ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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魔王城の生活

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寝室まで連行され連日でタバサ先生の診察を受けた俺は「問題なしやね~」との言葉に安心する暇もなくランハートに説教されていた。

「ニオさんは人間です。ここは人間のいない場所です。希少であり、弱小であることをもっと自覚してください」
「はい、すみませんでした」
「今回は、まぁ。アリアやエンゼ、ユーティカのせいでもあるのでニオさんを責めるのは心苦しいですが」
「はい、すみませんでした」
「......ニオさん本日は大変お日柄がよいですね」
「はい、すみませんでした」
「......」

やっばい。
笑顔と怒筋の共存したランハート。顔を上げた瞬間血の気が引いていっているのが分かる。あまりに説教が長いせいで相槌を選ぶ知能が自分には残っていなかった。
説教の時間がまた増えそうだとベッドに座り直したとき、この寝室の主が慌てた様子で扉を吹き飛ばした。
外れた扉はランハートに覆い被さり、金具は俺の真横スレスレを通り抜けて壁にめり込んだ。
思わず喉から小さな悲鳴が漏れる。

「ニオ‼︎どこ‼︎どこ怪我したの⁉︎」

入室の勢いを落とさぬまま、腕が分身するくらい速い動きで全身を弄られる。偶に絶対そんなところに傷は出来ないだろって所を触ってくる。おいやめろ擽ったい。

「怪我はない。もう気持ち悪いのも治ったよ」
「......よかったぁ~」

力一杯アルの肩を掴んで引き剥がそうとするけれど、アルの身体は岩のようにびくともしなかった。どこから来るんだその力、と本気で腕を伸ばしても全く動かない。
退けと口で言っても惚けた顔で俺の膝に座って胸に頬を擦り寄せてきた。一応怪我人というのは伝わっているはずなのだが。

「魔王様。さっき口頭で説明しましたよ」
「ニオの口から聞かないと安心できないの。ランハートは偶に嘘つきだから」
「ははは。ははははは」

開いているように見えない目が死んでいるのが容易に想像出来た。壊れた機械のような笑い声に全身が震える。さっきの説教よりずっと怖い。

「にしても拷問室には近付かなかったようでなによりです。あそこはもっと危ないものがゴロゴロ転がってますから」
「う、うん」

その拷問官には会ったけど。ランハートには言うなって言ってたし、黙っていよう。今何か話そうものならアルが遮ってこのまま有耶無耶になっている説教が再スタートしそうだ。

「ニオさんは不運体質なのかもしれませんね。ユーティカが研究室から出てることなんてまずないんですよ」
「基本はずーっと閉じ籠ってるから。出てくる時は基本嫌なことだけして帰ってくの。どんなヤツにもあんな感じだから気にしないで」

初めて会ったとき感じた悪寒に間違いはなかった。けれど特別人間が嫌いだというわけでもないらしい。ポッと魔王の、その妻として魔王城に現れた俺が気に喰わないというのが最初に想像出来る悪戯の理由だが。こういうのは実際に聞いてみなければ分からない。聞けるタイミングなら魔王城にいればいつか訪れるだろうし。

「ねぇニオ。お城怖い?」

眉を顰めていた俺を心配してか、アルが問いかけてくる。
優しく俺の髪を梳く手が不安を遠くへ払ってくれようとしているのが分かった。

「怖いって?」
「ニオを傷付けようってヤツは少ないよ。でもこういう事故とか続いたら、本当に死んじゃうかもしれない。俺もちょっと力加減まだ分からない、し。だから別の場所に......えっと」
「別居という形は如何でしょうかと提案したんです」

ランハートが人差し指を立てて、自分を指差した。
別居。魔王城ではない別の場所で生活する。
フラッシュバックする、城の記憶。あれも自分の意思で選んだことだった。山羊小屋のような部屋で、広い庭の隅で高く建つ城を眺めていたあの頃。なにもかもが遠く感じる生活。

「......」

魔王城での一日ちょっとの時間とアスラトリスで生きていた時間。息がしやすかったのがどっちかなんて分かってる。

「そりゃ危ないよ。俺人間だし。魔族とは全然違う」

アルもそうだが魔族は人よりも強い。魔法も力も、ずっと先をいっている。でも。

「俺の知らないことがあって、見たことないものばっかりで。アルが作った宝物みたいなこの場所。俺好きだよ」

まだ見て回っていない場所もあるけれど。これから見て回るもの、魔王が守る全てのものがこれから俺の宝物になる。
大切なものと離れるのは自分の意思だったとしても苦しい。

「それに別居したくなるくらい嫌になったらちゃんと言うから」
「でも僕心配だ。お仕事があるからずっと一緒にいられるわけでもないし、僕の知らないところでもし......ニオになにかあったら」

俺の首にあるの手が添えられる。力は無いけれど、アルが一瞬でも込めてしまえばポッキリと折られてしまうだろう。
不思議と恐怖はなかった。それは別にアルの魔王や魔族として怖がる要素がないという意味ではない。あまりある愛情からくる行動だと知っているからだ。

「ニオを閉じこめちゃったほうが、ずっと安心だ」

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