ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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魔王城の生活

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食事を終えた後、すっかり機嫌が良くなったランハートに魔王城の地図を渡された。アルはこれから魔王の業務があり、ランハートはその側で脱走されないよう見張らねばならないらしい。
アルにできる業務ってどんなのだと興味をそそられたが、執務室に近付かないよう釘を刺されてしまった。なぜ。

「案内はケセランパサランに任せますので」

前と同一個体かは分からないが、真っ黒な毛玉を付けられる。
会話することが出来ないポワポワにツアーコンダクターに近しい仕事が出来るのだろうか。
地図があるからそんなに迷わないとは思うけど。

「あ、赤字で書かれている部屋には入らないよう注意してください。色々危ないので」

ランハートが指した箇所には拷問室だったり地下宝物庫だったり何があるのか想像できる場所ばかり。
言われた通り入らないように、というかそもそも近付かないようにしよう。そう心に決めて、魔王城生活一日目、城の探索が始まった。
ポワポワの案内通りに進み目的地の扉の前に着くと、該当する部屋の名前の場所にポワポワが二度バウンドしてくれる。
なるほどこれは可愛い、いや楽しい探索になりそうだ。
魔王城の中は静かな場所が多いが、よくメイドや執事を見かける。大人しい魔族が多いんだなと思っていたら、一階は妙に騒がしい。
魔族や魔物達がガヤガヤと廊下を行き来している。

「あ?人間がどうしてこんなとこにいんだよ?」

上は普通の人間で、下はカマキリの足を持つ魔族が俺に気付いて顔を近づけてくる。
近くで見るとビジュアルが凄い。虫が特別苦手というわけじゃなくても惧れるくらいには魔族の見た目として模範的だ。

「お前、奥方様だぞ。ほら朝配られたろ」
「あーそうかこの方が。いやぁすまねぇな」
「い、いえ」

近くにいたムササビ頭の魔獣が助けてくれたはいいが、こうして並ばれると改めて人間のいない場所に来たんだなと自覚する。
昨日も今日の朝も見かける魔族は基本人に近い者ばかりだったから、ランハートやアルが出来るだけ馴染みやすいようにと気遣ってくれたのかもしれない。

「にしても似てねぇな。魔王様相変わらず......こう...感性が独特」
「言うなって。世から忘れられたあたりで急に価値が上がるタイプの芸術家なんだよ魔王様は」

それは褒めていないのではと思ったが、城に届いた大人顔負けな予告状を思い出しなんとも言えなくなる。

「そういや奥方様何してんの?」
「あ、いや。城の中をポワポワに案内してもらってるんだ」
「ポワポワ?このケセランパサランか」

ムササビ頭の魔獣の大きな瞳にポワポワが映る。ケセランパサラン自体が物珍しいわけではなさそうだけど......個体の見分けがつけられない種族に個の名称が付けられていることが珍しいのか。
というか勝手に名前つけちゃダメだったのかな⁉︎

「俺が勝手にそう呼んでるだけだから......可愛くて」

訳のわからないフォローをした。
冷や汗がダラダラと額を番う。どう言えばいいのか、それより何を言えばいいのか、フォローの意味あるのかと混乱してるとカマキリ足の魔族がポワポワに近付いてくる。

「ポワポワって......いい名前付けられたなお前」
「種族名より呼びやすいじゃねーの。ポワポワ~」

小突かれたポワポワがフラフラと俺の後ろに隠れる。嫌だったのか、それとも触れられることに慣れておらず驚いたのか。

「あ、そうだ奥方様。ついででいいんだがこの資料、図書館のキュロってヤツに届けてくんねぇか?」
「おい‼︎それ奥方様に頼むなよ‼︎」
「どうせ行くんだからよくね?」
「立場考えろ馬鹿‼︎」

大きな爪が頭に刺さった。血が出ることはなくムササビ頭の彼はピンピンしているが、見ているこっちはハラハラする。

「いやいいよ。それくらいなら」
「す、すいません‼︎」
「いいって。キュロ、だよな。分かった」

手渡された紙には魔族の言葉だろうか、読めない文字で埋め尽くされていた。これ多分これから覚えていかないといけないやつだよな。
全く理解できないし、読めるようになるとも思えない。もはや絵画と思った方が割り切れるような気がする、と初めて異国語に触れた時みたいな気持ちになった。
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