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五つ目の商店

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~エルフの国~

エルフの国は、魔法文明が高度に発達した国である。
エルフたちは木々の上で生活しているのだが、家に入る為に木を登る必要はなく、魔法を使った簡易的なエレベーターのようなもので昇降している。
他にも、薄暗い森の中の明かりとして、魔法を使ったランプのような明々とした明かりを使っている。
こういったエルフの国で快適に暮らせるように発明された品は、全てエルフの商人であるレイオンの発明なのだ。

レイオンは、エルフの国では知らない者がいないほど有名な商人(と言っても、エルフの国には、レイオン商店しかない)で、唯一、人間たちと交易を行なうことが許されている商店でもある。



そんなエルフの国での出来事である。


ある一軒家に、人間でいう90歳ほどのエルフの男性と、60歳ほどのエルフの女性、そして20代後半の若いエルフ、そして幼い女の子のエルフが住んでいた。


幼い女の子は、若いエルフにしがみ付きながら、見上げるようにお願いしていた。


「ねえローレンス。
 レヴィちゃん、パパンのところに行きたーい。」

「レヴィ、わがまま言わないでよ。
 おっかしいなー。レイオンは素直だったのに、誰に似たんだろう・・・。」



ローレンスと呼ばれた若い女性の様子を見ながら、60歳ほどのエルフが笑いながら答える。

「レヴィちゃんは、小さいころのローレンスにそっくりなのよね。
 レイオンは、もっとこう、おとなしかったもの。」

「そうじゃな。ベラドールの言う通りじゃな。
 たしかにレイオンは、話し方から考え方まで、ハイエルフらしく、もっと落ち着いておったからな。」


優しそうな笑顔を見せながら90歳ほどの老エルフも答える。
そんな2人の懐かしそうな顔をした言葉に、若いエルフは反論する。


「そ、そうかな・・・。
 レイオンは、私にママーって甘えてきたり、レヴィに似てる部分も多い気がしてきたな。」


「うふふ、そういうことにしておきましょ。
 私たちも久しぶりに、レイオンに会いたくなってきたわね。
 ねえ、ローレンス。今度は、いつ帰ってくるのかしら?
 10年後、20年後、それとも100年くらい帰らない予定なのかしら?」

ベラドールと呼ばれた女性が質問を続けると、その言葉を聞いていた、幼いレヴィが泣き出しそうな顔になる。

「パパンに100年も会えないの・・・。」

「あ、違うわよ、すぐに会えるわよ。
 ね、ほら、ね。
 あら、そうだ、レヴィちゃん、ピノキ男と一緒に遊びましょうか。」

ベラドールは必至にレヴィを慰めようとしているのだが・・・。


「パパンに会いたい・・・。
 えーん、パパンに会いたいよー。」

「もう、ベラドールおばさんったら・・・。」

「ご、ごめんなさい、ローレンス。」


ローレンスは、近くにあった紙に絵を描き始める。

「ねぇ、レヴィ。ママと一緒にパパに手紙をかかない?
 モリアーニおじさんが手紙を届ける仕事を始めたんだって。
 きっと、すぐにパパに手紙を届けてくれるよ。
 そしたら、パパもレヴィに会いたいって飛んで帰ってくるかもよ。」

ローレンスの言葉にレヴィが泣き止む。

「ほんと?
 パパンは、魔法で空を飛んで帰ってくる?」

「ま、魔法で空か・・・。」


言葉を詰まらせたローレンスの表情に、再び泣きそうになるレヴィ。
その様子をみていた、老エルフが答える。

「ああ、魔法で空を飛んで帰ってくるじゃろう。
 なんたって、レイオンは数少ない ハイエルフじゃからな。」


レヴィは、老エルフの言葉に、再び笑顔を取り戻す。

「じゃあ、手紙にミザリちゃんも書いてあげるんだ。
 私とミザリちゃんで、一緒にパパンのお店で洋服屋さんをやるんだよ。
 可愛い洋服をいっぱい作って、みんなに着てもらうんだ。
 いいでしょー。」

「いいなぁー。ママもレヴィの洋服を着ていいかな?」

「じゃあ、お店で買ってくださいね。」


レヴィは楽しそうに、紙に絵を描き始める。

絵を描き終えたレヴィは ローレンスと手を繋いで、モリアーニと呼ばれたエルフの元に、手紙を持っていく。

「今日は、2人そろってどうしたのかな?」

「どうしたも何も、モリアーニが郵便配達の仕事をしてるって聞いてたから。」

「そうです。レヴィちゃんの手紙をパパンのところに届けてほしいの。」


そういって、レヴィは花柄の封筒を差し出す。
モリアーニは、その小さな手から手紙を受け取ると、笑顔で答える。


「レイオンくんのところだね。任せてよ。」


レヴィは、嬉しそうに笑って見せた。
そして、

「それと、パパンに伝えてください。
 早く立派な商人になって、レヴィとミザリと一緒に洋服屋さんをしようねって。」

「ああ、必ず伝えるよ。」


笑顔で帰っていく、レヴィとローレンスを不安そうな顔で見送るモリアーニ。
その理由は・・・。





(ど、ど、ど、どうしよう、出国手続きに20年くらいかかるのに・・・。)

モリアーニの密出国の話は、また別のお話し・・・。


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