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1年生、春
続く退部
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部活が始まってまる1週間。美丘中卓球部は基本的にはオフがないらしい。平日は放課後~6時。休日は先輩は8時から13時まで練習しているらしいけど、1年生は今日は11時で帰宅する。
土曜日は、平日と同じ素振りの練習をした。日曜は先輩たちの大会があるらしく休みだった。
そして、今日、月曜日。授業が全部終わり、部活の時間が始まった。金曜日の件があるからか、まだ4時まで3分ほど時間があるけどもうみんな集まっている。
「じゃあ今日は2、3年はこのメニューやっとけ。1年は校門側の校舎のホールで待機してろ」
「はい」
*
何が始まるのだろうか。私たちはホールで邪魔にならないよう端の方に待機した。最初は静かに待っていたけど、中々先生が来ないので徐々にみんな話し始めた。
「ねぇ、眼鏡の3年の男子の先輩わかる?ちょっと怖そうな人」
たまたま隣にいたひかりちゃんが話しかけてきた。
「んー、長谷部先輩?」
「そう!あの人さ、木曜日、相手してもらったんだけどなんかめっちゃ怖かったんだよね。ひかり何もしてないはずなんだけど…」
なんだ、私のせいじゃなかった。揃って何かしでかした可能性はないわけじゃないけど、ひかりちゃんと一緒になにかした記憶もないし…。
「私もそうだったよ。金曜日相手してもらったんだけどさ、球速いし」
「だよね!?ひかりだけにじゃなかったんだ。よかった…」
「私何かしたかなーって思ってたけど、ひかりちゃんもそうなら安心した」
「あ、呼び方、ひかりでいいよ」
「えー、なんか呼び捨てって落ち着かないや。私も緋彩でいいよ」
とかいいつつ、戸倉のことは戸倉って呼んでる。
「緋彩…うーん、なんか呼びづらいなぁ…ひーちゃん?はなんか違う気がするし、吉田…そうだ、ヨッシーって呼んでいい?」
「なんでもいいよ~、でもヨッシーは初めて呼ばれた」
「おーい、先生来たぞー」
廊下側にいる男子がそう言って、ホールは静かになった。森田先生がやってくる。
「入部して1週間経ったな。そろそろラケットとラケットケースの購入をしてもらうつもりだ。ここに初心者向けのラケットを準備した。実際に握ってみてどのラケットが合うか確認してみろ。スポーツショップなんかで各自で買ってもいいが、ここでラケットケースとセットで買うほうが安くつく。この時期、新入生セールやっているからな」
そう言ってラケットを箱のまま床に置いた。
「シェークは3種類、ペンは2種類準備した。あとはラケットケース、このプリントの中から選べ。纏めて注文するから、締切は今週金曜日だ。代金とこの紙持ってくるように」
「はい」
ラケットを順番に回して握ってみる。私はシェークのラケットを買う。1つ目は持つ部分の上側が少し細く、下側が少し太くなっている型。2つ目は持つ部分がまっすぐ。3つ目も持つ部分が真っ直ぐで、他のふたつより軽い。見た目はなんとなく2つ目のやつが青っぽくてかっこいい。けど、地味な灰色の3つ目のラケットにすることを決めた。軽くてなんかしっくりくるような気がしたから。ラケットケースは赤にした。
後からシェークを選んだ女子にどれにしたのか聞いてみたら、みんな2つ目だった。そんな偏る?と思いつつ、間違えなくていっかと思い直す。
ラケットとセットでケースを買うと、ケースが割引されるらしい。ケースは割引されて英世さん1枚くらい。ラケットは、ラバーが既についてる状態で、一葉さんと、英世さん数枚。結構する。絶対やめられないなと思う。
*
今日はこの後、先輩の球拾いだけをした。仮入部の時にいた異常に上手い1年生は藍那ちゃんだった。藍那ちゃんはもう先輩の練習に混ざっている。明澄ちゃんも少しだけクラブでやっていたらしく、そっちに混ざっていた。男子も数人、1年生が混ざっている。
けど今日は美夜ちゃんが来ていないし、戸倉の先輩(?)の福原先輩や、その先輩と一緒に居る山本先輩もいない。そんなふうによそ見をしていたら…
パーン!
「ごめんっ!」
先輩がミスして打ったドライブが直撃。しかも男子の先輩だ、威力は最強。ピン球は小さい割に当たるとすごく痛い。
「こらぁー吉田!何よそ見してる!集中して球拾いしろ!」
「はっ、はいっ…」
森田先生にどやされた。頬を抑えながら返事をする。あの人、全部見てて怖い。
*
「大戸さんだっけ、あの天パの子。あの子も卓球部やめたんだって」
いつもの帰り道、どこから聞いてくるのか戸倉がそう言った。
「え、なんで?」
なんで辞めたの?ってのとなんで知ってるの?ってのを合わせた意味でこう言った。
「わかんないけどー、階段ダッシュじゃない?だってあれキッついしさ。紫乃もやめようとちょっと思ったし」
冗談っぽく戸倉が言った。
「辞めたと言えば、福原先輩も辞めたんだってね?あと山本先輩も」
海未ちゃんが言った。戸倉は豆鉄砲を食らったような顔をしている…豆鉄砲が何かはよく知らないけど。
「先輩が?たしかに今日いなかったねー。そんなのどこから聞いたの?」
「最後の片付けの時。グレースちゃんと今日先輩2人いないねーって言ってたら、西野先輩がふたりは辞めたって言ってた。昨日の大会?でなんかあったらしいよ、詳しくは知らないけど」
「えー。福原先輩が辞めたのショックー!」
私だってショックだ。山本先輩は、1回相手してもらった時にとても丁寧に教えてくれたし。福原先輩も仮入部のとき優しくしてくれた。
「なんか、そんな単純に辞めちゃうんだーって思ってさ、みんな。先輩はさ、1年間もやってきたわけじゃん?あっけないね」
海未ちゃんが遠くを見ながらそう言った。
「それ。あ、でも、紫乃がさっき言ったのは冗談だよ?辞めないよ」
「わかってるって。それより、もうすぐ5月じゃん、5月になったら下校時間延びるらしいよ、確か6時半だったかな…」
あまり詳しくは覚えてないけど、聖がこんなことを言っていたのを思い出した。
「マジで?これより長いとか無理なんだけど~。てか、もう4月終わり?日が経つの早いね」
「ほんとね。もう長袖体操服はいらないか」
「そうだね、暑くなってきたし」
後日、大戸さんと福原先輩、山本先輩、そして名前も知らない1年男子が2人辞めていたことを明かされることになる。
土曜日は、平日と同じ素振りの練習をした。日曜は先輩たちの大会があるらしく休みだった。
そして、今日、月曜日。授業が全部終わり、部活の時間が始まった。金曜日の件があるからか、まだ4時まで3分ほど時間があるけどもうみんな集まっている。
「じゃあ今日は2、3年はこのメニューやっとけ。1年は校門側の校舎のホールで待機してろ」
「はい」
*
何が始まるのだろうか。私たちはホールで邪魔にならないよう端の方に待機した。最初は静かに待っていたけど、中々先生が来ないので徐々にみんな話し始めた。
「ねぇ、眼鏡の3年の男子の先輩わかる?ちょっと怖そうな人」
たまたま隣にいたひかりちゃんが話しかけてきた。
「んー、長谷部先輩?」
「そう!あの人さ、木曜日、相手してもらったんだけどなんかめっちゃ怖かったんだよね。ひかり何もしてないはずなんだけど…」
なんだ、私のせいじゃなかった。揃って何かしでかした可能性はないわけじゃないけど、ひかりちゃんと一緒になにかした記憶もないし…。
「私もそうだったよ。金曜日相手してもらったんだけどさ、球速いし」
「だよね!?ひかりだけにじゃなかったんだ。よかった…」
「私何かしたかなーって思ってたけど、ひかりちゃんもそうなら安心した」
「あ、呼び方、ひかりでいいよ」
「えー、なんか呼び捨てって落ち着かないや。私も緋彩でいいよ」
とかいいつつ、戸倉のことは戸倉って呼んでる。
「緋彩…うーん、なんか呼びづらいなぁ…ひーちゃん?はなんか違う気がするし、吉田…そうだ、ヨッシーって呼んでいい?」
「なんでもいいよ~、でもヨッシーは初めて呼ばれた」
「おーい、先生来たぞー」
廊下側にいる男子がそう言って、ホールは静かになった。森田先生がやってくる。
「入部して1週間経ったな。そろそろラケットとラケットケースの購入をしてもらうつもりだ。ここに初心者向けのラケットを準備した。実際に握ってみてどのラケットが合うか確認してみろ。スポーツショップなんかで各自で買ってもいいが、ここでラケットケースとセットで買うほうが安くつく。この時期、新入生セールやっているからな」
そう言ってラケットを箱のまま床に置いた。
「シェークは3種類、ペンは2種類準備した。あとはラケットケース、このプリントの中から選べ。纏めて注文するから、締切は今週金曜日だ。代金とこの紙持ってくるように」
「はい」
ラケットを順番に回して握ってみる。私はシェークのラケットを買う。1つ目は持つ部分の上側が少し細く、下側が少し太くなっている型。2つ目は持つ部分がまっすぐ。3つ目も持つ部分が真っ直ぐで、他のふたつより軽い。見た目はなんとなく2つ目のやつが青っぽくてかっこいい。けど、地味な灰色の3つ目のラケットにすることを決めた。軽くてなんかしっくりくるような気がしたから。ラケットケースは赤にした。
後からシェークを選んだ女子にどれにしたのか聞いてみたら、みんな2つ目だった。そんな偏る?と思いつつ、間違えなくていっかと思い直す。
ラケットとセットでケースを買うと、ケースが割引されるらしい。ケースは割引されて英世さん1枚くらい。ラケットは、ラバーが既についてる状態で、一葉さんと、英世さん数枚。結構する。絶対やめられないなと思う。
*
今日はこの後、先輩の球拾いだけをした。仮入部の時にいた異常に上手い1年生は藍那ちゃんだった。藍那ちゃんはもう先輩の練習に混ざっている。明澄ちゃんも少しだけクラブでやっていたらしく、そっちに混ざっていた。男子も数人、1年生が混ざっている。
けど今日は美夜ちゃんが来ていないし、戸倉の先輩(?)の福原先輩や、その先輩と一緒に居る山本先輩もいない。そんなふうによそ見をしていたら…
パーン!
「ごめんっ!」
先輩がミスして打ったドライブが直撃。しかも男子の先輩だ、威力は最強。ピン球は小さい割に当たるとすごく痛い。
「こらぁー吉田!何よそ見してる!集中して球拾いしろ!」
「はっ、はいっ…」
森田先生にどやされた。頬を抑えながら返事をする。あの人、全部見てて怖い。
*
「大戸さんだっけ、あの天パの子。あの子も卓球部やめたんだって」
いつもの帰り道、どこから聞いてくるのか戸倉がそう言った。
「え、なんで?」
なんで辞めたの?ってのとなんで知ってるの?ってのを合わせた意味でこう言った。
「わかんないけどー、階段ダッシュじゃない?だってあれキッついしさ。紫乃もやめようとちょっと思ったし」
冗談っぽく戸倉が言った。
「辞めたと言えば、福原先輩も辞めたんだってね?あと山本先輩も」
海未ちゃんが言った。戸倉は豆鉄砲を食らったような顔をしている…豆鉄砲が何かはよく知らないけど。
「先輩が?たしかに今日いなかったねー。そんなのどこから聞いたの?」
「最後の片付けの時。グレースちゃんと今日先輩2人いないねーって言ってたら、西野先輩がふたりは辞めたって言ってた。昨日の大会?でなんかあったらしいよ、詳しくは知らないけど」
「えー。福原先輩が辞めたのショックー!」
私だってショックだ。山本先輩は、1回相手してもらった時にとても丁寧に教えてくれたし。福原先輩も仮入部のとき優しくしてくれた。
「なんか、そんな単純に辞めちゃうんだーって思ってさ、みんな。先輩はさ、1年間もやってきたわけじゃん?あっけないね」
海未ちゃんが遠くを見ながらそう言った。
「それ。あ、でも、紫乃がさっき言ったのは冗談だよ?辞めないよ」
「わかってるって。それより、もうすぐ5月じゃん、5月になったら下校時間延びるらしいよ、確か6時半だったかな…」
あまり詳しくは覚えてないけど、聖がこんなことを言っていたのを思い出した。
「マジで?これより長いとか無理なんだけど~。てか、もう4月終わり?日が経つの早いね」
「ほんとね。もう長袖体操服はいらないか」
「そうだね、暑くなってきたし」
後日、大戸さんと福原先輩、山本先輩、そして名前も知らない1年男子が2人辞めていたことを明かされることになる。
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