龍慶日記

黒山羊

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ケイト編

【外伝】 忘却の中

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メディカルマシーンの蓋が開く。


リルム「おはようございます。アスカ、あなたに伝えておかなければいけないことがあります。」




アスカが目を覚ます。
横のメディカルマシーンでは、ケイトが治療を受けている。

アスカは胸をなでおろした。





アスカ「あの、何でしょうか。」

リルム「彼は、あなたを治療する代わりに、私に肉体を提供しました。次に自我を取り戻すのは、30年から40年後になります。」

アスカ「えっ?」


リルム「あなたが、この施設で待つのであれば、食料と水の確保と、身の安全は保障します。出ていくのであれば、無理に止めることはしません。」

アスカ「ちょっと、それどういう意味よ!」

リルム「もう一度説明します。この施設で・・・。」



アスカ「違う違う!ケイトが肉体を提供したって話よ!わたし何も聞いてない!」

リルム「あなたを守るために、彼は即断をしました。アスカ、あなたは耐性を得ています。もう安全です。」



アスカ「そんなの・・・望んでない・・・。」

アスカはその場に座り込み下を向く、アスカの肩が震え、床が濡れる。




アスカ「わたし、ここで待つ。」

リルム「アスカ、私に出来ることがあれば協力します。」

アスカ「ありがとう。」





~翌日~

アスカは、目を覚ます。
温かい。いつの間にか、毛布が掛けられている。
昨日のことを思い出す。
彼のメディカルマシーンの横で泣きながら寝たはず。

いまは、近くの休憩室のソファに横になっていた。
何かにハッと気づき、メディカルマシーンに駆け寄り、のぞき込む。

しかしそこに、ケイトの姿はない。




アスカ「リルム、ケイトは?」

リルム「いまは外に出ています。いま彼の名はバベル。」

アスカ「なにそれ、ケイトはケイトよ!」

リルム「人間の意志は強いものなのですね。私の思いのままに動くはずだったのですが、多少予定外の行動をして困っています。」



アスカは気づく、こんな機械の感情しかないリルムが、わざわざケイトを動かし、自分をソファまで運び、毛布を探してきて掛けるなんてしないだろう。もしかすると・・・。すぐにでもリルムから解放されるかもしれない。

そう考えると、自然と安心できる。


少しの辛抱、そう、ほんの少しの辛抱なんだから・・・と。








~2日後~

ケイトは、まったく戻ってこない。
どこか遠くまで行っているようだが。
車の鍵は、アスカが持っているし、歩いていくのであれば、時間もかかって仕方がないだろう。


今日も、特にすることもないので、東区の研究員の遺体に墓を作ってあげることにした。
そのことをリルムに告げると、リルムから、東区にドラゴンが住み着き、危険だからやめておくように言われた。



アスカ「だったら、外の様子を見る分には問題ないでしょ。」

リルム「それは問題ないですが、私の管理できる場所にも制限があります。いまは、西区・中央区2階まで、このフロア以外は、施設内でも安全の保障はできません。それに、外に出た場合は、バベルとの契約外になるので、安全の保障はしません。」

アスカ「問題ないよ。」

そういうと、アスカは入り口を目指した。


ドアは閉まっており。
押して開けれるようなものではない。

アスカは、しばらく扉を見つめていた。
扉が開く気配はない。



天井の崩れた場所からは、黒くタールのように粘りつく雨が降りこんでくる。

アスカ「ケイト、外に出て大丈夫かな・・・。みんなも無事だと嬉しいな・・・。」



アスカが階段を上り、戻ろうとしたとき、機械音声がなる。
「パスコード確認、メインゲート解放します。」

アスカは振り返る。


そこには、雨で黒く汚れているが、見慣れた顔があった。


視界がぼやける。しかし、はっきりと認識できた。

アスカ「ケイト!」

アスカは彼の元に走り寄り、彼に抱き着く。

2人は見つめあう・・・。

ケイト「アスカ・・・。」

アスカ「うん。大丈夫?」

ケイト「君は・・・。」

アスカ「大丈夫だよ!ここから逃げよ!みんなを探そ!」

そういって、ケイトの腕を引っ張る。アスカにつられてケイトも歩き出す。



リルム「バベル!命令です、その女は危険です。その女を殺しなさい!」

リルムの声が鳴り響き、ケイトはアスカの首を絞める。






しかし、その力は、弱弱しく、アスカの首を絞めることはできない。





アスカ「大好きだよ。全部終わったら、一緒に暮らそう。独りは寂しいからね。」

そういって、首を絞めるケイトの手に優しく手を重ねる。




ケイト「僕に、こんな、命令、するな!」

ケイトの左目から、血液が流れだす。



アスカ「一緒に逃げよう、最初に約束を破ったのは、リルムなんでしょ。気にすることないよ。」

アスカはケイトの手を握り、外に止めてある作業用軽トラックに逃げ込む。


アスカはエンジンをかけ、車を走らせた。




アスカ「地下基地を目指しましょう。」

もしかすると、だれか戻っているかもしれない。わずかな希望にかけて、車を走らせる。


助手席では、ケイトが頭を押さえ苦しんでいる。





山を下り、街の外れまで来た。


ブルルル・・・ルル・・ル・・・。



地下基地まで、あと少しのところで、車のエンジンが止まる。


アスカ「ガス欠みたいね、大丈夫?歩ける?」

ケイトも少し落ち着いていた。

ケイト「うん。大丈夫。僕が車を押すよ。」

アスカ「大丈夫よ。私にも耐性ができたんだって、あの機械女が言ってた。一緒に歩こ。」



ケイト「そうだね、傘も1本ならあるし、今度は楽な相合傘だね!」

そういって、傘を座席の後ろから取り出す。

アスカは、思わず笑う。




アスカ「傘1本なら、くっついて歩くのも歩きずらいし、押してもらおうかなー♪」

ケイトが助手席を下り、運転席に回りドアを開ける。






アスカが濡れないように、傘を差し出し、手を握る。

ケイト「独りは寂しいからね。」

アスカ「うん。」

そういって二人は、雨の中を歩き始めた。




歩き始めると、黒い雨が少し、弱まってきた気がした。





















雨の降りしきる中、一つの傘が、進み続ける。



アスカ「ケイト、大丈夫?」

ケイト「うん。大丈夫だよ。」

笑顔で答えているが、明らかに疲れがたまっている。




アスカ「休もうか?」

ケイト「いや、まだ歩けるから。みんな無事だといいね。」




こんな押し問答が、ずっと続くんだろうな。そう感じたアスカは、言葉を選ぶ。

アスカ「私が疲れたから休みたいの。」

ケイト「ごめん。気づかなくて。えっと・・・。」

ケイトは辺りを見渡す。




ケイト「あそこで休もう。」

そういって、崩れた壁が屋根のようになった場所を指さす。

アスカ「その隣の方が休めそうじゃない?」

アスカの指さす先に、大きな建物の残骸がある。かろうじて原型を留めている部屋もあり、休むことも出来そうだが。



ケイト「あれは、危険だよ。基礎がむき出しになってるでしょ。この長い雨で、地盤も柔らかくなってるし、うかつに近づくと倒壊してしまうから。万が一崩れても脱出できる方が、安心して休めるよ。」


アスカ「なるほど。ケイトは大学でそういうこと学んだの?」

ケイト「まだ高校生だよ。まあ、もう高校もないし、永遠の秋休みになってるんだけど。」




アスカ「だよね。まだ高校生だもんね。」

アスカ心の声「そうだった。まだ18歳の高校生だった。私、犯罪者になるじゃん!・・・。でも、ケイト面白いし、大事な時は、落ち着いててカッコイイしな・・・。」

ケイト「アスカ、大丈夫?」

アスカ「うん。早く休も。」



2人は、ケイトの選んだ場所で休憩する。
体が濡れているからか、少し寒い。
ケイトと寄り添っていなければ、寒さで凍えてしまうだろう。


ケイトの持っていた、保温用シートを広げる。一人分のシート、ケイトは、はみ出してるだろうが、そんな素振りは見せず、アスカを温かく包み込む。さっきまで憎く感じていた雨の音も、心地よい音色のように感じる。






アスカは、いつのまにか眠っていたようだ。

ケイト「おはよ。起こしちゃった?」

アスカ「ううん。ちょうど目が覚めたとこ。」

ケイトが優しく微笑む。アスカは、嬉しくなる。



アスカ「ケイトも眠れた?」

ケイト「うん。ちょっと寝言が気になったけど。」

アスカ「寝言?」

ケイト「そう。ケイト大好きとか、愛してるとか。」

アスカは、顔を真っ赤にする。

アスカ「そんなこと・・・。思ってるかも・・・。」

ケイト「冗談だったんだけど・・・。でも嬉しいよ。」

アスカは、ケイトをにらむ。が、ケイトの笑顔を見ると、つい口元がゆるむ。




アスカ「どれくらい寝たんだろう?」

腕時計を確認すると、まだ2時間程度しか経っていない。

ずいぶん寝た気がしたんだが。

ケイト「夜の行動は危険だ、ここで朝を待とう。」

そういって、やさしく抱きしめてくれる。

アスカは深い眠りについた。










ふと目が覚める。

時計を見る。5:00を回ったところだ。習慣とは恐ろしい。


ケイトは、普段とはちがう、あどけなく、可愛らしい寝顔をしている。

アスカは、ケイトを起こさないように、じっと待つ。

寝顔を見ているのも幸せだ。起こさないように、起きるまで待つことに決めた。





























・・・我慢の限界だ。



アスカ「朝だよー!起きてー!!!」

時間はすでに、10時を回った。このまま起こさなければ、空が晴れ、光が彼を目覚めさせるまで永遠に起きない気がした。

ケイト「おはよう、アスカ!」

驚くほどに、目覚めが最高にいい。こんなことなら、最初から起こしておけばよかったと思った。



大きなあくびをしたあと、ケイトが何かを差し出す。

ケイト「これ、食べて。」

アスカ「何?このコンソメスープの素みたいなの?」

ケイト「研究所にあった、携帯食料だよ。1粒で1日分のカロリーと栄養素がとれるみたい。」

アスカ「こんなの、軍でも見たことないよ。」

そう言って、一粒食べてみる。

結構弾力もあり、餅を食べているみたいな触感だ。味は野菜と肉と魚、それに味噌・・・。



ケイト「餅入り固形味噌汁って感じじゃない?」

アスカ「そうだ!それだ!弾力もあって、味も美味しい。」

ケイトはニコニコしている。



朝食?も済み、地下基地を目指し始める。

相変わらずの雨で、気温も寒冷地の冬山のように厳しい。





~3時間後~

目の前に、ショッピングセンターが見えてきた。

ショッピングセンター横にあった、空のホテルが爆風を防いだのだろうか、ホテルは倒壊し、ショッピングセンターの東側に倒れるように、折れ曲がっている。


近くまで行き、地下基地の入り口を見つけるが、ホテルが崩れているため、エレベーターは使えない。

アスカ「どうやって降りようか。」

ケイト「あのロープは?」

アスカ「だめ、全然長さが足りない。」

持っていたライトで、下を照らす。


ケイト「おーい!だれかいるかー」

アスカは、ケイトをみる。


恥ずかしそうに答える。

ケイト「別に声だけ降りればいいんじゃない?」

アスカ「それもそうね。」

ふたりは、地下基地へと続く穴に叫び続ける。



がさ!

背後で音がした。

振り返る二人の目に、懐かしい姿が映る。


アスカ「ハギ曹長に、カメイノ曹長! よかった二人とも無事だったんだね!」

カメイノ「アスカ中尉もご無事で・・・。」

カメイノは、泣き出して言葉が詰まる。

ハギ「ケイト、やるじゃないか!ソロモン研究所は倒壊してただろ、二人ともイダにあったのか?」

ケイト「イダ?」

アスカ「いいえ、私たちは、」

ハギ「中尉、雨の中立ち話もなんです。新しい基地へ案内します。」



そういうと、ハギの案内の元、ショッピングセンター内に入っていった。








~ショッピングセンター 催し物広場~


広場には、複数の兵士と、銃器が持ち込まれていた。

兵士には、ソロモンに侵攻したメンバーもいれば、見たことのない、顔もたくさんある。



ハギ「いまの基地はここです。」

アスカ「ここの指揮は誰が?」


ハギ「私です。しかし、中尉が助かったのであれば、心強いです。」

アスカの顔色が変わる。


ケイト「ムラサメ隊長は?」

ハギ「ああ、イダの持ってきた薬に適合することができずに・・・。」

アスカ「・・・そうか。」





ウォォォォォォォ!





ショッピングセンターの奥から咆哮が聞こえる。


アスカは、とっさに銃を構える。

ハギ「待ってください。何も問題ありません!」

アスカ「しかし、いまの咆哮は、ドラゴンの咆哮だろ!」

ハギ「大丈夫です。鎖でつながれています。」

ケイト「ドラゴンを捕縛したんですか?」

ハギ「・・・あれは、」

ハギは下を向く。



カメイノ「あれは、ムラサメ大尉です。薬に適合できずに、ドラゴンに変化しました。意識を失う前に、自分の体を鎖で縛りつけさせたので・・・。」

カメイノ「他にもドラゴンに変わってしまった人は、大勢いたのですが、ムラサメ隊長が、彼らを追い出してくれて、ここの安全は維持されました。」

カメイノも下を向く。



アスカ「ハギ軍曹、ドラゴンから元に戻す方法は?」

ハギ「薬を持ってきた、イダという少女の話では、我々のように、D細胞に適合すれば、この放射能の中を生き抜くことができるそうですが、適合できなければ、ドラゴンになってしまい、もう戻れないと言われました。」

アスカ「・・・。 」



ケイト「リルムに確認するのはどうかな。」


アスカは目を潤ませて、ケイトを見る。

アスカ「だめ!絶対に・・・。ケイトは戻ってはいけない。それだけはやめて。お願い・・・。」



カメノイ「中尉・・・。ケイトさん、何があったか分からないけど、あなたたちは、ここにいてください。中尉も長旅で疲れているんでしょ。」

2人とも、休める場所を準備するから着いてきてください。

そういうと、カメイノは、アスカに肩を貸す。



ついていこうとするケイトの肩を、ハギが捕まえる。

ハギ「さいわい、ここには、兵士もたくさんいる。俺たちに任せて休んでいてくれ!」









2人は、接客用のソファーがある店舗に部屋として通された。

カメイノがアスカに小声で話す。

カメイノ「もうすみましたか?」

アスカは黙って顔を横に振る。

カメイノ「一応、中から鍵を閉めることもできます。頑張って下さい。」

そういって、入り口の鍵をアスカに渡し部屋を出る。




ケイト「何て言ってたの?」

アスカは、顔を真っ赤にして答えた。

アスカ「ほら、その、・・・休む前に、このブティックの服を着てみたらって話をしてただけ。なかなか、おしゃれする機会もないでしょ。うん。そう、それだけ!」

ケイト「そうだね!試着室もあるし、せっかくだから来てみようよ!」


なぜか、二人でファッションショーをすることになる。

2人は、いままでのことを全て忘れるかのように楽しんだ。














~次の日~


のどが渇き目が覚める。


辺りを見回しても、ケイトの姿ない。

胸騒ぎがし、服を着がえて部屋を出る。









どうやら、胸騒ぎはあたっていた。









ケイト「おはよう、アスカ!」

普段通りのケイトがそこにいる。










ニヤつく、カメイノ


カメイノ「中尉、ゆうべはおたのしみでしたね。」

ハギ「中尉、さすが、ハイグレードですね!いきなりコスプレですか!」

アスカ「勘違いだ。昨日は、ただのファッションショーだから。」



カメイノ「きゃー!いいんですよ。ケイトくん、カッコイイからしかたないですよ。」


ダメだ、勘違いが止まらない。



アスカ「ケイト、昨日何をしたか説明してやってよ。」

ケイト「うん。いいよ。昨日は、朝起きて食事を・・・。」

アスカ「昨日の夜からでいいよ。」

ケイト「ファッションショーをして、いつも通り、二人で寝たよ。」



カメイノ「いつも通りって、やっぱりしてたんじゃないですかー。」




ダメだ、もう止まらない。







まあ、こんな緊張した中、娯楽もなく、仕方ないことなのかもしれない。









ハギ「にしても、バベル研究所は凄いですね。こんな携帯食料があるだなんて。」

そういうと、ハギは、ケイトの持っていた携帯食料の袋をアスカに渡した。

ハギ「中尉、我々だけでも、バベル研究所に行く価値はあります。このままここにいても、いずれ食料がなくなり、全員餓死してしまいます。外は、黒い雨が降り続け、食料を生産することもできない状況です。少しでも食料を集めておかないといけません。」


アスカ「だったら、わたしも・・・。」

ケイト「アスカが行くんなら、一緒に行くよ。」


カメイノ「ケイトくん、外は危険だからここで待ってて。それに、敵はドラゴンだけじゃないの。いまこの付近にも得体のしれない生物が増えてきてて、行動には危険が伴うの。」

ケイト「だけど・・・。」

ケイトはアスカを見つめる。


アスカ「ケイトなら大丈夫だよ。一緒に行ける?」

ケイト「もちろん!」

ハギ「しかし、中尉」


アスカ「大丈夫。ただ、一つだけ約束して。バベル研究所には、絶対に入らないこと。」

ケイト「これがあるからでしょ。」

そう言って、左のこめかみを指さす。

二人は、顔を見合わせ、笑顔で合図する。



アスカ「負傷兵は、基地で待機、万が一戦闘が起きた際は、速やかに隠れ、無理な反撃はしないこと。」

アスカ「それ以外の兵士は、バベル研究所へ進軍します。」


ハギ「了解!」

ハギ「総員、武器を携行し、配置に着け。」

カメイノ「中尉、演習から引き揚げてきた車両が6台動かせる状況です。」

アスカ「ハギ軍曹、班をわけて行動を開始する。目標の入り口は一か所、周囲のドラゴンは、ケイトが殲滅してます。」

ハギ「了解」

カメイノ「ケイトくんが!?いったいどうやったの?」


アスカは、ケイトをみる。

ケイト「秘密!」

アスカ心の声(・・・笑顔が可愛い。)









~軍事施設バベル~



6台の軍用トラックが兵士を載せ、施設に近づく。

あとは、山道に入り、上り切ればたどり着く。






無線「ザザザァ!応答願います。」

そこに、ショッピングセンターの基地から無線が入った。





無線「こちら、SC基地、ムラサメ大尉の鎖がほどけ、施設内で暴れています。至急、応援をお願いします。」

無線「繰り返す、こちら、SC基地、ムラサメ大尉の鎖がほどけ、施設内で暴れています。至急、ザザザア」


ハギ「中尉、どうします。」

アスカ「引き返す。悩むまでもないだろ!」





バベル内にも、ドラゴンが住み着いたと言っていた、リルムの一言が頭をよぎる。

嘘かもしれないが、警戒するに越したことはない。


6台は、ショッピングセンターに引き返した。








~2時間後~

ショッピングセンターにたどり着く。外からの様子は、変わりないようにも見える。


アスカは指示を出し、兵士を3部隊に分けた。

1班・アスカ  正面玄関、基地付近から侵入。
2班・ハギ   捕縛していた家具売り場近くから侵入。
3班・カメイノ 捕縛位置から遠い、スーパー付近から侵入。

ケイトは、カメイノに着いていく。



それぞれの班が、配置に着く。


アスカの合図で、同時に突入し、中の様子を確認する。

【1班】
アスカは、中の様子を確認する。
床には、戦った薬莢が転がっている。

注意して進む。




3班から無線がはいる。
カメイノ「こちら3班、生存者を発見。傷が深いので、安全な位置まで運び出します。」

アスカ「必要であれば、傷の治療を優先してくれ。」







ダダダダダダダダダ!


2班が戦闘に突入したようだ、東側の家具売り場の方から銃声が鳴り響く!


アスカは、2班の元へ急ぐ。


ダダダダダダダダダ!



銃声が鳴り響く!





アスカたちは、2班と合流した。


ハギ「上だ!上を見ろ!」


1班が上を見上げると、黒い影が降ってきた。

間一髪、アスカは攻撃をかわし、反撃に出る。

ダダダダダダダダ!


影は、反撃を受けると、慌てて飛び上がった。


アスカ「大丈夫か!」

アスカのすぐ後ろにいた兵士は、首から肩にかけ食いちぎられ、血が止まらない。

激しい呼吸が、徐々に止まる。




兵士「中尉!来ました!」


ダダダダダダダダダ!

他の兵士が弾幕を張り、難を逃れる。


アスカ「ここは危険だ!天井の低い廊下まで後退!」

ハギ「中尉!援護します!」

弾幕を張りながら、後退する。


兵士「うわー!」


後方から声がする。


アスカが振り返ると、別のドラゴンが現れた!



アスカ「くそ!このまま強行突破だ、2班の元まで駆け抜けろ!」




アスカたちは、2班の元までたどり着く・・・。


アスカ「ハギ曹長・・・。」



そこにいたはずの、2班の兵士の姿がない。

入り口の方には、先ほど襲撃をかけてきた黒い影のドラゴンがいた。




ダダダダダダダダダダダダダダダダ!


スーパーの方からも銃声が鳴り響く。






兵士「中尉!後方のドラゴンが転進しました。」

兵士「いまのうちに撤退しましょう。」

後方を塞いでいたドラゴンは、反対側の入り口の方へ進んでいく。



アスカ「撤退!みな、生きのびて!」

アスカは、目の前にいる、黒い影のドラゴンの注意を引くため、ドラゴンを攻撃しながら、兵士とは反対方向へ移動を始めた。


黒い影のドラゴンは、一気にアスカに詰め寄る。

あきらめかけてたその時、





ダダダダダダダダ! 銃弾が黒い影のドラゴンを襲う。

ケイト「アスカ、逃げよう!」




アスカの目線の先に、ケイトやカメイノ、他の兵士の姿が映る。

ケイトが危険を顧みず、アスカに近づく。



黒い影のドラゴンは、ケイトに巨大な爪で連続で攻撃を加える。が、紙一重で当たらない。
さらに攻撃を加えても、ケイトには、かすりもしない。






カメイノ「ハギの敵!」

ダダダダダダダダ!

黒い影のドラゴンは、攻撃を受け、ひとまず上へと、逃げ去った。






ケイト「アスカ、立って。」

アスカは腰が抜けて立ち上がれない。

ケイトが、アスカを担ぐ。



ケイト「アスカは助けた。」





カメイノ達が手を振っている。






ケイトもアスカも上を警戒した。

上には、ドラゴンの気配が感じられない。


みんなの元に駆け寄るように、進みだすケイト。






アスカは、何もかも無事に終わるような気がしていた。







瞬きをした一瞬、上空から黒い影が二人を襲う。とっさに身をかがめ、アスカに覆いかぶさるケイト。

背中を大きく切り裂かれている。













響く銃声、黒い影は、そのままカメイノたちを襲った。





















響く銃声が鳴りやむ。











ウォォォォォォォ!










嘆くように響き渡る咆哮。





ほんの一瞬の出来事だった。

アスカ「全滅だ。」





覆いかぶさるケイトの体が熱い。


アスカ「ケイト、大丈夫?」

ケイト「心配しないで。俺がアスカを守る。」







優しかったケイトの目つきが変わり、ドラゴンのように、横長の独特の瞳になる。

柔らかかった肌は、やすりのように固くザラツキ、背中には青い天使の羽根が生えている。



ケイト「アスカ、にげろ、俺が、まもる、必ず、」



黒い影は怯えているような感じがした。

黒い影がアスカを襲う!




しかし、その牙はアスカに届かない。

巨大な牙を抑えるケイト、




ドラゴンは、目標を変え、ケイトを切り裂こうと巨大な爪を振り下ろす!

ケイトは攻撃をよけ、わざと皮膚を切らせる。


しかし、ドラゴンの凶悪な爪では、ケイトを切り裂くことはできない。


ケイトの右腕が光に包まれる。光は刀のような形に集まる。ケイトが光を握ると、そこに一振りの刀が現れた。



一瞬だった、彼の振り下ろした刀が、ドラゴンの鼻先をかすめる。




小さな傷の光は、全身に広がり、黒い影のドラゴンは消滅した。



アスカ「ケイト」


ケイト「アスカ、にげて、」

ケイトの目から涙がこぼれる。






アスカ「逃げないよ。何度も言わせないで、全部終わったら、一緒に暮らそ。独りは寂しいからね。」

アスカの目も涙があふれる。





ケイトの持っていた刀が、アスカの腹部を貫いている。





それでも、アスカは離れない。

アスカ「ずっと一緒にいるからね。安心して。」

刀を伝い、アスカの血が、ケイトに流れる。


ケイト「うん。」


二人は目を閉じる。


















・・・ケイトの声が聞こえる。


















リルム「戻ってきましたね。」

ケイト「ああ、アスカを治してやってくれ。」

リルム「しかし、あなたには、私の設計した機械が通用しません。」

ケイト「たのむ。」

リルム「では、3か月ほど、眠っていてください。」

リルム「彼女の傷を癒しますから。」









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