ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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ショタな魔王様

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用意された魔王曰く嫁専用部屋に通された俺は深く考えず、フカフカして無駄にだだっ広いベッドにダイブした。
ハシタナイ、ことは分かっているが別に問題はないだろう。ここは俺専用の部屋らしいし。

「そうは言ってもなぁ」
「はしたないですよ。ニオ様」
「何でいるんだ」

専用部屋といっても使用人は出入り自由なのか。プライベート空間は微塵もないのか。と聞こうと思ったが、あの城での俺の扱いが特別だったなと思い出した。幼少期は弟達と同じ生活だったが、一人の時間は睡眠以外になかった気がする。
何をするにも使用人がついていたし、これが普通なのか。

「いえいえ。私は心配でここにいるのです」
「心配?」
「無駄に自問自答繰り返して勝手に納得されると困るでしょう?解答を用意できる優秀な執事が一人いるだけであぁら不思議。何もかもが解決する。ね?」
「いや何が、ね?なんだよ」

とはいえ助かるには助かる。
知らないことを知るチャンスはいついかなる時も大事にしなくてはならない。弟にも聞きたかったことは山ほどあったが、一度聞きそびれそのまま何年も会話しなかった。そもそも会えることすらラッキーだったし。

「お前....えっと」
「ランハートです」
「ランハート。その様付けをやめてほしい。慣れてないんだ。貴族扱いってやつ」

でしょうね。ランハートはそんな顔をしていた。アルにもそうだったが、俺の内情は殆ど知られているらしい。

「ではさん付けにいたしましょう。ニオさん。うん、呼びやすい」
「フランクだよな、ランハート」
「親しみやすくて良い執事でしょう?」

本気で言ってるのかふざけているのか分からない顔。反応に困る。

「で、ニオさん。魔王様へのお返事どうするおつもりで?」
「イエス、しかないんだろ」
「魔王様がノーを受け取れないお方だとでも?」
「そうじゃない」

目の前で国を簡単に滅ぼせる力を見せられた。断ったらお前の自国はどうなるか、分かっているな。そういった脅しをかけられたようなものだ。

「あの魔王の考えが分からないんだ」
「ニオさん」

俺の頭上に指差したかと思えばその人差し指は流れる動作でランハートの唇に置かれた。静かに、ということか。

「違います。それ」

言われるままに上を向くと、小さくてポカポカ浮かぶ毛玉のようなものが浮かんでいる。真っ黒いけれど悪い気はしない。むしろこう、小動物のような癒しパワーを感じる。
恐る恐る手にとってみるとこれまた肌触りがいい。すごくサラサラでふわふわで程良い暖かさ。これはクセになりそうだ。

「これって」
「魔王城に住み着くケセランパサランです。その子は話すことは出来ませんが簡単な命令のみを実行するのが得意でしてね」
「簡単な命令」
「ニオさんが魔王様を名前で呼んでいない回数をカウントしています。自動で」
「⁉︎」
「心の中まで読んでカウントします」
「⁉︎⁉︎」

それ、俺が呼んでないとどうなるんだ⁉︎というかなんでそんなカウンターを用意してるんだよ⁉︎
顔から俺の言いたいことを察したのかランハートが答えてくれる。

「名前で呼んでほしいんでしょうね。ご自分のいない場所でも」
「なんなんだその乙女心のようなものは」

魔王アルの考えがっ分からないっ......。
時間がどれだけあったとしても理解出来る気がしない。

「そう言えば魔王、アルはどうして俺を誘拐してまで嫁にしたがってるんだよ。面識も何もないぞ」
「それは知りません。ある日突然帰ってきて、貴方を娶ると言い出したんです」
「ある日突然?」
「はい」

よし、アスラトリスの第三皇子を嫁にしよう。って普通はならないだろう。思いつきにしてはほぼ指名されてるし。
ならどこかで魔王と俺は出会っていたのだろうか。基本城の中から出ないしなんなら部屋から出ないし、出たとしても城内にある林くらいだ。あそこは狭いし人はいない。けれど魔族だっていない。
そもそも城の中に魔族や魔物が入れないはずだ。弟や他の魔法使いが強化結界を張っている。人間が張れる中でも相当上位なものだと聞いていたが、まさかそれに検知されることなく入ってきてたのか。

「...ありえるな」

結界ごと城を落とせるやつだ。魔王クラスになるとあの結界ももうかみっぺら同然なんだろう。国で危惧されてる数百倍脅威だぞ。
ニコニコと笑ってるランハートに目を向けた。

「城の結界。あれってアルには」
「効くと思います?あんな簡易な結界魔王様からすれば」
「あ、こういい。分かった」

気付かれることなく入ることも出ることも可能。
会えないわけじゃない。でもいつ会ったのか。

「何も、思い出せない」

林で雑草食べたり、床の上で朝食とってたりしてたこととか知らないよな。変なところ見られてないといいけど...。

「別にニオさんと魔王様が接触せずとも」
「どういうことだ?」
「あるじゃないですか~。一目惚れってやつですよ」
「ヒトメボレ」

そんなの物語の中だけだろう。
いや、その存在自体を否定するわけじゃないが、実際にあり得るとは思えなかった。普通の人間ならまだしも魔王が、一目惚れなんて。

「いや。ありえないことなんてないか」

人とは違えど、魔族にも魔物にも感情は存在する。模倣でない心があることを、俺は知っているんだ。

「魔王に一目惚れされるって喜んでいいのかな」
「むしろ誇るべきでは?お眼鏡にかなえた時点で名誉どころの騒ぎじゃありませんよ」
「その感覚分かんないな」



「どうだったにせよ確認するならご自身で直接がよろしいかと」
「そうだよな。返事もしないといけないし。アルって今どこにいるんだ?」
「魔王様なら今、北の庭園にいらっしゃいます。案内してあげなさい」

また別のケセランパサランに声をかけたランハートは、小さく頭を下げる。

「案内はこの者に任せますので。いってらっしゃいませ」

目の前をぷかぷか浮かんでだいぶスローに動くケセランパサランに歩幅小さくついていく。
扉に手をかけると、背後からあっと声が聞こえた。
まぁその声を出せる奴はこの部屋には一人しかいない。

「なんだよ」
「いえいえ。そういえば、ニオさんは他の人間と違って平然と私どもと会話出来てるなーっと。頭でもイカれてるんですか?」
「......魔族だろうと人間だろうと関係ない。お前に国に帰してくれと懇願しても聞かないだろ」
「なんというか可哀想ですね」
「言ってろ」

開かない扉の前でただ反復移動をしているケセランパサランを避けて握りを捻る。
早く、アルに会いに行かないと。



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