3 / 48
ショタな魔王様
2
しおりを挟む
脳が追いつかない。
ポカーンと口を開けていると、眉を吊り上げたと思えばいつの間にか俺の背後にいた執事が少年の元まで歩いていった。
「ね、ねぇこれでよかったんじゃないの?僕何か台詞間違えたかなランハート」
「いえいえ、魔王様。ご立派すぎて目が潰れるかと思いましたよ。近頃の人間は処理能力が低いと言いますし、ご理解が追いついていないのかと」
「ランハート、いっつも目瞑ってるよ」
「魔王様、私のはただ目が細いだけです。開いてます」
何かこそこそ言ってるし馬鹿にもされているような気がするが、そんなことを気にしてる暇は俺にはない。
急に誘拐されたかと思えば甲斐甲斐しく世話され、魔王を名乗る少年が夫を主張してきているのだ。
「訳がわからん」
頭を抱えて伏せた俺に対して、あの執事に魔王と言われた少年は心配そうに駆け寄ってくる。
見た感じ身長も俺の半分ちょい上くらいだ。
「大丈夫か?ニオ。えっと、身体どこか痛かったりするのか?」
少し潤んだ瞳に、心臓が苦しくなった。少年の顔を見ていると昔城の庭の隅に迷い込んでたヒヨコを思い出す。
「本当に、君は魔王なのか?」
「無礼な真似は」
「いいんだ、ランハート。信じられないのも無理はない。僕はこんな姿だからな」
風を切るような音と共に、空気の輪が浮かぶ。魔法だ。輪の向こうにはアスラトリスの城が写っていた。
「ニオ。僕をアルって呼んで」
「どうしてだよ」
「いいから。僕が魔王っていう証明の為にニオの声が必要なんだ」
呼ばない選択肢はなかった。
少年の向こうには無言の圧でコチラを見る執事。何もないはずの場所からコチラに刺さってくる殺気。
もう泣きたかった。
「......アル」
「もう一回」
「アル」
「うん。やっぱり嬉しい。嬉しいから俺、張り切っちゃうね」
満面の笑みが急に赤みがかったと思えば、輪の向こうの城は硝煙に包まれていた。音も、予兆なんて何もなかった。
ただ城が、この一瞬で落とされたことだけは確実だった。
「......は」
輪の向こうの景色が偽物だと、とてもじゃないが思えなかった。野生の勘と言えばいいのか。本当に城はあぁなっていると本能が告げている。
「ニオの城もニオの国も、僕ね、すぐ壊せちゃうの。ねぇ、僕がちゃんと魔王だってこと分かってくれた?」
一国の中枢でもある城を笑顔で、最も簡単に滅ぼした。
残虐で恐ろしい。命の価値を知らない子供が、無邪気に虫の命を奪っている光景と変わらない。
「......そんな顔しないで」
小さな魔王は俺の顔を覗くと寂しそうに手を叩く。
瞬きの後、城は何事もなかったかのように元通りになっていた。
「な、は?」
「大丈夫。時を戻せばすぐ元通りだから」
安心してと頭を撫でられる。
頭に触れた手も、温もりも、人間とそう変わらない。
「まぁ壊れても全然問題ないと思うけどね、あんな国」
けれど、輪の向こうを見つめる魔王は言葉も視線も冷たかった。
アスラトリスは北の大国。
あの国が潰れてしまえば、近辺諸国の流通は滞り多くの人間が困窮することになるだろう。死者だって今とは数え切れないほどに増える。それにアスラトリスには他の大国にはない技術力がある。
損失は、俺が思うよりずっとデカいものになるだろう。
「お前が」
「アル」
「アルが魔王だってのは...分かった。で、その、夫ってのはなんなんだ」
「言葉通りの意味だよ。ニオは僕のお嫁さん。ほら、送ったよね。王様に君を迎えに行くって紙」
クレヨンで書かれた予告状のことを言っているのは分かった。
あの紙には『アスラトリスの生きた宝を頂きに参る』としか書かれていなかった。現国王は生きた宝を姫だと受け取ったようだが、魔王は俺のことを書いた気でいたらしい。
いや待て色々おかしいだろう。
「何か間違ってたかな。ランハートの言う通りに書いたんだけど」
「あれが最近の流行だと聞いたのですが」
魔族と人間の感覚はここまで違っているのか。
もうダメだ。頭痛が酷くなってきた。
「お嫁さん、とか。よく分からない。とりあえず、俺は殺されないのか?拷問とか」
「そんなことニオにするわけない」
国を、城をあんなに簡単に壊したクセして。
どうしてそんなに自信満々に、胸を張って笑って否定できるんだ。
俺を生きた宝だとか、訳がわからない。俺の命より価値ある宝は、あの城に腐るほどあるのに。
「少し、時間をくれ」
ポカーンと口を開けていると、眉を吊り上げたと思えばいつの間にか俺の背後にいた執事が少年の元まで歩いていった。
「ね、ねぇこれでよかったんじゃないの?僕何か台詞間違えたかなランハート」
「いえいえ、魔王様。ご立派すぎて目が潰れるかと思いましたよ。近頃の人間は処理能力が低いと言いますし、ご理解が追いついていないのかと」
「ランハート、いっつも目瞑ってるよ」
「魔王様、私のはただ目が細いだけです。開いてます」
何かこそこそ言ってるし馬鹿にもされているような気がするが、そんなことを気にしてる暇は俺にはない。
急に誘拐されたかと思えば甲斐甲斐しく世話され、魔王を名乗る少年が夫を主張してきているのだ。
「訳がわからん」
頭を抱えて伏せた俺に対して、あの執事に魔王と言われた少年は心配そうに駆け寄ってくる。
見た感じ身長も俺の半分ちょい上くらいだ。
「大丈夫か?ニオ。えっと、身体どこか痛かったりするのか?」
少し潤んだ瞳に、心臓が苦しくなった。少年の顔を見ていると昔城の庭の隅に迷い込んでたヒヨコを思い出す。
「本当に、君は魔王なのか?」
「無礼な真似は」
「いいんだ、ランハート。信じられないのも無理はない。僕はこんな姿だからな」
風を切るような音と共に、空気の輪が浮かぶ。魔法だ。輪の向こうにはアスラトリスの城が写っていた。
「ニオ。僕をアルって呼んで」
「どうしてだよ」
「いいから。僕が魔王っていう証明の為にニオの声が必要なんだ」
呼ばない選択肢はなかった。
少年の向こうには無言の圧でコチラを見る執事。何もないはずの場所からコチラに刺さってくる殺気。
もう泣きたかった。
「......アル」
「もう一回」
「アル」
「うん。やっぱり嬉しい。嬉しいから俺、張り切っちゃうね」
満面の笑みが急に赤みがかったと思えば、輪の向こうの城は硝煙に包まれていた。音も、予兆なんて何もなかった。
ただ城が、この一瞬で落とされたことだけは確実だった。
「......は」
輪の向こうの景色が偽物だと、とてもじゃないが思えなかった。野生の勘と言えばいいのか。本当に城はあぁなっていると本能が告げている。
「ニオの城もニオの国も、僕ね、すぐ壊せちゃうの。ねぇ、僕がちゃんと魔王だってこと分かってくれた?」
一国の中枢でもある城を笑顔で、最も簡単に滅ぼした。
残虐で恐ろしい。命の価値を知らない子供が、無邪気に虫の命を奪っている光景と変わらない。
「......そんな顔しないで」
小さな魔王は俺の顔を覗くと寂しそうに手を叩く。
瞬きの後、城は何事もなかったかのように元通りになっていた。
「な、は?」
「大丈夫。時を戻せばすぐ元通りだから」
安心してと頭を撫でられる。
頭に触れた手も、温もりも、人間とそう変わらない。
「まぁ壊れても全然問題ないと思うけどね、あんな国」
けれど、輪の向こうを見つめる魔王は言葉も視線も冷たかった。
アスラトリスは北の大国。
あの国が潰れてしまえば、近辺諸国の流通は滞り多くの人間が困窮することになるだろう。死者だって今とは数え切れないほどに増える。それにアスラトリスには他の大国にはない技術力がある。
損失は、俺が思うよりずっとデカいものになるだろう。
「お前が」
「アル」
「アルが魔王だってのは...分かった。で、その、夫ってのはなんなんだ」
「言葉通りの意味だよ。ニオは僕のお嫁さん。ほら、送ったよね。王様に君を迎えに行くって紙」
クレヨンで書かれた予告状のことを言っているのは分かった。
あの紙には『アスラトリスの生きた宝を頂きに参る』としか書かれていなかった。現国王は生きた宝を姫だと受け取ったようだが、魔王は俺のことを書いた気でいたらしい。
いや待て色々おかしいだろう。
「何か間違ってたかな。ランハートの言う通りに書いたんだけど」
「あれが最近の流行だと聞いたのですが」
魔族と人間の感覚はここまで違っているのか。
もうダメだ。頭痛が酷くなってきた。
「お嫁さん、とか。よく分からない。とりあえず、俺は殺されないのか?拷問とか」
「そんなことニオにするわけない」
国を、城をあんなに簡単に壊したクセして。
どうしてそんなに自信満々に、胸を張って笑って否定できるんだ。
俺を生きた宝だとか、訳がわからない。俺の命より価値ある宝は、あの城に腐るほどあるのに。
「少し、時間をくれ」
10
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ガテンの処理事情
雄
BL
高校中退で鳶の道に進まざるを得なかった近藤翔は先輩に揉まれながらものしあがり部下を5人抱える親方になった。
ある日までは部下からも信頼される家族から頼られる男だと信じていた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
参加型ゲームの配信でキャリーをされた話
ほしふり
BL
新感覚ゲーム発売後、しばらくの時間がたった。
五感を使うフルダイブは発売当時から業界を賑わせていたが、そこから次々と多種多様のプラットフォームが開発されていった。
ユーザー数の増加に比例して盛り上がり続けて今に至る。
そして…ゲームの賑わいにより、多くの配信者もネット上に存在した。
3Dのバーチャルアバターで冒険をしたり、内輪のコミュニティを楽しんだり、時にはバーチャル空間のサーバーで番組をはじめたり、発達と進歩が目に見えて繁栄していた。
そんな華やかな世界の片隅で、俺も個人のバーチャル配信者としてゲーム実況に勤しんでいた。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる