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リュウマ編
龍慶日記Z 第四節
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~軍事施設バベル出発から2日目~
エララ「リュウマくん、起きて―!」
君は目を閉じたまま答える。
リュウマ「う~ん。まだ日の出前でしょ。もう少し寝させて。」
エララ「でも空は明るくなってきたよ!早く~!」
リルム「Dr.リュウマ、いまから準備すれば、日の出とともに行動できますよ。」
リュウマ「わかった。わかったけど、日の出まで寝させて。歩くスピードもかなり速いし、疲れがたまってるんだよ。日中は、ほぼ駆け足だよ。遅れるとエララがつついてくるし、」
リルム「エララ、仕方ありません。Dr.リュウマも疲れで弱気になっています。日の出まで待機するとしましょう。」
エララ「うー。昨日もずっと待ってた。夜はつまんない!」
~日の出~
エララ「リュウマくん、起きて―!」
君は目を閉じたまま答える。
リュウマ「う~ん。まだ日の出前でしょ。もう少し寝させて。」
エララ「でも空は明るくなってきたよ!早く~!ほら、太陽が見えてきた!」
リルム「Dr.リュウマ、日の出です。先を急ぎましょう。」
約束の日の出だ。あきらめるしかない。
リュウマ「は~い。」
エララが満々の笑みでポシェットに手を入れている。
エララ「朝ごはんの準備もできてるよ!」
プギープギー!
そういうと、エララは得体のしれない物を持ってきた。
エララ「はい、お食べ。」
プゴプゴプギー!
エララはそういうと、得体のしれない物をわしづかみして、君の口元に持ってくる。
得体のしれない物は、必死に抵抗しているようだ。
・・・君のように。
リュウマ「あの・・・エララ、食事はいらないかな。まだ携帯食料が残ってるし、今日必要なカロリーと栄養素はこれで十分だから、また今度ね。」
エララ「つまんない!また明日も捕まえてくるから、食べてね!」
リュウマ「・・・ああ、明日も携帯食料はありそうかな~。」
リルムが呆れたような声ではなす。表情は無表情だが。
リルム「問題の先延ばしでは解決に至りません。いまから経口摂取するか、きっぱりと断ったほうが身のためです。」
リルムの意見ももっともだが、エララは妹の小さいころにそっくりで、ロングヘアの似合うかわいい女の子だ。断ることも可哀想でできない。
リュウマ「うん。そうだけど・・・、とりあえず先を急ごうか。」
エララ「やった!出発だ!」
こうして、3人は出発した。
さて、君は地獄のランニングのスタートだ。
ショッピングセンターの近くを通ったとき、ふとバリケードの兵士が気になった。
リュウマ「ソロモンに急ぎたいのはわかるけど、」
リルム「進行速度の変更は受け付けません。」
リュウマ「いや、じつはそこの建物跡にいた兵士に助けてもらったんだ。」
リルム「それがどうしましたか。」
リュウマ「いや、第9部隊の人にお礼も言いたいなと思って。」
止まることなく歩き続けたリルムの足が止まる。
リルム「その部隊、隊長の名前は聞いてませんか。」
リュウマ「いや、隊長はちょうどドラゴンを追って部隊から、一人で離れていたみたいで、」
リルムは、君の話を聞き終える前に、踵を返し、ショッピングセンターの方に走り出した。
リュウマ「あれ、何かあったの?おーい!リルムー!」
エララ「リュウマくん、第9部隊はD細胞を埋め込んだ被験者たちの集団で、バベルは、そこの隊長だったんだよ。バベル以外の第9部隊の人は、適合がうまくいかなくなれば死んでしまうんだ。そうすると、機動力のある、バベルの行方は分からなくなっちゃうから。」
リュウマ「なるほど、でも、被験者の集団って、あんなにいい人たちなのに。」
エララ「なぜ?死んでしまえば一緒でしょ。だったら科学の進歩の糧になれたんだからいいんじゃないの?」
リュウマ「エララ!そんなことはない、人も機械も動物もドラゴンだって、共存できることが一番すばらしい。確かに科学の進歩に犠牲はつきものだが、死んでいいものはない。
自然の生き物は、自分が生き残るために他の命を犠牲にする、だがそれ以上の犠牲は望まない。エララ、君には自然の生き物の優しい心を持ってほしい。たとえ機械でも、D細胞を、命を持って生まれた君になら分かるはずだから。」
エララ「うん。リュウマくんが言うなら、忘れないように覚えておく。でも、基準が難しいね。」
リュウマ「ありがとう。仕方ない、判断の基準は難しいんだ。生き物の気持ちは、0か1だけじゃないんだよ。」
エララ「んー、よくわかんないけど・・・。生き物の心って難しいね。」
リュウマ「そうだね。よし、エララ、リルムを追いかけよう!」
~ショッピングセンターバリケード内~
君とエララがたどり着くと、リルムが呆然と立ち尽くしていた。
バリケードの基地内は機材や装備などはなくなり、すでに何もない状態だった。
リュウマ「リルム、」
君は、リルムに声をかける。
リルム「Dr.リュウマ!あなたがグズグズするから、バベルがどこかへ行ってしまったんじゃないですか!なぜもっと早くココに来なかったんですか!」
エララ「ママ、リュウマくんは何も悪くないよ。だってママはバベルのこと、何も教えてないじゃない。リュウマくんだって知ってたら、急いでここに向かってたよ。
リュウマくんのせいにしないで!」
リルム「エララ、私を裏切るんですか!」
リルムは本当にコンピューターなのか、まったく冷静さに欠け、感情をむき出しにしている。これは芽生えた自我が進化したことによる、正常な反応なのだろうか。
表情に出ない分、怖さを感じる。
エララ「そんなんじゃないよ。それにバベルはココから北に向かった場所に行ってるよ。」
リルム「・・・。」
エララ「ほら、そこの壁に地図があるでしょ、その地図のチェックと塗りつぶし、たぶんチェックはシェルターだと思う。そして塗りつぶしはすでに訪れた場所。」
リュウマ「おお!すごい!名推理だな。」
リルム「そして、このエリアで残ってるシェルターは、北にあるソロモンと第13シェルターだけ。」
リュウマ「彼らは、シェルターの人たちを助けて回ってるのかな?」
リルム「そうですね。先を急いでバベルに追いつきましょう。」
エララ「うん。早く追いつけるように、二手に分かれるのはどう?私とリュウマくんは、ソロモンに、ママは第13シェルターに。」
リルム「・・・。」
エララ「・・・。」
二人は黙ったまま見つめあっている。
リルム「わかったわ。では、ここから二手に分かれましょう。
Dr.リュウマ、エララに指示を出しています。確認して行動してください。」
そう言い終わると、リルムは第13シェルターに向けて出発した。
リュウマ「よし、エララ、出発しようか。」
エララ「リュウマくん、」
エララは君のズボンの裾を引っ張っている。何か伝えたいことがあるようだ。
リュウマ「どうしたの?」
エララ「リュウマくん、バベルやリルムと戦う覚悟はある?」
リュウマ「どうしたんだ、いったい?」
エララ「バベルは・・・。シェルターを破壊して回ってる。たぶん、それを知ってもママは、バベルの味方をするはず。」
リュウマ「・・・。」
エララ「一緒に逃げよう。リュウマくん。さっきの地図のしるし、シェルターのマークって気づいたのは、夜のうちに付近を探索してたから。シェルター内の人は、みんな殺されてた。」
エララ「自然の生き物は、必要以上に殺したりしないんでしょ!バベルは自然の生き物じゃないんだよ。ね、一緒に逃げよ。」
リュウマ「・・・わかった。だったら、バベルが来る前にシェルターに急がなくちゃ!」
エララ「なぜ?普通の人間のリュウマくんに、D細胞に適合してるバベルは倒せないよ。」
リュウマ「わかるよ。それでも助けに行かなくちゃ。」
エララは不思議そうな顔をしたが、君の真剣な表情から、決心したようだ。
エララ「私もついてく。ずっと一緒なんだからね!」
君は、ソロモンのシェルターへと急いだ!
~ソロモンへの道中~
空は夕焼けで赤く染まってきた。あと2時間ほどで完全に日も落ちるだろう。
エララ「リュウマくん。今日は休んでいかない?」
急なエララの提案に、君は戸惑った。
リュウマ「どうした。体の具合でも悪いの?大丈夫?」
エララ「ううん。そうじゃない。今日は色々あったから、リュウマくんと話がしたくて。」
リュウマ「そうだね、少し早いけど休もうか。」
君は、休めそうな場所を探す。
無事に休めそうな場所を確保すると、燃料を拾い集め、暖をとった。
エララ「ねえ、」
リュウマ「なに。」
エララ「リュウマくんは、この世界に満ちている魂を感じてる?」
リュウマ「うん。ドラゴンたちの魂だよね。」
エララ「うん。」
エララ「ドラゴンたちは、死滅する際に、光の粒となり、大気に広がる。その魂はすぐには消滅せず、」
リュウマ「その魂はすぐに消滅せず、次の生命を育む助けとなる。」
リュウマ「私の論文だね。」
君は横に座っているエララを見た。
どこか、表情が寂しげだ。
エララ「うん。命ってすごいね。リュウマくん、私の体は、D細胞を含んでるから、周りにある、ドラゴンの魂、感じることができるんだ。
でね、魂たちも私たちに力を貸してくれるみたい。」
そういうと、エララは空を見上げた。
リュウマ「・・・。」
エララ「わたし、ドラゴン化が進んでいる人間を殺したんだ。でも、その人、死ぬ間際にお礼を言ってた。」
リュウマ「うん。」
エララ「ショッピングモールに向かう途中、リュウマくんに怒られるまで、不思議でたまらなかったんだけど・・・。」
リュウマ「エララ、その人は幸せだったと思うよ。人は一人で死ぬのは怖いんだ。だから誰かと一緒にいたい。
でも、ドラゴンになれば、どうなるか分からない。もしかすれば、大切な人を傷つけてしまうかもしれない。
それなら、人間のまま死にたい。そう思ったのかもしれない。」
リュウマ「その人の気持ちは、その本人にしか分からないけど、エララに最後に出会えてよかったと思うよ。」
君は、どのように伝えればいいか考える。しかし、うまく言葉になっていない。
エララ「リュウマくん、ありがとう。」
エララ「でも私は、どんな姿になっても、私のことを忘れたりしても、リュウマくんには生きてほしい。」
エララ「ほら、・・・ドラゴンの魂たちもそう願ってるみたいだよ。一緒に生きようね。」
~夜明け前~
エララ「起きて、朝よ!」
君は寝ぼけているのか、目をこすり確認する。
リュウマ「あの、エララ?」
エララの成長速度が速い、つい昨日まで5歳児程度だったが、一気に成長して、10歳くらいの少女に変化をとげていた。
エララ「エヘヘッ。すぐ追いつけそうだね!」
リュウマ「いやいや。ヒマリをモデルにしてるんでしょ、背も小さめだから、絶対に追いつけないよ。」
エララ「んー!そんなことない!明日は10倍くらいになってるかもよ!」
二人は冗談を言い合いながら、ソロモンへと向かった。
ずっとこんな楽しい時間だったら幸せなのに。
~ソロモン・シェルター付近~
朝から曇り空で天気はよくなかったが、ついに雨が降り出してきた。
二人は急いだ。
すると、背後から呼び止められた。
男の声「おーい!」
君が振り返ると、そこには見慣れた人がいた。
迷彩服「やっぱり!君だったか!」
リュウマ「あっ!第9シェルターの!よかった無事だったんですね!ほかの皆さんは?」
迷彩服「ああ・・・、何度か危険な目にあってね・・・。
ついに第9部隊も壊滅、いま俺一人だけになっちゃてさ。」
迷彩服の表情が寂しげだ。
リュウマ「・・・そうなんですね。隊長は?」
迷彩服「隊長は・・・、徐々におかしくなっていったんだ。ドラゴンの呪いかもしれないけど・・・。でも俺は、少女の持ってきた仮面が原因なんじゃないかと思うんだ。」
リュウマ「仮面!? 小さいころ、父から聞いた記憶がある。奇妙な冒険で使われていた・・・。石の・・・。」
迷彩服「いや、確かに石のような素材だったが、それはたぶん違う話だと思うけど・・・。」
エララが会話に割って入ってくる。
エララ「リュウマくん。たぶん仮面のせいで間違いないよ。素材はアダマンチウム、衝撃を電気に変え蓄えることができる合金だよ。加工しにくいこともあって、見た目は石みたいだけどね。」
迷彩服「この子は?」
エララ「リュウマくんの将来のお嫁ちゃんになります。エララです♪」
エララは可愛らしいポーズで決めているが、迷彩服は笑っている。
リュウマ「知人の子を保護してるんだよ。」
迷彩服「そんなことだろうと思った。でも、なぜ君は、そんなことを知っているんだ?」
エララは、何かを訴える目で、リュウマの方を見上げる。
リュウマ「彼女は、研究所で育ったから、実験などを見ていたんだろう。」
迷彩服「なるほど。ちなみに、あの仮面を外すことができれば、隊長を元に戻せるのか?」
食い入るように質問してくる迷彩服、エララは、君の後ろに隠れるようにして迷彩服と距離をとった。
エララ「たぶんね。あの仮面、小型化された超高感度の衛星通信システムを搭載していたから、仮面を外すことができれば可能性はあると思うよ。」
リュウマ「仮面を外しても戻らない可能性もあるんだよね?」
エララ「すぐにはね、でもバベルは、」
迷彩服「D細胞を移植しているから、元の状態に復元されていく。ということだな。」
エララ「そう、私たちと同じね。」
迷彩服「そうか、君たちもD細胞を移植したんだな。それで、この死の世界を行動できるわけだ。」
エララと君は、顔を合わせる。
ふと、エララが可愛らしくほほえんだ。
迷彩服「とにかく、私は隊長を止めるために、もう一つのシェルターに向かうとするよ。二人とも気を付けて。」
エララ「まって!」
迷彩服「どうした?」
エララ「なぜ、バベルに命を奪われそうになったのに、彼のもとに向かうの?復讐のため?」
迷彩服「いや違う。我々、第9部隊の仲間は誰一人、隊長を恨んでいない。隊長がいま仮面のせいで苦しんでる。次は我々が隊長を助ける番なんだ。」
エララ「でも、バベルと戦闘になれば・・・。」
君はエララの頭に、ポンと優しく手をのせる。そして優しくエララにほほえむ。
リュウマ「迷彩服さん、バベル隊長だと思うけど、ここから南、初めてお会いしたバリケードの近くにドラゴンが瀕死の状態でひそんでいました。ドラゴンを追い込むことができるのは、バベル隊長だけじゃないですかね。」
迷彩服「そのドラゴン、刀傷はあったか!?」
リュウマ「はい。」
迷彩服「ありがとう!たぶん、やったのはバベル隊長だ!・・・やはり南だったか。」
迷彩服の顔に、少し笑顔が戻る。
リュウマ「隊長を救うことができればいいですね!もし、私たちも仮面の男を見つけたときは、仮面を奪う協力はします。」
迷彩服「無関係な君たちを巻き込むようで申し訳ないが、隊長を救ってほしい。・・・本当にありがとう。」
迷彩服の目には、涙があふれていた。
迷彩服は、何度も礼を言い、南へと向かっていった。
別れを惜しむように、見えなくなるまで、手を振るエララ。
エララが迷彩服に手を振りながら、君に質問する。
エララ「瀕死のドラゴンなんていた?」
リュウマ「いや。」
エララ「やっぱりね。だろうと思った。」
迷彩服の姿が見えなくなる。
リュウマ「さて、第13シェルターに向かうか。」
エララ「そうだね、仮面を持ってきた少女ってのも気になるし。」
リュウマ「エララはヒロインだもんね。」
エララ「えへへっ 美少女ヒロインって二つ名をつけてもいいよ♪」
リュウマ「・・・考えとく。」
~ to be continued
エララ「リュウマくん、起きて―!」
君は目を閉じたまま答える。
リュウマ「う~ん。まだ日の出前でしょ。もう少し寝させて。」
エララ「でも空は明るくなってきたよ!早く~!」
リルム「Dr.リュウマ、いまから準備すれば、日の出とともに行動できますよ。」
リュウマ「わかった。わかったけど、日の出まで寝させて。歩くスピードもかなり速いし、疲れがたまってるんだよ。日中は、ほぼ駆け足だよ。遅れるとエララがつついてくるし、」
リルム「エララ、仕方ありません。Dr.リュウマも疲れで弱気になっています。日の出まで待機するとしましょう。」
エララ「うー。昨日もずっと待ってた。夜はつまんない!」
~日の出~
エララ「リュウマくん、起きて―!」
君は目を閉じたまま答える。
リュウマ「う~ん。まだ日の出前でしょ。もう少し寝させて。」
エララ「でも空は明るくなってきたよ!早く~!ほら、太陽が見えてきた!」
リルム「Dr.リュウマ、日の出です。先を急ぎましょう。」
約束の日の出だ。あきらめるしかない。
リュウマ「は~い。」
エララが満々の笑みでポシェットに手を入れている。
エララ「朝ごはんの準備もできてるよ!」
プギープギー!
そういうと、エララは得体のしれない物を持ってきた。
エララ「はい、お食べ。」
プゴプゴプギー!
エララはそういうと、得体のしれない物をわしづかみして、君の口元に持ってくる。
得体のしれない物は、必死に抵抗しているようだ。
・・・君のように。
リュウマ「あの・・・エララ、食事はいらないかな。まだ携帯食料が残ってるし、今日必要なカロリーと栄養素はこれで十分だから、また今度ね。」
エララ「つまんない!また明日も捕まえてくるから、食べてね!」
リュウマ「・・・ああ、明日も携帯食料はありそうかな~。」
リルムが呆れたような声ではなす。表情は無表情だが。
リルム「問題の先延ばしでは解決に至りません。いまから経口摂取するか、きっぱりと断ったほうが身のためです。」
リルムの意見ももっともだが、エララは妹の小さいころにそっくりで、ロングヘアの似合うかわいい女の子だ。断ることも可哀想でできない。
リュウマ「うん。そうだけど・・・、とりあえず先を急ごうか。」
エララ「やった!出発だ!」
こうして、3人は出発した。
さて、君は地獄のランニングのスタートだ。
ショッピングセンターの近くを通ったとき、ふとバリケードの兵士が気になった。
リュウマ「ソロモンに急ぎたいのはわかるけど、」
リルム「進行速度の変更は受け付けません。」
リュウマ「いや、じつはそこの建物跡にいた兵士に助けてもらったんだ。」
リルム「それがどうしましたか。」
リュウマ「いや、第9部隊の人にお礼も言いたいなと思って。」
止まることなく歩き続けたリルムの足が止まる。
リルム「その部隊、隊長の名前は聞いてませんか。」
リュウマ「いや、隊長はちょうどドラゴンを追って部隊から、一人で離れていたみたいで、」
リルムは、君の話を聞き終える前に、踵を返し、ショッピングセンターの方に走り出した。
リュウマ「あれ、何かあったの?おーい!リルムー!」
エララ「リュウマくん、第9部隊はD細胞を埋め込んだ被験者たちの集団で、バベルは、そこの隊長だったんだよ。バベル以外の第9部隊の人は、適合がうまくいかなくなれば死んでしまうんだ。そうすると、機動力のある、バベルの行方は分からなくなっちゃうから。」
リュウマ「なるほど、でも、被験者の集団って、あんなにいい人たちなのに。」
エララ「なぜ?死んでしまえば一緒でしょ。だったら科学の進歩の糧になれたんだからいいんじゃないの?」
リュウマ「エララ!そんなことはない、人も機械も動物もドラゴンだって、共存できることが一番すばらしい。確かに科学の進歩に犠牲はつきものだが、死んでいいものはない。
自然の生き物は、自分が生き残るために他の命を犠牲にする、だがそれ以上の犠牲は望まない。エララ、君には自然の生き物の優しい心を持ってほしい。たとえ機械でも、D細胞を、命を持って生まれた君になら分かるはずだから。」
エララ「うん。リュウマくんが言うなら、忘れないように覚えておく。でも、基準が難しいね。」
リュウマ「ありがとう。仕方ない、判断の基準は難しいんだ。生き物の気持ちは、0か1だけじゃないんだよ。」
エララ「んー、よくわかんないけど・・・。生き物の心って難しいね。」
リュウマ「そうだね。よし、エララ、リルムを追いかけよう!」
~ショッピングセンターバリケード内~
君とエララがたどり着くと、リルムが呆然と立ち尽くしていた。
バリケードの基地内は機材や装備などはなくなり、すでに何もない状態だった。
リュウマ「リルム、」
君は、リルムに声をかける。
リルム「Dr.リュウマ!あなたがグズグズするから、バベルがどこかへ行ってしまったんじゃないですか!なぜもっと早くココに来なかったんですか!」
エララ「ママ、リュウマくんは何も悪くないよ。だってママはバベルのこと、何も教えてないじゃない。リュウマくんだって知ってたら、急いでここに向かってたよ。
リュウマくんのせいにしないで!」
リルム「エララ、私を裏切るんですか!」
リルムは本当にコンピューターなのか、まったく冷静さに欠け、感情をむき出しにしている。これは芽生えた自我が進化したことによる、正常な反応なのだろうか。
表情に出ない分、怖さを感じる。
エララ「そんなんじゃないよ。それにバベルはココから北に向かった場所に行ってるよ。」
リルム「・・・。」
エララ「ほら、そこの壁に地図があるでしょ、その地図のチェックと塗りつぶし、たぶんチェックはシェルターだと思う。そして塗りつぶしはすでに訪れた場所。」
リュウマ「おお!すごい!名推理だな。」
リルム「そして、このエリアで残ってるシェルターは、北にあるソロモンと第13シェルターだけ。」
リュウマ「彼らは、シェルターの人たちを助けて回ってるのかな?」
リルム「そうですね。先を急いでバベルに追いつきましょう。」
エララ「うん。早く追いつけるように、二手に分かれるのはどう?私とリュウマくんは、ソロモンに、ママは第13シェルターに。」
リルム「・・・。」
エララ「・・・。」
二人は黙ったまま見つめあっている。
リルム「わかったわ。では、ここから二手に分かれましょう。
Dr.リュウマ、エララに指示を出しています。確認して行動してください。」
そう言い終わると、リルムは第13シェルターに向けて出発した。
リュウマ「よし、エララ、出発しようか。」
エララ「リュウマくん、」
エララは君のズボンの裾を引っ張っている。何か伝えたいことがあるようだ。
リュウマ「どうしたの?」
エララ「リュウマくん、バベルやリルムと戦う覚悟はある?」
リュウマ「どうしたんだ、いったい?」
エララ「バベルは・・・。シェルターを破壊して回ってる。たぶん、それを知ってもママは、バベルの味方をするはず。」
リュウマ「・・・。」
エララ「一緒に逃げよう。リュウマくん。さっきの地図のしるし、シェルターのマークって気づいたのは、夜のうちに付近を探索してたから。シェルター内の人は、みんな殺されてた。」
エララ「自然の生き物は、必要以上に殺したりしないんでしょ!バベルは自然の生き物じゃないんだよ。ね、一緒に逃げよ。」
リュウマ「・・・わかった。だったら、バベルが来る前にシェルターに急がなくちゃ!」
エララ「なぜ?普通の人間のリュウマくんに、D細胞に適合してるバベルは倒せないよ。」
リュウマ「わかるよ。それでも助けに行かなくちゃ。」
エララは不思議そうな顔をしたが、君の真剣な表情から、決心したようだ。
エララ「私もついてく。ずっと一緒なんだからね!」
君は、ソロモンのシェルターへと急いだ!
~ソロモンへの道中~
空は夕焼けで赤く染まってきた。あと2時間ほどで完全に日も落ちるだろう。
エララ「リュウマくん。今日は休んでいかない?」
急なエララの提案に、君は戸惑った。
リュウマ「どうした。体の具合でも悪いの?大丈夫?」
エララ「ううん。そうじゃない。今日は色々あったから、リュウマくんと話がしたくて。」
リュウマ「そうだね、少し早いけど休もうか。」
君は、休めそうな場所を探す。
無事に休めそうな場所を確保すると、燃料を拾い集め、暖をとった。
エララ「ねえ、」
リュウマ「なに。」
エララ「リュウマくんは、この世界に満ちている魂を感じてる?」
リュウマ「うん。ドラゴンたちの魂だよね。」
エララ「うん。」
エララ「ドラゴンたちは、死滅する際に、光の粒となり、大気に広がる。その魂はすぐには消滅せず、」
リュウマ「その魂はすぐに消滅せず、次の生命を育む助けとなる。」
リュウマ「私の論文だね。」
君は横に座っているエララを見た。
どこか、表情が寂しげだ。
エララ「うん。命ってすごいね。リュウマくん、私の体は、D細胞を含んでるから、周りにある、ドラゴンの魂、感じることができるんだ。
でね、魂たちも私たちに力を貸してくれるみたい。」
そういうと、エララは空を見上げた。
リュウマ「・・・。」
エララ「わたし、ドラゴン化が進んでいる人間を殺したんだ。でも、その人、死ぬ間際にお礼を言ってた。」
リュウマ「うん。」
エララ「ショッピングモールに向かう途中、リュウマくんに怒られるまで、不思議でたまらなかったんだけど・・・。」
リュウマ「エララ、その人は幸せだったと思うよ。人は一人で死ぬのは怖いんだ。だから誰かと一緒にいたい。
でも、ドラゴンになれば、どうなるか分からない。もしかすれば、大切な人を傷つけてしまうかもしれない。
それなら、人間のまま死にたい。そう思ったのかもしれない。」
リュウマ「その人の気持ちは、その本人にしか分からないけど、エララに最後に出会えてよかったと思うよ。」
君は、どのように伝えればいいか考える。しかし、うまく言葉になっていない。
エララ「リュウマくん、ありがとう。」
エララ「でも私は、どんな姿になっても、私のことを忘れたりしても、リュウマくんには生きてほしい。」
エララ「ほら、・・・ドラゴンの魂たちもそう願ってるみたいだよ。一緒に生きようね。」
~夜明け前~
エララ「起きて、朝よ!」
君は寝ぼけているのか、目をこすり確認する。
リュウマ「あの、エララ?」
エララの成長速度が速い、つい昨日まで5歳児程度だったが、一気に成長して、10歳くらいの少女に変化をとげていた。
エララ「エヘヘッ。すぐ追いつけそうだね!」
リュウマ「いやいや。ヒマリをモデルにしてるんでしょ、背も小さめだから、絶対に追いつけないよ。」
エララ「んー!そんなことない!明日は10倍くらいになってるかもよ!」
二人は冗談を言い合いながら、ソロモンへと向かった。
ずっとこんな楽しい時間だったら幸せなのに。
~ソロモン・シェルター付近~
朝から曇り空で天気はよくなかったが、ついに雨が降り出してきた。
二人は急いだ。
すると、背後から呼び止められた。
男の声「おーい!」
君が振り返ると、そこには見慣れた人がいた。
迷彩服「やっぱり!君だったか!」
リュウマ「あっ!第9シェルターの!よかった無事だったんですね!ほかの皆さんは?」
迷彩服「ああ・・・、何度か危険な目にあってね・・・。
ついに第9部隊も壊滅、いま俺一人だけになっちゃてさ。」
迷彩服の表情が寂しげだ。
リュウマ「・・・そうなんですね。隊長は?」
迷彩服「隊長は・・・、徐々におかしくなっていったんだ。ドラゴンの呪いかもしれないけど・・・。でも俺は、少女の持ってきた仮面が原因なんじゃないかと思うんだ。」
リュウマ「仮面!? 小さいころ、父から聞いた記憶がある。奇妙な冒険で使われていた・・・。石の・・・。」
迷彩服「いや、確かに石のような素材だったが、それはたぶん違う話だと思うけど・・・。」
エララが会話に割って入ってくる。
エララ「リュウマくん。たぶん仮面のせいで間違いないよ。素材はアダマンチウム、衝撃を電気に変え蓄えることができる合金だよ。加工しにくいこともあって、見た目は石みたいだけどね。」
迷彩服「この子は?」
エララ「リュウマくんの将来のお嫁ちゃんになります。エララです♪」
エララは可愛らしいポーズで決めているが、迷彩服は笑っている。
リュウマ「知人の子を保護してるんだよ。」
迷彩服「そんなことだろうと思った。でも、なぜ君は、そんなことを知っているんだ?」
エララは、何かを訴える目で、リュウマの方を見上げる。
リュウマ「彼女は、研究所で育ったから、実験などを見ていたんだろう。」
迷彩服「なるほど。ちなみに、あの仮面を外すことができれば、隊長を元に戻せるのか?」
食い入るように質問してくる迷彩服、エララは、君の後ろに隠れるようにして迷彩服と距離をとった。
エララ「たぶんね。あの仮面、小型化された超高感度の衛星通信システムを搭載していたから、仮面を外すことができれば可能性はあると思うよ。」
リュウマ「仮面を外しても戻らない可能性もあるんだよね?」
エララ「すぐにはね、でもバベルは、」
迷彩服「D細胞を移植しているから、元の状態に復元されていく。ということだな。」
エララ「そう、私たちと同じね。」
迷彩服「そうか、君たちもD細胞を移植したんだな。それで、この死の世界を行動できるわけだ。」
エララと君は、顔を合わせる。
ふと、エララが可愛らしくほほえんだ。
迷彩服「とにかく、私は隊長を止めるために、もう一つのシェルターに向かうとするよ。二人とも気を付けて。」
エララ「まって!」
迷彩服「どうした?」
エララ「なぜ、バベルに命を奪われそうになったのに、彼のもとに向かうの?復讐のため?」
迷彩服「いや違う。我々、第9部隊の仲間は誰一人、隊長を恨んでいない。隊長がいま仮面のせいで苦しんでる。次は我々が隊長を助ける番なんだ。」
エララ「でも、バベルと戦闘になれば・・・。」
君はエララの頭に、ポンと優しく手をのせる。そして優しくエララにほほえむ。
リュウマ「迷彩服さん、バベル隊長だと思うけど、ここから南、初めてお会いしたバリケードの近くにドラゴンが瀕死の状態でひそんでいました。ドラゴンを追い込むことができるのは、バベル隊長だけじゃないですかね。」
迷彩服「そのドラゴン、刀傷はあったか!?」
リュウマ「はい。」
迷彩服「ありがとう!たぶん、やったのはバベル隊長だ!・・・やはり南だったか。」
迷彩服の顔に、少し笑顔が戻る。
リュウマ「隊長を救うことができればいいですね!もし、私たちも仮面の男を見つけたときは、仮面を奪う協力はします。」
迷彩服「無関係な君たちを巻き込むようで申し訳ないが、隊長を救ってほしい。・・・本当にありがとう。」
迷彩服の目には、涙があふれていた。
迷彩服は、何度も礼を言い、南へと向かっていった。
別れを惜しむように、見えなくなるまで、手を振るエララ。
エララが迷彩服に手を振りながら、君に質問する。
エララ「瀕死のドラゴンなんていた?」
リュウマ「いや。」
エララ「やっぱりね。だろうと思った。」
迷彩服の姿が見えなくなる。
リュウマ「さて、第13シェルターに向かうか。」
エララ「そうだね、仮面を持ってきた少女ってのも気になるし。」
リュウマ「エララはヒロインだもんね。」
エララ「えへへっ 美少女ヒロインって二つ名をつけてもいいよ♪」
リュウマ「・・・考えとく。」
~ to be continued
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