ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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番外編 キュロとルベル

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魔王城に戻った後、人間を連れ帰った話はすぐに広まった。
人間を抱き抱えて動くのが思いの外し辛くて、床に座り込んだところで、鏡の間の管理者。アリアとエンゼが二人して俺を出迎えてくれた。それもアリアの方は凄い不機嫌そうな顔だ。エンゼは変わらず無表情をキープしている。その二人の立つ向こう側には、彼女らのオリジナルがいつも通り気持ち良さそうに眠っていた。

「ちょっと‼︎将来有望ってだけのくせして、アリーゼ姉様を見るだなんて恥を知りなさいな‼︎」
「エンゼは小さく肯定します。人間を連れ帰って来たこと、報告は済ませておりますよ。とはいえ説明はしてほしいものです」

二人は相変わらず俺の抱えている人間から目を離さない。眠っているから何をしようにも出来ないのにそれでも警戒を解かない。

「アリアは心配だわ。人間はいつも勝手だもの。あと何をしでかすか分からない」
「またしても肯定、首を縦に振りましょう。危険分子を引き連れてお帰りなさる。自分の仕事、こなしてきたので?」

圧の強い視線につい腕に力が入ってしまう。腕の中で唸るルベルを守るように蔦を身体の近くに生やした。二人からすれば紙っぺらと変わらない防御魔法だが、ないよりマシだと思って。
でも魔法を使ったこと自体が癇に障ったらしい。アリアの方は炭にされたいのかと地団駄を踏んでいる。エンゼの方は我関せずと言った様子で近くの椅子に座った。争いを嫌うエンゼらしい。鏡の間の管理者の噂はどれも間違っていないようだ。
こっちは一方的な情報しか知らない。それでもないよりかはマシだった。アリアの方さえ防ぎきれれば、何とかなるから。
神経を尖らせて防御魔法に集中する。
助けるために連れてきたルベルを燃やされるわけにはいかない。

「アリアの憂惧を知りなさい」

小さな顔が揺らいだ炎に照らされて、無機質な瞳の色が変わる。
このままだと燃やされる、野生の勘がそう告げた。それでも防御魔法を解くわけにはいかないし、逃げられもしない。このまま燃やされるか、背後から燃やされるか。結果は何も変わっていない。

「......それでも」

守りきる。
業火を前に身が竦むが、問題ない。
魔力をいつもより編んで結んで、より緻密にした魔法を展開した瞬間。コツンと俺の頭に何かが当たった。
急いで振り返ると、魔王の執事であるランハートが腰を曲げて拳を振り上げている。これ振り返らなかったらもう一発重いの食らっていただろう。

「いやぁ。何してるんですか。呼びに来たのになに消し炭にされそうになっているんで?」
「......ちょっと、ランハート様。アリアの邪魔する気なの」
「邪魔も何も。事情を聞く前によし燃やそうとはどうかと思いますが」
「見てたんじゃない」

前に出たランハートの背後で頷く俺に、アリアは眉を顰めた。
エンゼは椅子から降りてアリアの横までテクテクと近付いて手を繋ぐ。二人で一人、あの二人が並ぶ時はいつも話したいことが明確な時だ。人間を連れ帰った俺の処罰に言いたいことがあるのは容易に想像できるし、何を言われるのかさえ分かる。
気持ち的にはランハートもアリアやエンゼ側だろう。それでも彼には魔王様の執事としての仕事がある。それがある限りは絶対にルベルに手は出さないし出させない。絶対的安心感があった。

「キュロさん、魔王様が呼んでいます。アリア、その手を下げなさい。でなければ鏡の間出禁にしますよ」
「はぁ⁉︎鏡の間を管理しているのはアリア達で」
「もう一度言いましょうか」

その言葉がどれほど重いものなのか。俺にはイマイチピンとこない。
それでも二人からすれば死よりも重いものなんだろう。先程と打って変わって青く震える二人にこちらも鳥肌が立つ。

「そればかりは御慈悲を、とエンゼは首を垂れながら願います。アリア、今すぐに」
「分かってるわよ」

炎が消えた瞬間。場は恐ろしいほどに冷めていた。氷属性の魔法が発動されているわけではないのに空気は凍てついている。
鏡の間では管理者の心象が部屋全体に影響を及ぼす、とは聞いていたがここまでとは。
噂の真実に口を開けていると、無駄に強く張った防御魔法をいい加減解きなさいとランハートが言う。その魔法を当たり前のようにすり抜けてきたよな、この人。
力の差に身震いしながら言われた通り解除すると、ランハートはルベルを抱えようと手を伸ばしてきた。けど今腕の中からルベルがいなくなってはいけない。そう感じた俺は小さく首を振る。
ふむ、と顎を摩ったランハートはしゃがみ込み、ルベルに軽量化の魔法を、俺の足に簡単な治癒魔法をかけて立ち上がった。

「では行きましょうか、魔王様がお待ちですよ」














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