ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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ショタな魔王様

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「あれ、起きました?」

重そうな扉がガコンと大きな音を立てて開く。
そこには腰まで長く伸ばした髪を束ね、恐ろしく細い目をした男が嬉しそうにこちらを見ていた。執事服を着ているが立派な角が生えているし、人型でもコイツは魔族なのだろう。
あの胡散臭い笑顔を覚えている。俺をここまで拐ってきた奴だ。

「いや~そろそろと思って何度か来たんですけど~。ぐっすりしすぎです。知ってますか?人間寝過ぎても寿命が縮むんですよ」
「お、お前。どうして俺を」
「あぁ~そういうのいいです。まずお風呂に入ってください。薄ら化粧もしてますね、落としましょう。あー、ケアとか普段されてない感じですねそうですねぇ」

近頃の男性は肌も髪もケアしてるなんて聞いてましたが嘘掴まされましたかねぇ?と不思議そうに首を傾げる。
うるさいな普段は山羊小屋とそう変わらないところで生活してるんだ。城に用意されている部屋は無駄にだだっ広いし、使えば使用人達からは不快な視線を向けられる。
あんな場所で生活できるほど、俺の精神は図太くない。

「さ、準備しますよ。時間がないんです。子供だから堪え性がないせいで苦労が絶えず......はぁ」
「何の話だよ......」

執事服の男がパチンと指を鳴らすと、どこからともなく、メイドが現れる。肌のカラーバリエーションが多いのを見るにこの使用人も魔族か。
身構えたものの武器も何もない人間が力で敵うはずがない。あっという間に浴室に連れて行かれ秒で服を剥かれた。

「......⁉︎...‼︎」
「何が言いたいかは想像つきますが文句は聞きませんので」

自分で出来る。そう何度言ったか分からない。
身体を拭かれ、髪を洗われ、体毛すら剃られ。全身ツルンツルンにされた。自分でやる分にはまぁ問題ないが、それを他人に、しかも魔族にされるとか。

「死にたい」
「死なないでください。蘇生しますよ」

うっかり本音が口から出てしまった。
普段なら絶対着ないような豪勢な服に身を包まれて、待合室のような場所に通される。
もう涙目で前から考えていた辞世の句をぶつぶつ復唱していると、メイドが執事に何かを耳打ちしているのが見えた。

「準備が終わったそうなので玉座の間に行きましょう」
「え」
「準備が終わったそうなので、魔王様のいる、玉座の間に行きましょう」

聞き返しても執事の言葉は変わらなかった。何なら酷い一文が追加されていた。
魔王、魔王って言ったか。
それってつまり魔王に会うってことだろ。魔王に会うってことはつまり......魔王にミートするってことだよな。
いやそれこそ意味そのまんまか。

「ほら、立ってください。背筋伸ばして、そのアホ面もしっかりさせてください。顔に筋肉ないんですか」

ふわふわした思考から無理矢理引き剥がされ、俺の今にも破裂しそうな心臓を気にすることなく先に歩いていってしまう。普通置いていくだろうか。
曲がり角一つ曲がろうものなら一瞬で見失いそうなので、急いで執事の後を追いかける。

「どうして俺誘拐されたんでしょうか」
「会えば分かります」
「あの、なんで魔王に会わないといけないんでしょうか」
「会えば分かります」

だめだこりゃこまったわー。
何を聞こうと会えばわかるの一点張りだ。
もう腹を括って魔王に直接聞くしかない。

「着きましたよ」

玉座の間に通じる扉は恐ろしくデカかった。
魔王ってのはどれだけ図体も態度もデカいやつなんだ。昔の書物にはアスラトリスの城よりも大きい身体だったと記されていた気がする。もう口から魂が出そうだ。
今すぐショック死したい。

「では、くれぐれも無礼な真似はいたしませんよう」

執事はそう言い終えると自分の体より何倍も大きい扉を片手で開け始めた。うわぁと口に出さなかっただけ俺を褒めてほしい。
出来るだけ目を合わせることも姿を視界に入れることも避けたいために首を下に向けたまま赤いカーペットの上を進む。
一歩一歩が妙に重い。
自国もここも、玉座の間というのはどこも空気が重いらしい。

「止まれ、人の子」
「はい‼︎」

声が裏返った。落ち着こう、冷静でいようと思えば思うほど身体は極寒地帯にいるように震えている。

「其方はアスラトリスの皇子、ニオ・ムーンヴィストで間違いないか。ないよな。そうだろう」
「は、はい」

そんなに聞かれたらそうじゃなくてもそうだと答えてしまいそうだ。心なしか上から降ってくる声が震えている......ような。
いや今の俺ほどではないけど。
というか声が思っているより高い。まるで子供の声みたいだ。
ふとあの予告状が頭を過ぎる。クレヨンで書かれたあの予告状。もしあれが本物だったならば。
恐怖より好奇心というか、猜疑心というか。そういったものが混ざった感情に背を押され、俺は顔を上げた。
階段の上の玉座は思いの外暗く、魔王の姿はよく見えない。
もっと照明が明るければ、どうしてこんなに暗いんだ。そう思った瞬間に咳払いが聞こえハッとした。

「よ、よくぞ拐われてきてくれた。ニオ・ムーンヴィスト」

魔王の声に誘発されたかのように、窓ガラスの向こうで雷が落ちる。
その数は一秒経つより早く数を増やし、その勢いも強くなっていた。
大きな一閃。
その光は目を瞑るほど強いものだったけれど、俺は瞬きを忘れ、目の前の魔王を見つめていた。衝撃的な光景だった。

「僕は魔王アルヴェリック・ソレーユ。今日からお前の夫になる男だ‼︎」

自信満々に笑う魔王は、城より大きい身体ではない。
書物に記されている特徴とは程遠い。
所々黒髪の混ざった白い髪に、深い紺青と宝石のような黄金色の両目。
人型であっても、小さく、そう少年で。
恐ろしさや威厳なんてものは、微塵も感じなかった。
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