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魔王城の生活
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しおりを挟む「起きてくださ~い魔王様、ニオさん」
鉄と鉄のぶつかる音がする。
耳を揺らして頭まで響く衝突音から逃れたくて目の前の温もりに顔を埋める。
それでも音は変わらず響く。強く強くまた強く、大きくなっていくからやめてほしい。
「魔王様~ニヤけないでくださ~い。味を占めないで~。ニオさんはさっさと起きて~」
肌触りのいいシルクの生地に頬擦りすると、頭上からふっと声がする。髪がゆっくり梳かれてむず痒い。
ようやく光に慣れた目蓋を開けると、趣味のいいとは言えないエプロンに身を包んだランハートが片手にお玉、片手にフライパンを持ってこちらを見ていた。
「起きましたか、朝ごはん出来てるのでお早めに準備してきてくださいね~」
バタンと扉を閉めたかと思えば顔だけ覗かせて、あとはよろしくお願いしますね~、と俺に投げかけて消えてった。
よろしくってなんだろう。
ぼぉっとする頭でランハートを見送ったあと、俺の上半身を独占しているベッドの、いやこの城自体の主を見上げた。
「おはよう、ニオ。素敵な朝だよ」
「おはよ、アル」
もうお目目パッチリなようで。
アルはもうさらっさらになった俺の髪をまだいじっていた。これ以上梳いても変わりないだろうに、何がそんなに楽しいんだろう。
「ふふ、一緒に寝て一緒におはようできるの凄くいいね。嬉しいね」
はしゃぐアルから解放されないまま、起き上がることもできずされるがままにされる。
昨日の今日で同じベッドの上なのはアルの提案があったからだ。
「夫婦というのは同じベッドの上で寝る決まりがあるんだよ‼︎」
なんとなく吹き込んだ犯人の顔は思い浮かぶ。
自信満々にありもしない決まりを豪語するアルの頭をぐりぐり撫でた。なんで撫でられてるかは分からないけど嬉しい、そんなオーラを放つアルに先行きが不安になった。
「いいか、アル。夫婦は色々なパターンがある。同じベッドで寝る場合と、別々のベッドで寝る、または別室で寝るパターンもあるんだ」
「えっ、そうなの」
「そうそう。だから必ずしも同じベッドで寝る必要は」
「ニオは僕と一緒に寝るの、やだ?」
結果は言わずもがな、断れるわけがない。
最後にこんな高級寝具に包まれいつだったか。引き込まれてしまったが最後、身体を包む心地よい感触に抗えず目蓋を閉じた。
と、しっかりあらましを思い出したところでハッキリ目が覚めた。
「アル、ランハートのところ行こう、で、朝ごはん食べよう」
「うん。もう少し寝よっか」
「朝ごはん食べにいこう」
「うん。もう少し寝よっか」
「......この寝具全部で大体いくらくらい?」
「うん。もう少し寝よっか」
駄目だ。ちゃんと起きてるように見えて全然寝ぼけてる。
何を話しかけても寝ることしか考えてない。起こしたいけどガッチリ身体を抑えられて動けない。
さすが魔王、その名に恥じぬ剛力。一体どこからそんな力が湧いてるのか不思議で不思議で仕方ない。人体、というか魔族体の神秘。
そんなことを考えている間にも二度寝を決めこもうとするアルの頬を掴む。
「離せー、起きろー」
揉みしだいても腑抜けた笑い声しか返ってこない。
アルが一番目を覚ましそうな言葉を考える。とはいえアルとの付き合いはまだ一日にも満たない。
「あ」
一つ思い当たったものがあった。
「......起きないと離婚する」
「やめて‼︎そんなこと言わないでニオ‼︎」
魔法の言葉、見つけたかもしれない。
さっきまで言葉の通じなかったアルが身体を震わせて飛び起きた。今度から起こすときグズったり渋ったりしたらこの手を使おう。
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