短編作品劇場

黒山羊

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アケテハイケナイ

カルテ01

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若い男性「違うんです!俺は酒なんか飲んでません!」



そうそれは、つい先日のことだった。







彼の名は、ハンコダ トシオ(28)

足の悪い母親と二人暮らしをしている。





いつものように、電車に揺られながら家に帰る平日の夜。



その日は珍しく、普段残業で終電に乗る毎日から解放され、久しぶりに残業なしで帰る。

とは言っても、時計はすでに、21:00を回っていた。






彼は、母親に迷惑をかけないように、晩ごはんは、コンビニで済ませようと考えてコンビニに寄る。



いま思えば、あのとき、コンビニに寄らなければ良かった。いつものように、残業があれば良かった。
そう考えてしまう。



そう、彼はコンビニのレジで、泥酔した学生の後に弁当を買った。


学生とは帰る方向が同じだったようで、踏み切りで追い付いた。


カンカンカンカン・・・。

遮断機が降りてくる。



泥酔した学生は、走って踏み切りを渡ろうとしているようだ。




・・・あれ?






泥酔した学生が、踏み切り内で、しゃがみこんでいる!


まわりには誰もいない!




君は、学生を助けようと、踏み切り内に走り出す!!




なんとか学生を突飛ばし、線路を確認する。


電車は、すぐそこまで・・・・・!!!

キキィーーーー!



急ブレーキの音がする。





















君が目を覚ますと、そこは、病院の一室。

横には泣いている母親がいた。



体を起こそうと、足を曲げようとするが、感覚がない・・・。

母は、君の様子を見て、また泣いている。



どうやら、君の太ももから下は両足ともなくなってしまったようだ。



暫くすると、刑事が2人、病室に入ってきた。

刑事たちは、母親に挨拶し、大事な話があるから部屋を出るように伝える。




刑事たちの話によると、今回の事故について調書を取っているという。







刑事の調書内容はこうだ。

【君が事故にあった日の夜、君はコンビニで酒を買い、そのまま駐車場で飲み、泥酔した状態で自暴自棄になり飛び込み自殺をしようとした。しかし、怖くなり踏切から出ようとしたところで電車と接触し、脱線させてしまった。】







刑事A「これが捜査した結果だ。この書類にサインをして。」


君は答える。

トシオ「いえ、それはできません。俺は酒なんか飲んでません!」


刑事B「嘘言っても証拠があるんだよ!さっさとサインしてよ。」


トシオ「違うんです!俺は酒なんか飲んでません!そうだ、コンビニ!コンビニの防犯カメラに泥酔した人が映ってるはずです。その人を助けようとして事故に巻き込まれたんです!」


刑事A「コンビニの防犯カメラは壊れていて、証拠がない。店員の証言では、君が酒を買い、駐車場で泥酔していたという証拠がでてる。」





トシオ「そんな・・・。それなら、駅の防犯カメラを見て下さい!事故に会うまでの時間は短いはずだから、俺が泥酔するほど酒を飲めないって照明になるはずです。」


刑事B「もう調書も作ってあるんだよ。お前がサインしたら終わり。はやくサインしろよ!」




トシオ「だから、その調書が間違ってるじゃないですか。」


刑事A「お前、いい加減にしろよ!あんまり、ふざけたこと言ってると、公務執行妨害で逮捕するぞ!おい!」






そこに、主治医のエンドウが入ってくる。


エンドウ主治医「刑事さん、いまから問診ですし、もう面会時間を過ぎているので、明日にしてもらえませんか。」


刑事B「ドクター、大事な話をしている最中なんですよ!あんた・・・。」


刑事Aが刑事Bを止める。


刑事A「ドクターすみません。また明日の朝に出直します。」





そういうと、二人は部屋を出て行った。







翌日も、その次の日も、面会時間の朝から晩まで、調書にサインを迫られた。

今回の脱線事故は、乗客27人が死亡する大事故になっている。

マスコミは、刑事からの情報で君が犯人だと、連日報道する。





マスコミや刑事たちは、君や母親を追い込んでいった・・・。











夜間、看護師の見回りの跡に、主治医がやってきた。





エンドウ主治医「君の母親が、運び込まれてきたよ。どうやら心身を病んで倒れたようだ。」


トシオ「そんな・・・。先生、俺はどうしたらいいんでしょうか。」


エンドウ主治医「君を助ける方法は、一つだけ知っている。開けてはいけない病室の事を知っているか?」






トシオ「・・・知りません。」


エンドウ主治医「隣の病室は、開けてはいけない病室で、そこを訪れれば君は救われるかもしれない。」


トシオ「隣の病室ですか・・・。母も・・・。母もなんとか助けれないでしょうか。」







エンドウ主治医「それは、その病室にいるドクター次第だ。それから、その病室では、3つのルールがある。

1つ目は、ドクターの質問に、決して誤魔化さずに正直に答えること。
2つ目は、ドクターの質問以外への返事は厳禁で、決して否定せず肯定のみすること。
3つ目は、アケテハイケナイ病室の中で起きたことは、誰にも話してはならない。もし話してしまうと、話した本人と、その話を聞いた者は、命を奪われてしまう。

3つのルールさえ守れば、安全は保障される。」



トシオは頷く。




エンドウ主治医「今後もドアを開けるつもりはないが、今夜だけ、開けてはいけない病室のドアを開けておく。」


そういうと、主治医は部屋を出て行った。







君は少し考えたが、母親のこともあり、開けてはいけない病室へ行くことにした。


ベットから落ちるように床に降り、地面を這うように部屋を出る。





部屋を出て隣の病室を目指す。


這いつくばるときに引きずる足が、激しく痛む。


激痛に耐え隣の病室にたどりつく。




・・・。






ドアが開かない。反対側のようだ。




君は床を這いつくばる。反対側の扉の前にたどり着いたとき、見張りで待機していた、刑事Bに見つかる。



刑事B「お前!どこに逃げ出そうとしてんだよ!!!」


刑事Bが、君の元に走ってくる。





刑事Bが君の元にたどり着く前に、君は部屋の扉を開ける。




扉が開いた瞬間、何者かに体を引きづりこまれ、扉が閉まる。






刑事Bが外から扉を叩いている。

ドン!ドン!ドン!


刑事B「おい!カギを開けろ!お前、逃げ切れると思うなよ!!!」


刑事Bは、カギを取りに行ったのか、走り去る足音が聞こえる。





君は、病室の中を見渡す。

部屋は、壁や天井、窓にまで黒い布を張っているのだろうか、外の光がまったく入ってこず、完全な暗闇になっている。










部屋の奥から、人の声が聞こえてきた。


若い男の声「ハンコダ トシオ、28歳、独身、母親が病院に担ぎ込まれている。今回の症状は、人の嘘に全てを奪われている。・・・ようだな。」


この声の主がドクターだろうか。

トシオ「はい、ドクター。」





ドクター「よろしい。では、君の症状を改善させる処方をする前に、いくつか質問したいのだが、君は自分と母親と、どちらか一方のみ助かるとしたら、どうしたい?」


トシオ「俺には、どちらか一方は選べません。母は俺がいないとダメなんです。俺も母を殺すことはできません。ただ、どうしても選ぶのであれば、母に任せます。」







ドクター「よろしい。では次の質問の前に知ってもらいたいことがあるのだが、今回、君が助けた若者と刑事はグルだ。君が助けた若者は、署長の息子で、以前も婦女暴行事件などを起こしていて、あの刑事2人が示談に持ち込んでいる。
そこで質問だが、君は、3人にどういった罰を与えたい?」


トシオ「俺は、3人とも正直に話してくれればいいです。」






ドクター「では、君への処方は、3人には正直に話をしてもらうことにしよう。」



ドクターがそう言い終わると、部屋の扉が開いた。



部屋の扉が開くと、刑事Bが部屋に入ってきた。






ドクター「ようこそ。君には真実を語ってもらう。」


刑事B「なんだこの部屋は?」


ドクター「さて、君は署長の依頼で、今回は嘘の調書を作り、署長の息子の罪を他人に押し付けようとしたね。」


刑事B「そんな話はでたらめだ!」





ドクター「では、君は署長の依頼で、以前にも婦女暴行の被害者を脅して示談に持ち込んだね。」


刑事B「お前、侮辱罪と公務執行妨害で逮捕してやるからな!」







部屋の奥の方がぼんやりと明るくなる。

明るくなった部屋の奥には、椅子に座る髭の男の姿がある。彼がドクターのようだ。



ドクター「この部屋で嘘をついてはいけない。」





ドクターが、右手を軽く振ると、刑事Bの体が宙に持ち上がる。


刑事Bを見ると、その後ろに何か人のような巨大な影が見える。


刑事B「おい、何をする気だ!や、やめろ、やめ、やめてくれ!たの、あが、ががああ、あ」




巨大な影は、刑事Bの口を開き、ペンチのような物で、刑事Bの舌を引き抜き、部屋の奥に連れていく。





その巨大な影の正体は、鬼のようだった。



鬼たちは、刑事Bを部屋の一番奥に連れて行き、壁の中へと消えて行った。






ドクター「署長の息子にも、きちんと自白させよう。後の事は自分で解決したまえ。」


そういうと、ドクターは椅子から立ち上がり、君に薬を飲ませた。



ドクター「もし、君がこの部屋で起こったことを話してしまえば、その話を聞いた人間を巻き込み、地獄に落ちる。」




君が薬を飲みこみ、頷くと、部屋の扉が勢いよく開き、君は病室から投げ出された・・・。







病室を投げ出されると、そこには、看護師や主治医、刑事Aの姿があった。


刑事A「お前、中で何をやってたんだ!もうひとりの刑事は、どうした!!!」


刑事Aは君の胸ぐらをつかみ、揺さぶってくる。





それを止める主治医。

エンドウ主治医「ここは、病院の廊下です。夜間とはいえ、人の目もありますから、部屋に戻ってからにしてください。私も看護師も近づかせませんから。」




君は悟った。【後の事は自分で解決】とは、刑事Aのことだったのだろうか。




君は部屋に戻り、刑事Aに全て話した・・・。



















数日後の新聞の一面記事は、署長の息子の今までの事件が全て掲載されていた。



そんな記事の片隅に、病室で2人が同時に心臓発作を起こした記事も乗っていた。






























君が目を覚ますと、そこは、わずかな光もない部屋の中だった。アケテハイケナイ病室の中なのか?

それとも、ここは地獄で、もう死んでしまったのかな?







ドクターの声が聞こえる。

ドクター「ああ、君には悪いことをしたね。そういうつもりではなかったのだが、申し訳ない。」


トシオ「いえ、いいんですよ。母さえ幸せになってくれれば。」




ドクター「・・・それなんだが、君が病室で死んでいるのを発見されてから、君の母親も後を追うように自殺をしてしまったんだ。」


トシオ「そんな・・・。」




ドクター「今回、君が死んでしまったことは、私の説明不十分で、私に責任がある。そこで、君たち母子おやこを、せめて同じ地獄に送ってあげたいと考えている。」



トシオ「・・・ありがとうございます。母となら、どんな地獄でも耐えて行けそうです。ドクターお世話になりました。」




ドクター「では、君たちの進む地獄は・・・。」




























~数年後~


女性「あらー、可愛い女の子ね。おばあちゃんに会いに来たの?」


幼女「うん。お父さんとお母さんと3人でお見舞いにきたの!」


女性「そうなんだ、おばあちゃん呼ぶから待っててね。」















女性「ハンコダさーん。トシオさんたちが、お見舞いに来てくれたみたいよー!」





~END


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