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商会戦の幕開け

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翌日、ミラルノ、ウィンター、ドワルゴ、ハロルド。
それぞれの商店に王国から騎士が書簡を届けていた。




~ミラルノ商店~

店主ミラルノの元に、王国から騎士が持ってきた書簡が渡される。


「ご苦労。」

ミラルノは、書簡を受け取ると内容を確認する。
その様子をミラルノの執事が遠くから見守る。

「ふふふ、これで駒が揃った。
 あとは、商会戦の最中に ウィンター商店、ドワルゴ商店、ハロルド商店を取り込むだけだ。
 ライバルに勝利し、有能な人材、工場、薬師を取り込み力を得ることもできる。
 なんと完璧な作戦なんだ・・・ん?
 ・
 ・
 ・
 な、なんだと!」


満面の笑みで書状を読んでいたミラルノの表情が一変する。



「旦那さま、いかがいたしましたか。」

「く、くそが・・・。」

ミラルノは、執事に書状を投げつける。
執事は投げつけられた書状を拾い上げ内容を確認した。
その内容は下記の通りであった。



~王命~

商会制度の候補者同士で競い合い、優れたものを商会制度の末端に加えるものとする。


・此度、商会制度を導入するにあたり、貴君を商会制度の候補として推薦するものとする。
貴君以外の候補者として、ウィンター商店店主ベローチ、ドワルゴ商店店主ルルジア、ハロルド商店店主ハロルドも推薦されている。

・上記4商店より、これより4半期の総納税金額上位2商店を商会制度の一員と認め、商会制度の末端に加えるものとする。

・ただし、この期間中に不正行為が行われた場合は、その資格を剥奪するものとする。

・尚、期間中に倒産した場合。また、店主が後退した場合も商会制度の権利放棄とし、その資格を剥奪するものとする。


以上



「上位2商店だと・・・。
 なぜ、こうなった。」


頭を抱える店主ミラルノに、執事が助言する。

「おそらく、ウィンター商店のベローチの仕業かと・・・。
 ベローチの素性を調べさせていたのですが、ベローチに関する資料が存在しません。」

「ベローチ・・・。
 あいつならやりかねないな。
 なんとか利用し手駒にする手を考えなくては・・・。」








~ウィンター商店~

ウィンター商店でも、店主ベローチの元に、王国から騎士が持ってきた書簡が渡される。



書簡を持ってきた騎士が、ベローチに声をかける。

「ベローチ、騎士に戻るつもりはないのか?」

「すまない、私に騎士は向いていそうにないからね。
 それに、いまは母形の姓を名乗っているんだ。
 お父上・・・バルサーク騎士団長にも内緒にしていてくれよ。」

「ああ、分かった。
 友よ、君の進む道の先に栄光の輝きがあらんことを。」

「ありがとう。」


ベローチは部屋に戻ると、旧友から受け取った書簡を開き、内容を確認する。

「さすがマルゲリータ・・・。
 あいつの下賤な考え方は嫌いだが、利用できる駒だったってことだな。」


ベローチは、ミラルノとは対照的に満面の笑みで書状を見つめている。








~ドワルゴ商店~

時を同じくして、ドワルゴ商店にも書簡が届けられる。

書状を見つめるルルジアの表情に、兄たちが声をかける。

「ルルジア、お前のやりたいようにしたらいい。
 ハロルド商店は、ミラルノさんの協力の元排除できるとして、敵はウィンター商店なんだろ。」

「リグル、そのウィンター商会が危険なんだろ!
 店主のベローチは裏の世界にも影響力を持ってるって噂だぞ。
 ルルジアが危険に晒されるんじゃないのか?」

「ラグル、リグル、ルルジアを不安にさせるんじゃない!
 ルルジア、気にするな。もし問題が起きれば、ドワルゴ商店総出で何とかしてやる。
 ロメオ兄さんだって、やるときはやる男なんだから!」

長兄のロメオは、無言で見守っている。

「・・・ありがとう。
 わたし、必ずドワルゴ商店を商会にして、たくさんのお金を稼ぐから!
 よーし、頑張るわよ!」


「「「おおぉぉー!!」」」


まだ朝食の最中だったルルジアを残し、兄たちは工場へと向かっていく。
一人残されたルルジアは、朝食に手をつけず悩んでいた。

そんなルルジアの元に、戻ってきたロメオが声をかける。

「ルルジア、何を悩んでいるのか分からないけど、僕たちはもちろん、サレウドや工場の仲間たち、みんな家族なんだ。
 もし、ルルジアの選んだ道が茨の道だったとしても、全員でサポートするよ。」

「・
 ・
 ・
 ありがとう、ロメオお兄ちゃん。
 わたし、迷わないよ。」

「うん、いつものルルジアの表情だ。
 ・・・安心した。」

(わたし、迷わない。
 ミラルノさんに協力して、ハロルドさんを・・・ハロルド商店を潰すわ。)








~ハロルド商店~

「あの、店主さん、忙しいのは分かりますが、書簡の中身の確認をお願いできませんか?」

「すみません、いまが忙しい時間なので・・・。
 手が空いたら必ず、必ず確認しますから!」

「分かりました。では、店先に書簡を置くのではなく、せめて奥に保管してもらいたいんですけど・・・。」

「分かってます。分かっているんですけど、開店準備を一人でやっているので。
 せめて、昨日みたいに手伝ってくれれば・・・。」


ハロルドと目が合った客が声に出して笑う。

「昨日の嬢ちゃんは、手伝わないと店が開かないのが明確だったからな。
 店主さんは間に合うだろ。」

「それもそうなんですけど・・・。」


そんなやり取りをしているところに、ジタルが顔を出す。

ジタルの姿をみた騎士は、敬礼をし姿勢を正した。

「おいおい、見習い騎士かよ。
 そんな緊張するなって。」

「いえ、疾風の騎士団長ジタル様といえば、我ら下級騎士の憧れですから!」

「ジタル様だなんて・・・。
 この書簡は、俺が責任もって店主に渡しておくから、お前は任務に戻るといい。」

「いえ、しかし・・・。」

「俺が信用できないってか?」

笑顔を見せるジタルの言葉に、騎士は首を横に振り答える。


「いえ、そんなことは思っていません。
 では、お言葉に甘えさせていただきます。」

「ああ、任せとけよ。」


ジタルは、無造作に置かれていた書簡を拾い上げると、店内の休息スペースでくつろぎ始めた。
そんなジタルにハロルドは、

「ジタルさんが手伝ってくれれば準備もはかどるんですけど・・・。」

「俺の手間賃は高いぜ!」

「・・・遠慮しておきます。」


ハロルド商店は、昼過ぎに落ち着き、そこからやっと書状に目を通した。
ジタルは、書状の中身が気になっていたのか、ハロルドが書簡を開けるまで待ち続け、書状に目を通したハロルドに質問する。


「その書簡、王命だろ。」

「はい、王命で新しい制度の話でしたが・・・。」

ハロルドが言葉に詰まると、すぐにジタルが首を横に振った。


「いやいいんだ。王命を無理に聞き出せば罪になる。
 俺は罪を犯すことなく生きて来たんだ。
 店主さんよ、これも何かの縁だ。もし、俺の力が必要になったときは声をかけてくれよな。」

「ありがとうございます。
 でも、なんで・・・?」

「さあ、なんでだろうな。
 そういう気持ちになっただけさ。」


ジタルは、そう一言だけ答えると、買い物をして店を後にした。
ハロルドは、いつものように店先まで見送る。
ジタルが照れくさそうに背を向けたまま、軽く手を振るのを深く頭を下げて見送っていた。


(ジタルさん・・・これ以上は値引かないですからね。)



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