短編作品劇場

黒山羊

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ベルセルク

伝説のマスクマン (前編)

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この物語は、半年前の引退試合から始まる。





プロレスのリング上、一人のマスクマンと、長くウェーブのかかった黒髪のレスラーが睨み合う。長い試合は、お互いの体力を奪い、次の一撃で勝負が着きそうだ!


お互いに、すでに肉体は限界を越えており、精神力で闘っている!

しかし、お互いの目は、獲物を狩る虎ように鋭い!




マスクマンの名は、誇り高き・ベルセルク。
悪の軍団の参謀として送り出されたが、弟子のタケルとの戦いで、正義の心に目覚めた。
数々の記録を残した、驚異のプロレスラーだ!


対する黒髪のレスラーは、ジョーカー・ジョー
【レスラーとは常に闘争者であり破壊者であれ】この言葉を信条に、いまの軍団を築いた。
正義の軍団を狩り続ける処刑人であり、悪の軍団の帝王である。





放送席「おっと!両者にらみ合ったまま動けない!驚異の身体能力で数々の宿敵をマットに沈めてきたベルセルクも、ジョーの卑劣なまでの首攻めに動きを止めてしまった!」


解説者「いやー、まずい状況ですよ!ベルセルクは、ジョーの手下、ブラックハーデスとの闘いで、パイプ椅子を首にモロに受けてますからね!あのダメージが引退試合のきっかけになったのでは?って言われてるぐらいですからね。」


放送席「あーっ!ベルセルクが仕掛けた!ジョーを掴んでロープに投げる!反動を利用した、必殺のベルセルク=スープレックスに持ち込めるか!?」

解説者「これは、ベルセルクの必勝パターンですよ!」



放送席「おーっと!ジョーがロープを掴んでタイミングをずらした!ジョーのジョーカーシックルが炸裂ぅぅぅ!」

解説者「あーーー!まさかーーー!」


会場全体が、どよめく。




放送席「まさかのフォール、ジョーカーシックルのダメージが深刻で動けません。あ、あ、あああ!」

解説者「まずいぞ!おい、止めろ、いや、ヤバいだろ!」



リング上では、ジョーがフォールで勝利を手にいれた後、意識のないベルセルクのマスクを剥ごうとしている。

レフリーは、ジョーの手下、ブラックハーデスとダークキングの妨害で近づけない!



そこに、ベルセルクのセコンド、弟子のタケルが助けに入る!


タケル「止めて下さい!」



放送席「おお!ジョーの横暴を止めに入ったー!」

解説者「タケルで大丈夫か?」



解説者の心配した通り、タケルとレフリーは、ブラックハーデスとダークキングに、リングから投げ出される!

その間にジョーが、ベルセルクのマスクを剥ぎ取った!

タケルは、タオルを持ち込みリングにあがる!



一斉にフラッシュが光る!



タケルがタオルで隠しながら、ベルセルクに肩をかす。

ダメージが深刻なベルセルクは、マスクを拾い、控え室に引き上げる。





ジョーが、引き上げるベルセルクに向かって、マイクパフォーマンスを始める。


ジョー「ベルセルク!引退して楽に終われると思うなよ!

しかし、いまこの瞬間をもって、誇り高き・ベルセルクの時代は終わったことも事実だ!

悪の軍団の時代が始まる!悪の軍団の復活祭を、半年後の12月31日、武道館で行う!
正義の味方がいるんなら、俺たちを止めてみろ!
お前らにできるならの話だがな!」


そう言うと、マイクをレフリーに投げ返し、両手を上げてリングを歩き、挑発を繰り返す。




放送席「12月31日にある悪の軍団の復活祭を防ぐことはできるんでしょうか?いまベルセルクが倒され、引退も確実。誰が闘うんでしょうかね?」


解説者「いやー、ジョーは、やり過ぎましたね!
いま、12月31日の悪の軍団の復活祭を防ぐ事ができるレスラーは、イケガミアキヲ、アラスカボーイ、カミカゼくらいでしょうね。しかし、三人には、荷が重いんじゃないかなー?」

放送席「まずいことになってきましたね!」



放送が続くなか、ベルセルクと、弟子のタケルは、控え室に引き上げていく。





~控え室~

ベルセルクは、控室のベンチに座っている。

タケルは、水を渡しベルセルクに話しかける。

タケル「ハゲヤマさん、首は大丈夫ですか!?」

ハゲヤマ(ベルセルク)「ああ、心配かけたな。すまない。」

ハゲヤマは、水を飲み痛めた首をさすっている。


タケル「いや、僕が助けに行ったのに、助けることができずに・・・。すみません。」

ハゲヤマ「いや、気にするな。タケルは、優しいから、急に闘えないのは知ってる。これでも俺は、お前の師匠だぞ。」

ハゲヤマは、豪快に笑いだした。



恥ずかしそうに下を向くタケル。

タケル「これでもなんて・・・そんな・・・。」



ハゲヤマ「タケル、・・・誇り高き・ベルセルクは、引退しない。そう記者に伝えてきてくれないか?
あと、ドクターも読んできてくれ。」

タケル「はい!分かりました!」



ハゲヤマ「タケルが、ベルセルクを襲名してくれると助かるんだがな・・・。タケルは優しいすぎるからな。」

そう言うとハゲヤマは、笑う。

タケル「まだまだ、僕では、ハゲヤマ師匠の後は継げないですよ。ドクターを先に読んできますね。」




タケルは、医務室に走り、ドクターを呼んだ。

そのまま、控え室には戻らずに、記者達の元に行き、誇り高き・ベルセルクは、闘い続けることを説明した。




~30分後~

記者会見室を出て控室に戻ると、真剣な表情でプロモーターが待っていた。

ハゲヤマの姿は見えない。


タケル「どうしました?他に伝えることが、ありましたか?」


プロモーター「・・・タケル、落ち着いて聞け。」

タケル「なんですか?」

プロモーター「お前が、ベルセルクになるんだ。」


タケルの表情が暗くなる。

タケル「・・・先に帰った所を見ると、ハゲヤマさんの首、思ったより酷いんですか?」



プロモーターの表情も暗くなる。やはり、首へのダメージも大きいようだ。




プロモーター「・・・。」




タケル「明日にでも、お見舞いに行って怪我の具合を聞いてきます。状況が分かったら、病院からプロモーターにも電話しますね。」




プロモーター「・・・。」





プロモーター「いや・・・。いまドクターと一緒に救急車で病院に緊急搬送されているところだ。」

タケル「えっ?さっきまで、話してたんですよ。」

プロモーター「・・・俺が冗談を言ったことあるか?」

タケル「いえ・・・。そんなに悪いんですか?」




プロモーター「昏睡状態だ。ドクターの話では、今夜が峠だそうだ。」


タケル「そ、そんな・・・。」

肩を落とし、崩れるように座り込むタケル。


プロモーター「タケル。今夜の試合は、事故だったんだ。お前の責任ではない。むしろ、この引退試合を組んだ俺の責任だ。・・・・・・・すまない。」


プロモーター「いまから、俺は病院に向かうが、お前も来るか?」

タケル「・・・はい。同行させて下さい。」

プロモーターは、部屋を出る。タケルも、プロモーターの後を、ふらふらと着いて行く。




病院に到着すると、玄関にドクターが立っていた。


プロモーター「ドクター!ハゲヤマの具合は?」


ドクターは、首を小さく横に振る。

ドクター「いま、遺族を待っとるところだ。たしか故人には、子供さんがいなかったか。」


タケルは、目の前が真っ白になる。

病院の玄関の明かりが眩しく、自分が背後に迫る暗闇の中、一人だけ取り残されるような感覚に包まれる。


プロモーター「今年、小学生になる女の子が一人。」

ドクター「そうか・・・。わしの方から、説明しておこう。奥さんは、タクシーで来てもらっている。」


タケル「あの、ハゲヤマさんに会うことは?」

ドクター「ああ、こっちだ。まだ病室におるよ。脳死になるから、遺族が来るまでは生命維持装置はついているが、奥さんの返事次第では、すぐに移動になる。」


そういってドクターが病院内に入っていく。


タケルの足は重く、前に出すこともできない。



プロモーター「タケル、つらいかも知れないが、恩師の最後だ。胸を張って会って来い。」

そういって、背中を押してくれる。





病院に入り、ドクターを追いかけるタケル。



個室の病室に入ると、そこには、疲れた体を休めるように、いつものように横たわるハゲヤマが居た。

いまにも起き上がり、こう言いそうだ。

タケル「おい、タケル、今日の俺の試合、どうだった!?明日から次の相手を想定してスパーリングしようぜ!ほんと、お前が・いて・・く、れて・・おれ、おれ・・・。」

タケルの目から涙がこぼれ、声が詰まり、その場に、うずくまる。


ドクターは、優しくタケルの肩を抱く。

ドクター「タケル、事故だったんじゃ、仕方ない。」


個室のドアが開き、奥さんと子供さんが入ってくる。

二人は、ハゲヤマさんに抱き着き、声をあげ泣いている。



ドクター「タケル、わしらは出よう。」


タケルは、深くお辞儀をし、部屋を出る。



病室を出ると、案内してきたのだろう。プロモーターも待機していた。



プロモーター「今日は、家族だけにしておいてやろう。お前も帰って休め。俺が送って行ってやる。」

ドクター「あとは、わしが最後まで見届けておこう。」


プロモーター「すみません。ドクター、お願いします。何かあったら、すぐ連絡を下さい。」


タケルは、どこをどう歩いたのか、まったく記憶にない。

何を話したのかも覚えていない。気が付くと、そこはプロモーターの運転する車内だった。





~車内~

車内は重い空気で、沈黙が続く。



沈黙を切り裂くように、プロモーターが言葉を発する。


プロモーター「タケル、人生、誰にでも平等に終わりはくる。ハゲヤマは、それが他より早かったんだ。」

タケル「・・・。」

タケルは、力なく頷く。



プロモーターは言葉を続ける。

プロモーター「タケル、お前、ハゲヤマの遺志を継ぎ、ベルセルクとしてリングに上がれ。」


タケルは、驚いた顔を一瞬見せるが、また下をむく。

タケル「すみません。いまは、ちょっと・・・。」



プロモーターは言葉を辞めない。

プロモーター「いや、いまだからこそ、お前に話しておかなければ、いけないんだ。ベルセルクは・・・ハゲヤマは、お前を後継者として試合に出して行きたいと何度も交渉に来ていたんだ。」


タケル「・・・。」


プロモーター「しかし、俺は、お前の成績が悪く、ベルセルクの後継者にイケガミを推薦した。もちろん、お前は任期はあるが、その・・・。」

プロモーターが言葉を選ぶ。


タケル「ベルセルクには、実力が及ばない・・・ですよね。」

信号が赤に変わり、タケルを見る。


プロモーター「ああ、そうだ。実力の問題がある。するとハゲヤマが、珍しくムキになって言うんだよ。
【タケルの実力は、俺以上にある、あいつは優しすぎるだけで、きっかけさえあれば、どんな敵にも立ち向かえる】ってね。それから何度も何度も、忙しい俺を捕まえては、お前の話ばかり、自分の話は、まったくしないのにな。」


タケル「ハゲヤマさん・・・らしいですね。」


プロモーター「・・・いや、お前だからだよ。」


夜の外灯の明かりが眩しく滲む。



タケルの持っていた、ベルセルクのマスクが、涙で濡れる。





















プルルルルル、プルルルルル、プルル、ピッ!


電話の呼び出し音が鳴る。





その後、プロモーターから連絡があった。

ハゲヤマさんは、家族の意向で、娘さんが中学生になるまでは、生命維持装置をつける方向で進んだようだ。

タケルは・・・。














~試合会場~



放送席「いよいよ始まりますね!あのジョーとの熱戦の後、首へのダメージも心配されましたが、無事に復活を遂げましたね!復活後、無敗の快進撃を続けるベルセルク!今日のタッグマッチも楽しみですね!」


解説者「いや、復活以上ですよ!動きのキレ、やばいですね!今日は、イケガミが足を引っ張らなければいいんですけど、そこが心配ですね。」


会場に音楽が流れる!

放送席「さあ、この二人が悪の帝王からの使いだ!さすがの威圧感!この二人に壊せない者はない!

青コーナーから入ってきたのは、悪の軍団!暗黒の鎌使い・ブラックハーデスと、洗脳された王・ダースキングだ!」

会場からはブーイングが鳴り響く!


解説者「悪の帝王、ジョーカー・ジョーが居ないとはいえ、この二人だと威圧感が凄いですね!」



音楽が変わり、会場が更に熱気に包まれる。


放送席「悪の帝王に一度は敗れ、死の直面に立たされた。しかし、そこからの完全復活、否、究極進化を遂げた英雄ヒーロー!!!!!

赤コーナーから入ってきました!我らの英雄、誇り高き・ベルセルクゥーーーーー!」

大歓声で、リングに振動が伝わる!


放送席「英雄に続き入場してくるのは、華麗な技で敵を翻弄する!技のデパート、技知り博士・イケガミ アキヲー!」





放送席「さあ、両社リング中央に・・・。」


解説者「ベルセルクが、右手を胸にあて、祈りをささげるようなポーズをとっています。いままで悪の軍団に倒されてきた味方への追悼か!?」










放送席「・・・いよいよ、戦いの火蓋が切られます!」



カーン!







 ~ to be continued

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