龍慶日記

黒山羊

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リュウマ編

龍慶日記Z 第四節

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~軍事施設バベル出発から2日目~

エララ「リュウマくん、起きて―!」


君は目を閉じたまま答える。

リュウマ「う~ん。まだ日の出前でしょ。もう少し寝させて。」

エララ「でも空は明るくなってきたよ!早く~!」

リルム「Dr.リュウマ、いまから準備すれば、日の出とともに行動できますよ。」


リュウマ「わかった。わかったけど、日の出まで寝させて。歩くスピードもかなり速いし、疲れがたまってるんだよ。日中は、ほぼ駆け足だよ。遅れるとエララがつついてくるし、」

リルム「エララ、仕方ありません。Dr.リュウマも疲れで弱気になっています。日の出まで待機するとしましょう。」

エララ「うー。昨日もずっと待ってた。夜はつまんない!」











~日の出~

エララ「リュウマくん、起きて―!」



君は目を閉じたまま答える。

リュウマ「う~ん。まだ日の出前でしょ。もう少し寝させて。」

エララ「でも空は明るくなってきたよ!早く~!ほら、太陽が見えてきた!」

リルム「Dr.リュウマ、日の出です。先を急ぎましょう。」


約束の日の出だ。あきらめるしかない。

リュウマ「は~い。」


エララが満々の笑みでポシェットに手を入れている。

エララ「朝ごはんの準備もできてるよ!」




プギープギー!

そういうと、エララは得体のしれない物を持ってきた。



エララ「はい、お食べ。」

プゴプゴプギー!


エララはそういうと、得体のしれない物をわしづかみして、君の口元に持ってくる。

得体のしれない物は、必死に抵抗しているようだ。



・・・君のように。





リュウマ「あの・・・エララ、食事はいらないかな。まだ携帯食料が残ってるし、今日必要なカロリーと栄養素はこれで十分だから、また今度ね。」

エララ「つまんない!また明日も捕まえてくるから、食べてね!」



リュウマ「・・・ああ、明日も携帯食料はありそうかな~。」


リルムが呆れたような声ではなす。表情は無表情だが。

リルム「問題の先延ばしでは解決に至りません。いまから経口摂取するか、きっぱりと断ったほうが身のためです。」


リルムの意見ももっともだが、エララは妹の小さいころにそっくりで、ロングヘアの似合うかわいい女の子だ。断ることも可哀想でできない。


リュウマ「うん。そうだけど・・・、とりあえず先を急ごうか。」

エララ「やった!出発だ!」




こうして、3人は出発した。

さて、君は地獄のランニングのスタートだ。









ショッピングセンターの近くを通ったとき、ふとバリケードの兵士が気になった。

リュウマ「ソロモンに急ぎたいのはわかるけど、」

リルム「進行速度の変更は受け付けません。」

リュウマ「いや、じつはそこの建物跡にいた兵士に助けてもらったんだ。」

リルム「それがどうしましたか。」

リュウマ「いや、第9部隊の人にお礼も言いたいなと思って。」

止まることなく歩き続けたリルムの足が止まる。




リルム「その部隊、隊長の名前は聞いてませんか。」

リュウマ「いや、隊長はちょうどドラゴンを追って部隊から、一人で離れていたみたいで、」


リルムは、君の話を聞き終える前に、踵を返し、ショッピングセンターの方に走り出した。

リュウマ「あれ、何かあったの?おーい!リルムー!」



エララ「リュウマくん、第9部隊はD細胞を埋め込んだ被験者たちの集団で、バベルは、そこの隊長だったんだよ。バベル以外の第9部隊の人は、適合がうまくいかなくなれば死んでしまうんだ。そうすると、機動力のある、バベルの行方は分からなくなっちゃうから。」


リュウマ「なるほど、でも、被験者の集団って、あんなにいい人たちなのに。」


エララ「なぜ?死んでしまえば一緒でしょ。だったら科学の進歩の糧になれたんだからいいんじゃないの?」



リュウマ「エララ!そんなことはない、人も機械も動物もドラゴンだって、共存できることが一番すばらしい。確かに科学の進歩に犠牲はつきものだが、死んでいいものはない。
自然の生き物は、自分が生き残るために他の命を犠牲にする、だがそれ以上の犠牲は望まない。エララ、君には自然の生き物の優しい心を持ってほしい。たとえ機械でも、D細胞を、命を持って生まれた君になら分かるはずだから。」




エララ「うん。リュウマくんが言うなら、忘れないように覚えておく。でも、基準が難しいね。」



リュウマ「ありがとう。仕方ない、判断の基準は難しいんだ。生き物の気持ちは、0か1だけじゃないんだよ。」

エララ「んー、よくわかんないけど・・・。生き物の心って難しいね。」

リュウマ「そうだね。よし、エララ、リルムを追いかけよう!」










~ショッピングセンターバリケード内~

君とエララがたどり着くと、リルムが呆然と立ち尽くしていた。

バリケードの基地内は機材や装備などはなくなり、すでに何もない状態だった。




リュウマ「リルム、」

君は、リルムに声をかける。



リルム「Dr.リュウマ!あなたがグズグズするから、バベルがどこかへ行ってしまったんじゃないですか!なぜもっと早くココに来なかったんですか!」


エララ「ママ、リュウマくんは何も悪くないよ。だってママはバベルのこと、何も教えてないじゃない。リュウマくんだって知ってたら、急いでここに向かってたよ。
リュウマくんのせいにしないで!」


リルム「エララ、私を裏切るんですか!」


リルムは本当にコンピューターなのか、まったく冷静さに欠け、感情をむき出しにしている。これは芽生えた自我が進化したことによる、正常な反応なのだろうか。

表情に出ない分、怖さを感じる。




エララ「そんなんじゃないよ。それにバベルはココから北に向かった場所に行ってるよ。」



リルム「・・・。」



エララ「ほら、そこの壁に地図があるでしょ、その地図のチェックと塗りつぶし、たぶんチェックはシェルターだと思う。そして塗りつぶしはすでに訪れた場所。」


リュウマ「おお!すごい!名推理だな。」

リルム「そして、このエリアで残ってるシェルターは、北にあるソロモンと第13シェルターだけ。」

リュウマ「彼らは、シェルターの人たちを助けて回ってるのかな?」

リルム「そうですね。先を急いでバベルに追いつきましょう。」



エララ「うん。早く追いつけるように、二手に分かれるのはどう?私とリュウマくんは、ソロモンに、ママは第13シェルターに。」


リルム「・・・。」

エララ「・・・。」



二人は黙ったまま見つめあっている。



リルム「わかったわ。では、ここから二手に分かれましょう。
Dr.リュウマ、エララに指示を出しています。確認して行動してください。」

そう言い終わると、リルムは第13シェルターに向けて出発した。






リュウマ「よし、エララ、出発しようか。」

エララ「リュウマくん、」

エララは君のズボンの裾を引っ張っている。何か伝えたいことがあるようだ。

リュウマ「どうしたの?」


エララ「リュウマくん、バベルやリルムと戦う覚悟はある?」

リュウマ「どうしたんだ、いったい?」





エララ「バベルは・・・。シェルターを破壊して回ってる。たぶん、それを知ってもママは、バベルの味方をするはず。」




リュウマ「・・・。」




エララ「一緒に逃げよう。リュウマくん。さっきの地図のしるし、シェルターのマークって気づいたのは、夜のうちに付近を探索してたから。シェルター内の人は、みんな殺されてた。」


エララ「自然の生き物は、必要以上に殺したりしないんでしょ!バベルは自然の生き物じゃないんだよ。ね、一緒に逃げよ。」





リュウマ「・・・わかった。だったら、バベルが来る前にシェルターに急がなくちゃ!」

エララ「なぜ?普通の人間のリュウマくんに、D細胞に適合してるバベルは倒せないよ。」

リュウマ「わかるよ。それでも助けに行かなくちゃ。」


エララは不思議そうな顔をしたが、君の真剣な表情から、決心したようだ。


エララ「私もついてく。ずっと一緒なんだからね!」



君は、ソロモンのシェルターへと急いだ!









~ソロモンへの道中~


空は夕焼けで赤く染まってきた。あと2時間ほどで完全に日も落ちるだろう。

エララ「リュウマくん。今日は休んでいかない?」



急なエララの提案に、君は戸惑った。




リュウマ「どうした。体の具合でも悪いの?大丈夫?」

エララ「ううん。そうじゃない。今日は色々あったから、リュウマくんと話がしたくて。」

リュウマ「そうだね、少し早いけど休もうか。」

君は、休めそうな場所を探す。

無事に休めそうな場所を確保すると、燃料を拾い集め、暖をとった。




エララ「ねえ、」

リュウマ「なに。」

エララ「リュウマくんは、この世界に満ちている魂を感じてる?」

リュウマ「うん。ドラゴンたちの魂だよね。」

エララ「うん。」





エララ「ドラゴンたちは、死滅する際に、光の粒となり、大気に広がる。その魂はすぐには消滅せず、」

リュウマ「その魂はすぐに消滅せず、次の生命を育む助けとなる。」





リュウマ「私の論文だね。」

君は横に座っているエララを見た。

どこか、表情が寂しげだ。




エララ「うん。命ってすごいね。リュウマくん、私の体は、D細胞を含んでるから、周りにある、ドラゴンの魂、感じることができるんだ。
でね、魂たちも私たちに力を貸してくれるみたい。」

そういうと、エララは空を見上げた。



リュウマ「・・・。」



エララ「わたし、ドラゴン化が進んでいる人間を殺したんだ。でも、その人、死ぬ間際にお礼を言ってた。」


リュウマ「うん。」


エララ「ショッピングモールに向かう途中、リュウマくんに怒られるまで、不思議でたまらなかったんだけど・・・。」




リュウマ「エララ、その人は幸せだったと思うよ。人は一人で死ぬのは怖いんだ。だから誰かと一緒にいたい。
でも、ドラゴンになれば、どうなるか分からない。もしかすれば、大切な人を傷つけてしまうかもしれない。
それなら、人間のまま死にたい。そう思ったのかもしれない。」


リュウマ「その人の気持ちは、その本人にしか分からないけど、エララに最後に出会えてよかったと思うよ。」


君は、どのように伝えればいいか考える。しかし、うまく言葉になっていない。





エララ「リュウマくん、ありがとう。」


エララ「でも私は、どんな姿になっても、私のことを忘れたりしても、リュウマくんには生きてほしい。」


エララ「ほら、・・・ドラゴンの魂たちもそう願ってるみたいだよ。一緒に生きようね。」















~夜明け前~

エララ「起きて、朝よ!」


君は寝ぼけているのか、目をこすり確認する。

リュウマ「あの、エララ?」

エララの成長速度が速い、つい昨日まで5歳児程度だったが、一気に成長して、10歳くらいの少女に変化をとげていた。




エララ「エヘヘッ。すぐ追いつけそうだね!」

リュウマ「いやいや。ヒマリをモデルにしてるんでしょ、背も小さめだから、絶対に追いつけないよ。」

エララ「んー!そんなことない!明日は10倍くらいになってるかもよ!」


二人は冗談を言い合いながら、ソロモンへと向かった。





ずっとこんな楽しい時間だったら幸せなのに。
















~ソロモン・シェルター付近~


朝から曇り空で天気はよくなかったが、ついに雨が降り出してきた。

二人は急いだ。



すると、背後から呼び止められた。


男の声「おーい!」

君が振り返ると、そこには見慣れた人がいた。



迷彩服「やっぱり!君だったか!」

リュウマ「あっ!第9シェルターの!よかった無事だったんですね!ほかの皆さんは?」


迷彩服「ああ・・・、何度か危険な目にあってね・・・。

ついに第9部隊も壊滅、いま俺一人だけになっちゃてさ。」

迷彩服の表情が寂しげだ。




リュウマ「・・・そうなんですね。隊長は?」


迷彩服「隊長は・・・、徐々におかしくなっていったんだ。ドラゴンの呪いかもしれないけど・・・。でも俺は、少女の持ってきた仮面が原因なんじゃないかと思うんだ。」


リュウマ「仮面!? 小さいころ、父から聞いた記憶がある。奇妙な冒険で使われていた・・・。石の・・・。」



迷彩服「いや、確かに石のような素材だったが、それはたぶん違う話だと思うけど・・・。」




エララが会話に割って入ってくる。

エララ「リュウマくん。たぶん仮面のせいで間違いないよ。素材はアダマンチウム、衝撃を電気に変え蓄えることができる合金だよ。加工しにくいこともあって、見た目は石みたいだけどね。」


迷彩服「この子は?」



エララ「リュウマくんの将来のお嫁ちゃんになります。エララです♪」

エララは可愛らしいポーズで決めているが、迷彩服は笑っている。




リュウマ「知人の子を保護してるんだよ。」

迷彩服「そんなことだろうと思った。でも、なぜ君は、そんなことを知っているんだ?」

エララは、何かを訴える目で、リュウマの方を見上げる。



リュウマ「彼女は、研究所で育ったから、実験などを見ていたんだろう。」

迷彩服「なるほど。ちなみに、あの仮面を外すことができれば、隊長を元に戻せるのか?」


食い入るように質問してくる迷彩服、エララは、君の後ろに隠れるようにして迷彩服と距離をとった。




エララ「たぶんね。あの仮面、小型化された超高感度の衛星通信システムを搭載していたから、仮面を外すことができれば可能性はあると思うよ。」

リュウマ「仮面を外しても戻らない可能性もあるんだよね?」

エララ「すぐにはね、でもバベルは、」

迷彩服「D細胞を移植しているから、元の状態に復元されていく。ということだな。」

エララ「そう、私たちと同じね。」

迷彩服「そうか、君たちもD細胞を移植したんだな。それで、この死の世界を行動できるわけだ。」



エララと君は、顔を合わせる。

ふと、エララが可愛らしくほほえんだ。




迷彩服「とにかく、私は隊長を止めるために、もう一つのシェルターに向かうとするよ。二人とも気を付けて。」




エララ「まって!」


迷彩服「どうした?」


エララ「なぜ、バベルに命を奪われそうになったのに、彼のもとに向かうの?復讐のため?」



迷彩服「いや違う。我々、第9部隊の仲間は誰一人、隊長を恨んでいない。隊長がいま仮面のせいで苦しんでる。次は我々が隊長を助ける番なんだ。」

エララ「でも、バベルと戦闘になれば・・・。」



君はエララの頭に、ポンと優しく手をのせる。そして優しくエララにほほえむ。



リュウマ「迷彩服さん、バベル隊長だと思うけど、ここから南、初めてお会いしたバリケードの近くにドラゴンが瀕死の状態でひそんでいました。ドラゴンを追い込むことができるのは、バベル隊長だけじゃないですかね。」

迷彩服「そのドラゴン、刀傷はあったか!?」

リュウマ「はい。」

迷彩服「ありがとう!たぶん、やったのはバベル隊長だ!・・・やはり南だったか。」

迷彩服の顔に、少し笑顔が戻る。



リュウマ「隊長を救うことができればいいですね!もし、私たちも仮面の男を見つけたときは、仮面を奪う協力はします。」

迷彩服「無関係な君たちを巻き込むようで申し訳ないが、隊長を救ってほしい。・・・本当にありがとう。」

迷彩服の目には、涙があふれていた。



迷彩服は、何度も礼を言い、南へと向かっていった。





別れを惜しむように、見えなくなるまで、手を振るエララ。



エララが迷彩服に手を振りながら、君に質問する。



エララ「瀕死のドラゴンなんていた?」

リュウマ「いや。」

エララ「やっぱりね。だろうと思った。」





迷彩服の姿が見えなくなる。


リュウマ「さて、第13シェルターに向かうか。」

エララ「そうだね、仮面を持ってきた少女ってのも気になるし。」

リュウマ「エララはヒロインだもんね。」

エララ「えへへっ 美少女ヒロインって二つ名をつけてもいいよ♪」

リュウマ「・・・考えとく。」







 ~ to be continued

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