短編作品劇場

黒山羊

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僕は1人じゃない

実兄のマルス

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騎士見習いのラアラさんの病室をでたナインは、馬車に乗り立派な建物に連れて来られた。

門を通ろうとしたとき、ミッドが慌てた様子で、ナインの頭の中に話しかけてきた。



(ナイン、この入り口には結界が張ってある。
この決壊を壊すこともできるが、術者に気づかれてしまう可能性もあるから、残念だが、門の外で待つことにするとしよう。もし危険を感じたら、すぐに教えてくれ。いつでも引き寄せる準備をしておこう。)


ナインは頷き、門をくぐり、大きな屋敷へ向かう。



屋敷に入ると、たくさんの部屋が並ぶ長い廊下が左右に伸びている。

ナインは、正面の部屋に通された。
白髪の大きな体の お爺さんが、ナインに優しく話しかけてきた。


「君がナインだね。娘のラーナや、君のお母さんから話しは聞いているよ。」


そう言って、お爺さんは、母の書いたものであろう、手紙を見せてくれた。


「ちゃんと、届いてたんだ。良かった。」


ナインは疲れたのだろうか、座っていた大きなソファーで横になり、眠りについた。
お爺さんは、ナインを優しく抱き上げて、仮眠用のベッドに寝かせ、毛布をかける。


翌朝、誰かに起こされて目が覚める。
目を覚ますと、そこには、ずっと会いたかった、兄マルスの姿が見えた。
なぜ、そこに兄がいるのか、ここは何処なのか、ふと疑問に思う。


「・・・あれ? マルス兄ちゃん?」

「あれじゃないよ! お前いままで、どこで遊んでいたんだ!」


その言葉に、ナインは母との別れや苦しい旅のこと、兄マルスが家を出た直後に、実の祖父から役立たずと言われて追い出されたこと。
いろいろな苦しかった過去を思い出す。


「僕は、遊んでなんかいないよ。マルスだって、なんで僕や母さんを置いていったんだよ!」


ナインは、マルスに殴られる。

お爺さんと、ラアラさんの お父さんが2人の間に割って入る。


ナインは、いままでの苦しかった思いも、兄マルスに会えば救われると思っていたのに、それも叶わず声を出して泣いてしまった。


「ナイン、お母さんは?」

「お母さんが、何度も手紙を出してたじゃないか。知らなかったとか言わせないよ。」


ナインは涙を拭いマルスを見る。


「なぜ・ ・・。」

「マルス兄ちゃん、もう・・・。もう、お前に会いたくない。」


ナインは、泣きながら窓を開けてミッドを呼ぶ。
ミッドなら、助けてくれるはずだ。


「ミッド、もうここにはいたくない。僕を引き寄せてよ。」

ミッドが、魔法を詠唱しているのが、頭に響く。


ナインの体は、黒い煙に包まれ、ミッドの所まで引き寄せられた。


(ナイン、レヴィアを頼ろう。いまは、それが最善策だろう。)


幼い少年は、母と旅をした道を目指す。
向かうのは、ソドム王国にある、レヴィア団の本拠地のようだ。

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