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商店模範
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夕暮れ時、店を閉めた後の ハロルド商店に50前後の2人の男性が訪れている。
どうやら、この2人は リベリア商店店主リベリアと、その兄リベリスト商店店主リベリストのようだ。
リベリア商店店主リベリアは、レイオン商店との直接交渉の場を設けてもらう為、ハロルドの元を訪れているのだが、なかなか話が進まず、平行線のまま時間だけが経過している。
「何とかお願いします、ハロルド店主。」
「何とかと言われましても…。
エルフでない方をエルフ国へ案内することは出来ないんですよ。」
なかなか首を縦に振らないハロルドに、兄のリベリストも深く頭を下げて頼み込む。
「店主、お願い致します!
お恥ずかしい話ですが、わたしの顧客もウィンターに乗っ取られ、弟に援助を回すことも出来ない状況なんです。
なんとか、弟だけでも持ちこたえてもらえれば、わたしはどうなっても構いません。
店主が望むのであれば、リベリスト商店を廃業させ店主の元で使い走りとして働く覚悟もございます。」
「うーん、困ったな。」
しばらく考えた後、ハロルドは、ハッと何かに気づいた表情を見せ、提案を始める。
「おそらく、ハイエルフのレイオンは、リベリア店主に会うことはないでしょう。
もし、エルフ国で会ってしまえば、リベリア店主は木材の不正伐採の罪で捕らえられるでしょう。」
「なっ、なんのことでしょうか。」
「王国騎士団からエルフ国に証拠として提出された帳簿なんですがね、黒塗りしてあった部分をドワルゴ商店の帳簿と合わせてみることで、取引の実態が分かってきたんですよ。
おそらく、ミラルノ商店は不正に伐採された木材を安く買い上げ、ドワルゴ商店に正規の値段で転売する。
そして、その不正に伐採された木材を販売していたのは、リベリア商店ですよね。」
「う・・・。」
言葉に詰まるリベリアを庇うように、兄のリベリストが反論する。
「店主、そんな憶測で話をされても困ります。
我々は、前大臣の力を借りることで商売をしてきました。
恨み、妬みはあるでしょう。しかし、我々兄弟は、奪われる者の苦しみを知っています。
決して、悪事に加担することは致しません!」
堂々と反論する兄のリベリスト、その言葉から目を背けるようなリベリア。
おそらく、兄は弟の悪事に気づいてはいないのだろうとハロルドは感じ取った。
そこで、自分の考えうる最善のストーリーに二人を導く。
「リベリストさん、リベリアさん、申し訳ありませんでした。
わたしも店主レイオンから話を聞いただけで、実際にエルフの国に提出された帳簿を見ていませんからね。
勝手な思い込みで話をしてしまい、不快な思いをさせてしまいましたね。」
ハロルドは、深く頭を下げ謝罪すると、そのまま流れるように話し始める。
「それでは、お詫びの意味も兼ねて、レイオン店主と会えるように話をしてみようと思います。
しかし、レイオン店主の誤解を解かずに交渉の場を設けるのは、いい案とは言えないでしょう。
なぜなら、レイオン店主との交渉はエルフ大使館で行われます。
訪問して、誤解を解くことが出来なければ、そのまま拘束されかねません。
エルフに拘束されてしまえば、無実の罪であっても判決が出るまで50年は投獄されてしまいます。
身に覚えのない罪で投獄など、バカげていますからね。」
「おお、確かに!
では、誤解を解けるように、我々も何でも協力させてもらおう!」
ニコニコと笑顔のリベリストとは対照的に、リベリアは笑えていないようだ。
「ありがとうございます。
それでは、リベリストさん。
さっそくで申し訳ないのですが、ご相談があります。
もし可能であれば、デクイ商店の店主にも協力してもらえないか話を通してもらうことは可能でしょうか。
デクイ商店にも協力していただけるのであれば、今後の木材の必要数などが把握でき、より交渉を有利に進めることができると思うのです。
リベリアさんの無罪を証明する準備は、わたしとリベリアさんで準備しますから、デクイ商店の件をお願いしますね。」
ハロルドの言葉に、リベリストは大きく頷く。
「店主デクイは、昔からの知り合いです。
それに、木材を安く仕入れられるようになれば、デクイ商店にも恩恵がある。
かならず、協力の約束をつけてきます!」
そういうと、リベリストはハロルド商店を後にする。
思いのほか上手くいった ハロルドは笑みを浮かべながら、リベリアにも話し始める。
「リベリアさん。
リベリストさんに話せないことがあるんじゃないですか。」
「な、何のことでしょう。」
「隠したって無駄ですよ。
わたしは先ほど、一つだけ嘘をつきました。
本当は帳簿を一緒に確認したのは、わたしなのですから。
もし、このまま黙秘を続けたとしても必ず後悔します。
エルフ国は、いまリベリアさんを処刑するべく、エルフ国内で議論を行っています。
だから、レイオンと会うことができないんです。
もし、エルフ国が証拠の帳簿を王国に突き出せば、戦争を避けたいマルゲリータ大臣は、リベリアさんだけでなく従業員や家族、リベリストさんまでも犯罪者として告発し、エルフ国に身柄を受け渡すでしょう。
わたしは、そういった最悪の事態は避けたいと思っていますし、避ける方法を知っています。」
「・・・。」
「どうでしょう、わたしを信じて、わたしだけに真実を話していただけませんか。
もちろん、わたしも誰にも言いません。」
ハロルドは、リベリアの手を優しく包み込むように握り、優しい笑顔を見せる。
「ハロルドさん・・・。
どうか、この話は二人だけの秘密にして下さい。」
リベリアはハロルドに、苦しい運営が続いていた結果、利益を維持する為、何度か不正に伐採したことを告白した。
「ありがとうございます、リベリアさん。
あとは任せて下さい。決して悪いようにはしませんから。
・・・そのかわり、もう決して不正伐採に関与しない、不正伐採を見逃さないと約束して下さいね!」
こうしてハロルドは、リベリア商店店主リベリアに力を貸すことに決めた。
その後、ハロルドはリベリアに、リベリストを助けるための秘策を説明し始めた。
数日後の夕暮れ時、リベリストは デクイ商店の関係者と共に、ハロルド商店を訪れた。
すでにハロルド商店に訪れていたリベリアも話し合いに参加するようだ。
「店主!デクイ商店にも協力の約束を取り付けてきましたよ。」
そういって紹介された若い男性は、ハロルドに近づき挨拶をする。
「初めまして、デクイ商店店主代理ガバルーナ・デクイです。
この度は、エルフ国の木材価格交渉の機会を与えていただき有難うございます。
父に代わり、深くお礼申し上げます。」
丁寧に挨拶する店主代理ガルバーナは好感が持てる。
ハロルドも簡単に自己紹介を終えると、さっそく話を始める。
「それでは、今後の進め方を説明する前に、わたしもリベリアさんと相談した結果、情報を開示させていただきたいと思います。
それは、木材の価格についてですが、径200・長さ4000の素材1本あたりの価格です。
いま現在、レイオン商店から仕入ている条件ですが、銀貨330枚で取引をしています。
ちなみに、この金額を値引きすることはエルフ相手に得策ではありません。
そしてその後、ハロルド商店の利益を上乗せし、リベリア商店へ銀貨430枚で卸しています。」
「そこにリベリア商店の利益や輸送費用が乗り、デクイ商店への販売価格は銀貨800枚になる・・・と。」
「はい。
この金額を踏まえた上で聞いてもらえると助かります。
まず、目を付けたのは、わたしの仲介料です。
ここを減らすことが出来れば、その分を他の商店に回し、価格を抑えることができるはずです。
そこで、わたしの仲介料を年間の定額払いとし、レイオン商店から直接リベリア商店へと木材を仕入れるルートを確立させます。
その為に、デクイ商店には正確な木材需要報告書を制作していただく必要があります。」
「わかりました。
で、仲介料の費用は?」
「はい、レイオン商店から買い取る木材使用本数が、年間1万本前後。
ですので、金貨換算で1万枚になります。
そのままの金額を仲介料としてもらっては意味がないので、年間1万本を金貨3千枚。
それ以上は1千本につき、金貨500枚にします。」
「なるほど、しかしハロルド商店の取り分が半減してしまうようですが。」
「まあそうなりますね。
しかし、レイオン商店と値引きを交渉するのは、先ほども話した通り、得策とは思えません。
おそらく条件を引き出せたとして、リベリア商店と直接取引のルート確立くらいでしょう。」
「たしかにエルフ相手の交渉は難航するばかりだと父から聞いています。
彼らとは時間の概念が違いすぎますからね。
しかし、納得できない。
失礼かと思いますが、貴方の取り分が大幅に下がる提案をしてくるのは、何か裏があるからではないでしょうか。」
「ええ、裏があります。
それは、わたし一人で管理できなくなっているということです。
みなさんもご存じのとおり、ドワルゴ学園の設立、中新品の装備品の販売、それ以外にも多くの商売の夢があります。
そんな中、些細なことで足を止めたくありませんからね。
わたしの寿命は、エルフと違い圧倒的に短いですから。
すでに確立した仕組みを皆さんに提供したいと思ってるくらいですよ。」
ハロルドの言葉を冗談と捕らえたのか、ガバルーナとリベリストは笑顔を見せる。
そんな二人に、リベリアが笑顔で答える。
「店主代理バルーナ、仲介料は折半で行きましょう。
それから、ハロルド店主は兄さんに木材取引の管理を任せてくれるとのことですよ。
管理費用は年間金貨2000枚、年間9千本を超える取引には、特別報酬として1千本につき金貨400枚。
兄さん、リベリスト商店を立て直すチャンスではないでしょうか!」
リベリアの言葉に、リベリストは深くうなづき、ハロルドに深々と頭を下げる。
「店主ハロルド様、今後とも末永くお付き合いのほど、宜しくお願い致します。」
「はい。こちらこそ。
この仕組み、業務委託とでも名付けましょうかね。
それから、デクイ商店さん、今後ともリベリスト商店を宜しくお願い致します。」
「はい!
店主ハロルド、いや、ハロルド会長!
急ぎ店に戻り、父に報告させていただきます。
今後とも、我々デクイ商店とのお付き合いのほど、宜しくお願い致します。」
(この人についていけば、いままでにない商売のあり方が見れるんじゃないだろうか。
働かずに利益を得る仕組みを確立し、それを信頼させて売り込む。
本当に僕達と同じ商人なのか!?)
ガバルーナは、ハロルドの提案から何かを感じたのか、その場に膝まづき教えを請いたい気持ちを抑えるのに必死だったようだ。
翌日、正式にデクイ商店、リベリア商店、ハロルド商店、リベリスト商店にて書類が取り交わされることとなる。
~エルフ大使館~
エルフの大使館では、エルフたちがエルフの言葉で笑いながら話し合っている。
『さすがレイオンさんだな。』
『まったくだよ。
木材だって、運び出すのにかかる費用知ってるか?』
『日当、銀貨150枚の仕事だろ?
みんなで魔法を使って運び出すから、1本あたり、100枚とかか?』
『なに言ってんだよ。
まとめて納品場所まで運ぶだけだから、単価10枚にも満たない仕事だぞ。』
『間引きした木材を、高値で売りつける。
・・・レイオンさん、ぼろ儲けなんだな。』
どうやら、この2人は リベリア商店店主リベリアと、その兄リベリスト商店店主リベリストのようだ。
リベリア商店店主リベリアは、レイオン商店との直接交渉の場を設けてもらう為、ハロルドの元を訪れているのだが、なかなか話が進まず、平行線のまま時間だけが経過している。
「何とかお願いします、ハロルド店主。」
「何とかと言われましても…。
エルフでない方をエルフ国へ案内することは出来ないんですよ。」
なかなか首を縦に振らないハロルドに、兄のリベリストも深く頭を下げて頼み込む。
「店主、お願い致します!
お恥ずかしい話ですが、わたしの顧客もウィンターに乗っ取られ、弟に援助を回すことも出来ない状況なんです。
なんとか、弟だけでも持ちこたえてもらえれば、わたしはどうなっても構いません。
店主が望むのであれば、リベリスト商店を廃業させ店主の元で使い走りとして働く覚悟もございます。」
「うーん、困ったな。」
しばらく考えた後、ハロルドは、ハッと何かに気づいた表情を見せ、提案を始める。
「おそらく、ハイエルフのレイオンは、リベリア店主に会うことはないでしょう。
もし、エルフ国で会ってしまえば、リベリア店主は木材の不正伐採の罪で捕らえられるでしょう。」
「なっ、なんのことでしょうか。」
「王国騎士団からエルフ国に証拠として提出された帳簿なんですがね、黒塗りしてあった部分をドワルゴ商店の帳簿と合わせてみることで、取引の実態が分かってきたんですよ。
おそらく、ミラルノ商店は不正に伐採された木材を安く買い上げ、ドワルゴ商店に正規の値段で転売する。
そして、その不正に伐採された木材を販売していたのは、リベリア商店ですよね。」
「う・・・。」
言葉に詰まるリベリアを庇うように、兄のリベリストが反論する。
「店主、そんな憶測で話をされても困ります。
我々は、前大臣の力を借りることで商売をしてきました。
恨み、妬みはあるでしょう。しかし、我々兄弟は、奪われる者の苦しみを知っています。
決して、悪事に加担することは致しません!」
堂々と反論する兄のリベリスト、その言葉から目を背けるようなリベリア。
おそらく、兄は弟の悪事に気づいてはいないのだろうとハロルドは感じ取った。
そこで、自分の考えうる最善のストーリーに二人を導く。
「リベリストさん、リベリアさん、申し訳ありませんでした。
わたしも店主レイオンから話を聞いただけで、実際にエルフの国に提出された帳簿を見ていませんからね。
勝手な思い込みで話をしてしまい、不快な思いをさせてしまいましたね。」
ハロルドは、深く頭を下げ謝罪すると、そのまま流れるように話し始める。
「それでは、お詫びの意味も兼ねて、レイオン店主と会えるように話をしてみようと思います。
しかし、レイオン店主の誤解を解かずに交渉の場を設けるのは、いい案とは言えないでしょう。
なぜなら、レイオン店主との交渉はエルフ大使館で行われます。
訪問して、誤解を解くことが出来なければ、そのまま拘束されかねません。
エルフに拘束されてしまえば、無実の罪であっても判決が出るまで50年は投獄されてしまいます。
身に覚えのない罪で投獄など、バカげていますからね。」
「おお、確かに!
では、誤解を解けるように、我々も何でも協力させてもらおう!」
ニコニコと笑顔のリベリストとは対照的に、リベリアは笑えていないようだ。
「ありがとうございます。
それでは、リベリストさん。
さっそくで申し訳ないのですが、ご相談があります。
もし可能であれば、デクイ商店の店主にも協力してもらえないか話を通してもらうことは可能でしょうか。
デクイ商店にも協力していただけるのであれば、今後の木材の必要数などが把握でき、より交渉を有利に進めることができると思うのです。
リベリアさんの無罪を証明する準備は、わたしとリベリアさんで準備しますから、デクイ商店の件をお願いしますね。」
ハロルドの言葉に、リベリストは大きく頷く。
「店主デクイは、昔からの知り合いです。
それに、木材を安く仕入れられるようになれば、デクイ商店にも恩恵がある。
かならず、協力の約束をつけてきます!」
そういうと、リベリストはハロルド商店を後にする。
思いのほか上手くいった ハロルドは笑みを浮かべながら、リベリアにも話し始める。
「リベリアさん。
リベリストさんに話せないことがあるんじゃないですか。」
「な、何のことでしょう。」
「隠したって無駄ですよ。
わたしは先ほど、一つだけ嘘をつきました。
本当は帳簿を一緒に確認したのは、わたしなのですから。
もし、このまま黙秘を続けたとしても必ず後悔します。
エルフ国は、いまリベリアさんを処刑するべく、エルフ国内で議論を行っています。
だから、レイオンと会うことができないんです。
もし、エルフ国が証拠の帳簿を王国に突き出せば、戦争を避けたいマルゲリータ大臣は、リベリアさんだけでなく従業員や家族、リベリストさんまでも犯罪者として告発し、エルフ国に身柄を受け渡すでしょう。
わたしは、そういった最悪の事態は避けたいと思っていますし、避ける方法を知っています。」
「・・・。」
「どうでしょう、わたしを信じて、わたしだけに真実を話していただけませんか。
もちろん、わたしも誰にも言いません。」
ハロルドは、リベリアの手を優しく包み込むように握り、優しい笑顔を見せる。
「ハロルドさん・・・。
どうか、この話は二人だけの秘密にして下さい。」
リベリアはハロルドに、苦しい運営が続いていた結果、利益を維持する為、何度か不正に伐採したことを告白した。
「ありがとうございます、リベリアさん。
あとは任せて下さい。決して悪いようにはしませんから。
・・・そのかわり、もう決して不正伐採に関与しない、不正伐採を見逃さないと約束して下さいね!」
こうしてハロルドは、リベリア商店店主リベリアに力を貸すことに決めた。
その後、ハロルドはリベリアに、リベリストを助けるための秘策を説明し始めた。
数日後の夕暮れ時、リベリストは デクイ商店の関係者と共に、ハロルド商店を訪れた。
すでにハロルド商店に訪れていたリベリアも話し合いに参加するようだ。
「店主!デクイ商店にも協力の約束を取り付けてきましたよ。」
そういって紹介された若い男性は、ハロルドに近づき挨拶をする。
「初めまして、デクイ商店店主代理ガバルーナ・デクイです。
この度は、エルフ国の木材価格交渉の機会を与えていただき有難うございます。
父に代わり、深くお礼申し上げます。」
丁寧に挨拶する店主代理ガルバーナは好感が持てる。
ハロルドも簡単に自己紹介を終えると、さっそく話を始める。
「それでは、今後の進め方を説明する前に、わたしもリベリアさんと相談した結果、情報を開示させていただきたいと思います。
それは、木材の価格についてですが、径200・長さ4000の素材1本あたりの価格です。
いま現在、レイオン商店から仕入ている条件ですが、銀貨330枚で取引をしています。
ちなみに、この金額を値引きすることはエルフ相手に得策ではありません。
そしてその後、ハロルド商店の利益を上乗せし、リベリア商店へ銀貨430枚で卸しています。」
「そこにリベリア商店の利益や輸送費用が乗り、デクイ商店への販売価格は銀貨800枚になる・・・と。」
「はい。
この金額を踏まえた上で聞いてもらえると助かります。
まず、目を付けたのは、わたしの仲介料です。
ここを減らすことが出来れば、その分を他の商店に回し、価格を抑えることができるはずです。
そこで、わたしの仲介料を年間の定額払いとし、レイオン商店から直接リベリア商店へと木材を仕入れるルートを確立させます。
その為に、デクイ商店には正確な木材需要報告書を制作していただく必要があります。」
「わかりました。
で、仲介料の費用は?」
「はい、レイオン商店から買い取る木材使用本数が、年間1万本前後。
ですので、金貨換算で1万枚になります。
そのままの金額を仲介料としてもらっては意味がないので、年間1万本を金貨3千枚。
それ以上は1千本につき、金貨500枚にします。」
「なるほど、しかしハロルド商店の取り分が半減してしまうようですが。」
「まあそうなりますね。
しかし、レイオン商店と値引きを交渉するのは、先ほども話した通り、得策とは思えません。
おそらく条件を引き出せたとして、リベリア商店と直接取引のルート確立くらいでしょう。」
「たしかにエルフ相手の交渉は難航するばかりだと父から聞いています。
彼らとは時間の概念が違いすぎますからね。
しかし、納得できない。
失礼かと思いますが、貴方の取り分が大幅に下がる提案をしてくるのは、何か裏があるからではないでしょうか。」
「ええ、裏があります。
それは、わたし一人で管理できなくなっているということです。
みなさんもご存じのとおり、ドワルゴ学園の設立、中新品の装備品の販売、それ以外にも多くの商売の夢があります。
そんな中、些細なことで足を止めたくありませんからね。
わたしの寿命は、エルフと違い圧倒的に短いですから。
すでに確立した仕組みを皆さんに提供したいと思ってるくらいですよ。」
ハロルドの言葉を冗談と捕らえたのか、ガバルーナとリベリストは笑顔を見せる。
そんな二人に、リベリアが笑顔で答える。
「店主代理バルーナ、仲介料は折半で行きましょう。
それから、ハロルド店主は兄さんに木材取引の管理を任せてくれるとのことですよ。
管理費用は年間金貨2000枚、年間9千本を超える取引には、特別報酬として1千本につき金貨400枚。
兄さん、リベリスト商店を立て直すチャンスではないでしょうか!」
リベリアの言葉に、リベリストは深くうなづき、ハロルドに深々と頭を下げる。
「店主ハロルド様、今後とも末永くお付き合いのほど、宜しくお願い致します。」
「はい。こちらこそ。
この仕組み、業務委託とでも名付けましょうかね。
それから、デクイ商店さん、今後ともリベリスト商店を宜しくお願い致します。」
「はい!
店主ハロルド、いや、ハロルド会長!
急ぎ店に戻り、父に報告させていただきます。
今後とも、我々デクイ商店とのお付き合いのほど、宜しくお願い致します。」
(この人についていけば、いままでにない商売のあり方が見れるんじゃないだろうか。
働かずに利益を得る仕組みを確立し、それを信頼させて売り込む。
本当に僕達と同じ商人なのか!?)
ガバルーナは、ハロルドの提案から何かを感じたのか、その場に膝まづき教えを請いたい気持ちを抑えるのに必死だったようだ。
翌日、正式にデクイ商店、リベリア商店、ハロルド商店、リベリスト商店にて書類が取り交わされることとなる。
~エルフ大使館~
エルフの大使館では、エルフたちがエルフの言葉で笑いながら話し合っている。
『さすがレイオンさんだな。』
『まったくだよ。
木材だって、運び出すのにかかる費用知ってるか?』
『日当、銀貨150枚の仕事だろ?
みんなで魔法を使って運び出すから、1本あたり、100枚とかか?』
『なに言ってんだよ。
まとめて納品場所まで運ぶだけだから、単価10枚にも満たない仕事だぞ。』
『間引きした木材を、高値で売りつける。
・・・レイオンさん、ぼろ儲けなんだな。』
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