上 下
32 / 42
鬼謀の星

30

しおりを挟む
エルフの森の不正伐採事件をきっかけに、王国内は大きな変革を迎えていた。
ダンテ国王は、大臣のミラルノを あまり良く思っていなかったのもあり、事件の密告後、即刻、大臣のミラルノを更迭し、騎士団にその身柄を拘束させ、空白となった大臣のポストには、ダンテ国王の信頼厚い、騎士団長マルゲリータが直接指名された。



元大臣のミラルノは、自身が事件に関わっていなかったと反論したのだが、親族からの密告もあり、その反論が通ることはなく拘束から、わずか3日で絞首刑を宣告された。
この世界では、判決は神にゆだねられ、判決が降りなければ神官が決めるという神託制裁判という考えがあるのだが、国王の根回しもあったようで、神託裁判は秘密裏に行われたようだ。
その結果、主犯である元大臣の息子も、神託により有罪とされたらしく、ミラルノ元大臣と共に絞首刑が執行された。



ミラルノ元大臣の孫にあたるミラルノ商店店主リグルト・ミラルノは、直系の家系であるのだが、元大臣の不正を国に報告したことから、国を救ったと新大臣のマルゲリータに判断されたこともあり、その結果その罪を問われることはなかった。



元大臣ミラルノの絞首刑後、ハロルド商店、ミラルノ商店、ウィンター商店に国王からの書簡が届いた。
その内容は、今後も商会を決める為の協議は継続するということ。
それから、ドワルゴ商店店主ルルジアは、店主ルルジアがエルフの国に捉えられた為、商会候補から除外されたという旨の内容が届いたのだが・・・。




~ハロルド商店~

ハロルド商店の店先には、ルルジアの姿があった。
そんなルルジアに、ハロルド商店に遊びに来ていた客たちが声をかける。


「ルルジアちゃん、もう大丈夫なのかい?」

「ええ、いつまでもクヨクヨしてたら、天界に召された兄から怒られてしまいそうですから。
 それに、私たち兄弟を救ってくれたハロルドさんに、少しでも恩返しがしたいと思って。」


ハロルド商店を訪れていた客たちも、ことの成り行きを聞いていたこともあり、心配そうにルルジアに声をかける。
もちろん、ハロルド商店での買い物をしながら。
そんなルルジアに、ハロルドが声をかけてきた。


「ルルジアさん、いつもすみません。」

「いいんですよ、私にできることといったら、ハロルドさんの店で売り子をすることくらいしかないですから。」


ルルジアの言葉にハロルドが苦笑いをする。

「ははは、ルルジアさんのインセンティブが高くなりすぎて、今月の経営がちょっと・・・ですね。」


その言葉に ルルジアは、恩返しだから無給で頑張りますと答えたところ、ハロルドも答えた。

「いえいえ、ただで人を使っていたなんて悪い噂がたつのは、ちょっと・・・。
 それに、生きていくのに お金って必要じゃないですか。
 ドワルゴ商店だって、ほら、その・・・。」

「私は大丈夫です。
 確かに、ドワルゴ商店は3か月間の販売停止の処分を受けていますけど、なんとか家具の修繕なんかで食いつないでいけますから!」

「いえ、そういった意味では・・・。
 すみません、いま何を生業にしてるって言いました?」

「ええ、家具の修繕ですね。
 もちろん、改修作業も請け負ってます。」

「家具の改修や修繕・・・。
 そういった技術をもつ職人が何人くらいいるんですか?」

「はい?
 ・
 ・
 ・
 家具の修繕作業ですよね。
 そんなの全員できますよ。職人を育てるのも工場の仕事ですからね。
 手先が器用なことがドワーフの取柄でもありますから。」

「そうなんですね!
 手先が器用・・・だったら、武器や防具なんかの装備品の修繕も出来ますか?」

「まあ、ある程度なら可能ですけど。
 だけど、防具はともかく、武器は作り直した方が早いですよ。」

「なるほど・・・。」


ハロルドの質問に不思議そうに答えるルルジア。
そんなルルジアにハロルドが笑顔で提案する。


「ルルジアさん、いまこの王国内でも、壊れた装備品が毎日のように捨てられていってる事実は ご存じですか?」

「い、いえ、初めて聞きました。
 私たちは家具の製造販売が主な収入源だったものですから。」

「ですよね、だったら・・・。」


ハロルドが何を言いたいのか察したのか、ルルジアがハロルドの言葉を遮るように反論する。

「それは無理ですよ、家具の修理は販売と違って収入が少ないんです。
 それなのに、さらに単価の低い装備品の修理をするなんて、人手が足りませんよ。」

「ふむふむ、ですよね。
 そうなんですよ。装備品の修理を請け負っていてはコストがかかりすぎます。
 では、逆に質問です。
 冒険者の装備品一式、例えば、片手剣、小型盾、軽装鎧一式、この3点でいくらぐらいかかると思いますか?」

「・
 ・
 ・
 金貨20枚程度ですよね。」

「そうですね、一般的な兵士の装備品であれば。
 ・
 ・
 ・
 冒険者の装備品は一級品や装飾が施された特注品を使っているケースがほとんどです。
 上級冒険者は人数も少ないため例外として、中級から駆け出し冒険者の装備品3点セットの平均価格が金貨60枚前後と言われています。」

「結構な値段ですね。
 まあ、特注品であれば・・・。」

「ちなみに、上級冒険者の装備品は 金貨300枚程度、上級貴族の装備品であれば、騎士鎧一式で金貨900枚程度と言われていますからね。」

「そ、そんなに・・・。
 家具なんかより高額ですよね。
 と言うことは、装備品の修繕や作成ができる職人を・・・。」


今度は、ハロルドがルルジアの意見を遮り話し始める。

「いえいえ、装備品を作る職人を育てるのも長い目で見れば面白い考えだと思います。
 しかし、それでは時間もかかりすぎてしまいますし、何より装備品の素材コストが高いので、実入りは低いです。
 そんなことより、中古の装備品を私が安く買いあさりますから、その中古の装備品を修繕して再販売するというのはどうでしょうか。
 もちろん、修繕にかかる費用はお支払いします。」

「いえ、ハロルドさんから代金はとれないですよ。
 家具の製造、修繕の合間であれば無料で請け負いますよ。」

「いやいや、無料は怖いですから、修繕手数料で銀貨20枚、それに加えて実費でかかった素材代金でどうでしょうか。
 ・
 ・
 ・
 それに、ドワルゴ商店として家具の販売に規制がかかっているいま、職人さんたちに払う賃金を工面する必要があるでしょ。」

「そうですよね。
 ・・・ハロルドさん、ありがとうございます。」


ルルジアの礼を聞くと、ハロルドはさっそく行動に移した。

ハロルドは、店に訪れた冒険者や自警団の兵士たちだけでなく、一般の客にも声をかけていた。




~数日後~

ハロルド商店の前には、廃棄された(ハロルドが二束三文で買い集めた)装備品の山が山積みになっていた。
部下から報告を受けたのだろうか、様子を見に来たウィンター商店店主のベローチが、山積みの装備品を見に来ていた。
ベローチは、ハロルドを見つけると声をかけてくる。

「なぜ、こんなゴミを買い取っているんだい?」

「なぜって、私には宝の山にしか見えないからですよ。」

「このゴミが・・・?」

「ええ、私には宝の山ですよ。
 これで私の店でも装備品が潤沢に提供できますからね。」


ベローチの質問に笑顔で答えたハロルドは、店番の合間に山積みになっている装備品を馬車の荷台に積み始める。
その楽しそうな後姿をベローチは哀れみの目で見つめていた。


(使える装備品を仕分けして、地方向けに転売でもするつもりなのか?
 そんな安い仕事までするなんて・・・私には理解できないよ。)





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話【R18】

ケロリビ堂
恋愛
 万年はらぺこのおぼこサキュバス、シルキィが美しく性欲の強い男エルフ、レイモンドと一夜のあやまちで淫紋を用いたサキュバスの契約をしてしまう。その日からレイモンドのダンジョンマッピングの仕事を手伝いながら性欲処理の相手として一緒にダンジョンに潜ることになったシルキィだが、エルフらしくなく人間臭いレイモンドに惹かれていく。レイモンドの中でもまた、シルキィの存在は大きくなっていくが……。(ムーンライトノベルにも投稿している作品です)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

処理中です...