ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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デートの準備

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俺が息を整え終わった頃、もうキュロとの話を終えてランハートは魔王城の中へと戻っていた。
渡された瓶を何度も空中に放り投げては危なげなくキャッチを繰り返しているキュロが、ゆっくり針の木々を減らしていく。この方法はもうやめるんだろう。思いの外深い安堵の溜息が漏れた。

「ニオ様もう動ける?」
「うん。それよりさっきのって」

丁度手に落ちてきた瓶を指差すと、雑に放り投げ渡してくる。動作が少し遅れていれば割れていただろう。普通に危ない。

「これは水を扱う魔法使いが補助に使う......使い魔みたいなやつ。実際には意思も何もないからそうじゃないんだけど」
「俺でも使えるの?」
「使える。与えられた役割を全うするためだけの道具だから」

そんなのもっと早く出してほしかった。と思ったけれど、乗り気でなさそうなキュロを見て不思議に思う。使おうと言わなかったのはそれなりの理由があるからだろうか。
防護魔法を直接使うのと、道具を使っての使うのでは発動までの時間に差がある、だったり。先に楽な方法を知ってしまったらそれしか使わなくなる心配、とか。

「魔王様からだって。使えってことなんだろうね」

瓶の中をよく見てみると、透き通っているように見えた水は少し濁っている。それに振っても気泡が出来ず、張り付くように瓶の裏側を伝っている。

「......ポーション」

魔法を付与した特殊な液体。傷や毒を治す効果があり、一般的にも流通しているらしい。実際に店で売られているところは見たことないけど。

「違うよ。使い魔って言ったでしょ、それはエセスライム。魔法を使う前に割って、威力を増幅させる道具」
「なるほど?」
「使った方がはやいね。今から怪我しない程度のやつで襲うから、その辺の落ちた枝と、水に土、スライム使ってやってみて」

やっぱり多くないか、という視線を無視して少し離れたところまでキュロは歩いていってしまった。怪我しないレベルをキュロが本当にわかっているか不安だが、これを使って防護魔法を形に出来ないとなると......うん、道具にすら頼って何も出来ない無能になるな。

「準備できた?」

足元にニュルっと生えてきた喇叭のような植物からキュロの声が聞こえてくる。大丈夫、と返せばそこから分かった。と帰ってきた。便利だなこれ。

「怪我させず殺さずに生かさずに......?ん?なんか違うな。まぁとりあえずこのくらい」

古い蔓を何本も絡ませて、人一人分程度まで大きくする。回転を加え避けやすいよう少し形を整えて、完成したのは植物で出来ている鋭い槍の穂先。切れることはないが物量で押し潰してしまう。
キュロは本気で思っていた。
道具があるのだ、三属性の防護魔法を成功させることは今のニオ様なら難しくないだろう。これくらいの魔法では慌てることなく、冷静に対処できるだろうと。
実際は違う。

「ま、ってまってまてまてまて」

大慌てだ。泡吹いて今すぐにぶっ倒れたい。瓶を持ちながら小山羊のように震えている。が、その間にもキュロの魔法が迫ってくる。


「もう、やるしかない...‼︎」

瓶を地面に叩きつけ、すぐに姿勢を低くする。土を伝って水、枝に自分の魔力を流す。頬を撫でる風にも微量ながら魔力を含ませて、補助を頼んだ。
全身を巡っている魔力を無理やり引っ掴んで送り込むせいで、身体中が痛い。循環は上手くいっていないから視界も揺らぐ。けれどここで泣き言を言う暇はない。
渦巻く水と枝を視界に入れて、すぐさま編むように組み立てた。イメージは、盾。ではなく。

「オルレア」

自分が名を呼ぶのと同時に、アルの声が重なったような気がした。
こんな時でも視界に入る花。不思議と彼が側にいる気がして、息を吸える。震えていても、逃げることなく目の前の死に目を向けられる。

「包め、破れるな、押し返せ」

出来た巨大な花を覆うようにスライムが広がっていく。
白く輝くオルレアは、淡い青緑の色へと変化し大きな穂先を飲み込んだ。ぶつかった魔力が膨れ上がって花の中で渦巻く。しかしそれが外へ漏れ出ることはなかった。
風が巻き付き空へと持ち上げて、ついに花は破裂する。
色付いた二人の魔力が形を失って飛び散った。
この光景が示すのは多数の魔法の同時発動成功。

「でっ、できたーーーーー‼︎‼︎‼︎」

生まれて初めて腹の底から喜びの声が出た。
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