龍慶日記

黒山羊

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ケイト編

~新章・第十一節~

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~有形文化財の宿~

宿に戻り、服を脱ぎ、濡れた服を乾かす。

パオも服を脱ぎながら、話しかけてくる。



パオ「ねえ、今日のドラゴンは、どっちから来た?」



襖の向こう側で、パオは服を脱ぎ終わったようだ。

バベル「北かな?通ってきた道の方からだったみたいだけど。」

パオ「ごめん、バスタオル取って。」



バベルは、襖から手を出しているパオにバスタオルを渡す。

パオ「ありがと。じゃあ、市内はヤバいかもね。」

バベル「市内?」

パオ「そう。明日、天気がよくなったら、ここのシェルターを探してみよっか。もしかしたら機能してるかも。」



パオが体を拭いている姿が、窓に反射して、腰のあたりから上が、うっすらと映っている。

バベル「思ってたより、あるんだね。」

パオ「いや、ここは、いままでのシェルターとは規模が全然違うよ。いままでの規模のシェルターは、基地のあるエリアにしかないんだ。
ただ、ここは特別で、市が独自に大昔の海軍基地の後を改修してシェルターを管理しているんだ。そのシェルターが問題なく機能しているなら、可能性もあるなーって思ったの。ただ、ワクチンはあるんだけど、シートが足りないかもなー。」



パオが下着を着け始める。

バベル「そうなんだ。それ、つける意味あるの?」

パオ「もちろんあるよ。ワクチンを皮膚から効率よく吸収するには、シートで・・・。」


窓に映った、パオと目が合う。





着替え終わり、襖から顔を出したパオがいう。

パオ「バーベールー!覗いてたでしょ!」

バベル「いや、その、うん。見えてた。」





恥ずかしそうに笑いながら、パオが言う。

パオ「貸しが増えるけど、見たいなら、言えば特別に見せてあげてもいいのに・・・。」








パオが気づく!






≫パオが下着を着け始める。
≫バベル「そうなんだ。それ(ブラジャー)、つける意味あるの?」

パオの耳が赤くなる。




≫パオが体を拭いている姿が・・・。
≫バベル「思ってたより、(胸)あるんだね。」

パオの顔が赤くなる。





パオ「あー!絶対バカにしてた!」


バベル「いや、馬鹿にすることは絶対にないけど、今回は言い訳しない。見えてたし。」



パオ「ほら、やっぱり!なに冷静に、かっこつけて誤魔化してんのよ!」




今夜は、外も中も荒れそうだ。














~翌朝~

台風は通過し、吹き返しの風が吹いてはいるが、雨はあがっている。

遠くの山も見えるくらい、久しぶりに空気が澄んでいる。

天気が良くなったので、今日はシェルターの解放に行ってみることになった。



朝食を取りながら話す姿は、少し違った。

パオ「台風が洗い流したんだね。過去最大級じゃないかな?」

バベル「ああ。うん。」

パオ「大丈夫よ。一人でもできるよ。」

バベル「たしかに、作業は簡単なんだけど。」

パオ「問題ないって!シートも足りなくなったら、ラップで代用していけば問題ないから。」



昨晩、パオから相談があり、今日のシェルター解放は、一緒に同行するが、住民の説明や、ワクチンの接種など、なるべくバベルが一人で解決する方向にしたいという相談だった。
なんでも、今後の事を見据えての行動だそうだが、正直バベル本人が荷が重いと思っていた。


パオ「とにかく任せたからね!」


そういうと、支度を終わらせ、パオは車に乗り込む。

バベルも、アスカが残る家の鍵をかけ、後部座席に乗り込む。


パオ「万が一、シェルターが機能してないってこともあるから、そこまで気負いすることはないよ。それに練習した通りにやれば、なんとかなるから。」






~1時間後~

次第に民家や施設が増えてくる。

パオ「もう着くよ。」




車がシェルターの前に止まり、二人はシェルターを見る。

パオが、シェルターを調べ始める。

すると、扉が開き始め、中から数人の男性が出てきた。

手には、武器になりそうな物を持っている。



バベルは持っていた武器を、パオに全て渡し、一歩前に出る。


バベル「よかった無事だったか。いま病人や、この放射能汚染で体調のすぐれない人は何人いる。先に重症の人からワクチンを投与しよう。」



男性A「あの、助けに来てくれたんですか?」

バベル「そうだが、軍や警察といった、機関ではなく、個人でシェルターの解放をしている、バベル治療センターの者だ。」



男性B「お医者さんですかね。」

バベル「放射能汚染を改善させることは、似たようなものだろうが、厳密にいえば医者とは違う。もし困っているなら、無償で治療を施そう。困っていないのなら、他のシェルターの解放もあるので先を急がせてもらうが。」


バベルが話し終わると、後方でパオが車のエンジンをかける。

バベルが車の方を振り返ると、警戒していた男性たちがバベルを止める。



男性A「本当に治るんですか?」

バベル「放射能汚染による症状であれば、概ね治まる。あとは治療を続ければ回復する。」

バベル「治療が必要な人が多いなら、急ぐ必要があるから、ここに連れてくるといい。」


男性B「先生、人数が多いので、来てもらえませんか。」

バベル「何人くらいだ。」

男性A「ここの半分くらいは体調不良を訴えてるから、200人くらいいます。」


パオ「全体で400名。人口の200分の1くらいかな。」

パオがワクチンの入った、キャリーケースを持ち、歩いてきた。


男性C「あの、ここに来る途中の教会とかにも逃げ込んでる人が大勢いると思うのですが。」

パオ「いや、人影は見当たらなかった。車での移動だから、気づかなかっただけかもしれないけど。」


パオ「バベル様は、何か気づきましたか?」

演技とはいえ、呼ばれる違和感が凄い。

バベル「いや、残念ながら。」

男性一同「・・・。」



バベル「では、皆の治療が済み次第、手分けして探索しよう。私たちも治療に協力させてもらうよ。」

男性A「ありがとうございます。では、私に着いて来てください。」

男性に案内されるままに、扉の中に進む。

扉は二重構造で、最初の扉が閉まり、消毒後、次の扉が開く仕組みだ。



パオが小声でバベルに話しかける。

パオ「こんな消毒では、被ばくは防げそうにないな。」




中に入ると意外に広い。

天井は低く、広い部屋があるわけではないが、少ない収容人数で、比較的広く使えている方だと思う。



バベルは治療を開始する。

人数も比較的少なく、3時間程で治療が終わった。


バベルは、住民を集め、5日間は、様子を見る必要があるこを伝えた。

それから、この場を借り、住民に外の様子を説明することにした。


バベル「みんな聞いてくれ、いまシェルターの外は、ホープというAIが世界を相手に戦争を始めている。AIであるホープは原子爆弾を使い、世界中を放射能で汚染させた。
空は、黒い塵が舞い、気温も例年より、かなり低い。
陸や海には、ドラゴンも暴れ、生きていくのが難しい状況になりつつある。
このまま、先祖代々続く、生まれ育った土地で一生を終わらせるのも悪くはない。しかし、我々と共に立ち上がり、新天地で、子や孫の世代の為に、新しい世界を一緒に築いて行ってくれないだろうか?」




質問が出てくる。




・男性A「新天地はどこにあるんですか。」


バベル「詳しい場所は教えられない。なぜなら食料を巡って、同じ人間同士で争いが起きても困る。
それに、場所を知ったとして、もし敵として争うことになれば、悲しい結果になるだろうね。なぜなら、我々は、数多くの銃器や歩兵用の最新兵器を所持しているからね。」





・女性A「新天地に行っても、ドラゴンに襲われるんじゃないですか?それに、AIと戦争もしてるなら・・・。」


バベル「それは全く問題ない。有志を募り、兵士として戦ってもらうこともあるが、あくまでも志願者だけだ。
もちろん、ここで死を待つのも構わない。我々も住人の数が増えてきていて、無理に誘うようなことはしていない。中には、住み慣れた土地で死を待つという考え方の者もいる。」





・女性B「薬だけもらって、このままここに残ることもできますか?」


バベル「それは、」

パオ「それはできない。バベル様は優しい方だから、許可されるだろう。しかし、死を待つだけの人に薬を与え、共に生きる人に薬が行き渡らないといった事態を避けるために、私たちも胸が苦しいが、決断しなければならないことだ。
薬の製造も、手軽にできるようなものではなく、大規模な研究所での製造を必要とすることから、余分に渡すことは絶対にできない。そこは理解してほしい。」





・男性D「その薬をおいて行けばいいだろ!勝手に来て偉そうなこと言うなよ!」


バベル「助けてやったのに、無礼な奴だ。力づくで来るなら来い。敵には一切手加減はしない。」

男性Dは、ナイフ構え、バベルに攻撃する。

バベルは素手とはいえ、D細胞で身体能力が向上している。





バベルには、男性Dのナイフは止まって見えるだろう。それを躱すと、男性Dを地面に引き倒し、右肩と右手首の関節を外した。



バベルは、男性Dをそのまま引っ張り起こした。地面に落ちているナイフを拾うと男性Dに渡した。

バベル「もう一度挑戦するか?」



男性D「いえ、すみませんでした。」

バベル「謝っても許される問題ではない。このまま命つきるまで挑戦するか、この場で自害するかだ。」


そういうと、男性Dの手からナイフを取り上げ、のど元に当てる。
一瞬の出来事で、誰も動くことができない。




パオも口をあけて目を見開いていた。




男性D「すみません。もう逆らいません。」

バベル「だめだ。俺が手伝おう。」


バベルがナイフを地面に落とし、下げる腕を腰に持っていく。










腰から何かを引き抜いたように見えた。

あまりにも素早い動きで、誰も理解できない。











その場にいた全員が、男性Dが刀で切られる瞬間を見たように錯覚している。






落ち着いてみると、バベルの手には、サインペン。



そして、男性Dの右手に文字を書き始めた。



「副隊長」







バベル「気が変わった。君の命は俺が預かる。今日から副隊長だ。」


バベルは、落ちていたナイフを拾いあげ、刃を折る。


バベル「副隊長!俺は表で待つ。全員の意見をまとめて、30分以内に報告してくれ。」




そういうと、バベルは、パオを連れて外に出た。







二人は車に乗り込み待機する。


パオ「ちょっとやりすぎじゃない?」

バベル「そう?言われた通りだったと思うけど。」

パオ「いやいや。最後のアレ、ちょっとカッコつけすぎでしょ。」

バベル「あれが一番効果あったと思うんだけどな。パオは、ダメだと思った?」



パオ「いや、その、本当に切られたかと思って心配した。」

バベル「大丈夫だよ。もし刺されても、あのナイフなら致命傷にならないから。」

パオ心の声(そっちじゃないんだけどな・・・。)




10分ほどで、副隊長がと数名の男性が出てきた。

副隊長「バベル様、話し合った結果、全員一致でバベル様に着いていきます。」


バベル「わかった。では、ドラゴンに気を付けて各自準備をしよう。明日の朝から、またワクチンの定着状況を確認に来る。あと、隊長でいいよ。他の兵士たちからも、そう呼ばれている。」


パオ「あっ!それから、インターネットに接続する可能性がある物は、絶対に使わないでくれ。AIに監視されているからね。もし今の状況で襲われれば、隊長以外全滅するだろうから。」


副隊長「分かりました。伝えておきます。」




二人は、他の住人の手がかりを聞き、教会などを探して回ることにした。









 ~ to be continued








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