王子と従者の立場ではやはりそういうわけにもいかない。
先ほどのカルロの提案がなんだったのかは気になるが、一日の疲れは瞼を閉じた私に全く考える時間を与えてはくれなかった。
夢さえも見ずに深く眠った私は翌朝5時に目覚めた。
6歳の少年の活力溢れる体のせいなのか、中身が52歳のおじさんだからなのか、はたまた、王族の優秀な遺伝子のせいなのか、こうして一度目覚めると目が冴えてしまって二度寝をすることは難しかった。
寝ずの番のメイドがいる時にはメイドに気を遣わせるため、目を瞑って羊を数えて6時になるのを待っていたが、今は帝国で寝ずの番のメイドはおらず、グレデン卿が扉の横の椅子でうたた寝をしている。
昨夜、寝る時になってから護衛騎士がグレデン卿一人というのは少なすぎることに気がついた。
一人では、グレデン卿が眠る時間がないのだ。
魔塔主に言って護衛騎士をもう少し連れてきてもらった方がいいだろう。
そもそも、転移魔法ではなく通常の方法でひと月以上かけて帝国まで来ていれば途中の盗賊や魔物対策としてそれなりの人数の騎士たちと一緒に来ることになっていたのだから、夜勤交代要員に困ることはなかったのだ。
「リヒト様は眠っている時もそんな気難しい顔をしているのですね」
目を開けると魔塔主が私の顔を覗き込んでいて驚いた。
「何をしているのですか?」
「久々に夜ぐっすり眠ったら早朝に目覚めてしまいまして」
魔塔主と同じ体質ということは、やはり、私が朝早くに目覚めてしまうのは中身がおじさんだからということだろうか?
私は上体を起こしてグレデン卿へ視線をやる。
彼はまだ眠っていた。
「もしかして、魔法をかけましたか?」
私が上体を起こしてもグレデン卿が反応する気配はない。
「起こしては可哀想かと思い、我々の声が漏れないようにしました」
「私の護衛騎士への配慮は感謝しますが、できれば私のことも寝かせておいていただきたかったのですが?」
「リヒト王子は起きていたじゃないですか?」
その通りなのだが、そもそも勝手に部屋に侵入しないという基本的な礼儀を守ることのない魔塔主を私は睨む。
「自分が起こしてしまったかもしれないとは思わないのですか?」
「確かに、その可能性もありましたね」
そんな風に言いながらも魔塔主に悪びれた様子はない。
「後でエトワール王国から私の護衛騎士を数人連れてきてくれませんか?」
「護衛騎士一人では不安ですか?」
「いえ。このままではグレデン卿が睡眠不足で倒れることになりそうですから」
「それならば魔塔の魔法使いをお貸ししましょう」
「護衛などできるのですか?」
「護衛の経験はありませんが、魔塔に忍び込もうとした愚か者ならばこれまで何度も返り討ちにしてきた者たちばかりですよ」
返り討ちにあった者たちの惨状が少し心配になったが、私は「なるほど」と頷いた。
「それならばお借りするのもいいかもしれませんね」
「意外ですね。断るかと思っていました」
「魔塔は今後エトワール王国に移動しますので、魔塔の者たちを警戒してもあまり意味がありませんから」
『魔塔』は魔法研究所の通称であり、魔塔に入ることが許されている魔法使いは50名ほどと組織としてはそれほど多くない。
ただ、魔法の研究をする彼らは研究に魔力を使えるほどの豊富な魔力と豊富な知識、複数の属性を扱えることが基本であり、魔塔の魔法使い一人で王国の首都一つを吹き飛ばすことが可能と考えられている。
魔塔が帝国にあったからこそ帝国を作ることができたとされるほど、魔塔を恐れる国は多い。
そんな魔塔の魔法使いが警護についてくれるとなれば、護衛騎士を百人待機させるよりも強固な守りとなる。
「魔塔の者たちが私を殺したいのでしたら、すでに私は殺されていると思いますし」
つまり、魔塔の魔法使いを警戒して護衛を断ったとしても無駄なのだ。
「ところで、ルシエンテ帝国にはどれくらい滞在される予定なのですか?」
「私はオーロ皇帝に呼ばれた立場ですのでいつまでと明確にはわかりませんが、昨日の話では魔塔の移動に関してはオーロ皇帝も納得してくださっていましたから数日で帰れると思います」
そう私は考えていたのだが、私の考えは甘かった。
多忙なオーロ皇帝と会うことができるのは夕食の席だけだと思っていたら、私は朝食に呼ばれて食堂へと向かった。
昨日の執事の説明では朝食は部屋に運んでくれるということだったのだが。
「1年、こちらに滞在せよ」
朝食の席にはナタリアは呼ばれていなかった。
そして、乳母には昨夜のように同じテーブルにつくようにとは言われなかった。
カルロのことはどうするべきかと私が迷っていると、「さっさと二人とも座れ」とオーロ皇帝は言ってくれたので、私も遠慮なくカルロを私の隣に座らせた。
魔塔主は一度魔塔に戻ったが、昨夜魔塔主が座っていた席は空けて、私は昨夜と同じ席に座った。
「……1年、ですか?」
「其方、エトワール王国を帝国の経済圏に入れてほしいと言っていたではないか」
「はい」と私は素直に頷く。
しかし、それとこれとは何の関係が?
「それならば、1年間、帝国の中心部で経済の流れを見て、自国のために勉強する必要があると思わぬか?」
確かにその通りではあるが、その勉強、私がする必要があるのだろうか?
「経済のことを学ぶのは私よりも適任者がいるように思うのですが?」
「確かに、経済に聡い文官や貴族を帝国に滞在させるのも手だろう。しかし、その者たちが学ぶための資金はどうするのだ? その者たちに持たせるのか? 王国が金を出すのか? 優秀な者であれば学び終わった頃に他の国が取り込むぞ。それに、エトワール王国が帝国の傘下に入れば、他の帝国傘下の国からすればエトワール王国は新しい顧客だ。これまで帝国内で出回ってきて、流行りが廃れた商品を売り込むのにちょうどいい国だ。そうした国たちとの交渉に使えるような商品がエトワール王国にはすでにあるのか? エトワール王国を帝国の傘下とするのを其方の誕生日にするとしても後1年間しかない。その間に、帝国内でどのような商品が出回っており、どのようなものが好まれ、どのような商品が廃れてきたのかを把握しなければ、他国の餌食になるだけだぞ? 其方以外の者でそうしたことを学ぶのに十分な資金を持ち、行動力を持ち、かつ、エトワール王国を絶対に裏切る心配のない者が他にいるのか?」
オーロ皇帝の怒涛の言葉に私は怯んだが、それでも帝国に一年間も滞在するなど簡単に了承できることではない。
「お言葉はごもっともなのですが、オーロ皇帝の目的はなんですか? やはり、魔塔が帝国の首都にないと困るということでしょうか?」
「私の目的は其方だ」
意外な返答が返された。
「……私ですか?」
「其方の能力は非常に興味深い。其方の成長を間近で見たくなったのだ。ちなみに、其方が帝国で1年間学ぶのであれば、滞在費は私が持ってやる。城で学び、食べ、寝ればいい。もちろん、其方の側近の者たち全員面倒を見てやる」
それは確かにものすごくお得だ。
私ならば当然他の国の引き抜きなどもないわけだし。
「……7歳の誕生日には私はエトワール王国へ戻る必要があります。期限は1年間でよろしいのですよね?」
「もちろん、其方がもっと学びたいというのであればもっといてもらって構わない」
私の質問の意図を正確に理解しているはずなのにオーロ皇帝はわざと曲解してそのように答えた。
「私には王子としての役割がありますので、1年後には帰らせていただきます」
正直、1年後にはこの国でもっと学びを深めたくなっている可能性は非常に高い。
しかし、私には他の者が代わりを務めることができない王子としての役割があるのだ。
7歳のお披露目が終われば私も、貴族のパーティーに顔を出すなどの公務をしなければならない。
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