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もう一度
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今日はいつもより早く登校した。教室に着いたら、一葉さんはもう席に着いて窓の外を眺めていた。サラサラのロングヘア、少し目にかかる長めの前髪。着席しているだけでもサマになる。
「ねぇ、昨日のさ……」
自分の席に荷物を置いたあと、私は彼女に声をかけた。
「ごめん、ちょっと」
「待ってよ」
席を立って教室を出ていく彼女の後を追いかける。今追いかけないと、もう二度と話すことはないと思ったから。
人気のない特別棟に彼女は早足で向かっていった。その少し後ろを私は無言でついて行く。
「なんで逃げるの?」
「逃げてないよ。私が向かってる先にりの……小野寺さんがついてきてるだけじゃん」
「なんで嘘つくの?」
完全に無視された。そのまま階段を降りていく。
「私なにかした?」
私がそう聞くと、彼女は足を止めた。そして俯きながら口を開いた。
「なにもしてない。本当に、私が悪いから、お願いだから放っておいて……」
段々と声が小さくなっていく。そして彼女は階段をかけおりていった。彼女の前髪の間からのぞく瞳には涙が光っていた。私そんなきつい言い方したかな。もう追いかける気にはならなかった。そこまでして彼女を追い詰めたいわけじゃないから。
結局嘘をつかれた理由はわからないし、逃げられた理由もわからなかった。私が悪いからってのもどういう意味だろう?
これ以上本人に聞くのは違うと思った。どうせ答えてくれないだろうし。
階段をあがって教室に戻った。席に着いて荷物を机の中に移す。そうしていると、一部始終を見ていた前の席の上田が振り返って話しかけてきた。彼は中学から同じ学校で、今も席が近いからよく話す。
「お前よく一葉さんに話しかけられるなー?すげぇわ」
「え?」
「なんていうか、雰囲気独特だろ。俺、一葉さんが休み時間に人と話してるところ初めて見たもん」
「そこまで話さないの?」
「うん。つーか、知らねぇの?一葉灯総シカト事件」
なによそれと私が聞くと、彼はそのことについて最初から教えてくれた。
私たちが入学したばかりの頃、2組に超絶美女がいるって話題になったらしい。それが一葉さんで、なんとか彼女と連絡先を交換しようと努力する男が数人いたけど、結局話すことすら叶わなかったんだとか。
アカリンは小学生のときからモテてたと思う。けれど男女関係なく仲良くするタイプだったから、付き合ってるとかは聞いたことないな。
「結構有名だと思うけどなこの話」
「そうなの?全然知らなかった」
「まークラス違うと知らないかもしんねぇな。てなわけで、一葉さんに話しかける人はいないんだよ。いじめとかじゃなくて、多分ひとりが好きなタイプなんだろうな」
あのときのアカリンがこうなるなんて誰が予想しただろう。同級生も今の彼女を見たら別人だと思うに違いない。
「さっき廊下行ってたの見たけど、普通に喋れた?」
「んー、まぁ、うん」
さっきの一連の会話(?)を思い出しながらそう返した。
「微妙な感じだった?だとしても小野寺は多分悪くないと思うから、気にするだけ無駄だぞ」
予鈴が鳴り、一葉さんは教室に戻ってきた。あのまま帰ってこなかったら絶対私のせいだから、どうしようかと心配していたけど杞憂だった。
「ねぇ誠、小学校のとき一緒だったアカリンって覚えてる?」
家に帰って、ソファに寝転んでいる双子の兄にアカリンの話を振ってみた。私たちは別々の高校に通っている。
「あぁ一葉な。よく家に遊びに来てたじゃん。お前仲良かったよな?」
「この間知ったんだけど、高校同じだったんだ」
「マジ?引越しとか?」
寝転んでいた誠が起き上がった。やはり人気者アカリンの今は気になるものらしい。
「普通に電車で通ってるらしい。聞いた話だから本当かはわかんないけど」
「へー、あっちならもっと綺麗な高校いっぱいあんのになー。てかまず一葉って良いとこの子じゃねーの?てっきり中学受験でもしたのかと思ってた」
「だよね?やっぱそこ気になるよね。しかもさ、めっちゃ雰囲気変わってて」
「ギャルとか?」
「いや、めっちゃ大人しくなってて。誰とも喋らないとかそんなレベル」
「マジ!?想像つかねー。あーでも、ちょっと聞いたことあるかも。中学時代の一葉の噂」
「ねぇ、昨日のさ……」
自分の席に荷物を置いたあと、私は彼女に声をかけた。
「ごめん、ちょっと」
「待ってよ」
席を立って教室を出ていく彼女の後を追いかける。今追いかけないと、もう二度と話すことはないと思ったから。
人気のない特別棟に彼女は早足で向かっていった。その少し後ろを私は無言でついて行く。
「なんで逃げるの?」
「逃げてないよ。私が向かってる先にりの……小野寺さんがついてきてるだけじゃん」
「なんで嘘つくの?」
完全に無視された。そのまま階段を降りていく。
「私なにかした?」
私がそう聞くと、彼女は足を止めた。そして俯きながら口を開いた。
「なにもしてない。本当に、私が悪いから、お願いだから放っておいて……」
段々と声が小さくなっていく。そして彼女は階段をかけおりていった。彼女の前髪の間からのぞく瞳には涙が光っていた。私そんなきつい言い方したかな。もう追いかける気にはならなかった。そこまでして彼女を追い詰めたいわけじゃないから。
結局嘘をつかれた理由はわからないし、逃げられた理由もわからなかった。私が悪いからってのもどういう意味だろう?
これ以上本人に聞くのは違うと思った。どうせ答えてくれないだろうし。
階段をあがって教室に戻った。席に着いて荷物を机の中に移す。そうしていると、一部始終を見ていた前の席の上田が振り返って話しかけてきた。彼は中学から同じ学校で、今も席が近いからよく話す。
「お前よく一葉さんに話しかけられるなー?すげぇわ」
「え?」
「なんていうか、雰囲気独特だろ。俺、一葉さんが休み時間に人と話してるところ初めて見たもん」
「そこまで話さないの?」
「うん。つーか、知らねぇの?一葉灯総シカト事件」
なによそれと私が聞くと、彼はそのことについて最初から教えてくれた。
私たちが入学したばかりの頃、2組に超絶美女がいるって話題になったらしい。それが一葉さんで、なんとか彼女と連絡先を交換しようと努力する男が数人いたけど、結局話すことすら叶わなかったんだとか。
アカリンは小学生のときからモテてたと思う。けれど男女関係なく仲良くするタイプだったから、付き合ってるとかは聞いたことないな。
「結構有名だと思うけどなこの話」
「そうなの?全然知らなかった」
「まークラス違うと知らないかもしんねぇな。てなわけで、一葉さんに話しかける人はいないんだよ。いじめとかじゃなくて、多分ひとりが好きなタイプなんだろうな」
あのときのアカリンがこうなるなんて誰が予想しただろう。同級生も今の彼女を見たら別人だと思うに違いない。
「さっき廊下行ってたの見たけど、普通に喋れた?」
「んー、まぁ、うん」
さっきの一連の会話(?)を思い出しながらそう返した。
「微妙な感じだった?だとしても小野寺は多分悪くないと思うから、気にするだけ無駄だぞ」
予鈴が鳴り、一葉さんは教室に戻ってきた。あのまま帰ってこなかったら絶対私のせいだから、どうしようかと心配していたけど杞憂だった。
「ねぇ誠、小学校のとき一緒だったアカリンって覚えてる?」
家に帰って、ソファに寝転んでいる双子の兄にアカリンの話を振ってみた。私たちは別々の高校に通っている。
「あぁ一葉な。よく家に遊びに来てたじゃん。お前仲良かったよな?」
「この間知ったんだけど、高校同じだったんだ」
「マジ?引越しとか?」
寝転んでいた誠が起き上がった。やはり人気者アカリンの今は気になるものらしい。
「普通に電車で通ってるらしい。聞いた話だから本当かはわかんないけど」
「へー、あっちならもっと綺麗な高校いっぱいあんのになー。てかまず一葉って良いとこの子じゃねーの?てっきり中学受験でもしたのかと思ってた」
「だよね?やっぱそこ気になるよね。しかもさ、めっちゃ雰囲気変わってて」
「ギャルとか?」
「いや、めっちゃ大人しくなってて。誰とも喋らないとかそんなレベル」
「マジ!?想像つかねー。あーでも、ちょっと聞いたことあるかも。中学時代の一葉の噂」
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