龍慶日記

黒山羊

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ケイト編

第三話 ~進行する時~

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~地下基地内・エレベーター前~


ムラサメ「全員そろったな。」


全員と言っても、兵士は10名。
しかも、一般人であるケイトを入れての11名しかいない。


ムラサメ「今回の作戦は、ホープに疑われることがないよう、少数精鋭での作戦になる。なお、無線による交信は、ホープに疑われる要因になるため、使用不可。同様に、対ドラゴン用兵器である自立戦闘型機械の使用も規制されている。諸君には、いままで鍛え上げた肉体と精神が試される任務となるだろう。しかし、この任務を達成させることができれば、人類の反撃につながる大きな成果をあげることができる。共に生きて帰還しよう。」


兵士は、3人一組で行動をとるようだ。
なぜ3人かというと、ドラゴンに遭遇しても、2人がかりで弾幕を張れば、1人は逃げることができるからだそうだ。それに、大人数で進軍しても、ドラゴンに発見されるリスクが高まる。今回の作戦はちょうど3人がいいらしい。


A班【ムラサメ、ケイト】  主に作戦指示と援護
B班【ハギ、他2名】    主に戦闘とドラゴンの囮
C班【アスカ、他2名】   主に索敵と戦闘
D班【兵士2名、技術者1名】主に索敵とデータ回収

A班、D班に至っては、非戦闘要員がいる。


ただ、この作戦の指揮を執る将校は、ケイトがドラゴン襲来の生き残りということもあり、期待は大きいようだ。


アスカの参戦で編成に若干の変更があり、3班編成から4班編成になった。
これが、吉とでるといいのだが。


全員は、ホテルの1階まで、業務用エレベーターで移動。ホテルの搬入口内に止めてある、配送用トラックの荷台に乗り込む。外での行動は、衛星の目からも隠しながら行動しなければならない。

配送用トラックが止まる。扉が開けられると、そこはトンネル内だ。
ココから下水道に入り進軍していくそうだ。

ハギ「隊長、ソロモン研究所に着くまでは、地下のハイキングが続きますね。」

ムラサメ「ああ、海外の下水道を通ったこともあるが、日本の地下は快適だな。」

ハギ「ですね。昨日のうちから、ここで休んでおけば楽だったかもな。」

兵士たちが笑う。

アスカ「最低、笑えないわ。」





1時間くらい歩いた。

ソロモン研究所に近づくにつれ、口数が少なくなる。

ハギ「思ったより、歩きましたね。あと半分ですよ・・・。」

ムラサメ「ああ、ソロモンの近くにトンネルはないからな。」



・・・。





アスカ「ねえ、ケイト、昨日のこと許してあげるね。今日は連れてきてくれて、ありがと。」

ケイト「う、うん。」

ムラサメ「ケイトが何かやらかしたのか、」

ハギ「ケイトは、俺の事、40代に見えるって言ってたくらいだからな。」

アスカ「あー、確かに見えるな。」

ハギ「中尉、そんなこと言わないで下さいよ。」



・・・。



・・・。



・・・。


ゴゴゴゴゴォォォォ!




ムラサメ「どうしたんだ!いったい!」

ハギ「なんだ!地震か?」

みな、動揺している。


ムラサメ「落ち着け、状況を確認する為、上を目指そう。ココから一番近い地上への経路は?」

アスカ「南に1Km地点にあります。」


ムラサメ「C班は、地上を確認後、急ぎ合流。他は、このまま進軍。」

アスカ「了解!」

ケイト「アスカさん、気を付けて。」

アスカ「ありがとう、ケイト」







ムラサメ「我々も先を急ぐぞ!」






30分くらい進軍したところで、地上の様子を確認しにいった、C班が戻ってきた。

ムラサメ「遅かったな、心配したぞ。」



外は激しい雨だったのだろうか、アスカの体は濡れ、黒く汚れていた。





アスカ「それが、・・・。」


アスカは、みんなと距離を取っている。




ムラサメ「どうした?」


アスカが泣き出した。


兵士「地上は壊滅、核兵器による攻撃を受けたようです。」

ハギ「核兵器!?それは本当なのか?」

兵士「はい、地上に上がったアスカ中尉の体から、大量の放射能反応が出てます。」

アスカ「それに・・・、私が地上に出てすぐ、黒い雨が降ってきました。」


ムラサメ「退却だ。地下を進み、できる限りの被ばくを回避するんだ。」


ケイト「だめだ、進もう。ソロモンにはDウイルスを使ってどんな怪我や病気をも治す実験をやっていたんだ。確か治療装置は1か月ほど前に完成してるって話を聞いている。アスカ中尉を連れていく。」


ムラサメ「いや撤退だ。例え治療装置があったとしても、先にソロモンが崩壊している可能性もある。基地に戻る方がいいだろう。
地下基地は雨水の貯水池を改良しただけのものだから、崩落している可能性もあるが、基地に戻れば、核シェルターが配備してあるから、被ばく被害を最小限に抑えることができる。そこで応援を待つことが最善策だ。」



アスカ「了解」
アスカは涙をぬぐう。

ケイト「だめだ、アスカ、基地に戻っても・・・。」


アスカ「私は、軍人です。命令に従い、市民の安全を守る使命があります。。。」


ムラサメ「ケイト、わかってくれ。」


ケイト「応援は来ない。日本中、いや、世界中のドラゴンの大半が消滅してる。」

アスカ「!」

ムラサメ「なぜ、そんなことが分かる?」

ケイト「胸騒ぎはしていた。だけど、確信もなかった。だけどアスカが戻ってきて分かった。核爆弾を使った世界中のドラゴンの殲滅があったんだ。だから・・・。」


ムラサメ「そんなことするメリットなど、どこにもないじゃないか!」

アスカ「ホープ・・・。」

ムラサメ「・・・。」


ケイト「そう、犯人は間違いなくホープだろう。ここで議論しても仕方ない。アスカは僕が連れていく。アスカ、僕に着いてきてくれ。」

ムラサメ「だめだ、」

アスカ「隊長!・・・。わたし・・・。」


ムラサメ「だめだ、ホープが犯人だとすれば、基地は標的にあっているだろう。だとしても、基地の仲間を裏切るわけにはいかない。それに基地が標的にあっているとすれば、大至急、戻る必要がある。」

アスカ「・・・。」

ケイト「・・・。」


ムラサメ「アスカ中尉、この行軍に、君は足手まといだ。」

アスカ「!!!」


ケイト「ムラサメさん、そんな言い方・・・。」

ハギ「ケイト、勘違いするな。アスカ中尉は大切な仲間だ。お前が責任もって後から連れてこい。」



ケイト「えっ!」



ムラサメ「アスカ中尉とケイトは、班を離脱。他は急ぎ基地まで引き返すぞ!」

ムラサメ「二人とも、必ず戻って来いよ!」



アスカ・ケイト「了解!」










二人は、ソロモン研究所を目指す。


ケイト「アスカ、肩かすよ。」

アスカ「だめ。」

ケイト「なんで?」

アスカ「わたし、被ばくしてるから。」

ケイト「気にすることないよ。治療装置に早く着くことが大事でしょ。」

そういって、ケイトはアスカに肩を貸す。

アスカ「ありがとう。ごめんね。」




ケイト「そろそろかな?」

アスカ「うん。この付近で上がってみましょう。」










~ソロモン研究所近郊~


ケイトとアスカは、地上にたどり着いた。
アスカの話した通り、そらからは、タールのように黒くまとわりつく雨が降っている。


日中にも関わらず、太陽は隠れ、空は星のない夜のように暗い。



爆風の影響を逃れ、かろうじて建物の面影を残した建物も残っているが、ソロモン研究所が残っているか不安になるほどの被害状況だ。


ケイト「雨をしのげるものを探してくる。ココで待っていてくれ。」

アスカは、不安からか、黒い雨を浴びてしまったからなのか、表情が暗く、とても辛そうだ。


アスカ「だめ、この雨は放射能を大量に含んでいるわ。あなたまで・・・。」

アスカの顔が泣きそうになる。


ケイト「大丈夫、中将が言ってた話を聞いたんでしょ。僕はD細胞の細胞移植を受けてるんだよ。この程度の放射能濃度なら完全に無効化できるから。」

アスカ「本当に?」

ケイト「もちろん。耐性テストがあったからね。問題ないよ。」

アスカ「本当に、ごめんね。ありがとう。」



もちろん、放射能の耐性実験なんてしたことない。それどころか、D細胞が体内に移植されてるなんて話も知らなかった。けれども、いまはアスカの状態の方が心配だった。






タールのような黒い雨の中を歩いている時に、異変に気付く。タールの雨が触れた個所に痛みを感じる。
顔、頭、背中、体中の皮膚に痺れるような痛みを感じる。
左腕を除いて・・・。


あの夢は、現実だったのか?



見た目にはケイトの左腕は何の変哲もない普通の左腕だった。
だから気づかなかったし、気にもしていなかった。
ケイトは、落ちていた鋭利な破片を拾い上げ、目をつぶり、自分の左腕に突き立てた。



肉を切る鈍い感覚が伝わる。。。





痛みはない。左腕からは血が流れているが、まったくと言っていい程に、何も感じない。
それどころか、傷口から見えるものは、人の腕とは全く違う。













そう・・・。















・・・機械そのものだった。



















ケイト「受け入れよう。僕は一度死んでる・・・。あれは夢なんかじゃない。」







少し雨に打たれて、冷静を取り戻したケイトは、雨よけを探し始める。






ケイトは、飛ばされてきた看板を見つけた。大きさもちょうどよく、アスカを、この忌まわしい雨から守ることもできそうだ。



ケイトは、看板をかつぎ、アスカのもとに向かった。

笑顔で話しかける。


ケイト「アスカ、いいものを見つけた!これがあれば、汚い雨から君を守れる。」

アスカ「うん。」

アスカも少し休んだからか、それともケイトに余計な心配をかけないようにか、笑顔をみせた。
まるで、無限に続く地獄の中で、天使に出会ったように、ケイトの心も満たされた。




二人は、看板を雨よけにし、大量に降り注ぐ黒い雨を避けながら進んだ。。。







しばらく歩くと見慣れた街の面影を感じる。もう少しでソロモン研究所だ。


ケイト「もう少しで着くよ。」

アスカ「よかった。研究所、無事だといいね。」










黒い雨のせいで視界が悪い。












ケイト「おかしいな。もう見えてもいいころなのに。」

黒い雨と、空を覆う黒い雲で、先を見通すことができない。


アスカ「・・・。」

ケイト「方向を間違えてるのかな?」




アスカ「・・・。」



アスカ「ケイト、落ち着いて聞いて。」




アスカ「たぶん、ソロモン研究所は通り過ぎてる。さっき、通過してきた道の脇にシェルターの扉のようなものが見えたから。」



ケイト「そんな・・・。」


アスカ「戻ろ。」




肩を落とすケイト、しかし、彼はひらめいた。




笑顔でアスカに伝える。


ケイト「そうだ!シェルターに行こう!そこに行けば助かるはずだ!」

アスカ「ええ・・・。シェルター、行ってみよ。」

アスカが優しく微笑む。





引き返す二人、黒い雨は容赦なく二人の体力を奪う。








~ソロモンのシェルター前~


ケイト「誰か!誰か開けてくれ!」

扉を必死に叩くものの反応がない。


ケイト「そうだ、マスターキーがあれば開くかも!」

ケイトは辺りを見渡す。以前、ここで・・・。シェルターの扉の前で戦った時に落とした気がする。

必死に探すが、マスターキーは見当たらない。


ケイト「インディ!答えてくれ!ここを開けてくれ。」

マザーコンピューターからの返事はない。
ケイトは、ちからなく崩れ落ちるように、座り込む。




アスカ「ケイト、大丈夫よ。たしか、もう一つ施設があったよね。そこは山の中にある施設だったはず。そこなら、二人とも助かるかもしれない。どこかで動かせる車がないか、手分けして探しましょう。」




ケイト「ああ。探そう。」






アスカ「だめ。どの車も壊れてる。」

何台か動きそうな車両を見つけるも、生体認証キーの搭載車両で、二人には動かすことはできない。









ケイト「アスカ!こっち!この車両は動かせそうだ!」

それは、施設内の整備などに使う作業用軽トラックだ。


アスカ「よかった。これなら雨に打たれずに移動ができるよ。」

そういうと、アスカは運転席に乗り込んだ。


ケイト「鍵がない。」


アスカ「大丈夫。この手の旧車なら動かせるわ。」

そういうと、電子キーの鍵穴に何かを差し込んだ。




ブルルルルル!

エンジンがかかる。



ケイト「すごい!」

アスカ「私を選んで正解だったでしょ!」

ケイト「こんな特技があるだなんて、鍵をわすれても全く問題ない便利な特技だね!」


ケイトはニコニコして、アスカの方を見る。
ケイトと目が合ったアスカは、耳を赤くして恥ずかしそうに前を向く。



アスカ「本当は、今回の班長はみんな持ってんだけどね。ソロモンに侵入するために開発された、ハッキング装置なの。接触端子があるような機械はハッキング可能なんだよ。」

ケイト「最後の鍵だね!」

アスカ「最後の鍵?」

ケイト「・・・知らない?」

アスカ「・・・とにかく、出発よ!」




希望が湧いてくる。
二人に笑顔が戻った。








アスカ「途中、基地の様子を見て行きましょ。」

ケイト「了解!」





アスカは車を運転する。

道は瓦礫で覆われていて、通行できない道もある。




回り道をしながらも、バベル研究所へと車を走らせた。








~基地付近~



二人は、道中、基地の様子を見るために、基地の近くを通ることにした。

基地の跡地は完全に陥没し、消滅していた。

今回の作戦も万全の準備をしていたのにも関わらず、ホープには、見抜かれていたのか?
どうやら標的は、人類のようだが。


アスカ「ひどい。一人も生存者が見当たらない。」

言われてみれば不思議だ。まるで、この世界に二人しか存在しないような感覚になる。それくらい、生き物の姿を確認できていない。

黒い雨が降ってきて、シェルターにみんなで避難しているからかもしれないが、それにしても生き物の気配が全くない。




基地付近にも、ムラサメたちの姿はなかった。アスカは目印を残してきたようだ。

このまま待っていても時間は二人の体を蝕む。


二人は、バベル研究所を目指すことにした。







 ~ to be continued

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