目指せ地獄の門 ~改訂版~

黒山羊

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序章・物語の始まり

物語の始まり

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神々の時代、天空の神々は、地上世界を3つに分けた。



人々が暮らし神を信仰する大地、
大いなる恵みをもたらす海、
そして、死の世界である地下。


人々が暮らし神を信仰する大地を管理する、豊穣の神は、その力をもって、大いなる海を手中に収めた。


その後、豊穣の神は、人々の為を思い、地下の神と争ったが、地下を管理する、実の兄である死の神は、不死の力を持ち、何度も何度も蘇る。
その不死の力の前に、豊穣の神は命を落とす。



兄弟の争いを、見守っていた天空の神は、豊穣の神に再び命を与え、決して兄弟で争ってはいけないと命じる。


この為、人は死後、地下の世界に行くことを受け入れなければならないと言われている。







しかし、豊穣の神は、地下の世界も手中に収めたかったのだろうか、それとも殺されたことへの復讐だろうか、神の御心は知る由もないが、豊穣の神は、神官を通して、地獄の門を開けることを人間に命じた。



地下の地獄の門への道のりは、長く険しいが、その道中で命を落としても、地上に戻れれば、豊穣の神が再び命を与えてくれる。
地下の迷宮の魔物を倒せば、宝が手に入る。
地下の迷宮を攻略すれば、多くの名声が手に入る。


人々は、豊穣の神のため、巨万の富のため、名声のため、地獄の門を目指すのだった。











【アテラティッツ王国】




むかしむかし、あるところに、魔物や妖精、剣に魔法が、当たり前のように存在する国、アテラティッツがありました。

アテラティッツとは、彼らの国の言葉で、夢が叶う、と言う意味です。



周囲を海に囲まれた、小さな島国ですが、国中に笑い声が溢れている国です。




お腹がすけば、魔法でパンを出し、お腹を満たす。


お金に困れば、森で魔物を倒し、宝石を得る。





なに不自由ない生活で、人々は、とても幸せに暮らしていました。





しかし、そんな彼らの幸せは、突然に奪われることになります。



ある日、海の向こうから、一人の傷ついた男性が流されてきました。


アテラティッツの王である、メリクル王は、この男性を手厚く介抱しました。




傷の癒えた戦士は、メリクル王の質問に答えます。

島の外にも世界が広がり、外から来たこと。

外の世界の人間は、魔法を使えないこと。

そして、剣を使って魔物を倒せないこと。



メリクル王は、決心しました。

世界を征服しようと・・・。













~城の会議室~


会議室の大きな円卓を囲むように、立派な身なりの男性と7人の老人、若く美しい女性が席に着き、話し合いをしをしているようだ。


「・・・以上のことから、海の向こう側に攻めて行こうと思う。」

そう話していたのは、歳は、まだ30代半ばだろうか、威風堂々とした口調の立派な身なりの男性だ。
円卓を囲む老人たちは、男性の発言に対し、全員拍手をし、満面の笑みを浮かべている。

発言をした男性の右側に座っていた、50代後半の男性が発言をした男性に話しかける。

「メリクル王、満場一致で可決ですね。」

「うむ。大臣ウタンよ、戦える若者を集め、侵攻の準備を始めよ。」

「御意!」


大臣ウタンと呼ばれた50代後半の男性は、席を立ち上がろうとした。
その時、メリクル王の左手側に座っていた美しい女性が、メリクル王に声を掛ける。

「メリクル、本当に大丈夫ですか?王子もまだ小さいですし、貴方に万が一のことがあれば・・・。」

「問題ないだろう。剣も魔法も使えない人間に、負けるはずがない。安心して待っていなさい。」

「・・・はい。」

「それでは、戦いの準備をしてきます!」

大臣は、ルンルン気分で席を立ち、会議室をあとにした。





~3日後~

国の若者が戦士として集められ、遭難者を救助した海岸へと集結している。

「いよいよ、我らが神々の威光を世界に広める時が来た!
 ソロモンの子らよ!我に続け!」

「「「おおぉぉぉ!!!」」」

彼らは、水上歩行の魔法を使い、海の上を行進し始めた。

海岸では、見送りの女、子供、老人が手を振って彼らを送り出している。


王妃や幼い王子も、国王を見送っている。

「モア、王子の事を頼んだぞ。」

「メリクル、本当に行ってしまうの・・・?」

「安心して待っていなさい。ソロモンの威光を示し、落ち着き次第、すぐにでも帰還することを約束しよう。
 王子、私が留守の間も稽古を休んではいけないぞ。帰ってきたら、手合わせをしよう!」

「はい、お父様!」


メリクル国王率いる、アテラティッツの戦士たちは、海上を歩き西へ西へと歩き出した。





~3週間後・夜明け前~

王妃の寝室に、大臣のウタンが声を高くして駆け込んでくる。

「モア王妃!島を出た戦士達が、捕虜を連れ、引き返してくるのが見えますぞ。」



大臣と王妃は、城のテラスから西の海を見た。

周囲はまだ暗く、肉眼での確認が難しかったので、2人は魔法を使い、その様子を伺った。

「それにしても、捕虜の数が多いようですな・・・。」

海上を確認すると、その様子に違和感を覚えた。
捕虜の数は、国の戦士の倍以上は、いるでしょう。

しかも、メリクル国王の姿は、どこにもなかった。
異変に気付いた王妃は、侍女を呼び、指示を出す。

「様子がおかしいわね。国民に注意するように伝えなさい。」

「はい、王妃様。」

侍女は、部屋を出て、国中の人に注意を伝えるように、城の最上階にある鐘を鳴らす。





王妃と大臣は、警戒しながら戦士達の様子を見ていると、王妃の前に、1羽の白い鳩が舞い降りた。

その白い鳩は、王族の印を首につけている伝書鳩です。

「王妃、メリクル王からの凱旋の知らせでしょうか?」



王妃は伝書鳩の足についている筒を開け、手紙に目を通した。
王妃の顔色が、みるみる変わっていき、その様子から、大臣も何かを察した。

「ウタン大臣、至急、国民に島から逃げ出すように指示を出しなさい。
 あなたも、この国を離れて逃げるのです!」

「・・・ま、まさか、そ、そんな。」



王妃は、緊急事態に備えて、王子の元に駆けだした。

その途中、外から爆発音が聞こえてきた。


外を確認すると、町の方から煙が上がり、無数の連続した小さな爆発音と悲鳴が聞こえてくる。


身の危険を感じた王妃は、5歳になったばかりの寝ている王子を、抱きかかえ城を出て、そのまま、東の森に逃げ出した。



しばらくすると、巨大な爆発音は、城の方からも聞こえ始め、城からは煙が、モクモクと上がり始めた。

「みんな・・・。」


町や城では、多くの民が命を落としたのだろう。
空に登っていく魂を王妃は、目に涙を浮かべながら見ていた。

目を覚ましていた王子が、王妃に話しかける。

「お母様、お城の方が明るくなってきたよ。
 僕たち、どうなっちゃうの?」


王妃たちの隠れている森にも、火が放たれたようで、西の暗い空が赤く染まり始めた。

「王子、大丈夫よ。私が森の精霊に頼んで、王子を守ってもらうからね。」

「うん。お母様、町の人たちも みんな守ってあげようね。」

「・・・そうね。王子、いまから使う魔法は、人に見られてはいけない、古の魔法なの。だから、もうしばらく目を閉じて、眠っててね。」

「はい、お母様。」

王妃は、王子に額に優しくキスをすると、王子を魔法にかけた、夢の中へと誘う魔法だ。


王妃は、まだ幼い王子を抱きかかえ、魔法が効果を発揮するまで、優しく子守唄を歌う。
王子は、次第に瞼が閉じてくる。

眠りについた王子をしばらく抱きかかえたまま、王妃は呪文のようなものを、王子の耳元で唱え始めた。



王妃は、王子をその場に寝かせ、王子の周囲に魔物の血で魔方陣を描き、声をあげ呪文のようなものを唱え始めた。

「アヤテシカ、ラカチーノ!・・・タンアンハ、ルーバヤ、イガ、ネオ!」



魔法の詠唱が終わると、突風が吹き、魔方陣が光輝きだす。

その光の中から、1人の精霊が現れた。



その精霊は、人間に近い姿をしているが、頭と下半身が山羊、背中には蝙蝠のようなドラゴンの羽を持っている。
精霊と言うより、まるで悪魔のような姿をしていた・・・。



召喚された精霊が、低く恐ろしい声で話し始める。

「願い事を言え。」

王妃は、寝ている王子を抱きかかえ、願いを言う。

「この子を助けて下さい。」

「対価は?対価に見あった待遇で、その子の命を守ろう。」

「はい。私や夫の命と、この国に生きる者の死後の魂を全て。」


召喚された精霊が笑いだした。



「よかろう。この、バール自ら、その子の主父となり、子でなくなるまで預かろう!」

「お願いします。」

「よかろう。契約は成立した。」

精霊バールが、そういって右腕を上げると、青空は消え、真黒の雨雲が現れ、狂風が吹きあれた。



すると、王妃の腕の中で眠る王子が煙となって、嵐の中に消えていった。

「盟約通り、命と魂は頂く。」

そういい残すと、精霊バールも、煙となって嵐の中に消えていってしまった。

残された王妃は、呆然と空を見つめ、目には涙があふれている。






「こっちだ!こっちにも生き残りがいるぞ!」

王妃の元に、異国の兵士がやってきた。
王妃は持っていた短剣で、自身の胸を突き、その場で自害した。


王妃の死と同時刻、異国の土地でメリクル王も、処刑時間の前に舌を噛みきり、自害した。





その後、真黒の雨雲から降る、大粒の雨は 世界最後の魔法の王国を大量の雨で海の中に沈めてしまった。


















王子が目を覚ますと、そこは見たこともない屋敷の一室だった。

壁の飾りは、見たこともないくらい不気味で美しく、見る者の心を奪う。

王子は、引き込まれるように壁に近づく。




「エイト、その壁を見るのをやめなさい。耐性のない人間が見ると、魅了の魔法に心を壊されるぞ。」





王子は声の方を向く。

そこには、いつものように優しくおはようのキスをくれる母親ではなく、ヤギのような仮面をかぶった男がいた。



「お母様はどこ?あなたは誰?」


ヤギの仮面の男は、ヤギの兜を脱ぎ、王子の質問に答える。

「うむ。聡明な我が子エイトよ。母親は、愚かな人間の欲に殺された。私はお前の主父あるじになるバールだ。天候と豊穣の神になる。」


王子は泣きそうになるのをこらえ、豊穣の神バールに哀願する。

「バール様、お母様のところに帰りたいです。僕はどうしたらいいでしょうか。」


バールは、王子を見つめる。

「お前は我が子だ、主父あるじと呼べ。それから、母親のことだが、お前が立派な成人を迎えることができれば、兄弟に頼んで、母親の元に行かせてやろう。」


王子はあきらめない。バールの威圧に、いますぐ泣き逃げ出したいのを我慢する。

「はい。主父あるじ様。お母様は、どこにいるかだけ教えてください。」

王子の声は恐怖で震えている。


バールが煙になって、王子の後ろに移動し、頭に手をかざし、耳元で囁くように、低い声で言う。

「地獄の門の先だ、そこにたどり着けるよう、これから成人を迎えるまで、一緒に頑張ろう。」

バールの口元が緩むが、目は笑っていない。



「はい。主父あるじ様。」




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