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商会戦の幕開け

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ルルジアが困っているところに、店の奥から調子を取り戻したハロルドが顔を出す。

「すみません、店番をしてくれてたみたいで。
 話は聞きました。
 ジタルさんにお売りしているのは、フルポーションですよ。
 こちらの商品になります。」

「ジタルの旦那の薬は、フルポーションだったのか・・・。」


ハロルドと冒険者のやり取りを見ていたルルジアは、冒険者の表情からこの後の商談を予想した。

(フルポーションは、相場が金貨80枚程度、おそらくこの冒険者に手の届くものではないわ。
 たぶん、何も買わずに商談は終了するわね。)


冒険者は、フルポーションを手に取り、ハロルドに一応値段を確認する。

「で、いかほどかい?」

「これくらいですね。」


ハロルドは、5本指を立てたあと、倒れていた値札を立て直す。


(かなり相場より安い値段ね。金貨50枚・・・。
 薄めのフルポーションかしら。
 粗悪品を売りつけるなんて、商人の風上におけないわ。)


「フルポーションが、そんな値段で・・・。
 よし、わかった。
 1つだけ譲ってもらえないか。」

「3つほど、ご所望ではなかったですか?」

「恥ずかしい話、それほどの金額の持ち合わせがなくて・・・。」


(それもそうよね。
 3本も買えば、金貨150枚。
 おいそれと買うわけにはいかないわ。)


ハロルドは、冒険者の目をじっと見つめる。
そして、

「わかりました。1本分の金額で3本。
 その値段で、譲りましょう。」


「「「な、なぜ!?」」」


冒険者もルルジアも、声を揃えて驚愕している。

「なぜって、ジタルさんの紹介なんですよね。
 お世話になっているジタルさんの顔を立てる為ですよ。
 ジタルさんなら、そこから値引いこうとしてくるから、こんな金額を提示することはしないんですけどね。
 ジタルさんには値引いたこと内緒ですよ。
 それから・・・。」

「ああ、ジタルの旦那に聞いているから分かってます。
 薬を使うたびにハロルド商店最高って宣伝するんですよね。」

「はい。
 宜しくお願いします。」


ハロルドは、冒険者から代金を受け取ると、商品を冒険者に手渡した。
店を出た冒険者は、店先で見送るハロルドに、何度も何度も頭を下げ店を去っていった。


ルルジアは、大きな商談を終えたであろうハロルドを睨むように見つめながら、強い口調で質問する。

「ハロルドさん、3つほど質問していいですか。」


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