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天使と呼ばれた悪魔

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~2時間後~
城壁の外側が騒がしくなり始める。
どうやら王国軍と魔王軍の争いが始まったようだ。

そんな中、食堂に残されたエイルと、それを見守るレバノンの姿があった。
レバノンは、逃げるための準備をしていた。
すると、


「うっ、うう。
 ・
 ・
 ・
 ち、千紘・・・。」

意識を取り戻したエイルが、頭を押さえながら ゆっくりと立ち上がり、千紘の姿を探す。
その様子に 驚いたレバノンが、エイルに声をかけた。

「エイル、もう大丈夫なのか?」

「千紘は、何処に?」


「魔王軍と戦うために城門の外へ向かったぞ。
 彼女は 君が傷つくことを望んでいない。
 このまま、わしと一緒に逃げるんじゃ。
 もし、悪魔召喚士である千紘の契約が切れ、元の世界に転生したときは・・・。」

「俺は・・・。
 俺は 千紘を守る・・・。
 約束をした。」


「しかし、君が行っても足手まといにしかならない。
 ここは、おとなしく・・・。」

「だまれ!
 何も知らないくせに!
 ・
 ・
 ・
 すまない。
 君に当たっても・・・。
 俺は・・・命が尽きることになっても、守り抜く。
 それが、千紘と・・・。
 女神ディーテとの最初で最後の契約・・・だから。」


エイルの真っすぐな心に、レバノンも決心したのか、深く力強く頷く。

「エイルよ、野暮なセリフはいらないな。
 わしが肩を貸そう。」



エイルは レバノンの肩を借り、千紘たちの戦っている城門の外を目指す。
宿舎から 町の広場を抜けるとき、周囲に人だかりができる。


「英雄エイル、どうか この世界を救ってください。」
「英雄エイル、夫に安息を与えてあげて下さい。」
「英雄エイル、わしらの子供や孫を救って下され。」

「英雄エイル・・・。」
「英雄エイル・・・。」
「英雄エイル・・・。」


エイルは、多くの人と目を合わせ 頷きながら戦場を目指す。

「お前さんは、モニュマール人の心の支えになっておったんじゃな。
 たとえ、戦う力がなくとも、何かが変わるかもしれない。
 人は一人では戦えない。
 強く大地を踏みしめ戦うには 守るべき人や、支え合える仲間が必要なんじゃな。
 そして、それに気づかせてくれたのが、お前さんなんじゃろう。」



エイルとレバノンは、城門付近に辿り着いた。
城門はすでに破壊されており、城門の外と中で、魔王軍と王国軍が激しく戦いあっている。
そんな戦地に、国王の姿もあった。

国王は エイルを見つけると、傷ついた足を前に前にと進め、号令をかける。

「我らを守護する天使、エイルが戦地に駆けつけた!
 さあ、括目し 我に続け!
 いまこそ修羅となり、守護天使エイルに魔王への道を切り開くぞ!」


「「「うおおぉぉ!!」」」


国王の号令で押されていた王国軍が、一歩一歩、前へと進み出る。
戦士たちは傷つき、手足を失い、命を奪われていく。
しかし、だれもその歩みを止めない。

それは、ここが守るべき場所だと分かっているからであった。
傷つき いつ倒れるかも分からない状態の国王は エイルに声をかける。

「さあ、守護天使エイルよ。
 君の居るべき場所へいってあげてくれ。
 もう、彼女を泣かせるんじゃないぞ。」


エイルは、頷き王国軍が切り開いた道を、ゆっくりと進んでいく。
まだ体内の睡眠薬が作用しているのだろう。
その足取りは重く、歩くのさえ困難な状態に見える。

誰一人として、エイルが戦える状態だと思っていないだろう。
しかし、王国軍の兵士たちは命を懸けて エイルの進む道を切り開いていく。
おそらく、ここがモニュマール人の最期の地だと理解しているのだろうか。

そのため、最期の瞬間、英雄の力になれた。
その誇りを胸に戦っているのだろうか。
それとも・・・。


「守護天使エイル、あと少しだぞ!」
「守護天使エイル、必ず辿り着けよ!」
「守護天使エイル、女神様を頼んだぞ!」


「な、何が起きているんじゃ?」

周囲の戦士たちの様子に、レバノンも理解が出来ていないようだ。
そんなレバノンに肩を借りながら歩く、エイルは 力なく話し始める。


「女神ディーテ、必ず、僕が必ず守ります。
 だから、僕を置いていかないで。
 ディーテ待っててくれ。
 俺は俺は・・・。」


エイルは意識が混濁しているのだろう。
朦朧としたまま誰となく話を続けている。

「エイル、しっかりしろ。
 もう少しで、千紘の元に辿り着くぞ!」

「ち、ひ、ろ?」


「そうじゃ!
 お主が愛した女性のなじゃ!」

「ち、ひ、ろ。
 ・
 ・
 ・
 俺が、必ず守る。必ず。」




エイルは、レバノンの肩を借りたまま、崩壊した城門を超え、城壁の外へと進み出た。




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