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目指せ!王国騎士団長

3年生 それぞれの歩む道

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マルスも3年生になり、基礎体力作りも終盤となってきた。
このころになると、当たり前に重装備でのトレーニングとなる。
ひ弱だったブックも、それなりに筋力が付き、少し遅れはするが、訓練についてこれるように成長した。


あと、変わったことといえば、マルスが前よりも明るくなったことと、アロンが嫌がらせをしなくなったことだろう。


アロンは、マルスとの喧嘩の後に、2週間の自宅謹慎を受けた。
謹慎があけ自宅から戻ってくると、人が変わったように おとなしくなり、アロン軍団は解散した。アロンには、今度5年生になる兄もおり、その兄の話によると、いままでにないくらいに激怒した父から、謹慎中にかなり絞られたようだ。
アロンの兄も巻き添えを喰らい、休み明けに、顔を大きく腫らして戻ってきたからアロンの怒られ方は尋常ではなかっただろう。





ある日、普段と変わらない生活を一変させる事件が起きる。
それは、夕方の食堂で マルス宛の手紙を受け取った時のこと。


・・・それは、マルス宛に届いた、届くはずのない手紙だった。



【マルス=ハンニバル様宛  アルメディシア=ハンニバルより】



マルスは、あの事件以降、手紙を見るのが怖く、全ての手紙を開封することを出来ずにいた。

しかし、この手紙は、別だった。
なぜなら、母親は生き別れた弟(マルスのせいでもあるが、)の話だと、すでに死去しているはずだった。地獄の風の悪影響で、蘇生魔法を受け付けなくなっている母が生きているとは考えにくい。その母親からの手紙、何か良くないことが起きているような気がして開封してみた。



手紙は、母が生前に出したものであることが分かった。
その手紙は、母の書いた手紙で間違いなさそうだ。

手紙には、母アルルの病状が悪化し長く生きられそうにないこと。
マルスの13歳の誕生日を祝う母の愛情の詰まった言葉。
弟ナインの面倒を見てほしいという内容。

それと最後に、こう書かれていた。

「魔王ルシファーに気をつけなさい。」


ルシファーと言えば、マルス達を地獄から解放してくれた神だと思っていた。
魔王・・・。外見は黒い羽根を持っていたが、天使のように美しく、礼儀正しいので、神だと思っていたのだが、どうやら違うようだ。


マルスは、手紙を直す。すると、ブックがマルスに話しかけてきた。

「ねえ、その手紙、1年前の手紙だよね。」

「あ、ああ。見てたんだ。」

「ごめん、差出人の名前が見えちゃって。」


マルスは、母の事を、ブックに話していた。それで、手紙の差出人の名前を見て気が付いたんだろう。

「でね、マルス。たぶん、その手紙は、ソドム王国から送られた物だと思うよ。」

「なぜ?」

「なぜって、ソドム王国は、レヴィア団の団長が、黒の騎士団と交戦する時に、国交断絶させて、要塞にしちゃったんだ。」

「黒の騎士団と交戦?」

「そうだよ。なんでも、仲間の冒険者を助ける為に、呪いの根源である、黒の騎士団と戦争に入ったんだって。いまでも戦争は続いてるみたいだよ。」


マルスは、黒の騎士団の名前を忘れたことはない。ラアラのことを思い出し、復習心が芽生えてくる。


「マルス、ソドム王国に行く手段はないからね。」

「・・・。」

「ソドム王国は、飛空艇を使わないと行けないような砂漠の先にあるんだよ。」

「飛空艇か・・・。」


このころ、空を自由に行き来できる飛空艇が開発されていた。しかし、飛空艇の動力になる鉱石は珍しく、飛空艇を保有しているのは、王国聖騎士団が1隻、レヴィア団が3隻、ウィンター商会が1隻だけだった。


(・・・レヴィア商会、ミザリ副会長に頼んでみるか。)

「どうしたの?」

「いや、なんでもない。明後日の休みは、ちょっと出かける用事があるから、軍略盤の予定はキャンセルしてよ。」

「えー! ブルック先輩も来るのに、それは無理だよ。」

「ごめん。大事な予定が入ってたんだ。」

「絶対、いま思いついて話してるでしょ。 本当に今回だけだからね。」












~休息日・レヴィア商会の洋品店~

その日は、朝食をとり、マルスは朝からレヴィア商会の洋品店に顔を出した。
洋品店の中に入ろうとすると、店員から呼び止められる。
前回は、ラアラと同伴だったので、問題なく入ることが出来たのだが、店に入るには、紹介状が必要になるとのことだった。


「お客様、申訳ありません。紹介状がなければ、お通しすることはできません。」

「あの、ミザリ副会長に借りていた お金を返したいのですが。」

「それでは、こちらで預かります。」

「どうしても、直接、会えませんか。」

「はい。お通しすることは、できません。」

「では、この魔装具を換金して下さい。」


マルスは、魔装具(英雄の軍剣)を差し出す。この魔装具も母の形見だったが、思うところがあり、換金してもらうことになった。


「魔装具ですか・・・。」

「何か問題でも?」

「いえ、魔装具の引き取りは、店長以上でなければ、難しいので、また来てもらえませんか。」

「その、今日じゃないと困るんです。」

「そう言われましても・・・。」



店員が困っていると、奥から、5歳くらいの女の子が出てきた。


「何してるのよ、魔装具の買い取りは、あなたが判断したらダメでしょ。」


女の子は、偉そうに店員に話しかける。

「すみません。ミーナ支配人。」

「支配人? この女の子が!?」

「何よ! 私はエルフだから、これでも14歳なんですからね。あなたと歳は変わらないわよ!」

「そ、そうなんだ。ごめんね。」

「絶対、バカにしてるでしょ!」


女の子がヘソを曲げていると、奥からキレイなエルフの女性が出てきた。


「こら、ミーナ。せっかく、お母さんから店を任せてもらったのに、そんな態度を取るんじゃない!」

「ごめんなさい、お父さん。」

「お、お父さん!!!」


オトウと言う名前なのだろうか、しかし、よく見ると、胸板も厚く、男性のような感じも受ける。店内にいた客の半分くらいは驚いた顔をしており、残りの半分は、笑っている。
この反応を見る限りでは、オトウさんではなく、お父さんで間違いないだろう。
お父さんは、ミーナを諭すように、話し始める。


「それにミーナ、そのお客様は、ミザリが探していた人物で間違えなさそうだよ。」

「ミザリ副会長が、僕を探していたんですか?」


美人のお父さんが 頷く。ミーナ支配人も、それを見て、マルスをよく観察する。


「あなた、名前は?」

「マルスです。」

「そう、ちょっと待ってて。」


ミーナは、店員に指示を出し、何か台帳のようなものを確認している。
台帳は、かなりの厚みがあり、百科事典のようでもあった。


「あった、マルス、マルス=アテラティッツ=ハンニバルね。」


マルスが、頷くと、ミーナは、お父さんの方を向き、話し始める。


「残念ね。マルス違いね。」

「この人だよ。その証拠に、アルルに渡したはずの、魔装具(英雄の軍剣)を所持しているからね。」

そういって、お父さんは、マルスの持ってきた魔装具を指さす。



「・・・ずるいよ。そんなの分からないよ。」

「ミーナ、情報不足を人のせいにすると、ミザリやレヴィアから、また怒られるよ。」



「・・・はい。気を付けます。」


マルスは、ミーナと、お父さん(アース)に案内され、店の奥に移動した。




店の奥の特別商談室と書かれた、応接室へ通され、椅子に座ると、ミザリ副会長がマルスを探していた理由を、アースが教えてくれた。
その理由は、1つ目に、母アルルの死。2つ目に、弟ナインを保護していること。そして、3つ目に、レヴィア団が、父エイトの行方を追っているということだった。


「マルスくん、エイトのことは、私たちに任せて、君は立派な騎士を目指しなさい。アルルも迎えに行かなかったところをみると、口では 反対していても、本音では 応援していたのだろう。」


「・・・。」


「なんなのよ。言いたいことがあるなら、言っちゃいなさいよ。」

ミーナが、マルスを まくしたてる。



「・・・はい。 僕を飛空艇に乗せて欲しくてお願いに来たんです。」

「なぜですか?」

「それは・・・。」


「ダメよ。お父さん、たぶんラアラちゃんの復讐に行きたいだけなのよ。」


ミーナは、心が読めるのだろうか、マルスの思いをピタリと当てる。



「ほら、この顔を見てよ。ズバリってとこでしょ。」

「そうですね。それなら、丁重にお断りします。」

「なぜですか! 僕だって戦えます!」


「・・・。」


アースは困った顔をしている。



「マルス、お父さんを困らせないでよ。別にあなたが弱いとか、そういう理由じゃないんだよ。復讐のためって聞こえはいいけど、そのために何か準備をしているの?
準備もなしで、死にに行くような人を乗せるわけにはいかないんだよ。レヴィアさんにだって怒られちゃうからね。」


「でも・・・。」


「分かるよ、復讐したい気持ち。私だって、ラアラちゃんには、いつも遊んでもらっていたから、黒の騎士団に復讐をしたいよ。でも、マルスはラアラちゃんの大切な人みたいだし、なおさら行かせることはできないよ。」


ミーナは、台帳から、マルスの名前が書いてある紙を抜き取る。


「本当は、返金した後に渡す物なんだけどね。」



その紙の裏に、ラアラの文字が見える。

【騎士団入隊おめでとう。】



「ほら、もう分かったでしょ。」


マルスは、ラアラを想いだし泣きそうになる。
それを見て、アースは、マルスにハンカチを渡しながら話す。


「マルスくん、黒の騎士団は、規模も大きく見たことのない魔法を使う。いまのレヴィア団だけでは勝敗が長引き決着もつかないだろう。
君が騎士団長になり、加勢してくれる方がいいと思うんだけど、どうかな?」


「・・・。」


「どうしても君がついて行きたいと言うのなら、私からミザリに頼んで飛空艇を手配してもらおう。しかし、私は 君に立派な騎士団長になってもらいたいと思っている。もちろん、アルルや、ラアラも同じ気持ちだろう。」


「・・・。」


アースは、魔装具(英雄の軍剣)を、マルスに渡し、こういった。


「一時の感情に流されるな。いまの君にできることは、決して前線で戦うことではない。君には君にしか出来ないこともある。もし、君が軍団長に昇格し、黒の騎士団を討伐する時は、レヴィア団も一丸となって君に協力しよう。レヴィア団長も同じ気持ちだろうから、レヴィア団長の言葉と思ってくれて構わない。」

「はい。ご助言、ありがとうございます。」



マルスは、2人に礼を言い、店を後にした。










~寮の自室~

部屋に戻ると、ただでさえ狭い部屋が、より狭くなっている。
ブックをはじめ、7年生のブルックや、ベール。同級生のランド、リサ、フリオまでいる。


「いったい何の騒ぎ?」

「マルス、お帰り。いま、7年生 VS 3年生で、軍略盤で勝負をしていたんだよ。」

盤上の駒を見る限り、7年生ペアが押しているようにも見えるが、ブックのトラップカードもあり、戦況は一進一退のようだ。フリオは、すでに盤上の駒が喪失しており、敗北が確定している。


「まいったな、マルスー。身動きが取れないな。」

「そうで、・・・あの部屋の方ですか、それとも盤上の駒ですか?」

「どっちもだよ。ベール、作戦712に切り替えよう。」


ベールは作戦ノートを確認している。

「ベール先輩、ノートの確認は、1ターンの消費ですからね!」

「もー、分かってるわよ。でもブルックの作戦支持が細かすぎて覚えられないのよ。」


狭い部屋が笑い声で満たされる。




その後、1時間にわたる攻防は、リサの敗北から、一気に形成が悪化し、7年生チームの圧勝で終わった。


「ブック、強くなったわね。」

「ほんと強くなったよね。途中、負けてしまうんじゃないかって焦ったよ。」

「いえ、僕の作戦は、あくまで盤上のことですから。それに比べて、ブルック先輩の作戦は、犠牲を最小に抑える作戦で、実際の戦闘を仮定した戦いだったじゃないですか。」


確かに、ブックの言う通りである。実際の戦闘では、囮にされる駒は、ないに越したことはない。それに、捕虜(敵に捕らえられた将駒)が多くなると、捕虜を交渉の材料にされてしまうだろう。


「まあ、そういって貰えると嬉しいよ。それから、みんなに報告があるんだ。」

「どうしたんですか?」

「実は、俺は今日で特別に卒業になる。」


「!!?」


「驚くことじゃないわ。ブルックの戦術的知識が認められたのよ。」

「そう! 俺は、第3騎士団の軍師補佐官として、配属されることになった。」

「おめでとうございます!」

「ありがとう! まあ、弟のように可愛がってた2人には、ちゃんと伝えて置きたくてね。」



ブルックの話によると、来月の1日からの配属が決まったそうだ。
ベールは、嬉しそうな顔をする反面、悲しそうな顔もしていた。


なぜなら、第3騎士団は、前線での防衛を任務とする騎士団で、人間同士の争いを行う部隊だからだ。部隊の人数も多いが、戦死者の割合も多い部隊だった。
敵が悪魔や魔獣、魔物であれば、死亡しても亡骸を回収し復活をさせることもできる。
しかし、人間同士の争いでは、死体に復活されないように、お互いに呪いを掛け合い、戦っている。
ようするに、人間同士の戦いで命を落とせば、生き返ることは出来ないということだ。


「マルス、ブック。お前たちも立派な騎士になれるように、俺みたいに努力しろよ!」

「はい!」

「よし、夕食の時間まで、もう一局できそうだな。」

「ねえ、今度は、フリオの代わりにマルスをいれようよ。」

「えー。リサ、それはないよー。」


狭い部屋が、また笑い声で満たされる。










~半年後・3限目終わりの教室~

後期の授業も始まり、4年生に向けての集団戦なども多くなってきた頃。
マルス、ブック、ルナが、ブルノス教官に呼ばれた。


「よし、3人ともよく聞け。今回、友好国の※ベルバランス、※アマゾネス自治区との競技会を開催することととなった。そこで、戦力、知力、魔力の成績優秀者の3人を選定することとなった。」

(※ベルバランス(人間と半馬人の国):北の大草原に位置する国。騎士道を重んじており、人間とケンタウロスが共存する、めずらしい国でもある。)

(※アマゾネス自治区:南西の森の中にある温泉地。レヴィア団の本拠地になっている。)


「ブルノス先生、なぜ3年生から選ばれるのですか?」


「ルナ、いい質問だ。アマゾネス自治区では、15歳になると独立してしまう。なので、14歳までの生徒しか準備できないそうだ。」


「・・・アマゾネス自治区。」

「どうしたの、ブック。」

「あ、いや、僕は、魔法剣を習ってたんだけど、魔法剣の発祥がアマゾネス自治区なんだよね。」


ブルノス教官の口元がゆるむ。

「安心しなさい。まずは、説明を聞くんだ。
まず、初日は、戦力勝負になる。この競技は、マルスと ルナに出場してもらう。
戦力勝負は、馬上槍試合と、得意武器での試合だ。
2日目の勝負は、知力勝負になる。この競技は、軍略盤を使っての勝負で、ブックと、マルスに出場してもらう。
そして3日目、魔力勝負なんだが、ルナと、ブックに出場してもらおうと考えている。」



ブルノスの説明が終わると、すぐにルナが手を挙げた、ブルックは、ルナの質問を受け付ける。

「先生、2つ確認したいことがあります。まず、私もマルスも、馬上槍を使ったことがありません。次に、魔力なんですが、マルスの・・・。」

ブルノスは、ルナの質問を止めるように、口を出す。


「ルナ、誰でも得て不得手がある。マルスやブックが魔法を苦手なのは知っているし、騎士槍を使ったことがないのも知っている。だが、いまの隊長である俺の指示に従わないのは、よくない。
もう決まったことで、変更のつもりもない。競技は1か月後、明日の授業から騎士槍の訓練を特別に行うことになるから、そのつもりでいなさい。以上。」


ブルノス教官は、その後、質問を受け付けずに、職員室へと帰っていった。



「ねえ、意味が伝わってないと思わなかった?」

「う、うん。僕よりも、マルスの方が魔法が上手いのにね。」


「いや、たぶん僕とブックの魔力の違いより、僕とルナの知力の違いの差が大きかったんじゃないかな? ・・・・・・しまった!」



マルスは、答えた後、気まずそうにルナを見る。

「それ、どういう意味よ!」


その後、朝の自主学習の時間に、ルナが押しかけて軍略盤を占領していたのは、言うまでもないだろう。


それから、1ヶ月の間、それぞれに特訓の日々が続いた。










~1か月後、競技会開催日~

それぞれの国から選手や応援団が集まってくる。

ベルバランスは、ケンタウロス1人と、人間2人の編成をしている。
アマゾネス自治区は、きわどい水着を装備した女の子3人のチームだ。


「ねえ、さっきからアマゾネス自治区の選手ばっかり見てない!?」


ブックとマルスは、激しく動揺する。


「ほら、しかも相手に笑われてるじゃない。ほんと辞めてよね。」


ルナは、ブックとマルスには、厳しい喋り方をする。普段はおとなしくて可愛いのに・・・。



今回は、第1回親善試合ということもあり、それぞれの代表者が挨拶をする。
ダンテ王、ハインサーク王、フラウ自治区長、どの王も立派で見とれてしまうほどだった。


「・・・お父様」

「ルナ、どうしたの?」

「あ、マルス、何でも、何でもないよ!」



各国の代表が挨拶を終え、選手をねぎらい、観覧席に移動する。
その時、フラウ自治区長がマルスに話しかけてきた。


「マルスだね。アルルやエイトにそっくりだ。今日は期待してるぞ。」

「は、はい! ありがとうございます。」


選手も、それぞれの控え場所に移動する。
控え場所にある椅子に座ると、ルナが、マルスにこっそり話しかけてきた。


「ねえ、フラウ自治区長と知り合いなの?」

「いや、初対面なんだけど、たぶん、フラウ自治区長は、レヴィア団のメンバーなんじゃないかな。」


ブックが横から、話に割り込んでくる。


「レヴィア団って、地獄の門を開放した伝説の冒険者じゃん。しかも、ソドム王国の援護をして、カティン教和国と戦争をしているし、レヴィア団のレヴィア商会って言ったら王国最大の商会だよ。さすが、アルメディシア=ハンニ ・・・・・・あ、ごめん。」

「いいよ。もう気持ちも整理できたから。」



マルスが落ち込んでいるのが分かったのか、ルナが元気づける。


「ほら、マルスは笑顔でなくっちゃ、今日の試合も完全勝利で、騎士団長を目指すんでしょ。」

「・・・そうだね。ありがとうルナ。」


マルスの満面の笑みに見とれて、ルナは 少し照れる。


第一試合、アマゾネス VS ベルバランス の騎士槍の試合は、ベルバランスの圧勝で決着がついた。

第二試合は、マルスたちの出番だ。

「相手は、ベルバランスだね。頑張ろうね、マルス」

「もちろん、勝ちに行こうね!」


マルスとルナは、馬に乗り競技場へと進む。


相手は予想通り、ケンタウロスと、人間のコンビのようだ。
相手の先方は、ケンタウロスがでるようだ。

「マルス、私が、ケンタウロスの相手をするね。なんとか3本とも耐えて引き分けに持ち込むから、マルスは、人間の方に勝利してよ。」

「分かった。ルナ、危険だと思ったら、迷わず手綱を話すんだよ。」

ルナは、兜の仮面を下げ、槍を上げ、マルスに合図を送る。


両者が出走位置に構える。
ケンタウロスは、手綱を持つ必要がないので、左手には大きめの盾を構えている。一方、人間は、手綱を握っておかなければ、衝撃で落馬してしまうので、盾を装備できない。
この違いは、騎士槍の試合では、大きな違いになるだろう。

しかし、ケンタウロスは、自走での戦闘になるので、馬上の人間に比べて、衝突時の威力が低くなってしまう欠点もある。上手く盾の隙間を攻撃することができれば、ルナにも勝機はあるし、ケンタウロスの衝撃を3回耐えることができれば、引き分けになる。



1走目、開始の鐘がなる。

お互いに一斉に飛び出す。
長く距離を走れば、その分威力も増すので、初速が重要である。

ケンタウロスは、油断からか、それとも連戦による疲れからか、スタートが遅れる。


その結果、ルナを落馬させるほどの威力は出せず、1走目は、引き分けとなった。
ルナの攻撃は、やはりケンタウロスの盾に阻まれ、受け流されてしまった。




お互いが、自分のスタート位置に戻る途中に、握手を交わす。
これもルールのうちなのだが、その間に、駆け引きが行われる。


「女騎士か、油断したよ。次は落馬させるから。」

「あの程度で落馬? あなたが井の中の蛙だったって理解してないようね。」





お互いが、開始位置に戻り、第2走目、開始の鐘がなる。
2走目のスタートは、両者ともに出遅れることなく走り出した。

今回は、ケンタウロスの走りも早く、かなりの威力が出たようだ。
ルナは、衝突の瞬間、一瞬だけ気を失うが、手綱を離さずに堪えた。




「あら、さっきと変わらないわよ。早く全力を出さなきゃ、女騎士に負けちゃうんじゃない。」

「く、くそ!」





3走目、お互いがスタート位置に着く。
ケンタウロスは、盾を置き、両手で槍を構える。
両手で構えることで、槍が固定され、相手に伝わる威力が増す。


3走目の鐘がなる。

「うおぉぉぉぉ!」

ルナが声をあげ、手綱を握る手を放し、腕に掛け、両手で槍を構える。
お互いの渾身の槍が、全体重をかけてぶつかり合う。双方の槍が砕け、破片が飛び散る!




ルナは、かろうじて落馬を免れた。


後方を確認したルナは、壊れた槍を高々と上げ、勝利宣言をする。


後方では、気絶したケンタウロスが、その場で倒れていた。


ケンタウロスは、すぐに駆け付けた、魔法治療班に、緊急の為、その場で回復をしてもらう。
気を取り戻したケンタウロスは、敗北を理解した。


そこに、ルナが近寄り、兜を脱ぐ。


「大丈夫だった? さっきは、嫌味を言ってごめんね。」

「いや、あれも作戦だったんだろ。作戦も無しに勝てると思った自分が恥ずかしい。」


ケンタウロスは、ルナの口から洩れる血を見て気づいた。


「それに私には、決意が足りなかったようだ。君の完全勝利だ。」

「ありがとう。」

2人は、握手をして待機位置に引き上げた。


「マルス、私の頑張りを無駄にしないでよ。」

「もちろん。ルナ、涎みたいに、血が漏れてるよ。治療してきなよ。」

「うるさいわね! バカ!」


ルナは、馬を降りて治療に向かう。
通常なら、医務室まで自力で行く必要があるのだが、勝負が激しかったからだろうか、魔法治療班が、闘技場の入り口で待機していた。





いよいよ、第二試合、マルスの出走が始まる。


マルスは、仮面を下げ、出走の準備をする。
集中し、待っていると、1走目開始の鐘がなる。


スタートもよく、絶好の攻撃が相手の鎧を直撃する。しかし、相手には全くダメージを与えていないようだ。
それどころか、相手の攻撃は若干それたにも関わらず、マルスは激しい痛みを感じた。


「お互いにクリーンヒットってとこだな。」

「・・・。」


握手を交わすときに、マルスは気づいた。
相手は、肉体強化の魔法を重ね掛けしているようだ。

魔法の詠唱は、本来反則なのだが、いまは、それを証明する方法がない。







2走目、マルスは、賭けに出る。


マルスは、出走開始の合図より早く走り出す。
そのまま、すれ違いざまに、自分の槍を垂直に立てて相手の攻撃を槍の柄で受ける。

すると、勢いもなく折れるはずのない、マルスの槍の柄が 砕けるように折れてしまった。



会場中が騒ぎ出し、審判も動き出す。



マルスは、声を出し会場にアピールする。

「なんでもない、私のフライングです。無効出走にしてもらいたい。このまま3走目を走らせてください。お互いにフェアに戦いましょう。」


ハインサーク王は、激怒の表情を浮かべ、自国の選手を睨んでいる。





3走目、マルスの進言もあり、そのまま検査もせず3走目の開始位置についた。

マルスは短めの槍に変更する。槍は長いほど有利で、先に攻撃が当たれば、その分、威力も増しダメージを与える。
短い槍は、ブレにくく、威力も集中するが、騎士槍同士の試合では、先に攻撃を受けてしまい、役に立たない。


3走目開始の鐘がなる。


相手も、ここで敗北してしまっては、言い訳もできないのだろう。全力で突進してきた。

マルスは、前傾姿勢で相手の攻撃を受け流し、渾身の一撃を相手の鎧に命中させる。


相手は、そのまま落馬し、気を失っているようだ。

2本勝利で、マルス達の勝利が確定した。


マルス達は、連戦になる予定だったが、アマゾネスたちは、勝てないと考えたのか、棄権をしてきた。








その後、昼の休憩をはさみ、地上での試合が始まる。









第一試合は、マルス、ルナ VS ベルバランス との試合が始まった。

ベルバランスは、ケンタウロスが厄介だろう。彼は、両手に片手剣と槍を、それぞれ装備していて、連続で攻撃してくるようだ。もう一人は、槍と中型盾を装備している。
マルスは、騎士剣を装備し、ルナは片手剣と小型盾を装備している。
国が違えば騎士に配給される武器も違うのだろう。



「マルス、作戦を考えたの!」


「・・・一応、聞いてみようか。」


「ガンガン行くわよ!」


「・・・ああ、ガンガンいこうね。」



ルナは、敵を発見すると、一目散に追いかけるように走っていく。

その結果、機動力のある敵に、武器の相性的には、あまりよくない組み合わせの、マルス VS ケンタウロスの勝負に持ち込まれてしまった。
しかも、敵は攻撃を躱されると、すぐに後方に飛んで回避してしまう。なかなか勝負がつきそうにない。たぶん、仲間が、ルナを倒すのを待っているのだろう。
そう感じた、マルスは、突撃していったルナの後を追う。

マルスが、ルナに追いつく頃、ルナは、槍の攻撃をかわすも、片手剣では、中型盾に攻撃を阻まれてしまい、反撃もできないようで、幾度か攻防を交わした後、武器を落とし、一本を取られてしまう。


マルスは、1人で2人相手の勝負になった。

(・・・マズイ状況だな。)



マルスは、後方から追撃してきた、ケンタウロスの一撃を騎士剣を背負うようにして回避する。そのまま右足を大きく前に滑らせるように出す。

前方からは、好機と見たのか、敵が駆け寄ってくる。


(6、5、4、3、2、1歩!)

マルスは、左足を右足に寄せ、そのまま右足を前に踏み出す!

マルスの放った斬撃は、まるで空気を切り裂く雷のような激しい衝撃音と共に、振り下ろされた。


敵も警戒したのだろう、中型盾を構えるが、その盾ごと一刀両断で破壊される。


遠くから見ていたルナにも衝撃が伝わったようだ。
ルナは、マルスを見て つぶやく。


渾身の武器破壊ブロークンハート!?」

渾身の武器破壊ブロークンハートにしては、威力が格段に上の技のようにも感じる。



観覧席で見ていた、ハインサーク王は、その場に立ち上がり、拍手をしている。




いまの一撃で、敵は武器を破壊され敗北が決定した。残る相手は、ケンタウロスだけだが、マルスが構えると、警戒しているのか、近づけないようだ。




観客席から、ハインサーク王が声を出す。

「ピーター、名誉ある敗北を選べ!」



その言葉に反応し、ケンタウロスが一直線に突撃をしてくる。

マルスは、カウンターで騎士剣を振り下ろす。
踏み込みが浅い分、またケンタウロスが体が大きく、高い位置で防がれる分、威力は半減してしまう。しかし、の片手剣にも無数の亀裂が入り、使い物にならなくなった。

そのまま、左手の槍で、攻撃をするが、マルスも予想済みだったようだ。そのまま槍の攻撃を体を右に避けるように回転させ回避し、その勢いで、ケンタウロスの背中に強力な一撃を加える。


しかし、ケンタウロスは頑丈で、倒れない。

そのまま、マルスは彼の背中に飛び乗り、両手を脇の下から遠し、両手で後頭部を押さえるように、ケンタウロスの自由を奪う。


しばらく、ケンタウロスも暴れていたが、マルスを振りほどくことが出来ずに諦めたのだろう。おとなしく降参の宣言をした。



お互いに握手をし、次の試合に挑む。






次の試合は、連戦になり、アマゾネスとの試合だ。


ここで、ルナが気づく。



 「マルス、すでに鼻血を出して、負傷してるようなんですけど。」

マルスは、慌てて鼻血を拭く。


 観客席からは、笑い声が聞こえてくる。


「私まで恥ずかしくなるじゃない!」

「ごめん。僕の弱点属性のようだ。」





アマゾネスの1人が、試合前に、マルスに握手を求めてきた。

「宜しくね。さっきの試合も、馬上試合も凄かったわね。」

「はい。ありがとうございます。」

「でも、私たちには勝てないかもよ。」

ルナが嫌な顔をする。


「ほら、姉さん、さっさと試合を始めようよ。」

後ろで控えているのは、背丈も顔も似ているが、双子の妹なのだろうか。


「ああ、私たち、3つ子だったのよ。」



ルナがマルスに小声で話しかける。

「それにしては、控室の選手だけ、雰囲気が違ったよね。」

「3つ子でも、似てない子もいるんじゃないの?」

「そんなものなのかな?」


2人がコソコソ話していると、試合開始の鐘が鳴り響いた。

敵は、一斉にマルスに襲い掛かった。

距離を詰め、マルスの必殺の一撃を放たせない作戦のようだが・・・。



「私を無視しないで!」

相手は、ルナの背後からの一撃を、紙一重でかわし、余裕の表情を見せる。


が、その余裕の表情は、数秒後には、苦痛の表情へとゆがむ。

ルナは、全力の一撃が躱されることを予測していたのだろう。
敵の背後から、右肩を狙い攻撃していた。

敵は、そのまま体を左の方に移動させ攻撃をかわすが、そのまま無警戒の小型盾による強打に直撃してしまったようだ。


「姉さん、大丈夫!?」

「ああ、油断したわね。全力で行くよ!」


姉が合図をすると、姉妹は筋肉が膨張するように肥大していく。
身体の大きさは、1.5倍ほどになり、見た目にも狂暴そうな印象を与える。
しかも、巨大化と併せて、斧に魔法付与を与えたようで、彼女たちの装備している斧が、炎を纏っている。


「・・・マルス、ヤバくない?」

「・・・ルナのせいじゃないの?」



妹は、近くのマルスに襲い掛かる。

姉も同じように、近くのルナに襲い掛かってくる。



マルスは、魔法斧(火)の攻撃を、騎士剣で防ぐが、敵の力が強く、弾き飛ばされる。

ルナは、うまく小型盾を使い、斧を持つ腕を盾で弾く。

「マルス、攻撃が単調よ! うまく攻撃前に弾けば楽に戦えるかも!」


「・・・。」


片手剣に小型盾のルナにとっては、簡単な作業かもしれないが、重量のある騎士剣で同じことをするのは、無理がある。
しかも、競技のルール上、武器を手放した(武器破壊された)時点で、相手との接触を10秒以上行わなければ、試合放棄として敗北が決定してしまう。
いまのマルスが、彼女たちにしがみついても、投げ飛ばされてしまうことは必須だろう。

マルスは、作戦を立てる為に、少し距離をおいて、回避に専念する。


その間に、ルナは、敵の攻撃を上手く弾き、有利に戦闘を進める。


しかし、有利に進めるルナを悲劇が襲う。
相手の右手の武器に注意しすぎた結果、ルナは左手の拳を避けそこなう。

ルナの鎧は、片手剣の特性を活かした、機動性を重視した鎧の為、鎧の側面に鉄板の補強が無い。
そこを、相手の拳が襲う。

たった一撃で、苦悶の表情をするルナ。


マルスは、相手の気を引く為に、持っていた騎士剣を振りかぶり、必殺の一撃の構えをする。

その構えに警戒したのか、姉妹ともにマルスに注目する。



ルナは、その隙を見逃さなかった。


呼吸も出来ない状況だったのだろうが、装備している小型盾を、相手の顎をめがけて、振り下ろす。この一撃で、一瞬、気を失ったのか、我に返った表情を見せる。

その間に、片手剣を斧に掛けるように、振り上げて武器を弾き飛ばす。武器は大きく弧を描きルナの背後に落ちる。

アマゾネスの姉は、あきらめたのか、両手を挙げて降参の仕草をとる。


マルスは、必殺の構えをとき、騎士剣を逆手に持つ。

アマゾネスの妹は、再びマルスに接近して戦いを挑む。


マルスは騎士剣を短く持ち、防御に徹する。


その背後を、ルナが攻撃を仕掛け、そこからの決着は早かった。


いくら身体を強化しているとはいえ、同程度の手練れを2人同時に相手をするのは、無理があったのだろう。最後は 傷つきながらも戦ったが、フラウ自治区長の合図で、降参を決めたようだ。


アマゾネス姉妹は、悔しかったのだろう。
涙を流していたようだ。





その後、アマゾネスと、ベルバランスの勝負が始まった。

ベルバランスの機動力を活かした先方も、立体的に戦うアマゾネスからしてみれば、ただ素早いだけだったのだろう、相性の問題もあり、マルスが苦戦したケンタウロスは、秒殺で沈黙した。

その後、2人で取り囲むように戦い、アマゾネスは勝利を納めた。


この日の試合は、マルスとルナの ダンテ王国の完全勝利で幕を閉じた。










~2日目~

今日の試合は、知力勝負になる。

第1試合の アマゾネス VS ベルバランス の試合を見ていた、ブックが、つぶやく。


「あれだったら、4対1でも勝てるかも。」


それを聞いていてダンテ王が、ブックに近づく。

「君の名は?」

「は、はい! ブックバック=ハイレディンと申します。」

「もし君だったら、あの4人に同時に勝利することができるのか?」

「はい。4対1であれば。」


ダンテ王は、メイガス校長先生を呼び、話を聞く。
その後、ハインサーク王と、フラウ自治区長と話をしている。


アマゾネス VS ベルバランス は、アマゾネスの勝利に終わった。
その試合の直後、ハインサーク王が 選手たちにこう告げる。


「いまの軍議は、見ていて正直がっかりしたよ。ここにいるブックバックくんは、4人同時にあいてをしても、勝利を収める自信まであるそうだ。」

競技に参加していた4人が、一斉にブックを睨む。


「さて、では、ブックバックくんに実践してもらうとしよう。」


ダンテ王は、大きめの軍略盤を準備させた。
ブックは、配られた手札と、地形を見て、駒を配置し始める。

その様子をみていた他の4人も駒を配置する。


ブックの地形は、草原で騎馬部隊の活躍が大きい地形だが、ブックの配置した駒は、どれも歩兵や弓兵、魔法兵が多い。


「ブック、大丈夫かしら・・・。」

ルナが心配そうに見つめる。

「たぶん大丈夫でしょ。ブルック先輩に鍛えられてたし、僕らが足を引っ張らなければ、あのブルック先輩にも勝ったこともあるんだから。」


「・・・そ、そんなに凄いの!?」



ブックの配置した駒は、相手を罠へと導き、敵の駒を次々と撃破していく。

ゲーム終盤になると、ブックの駒はまだ3つしか倒れていないのにかかわらず、敵の駒は、それぞれに、2~3個という悲惨な状況になっていた。

さらに、追い打ちをかけるように、ブックは手札の援軍カードを使用し、騎馬部隊を配置する。

相手の罠は、全て歩兵の駒に見破られ、ブックの完全勝利で修了する。




「すばらしい、ダンテ王。さっそくだが、彼を我が軍の軍師補佐官として受け入れよう。」

「本人の意思もあるから、確認しておこう。」


ダンテ王は、メイガス校長を呼び、耳打ちする。



メイガス校長は、3人の所にやってきて、話をはじめる。


「ブック、ハインサーク王から、君を正式に軍師補佐官として迎え入れたいとの申し出があった。このことから、国王陛下は、ハイレディン家を上級騎士に格上げし、君を正式な騎士として派遣させたいと、お考えになっている。」

「僕の家が、上級騎士になるんですか・・・。」


「それだけではない。君が、無事、軍師として責務を果たせるようになった暁には、特級騎士としての昇格も約束されておる。ここからは、私の考えなんだが、この機会を逃すのは、もったいないと思っておる。」


「ブック、行っておいでよ。せっかくの機会なんだから。お父様の役に立ってきなよ。」

「そうだよ、ルナの言う通り、家の復興が君の夢なんだろ、それに軍師になれれば、なおいいじゃないか。」

「そ、そうだよね。僕にもやれるんだろうか。」


ブックは、もともと気弱な性格からだろう、躊躇している様子が見られる。
マルスが、そんなブックを後押しする。


「ブック、僕もダンテ王国の騎士団長になるから、君はベルバランスの軍師を目指さないか。そうすれば、お互いの国での交流ももっと深まると思うんだ。」


「・・・うん! マルス、お互いに競争しよう!」

「ああ、いまはブックが先行しているけど、必ず追い越すからね!」


ブックは、メイガス校長と一緒に、ハインサーク王に謁見をする。

堂々と謁見するブックの姿は、少し大人になったように感じた。










~3日目~

最終日の試合は、魔力勝負になる。

ブックと一緒に過ごすのも、これで最後になると思うと、マルスは、涙が出そうになった。
昨日の夜も、荷造りをしながら、あれだけ話をしたのに、まだ話したりない気持ちだ。


最終日の魔法対決は、魔力の枯渇の問題もあるので、1回勝負で決まる。


ルナと、ブックは、それぞれに攻撃と防御に分かれて応戦する。


ブックの防御魔法は、騎士盾を専攻していたこともあり、ピンポイントで無駄なく魔法を詠唱する。もともと、頭のいいブックは、瞬時に防御魔法を選定し、魔法を相殺していく。
ルナは、得意の風魔法で、相手をピンポイントで攻めていく。


作戦的には、すばらしく魔法のキレもよかったのだが、得意な魔法の相性が悪かった。
ベルバランスの二人は、ルナの魔法を、合算の風魔法で反射し、2人を沈黙させる。
もともと、放出系の魔法が苦手なアマゾネスは、その後に、連続攻撃で沈黙させた。

今回の勝者は、ベルバランスに決まった。



会場のドーラ特別講師の目つきが怖かったが、見なかったことにしようとマルスは、目をそらした。




今回の親善試合は、それぞれの国にプラスになっただろう。


ダンテ王は、自国の騎士団の強さをアピールできた。

ハインサーク王は、ブックという、人材に巡り合えた。

フラウ自治区長は・・・。負けはしたが、酒を飲み楽しそうにしていた。



ここから先、ブックとは違う道を進んでいくことになるのだが、お互いの友情は変わらないだろう。


それと、ブックが置いていった、軍略盤の配置も変わらないだろう・・・。









~数日後~


「マルス! 今日はリサを連れてきたよ。一緒に自習しようよ!」

「えー、勘弁してよ。ルナとリサで使っていいからさ。」
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