勇者の娘 ~姉妹の物語~

黒山羊

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第六話、無敵の力

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~王都マデメ・ルダン~


フウカが知らせを受けて旅立った頃、王都マデメ・ルダンは すでに魔王軍の包囲を受け、数日が経っていた。
昼夜を問わず、打ち鳴られる銅鑼の音や、魔物たちの雄たけび、いつ魔王軍に突入されるか分からない緊迫した状況。
すでに、国王のみならず 王都に住む国民の精神状態は限界に来ていた。

そんな中、魔王は マデメ国王に使いを送る。


『王国の包囲網 解除を条件に、勇者レッカの身柄の引き渡しを要求する。』


王国を包囲する魔王軍、
状況を打開してくれと懇願してくる国民、
勇者レッカの負傷。
出せるカードもなく、マデメ国王は精神的に追い詰められていたのだろう。

周囲の反対を押し切る形で 魔王の要求をのみ、勇者レッカを差し出すことに決めた。
国民からの反感を買わないように準備された方法で・・・。



魔王との戦いに敗れ 片腕を失っていた勇者レッカは、囚人服に着せ替えられ、罪人のように兵士に引き連れられ城門へと連行される。
王都の広場にたどり着くと、連行していた兵士が命令文を読み上げる。


『罪状を読み上げる。
 一つ、魔王軍との内通、
 一つ、国民を応動した罪。
 一つ、多くの若者の命を存外に扱った罪
 一つ、国王、及び、国民を騙した罪
 以上の罪により、反逆者レッカは直ちに処刑とする。
 処刑の方法は、斬首刑が妥当であると判断するが、勇者としての功績を称え、国外追放とする。』


精神的に追い詰められた国民から、勇者レッカに対する同情の声など聞こえるわけもなく、無情にも道端に落ちている石を投げつけられている。


勇者レッカは、それでも気丈に振る舞い、凛とした表情で城門まで連行された。
城門にたどり着くと、わずかに開いた城門から押し出されるように レッカは追いやられる。


城門の外に出て、レッカの目から一滴の涙が流れ落ちた。


(みんな・・・ごめんなさい。)




目を閉じ、運命を受け入れようとしていたレッカの周囲を、激しい突風が吹き荒れる。
そんな激しく吹き荒れる恐ろしいまでの突風に、レッカは なぜか懐かしさを感じていた。


(お姉ちゃん・・・。)



「レッカ、遅くなってごめんね。」

「な、なんで、ここに!?」


「もう泣かないで。」


突如あらわれた姉のフウカに抱き寄せられると、我慢していた涙が一気に流れ落ちる。
フウカは、優しくレッカの頭をなでると、くるりと振り返り、魔王たちを睨みつける。


「私のレッカに、何してくれたのよ!」


暴風を纏ったフウカは、人間とは思えない程の速度で次々と魔物たちを切り刻んでいく。
魔物たちでは勝てないと判断した魔王が、素早く動き回るフウカに抱き着くように掴みかかる。

「まさか、さらに上位種の人間がいるとは考えもしなかったぞ。」

「あんたが魔王なの?」

「いかにも。」

フウカの動きを止めた魔王は、その身体に術の力を溜め始めた。
その様子を見ていたレッカが、フウカに叫びかける。


「フウカ!
 魔王は肉体を取り込み、取り込んだ相手の術を使うわ!
 私の炎や弱体、お父さんの流水まで!」


フウカは、レッカの方に視線を送ると、笑顔をみせる。

「もう、終わってるわよ。」


「!!!?」


「な、なぜだ、力が抜けていく・・・。」

フウカに抱き着くように触れる魔王は、徐々に肌にシワが現れ始めた。
そのまま、干からびるように体中の水分が抜けていく。

「た、たすけ・・・て・・・。」

「もう手遅れよ。
 魔王って、何度も転生するんだったよね。
 だったら、最期に私の力を教えてあげる。
 私の力は・・・ボソボソ。」


「か、かてるはずがない・・・・・・。」


魔王は、フウカに抱き着いたまま塵と化した。
その様子を見ていた魔物たちは、蜘蛛の子を散らすように 一斉に退散し始めた。


「フウカお姉ちゃん。」

「レッカ、家に帰ろう。」

「うん。」









~その後~

「辺境の村へと無事に帰り着いた姉妹は、その後、幸せにくらしましたとさ。」

「おばあちゃんの腕がないのは、勇者レッカ様だったから?」

「さあ、どうかしらね。」


片腕のない老婆の膝の上に座る少女が、尊敬の眼差しで老婆を見つめている。
そんな中、部屋をノックする音がしたあと、若い女性の声が聞こえてくる。

「レベッカ、遊びにきたよ。」

「フウガ姉さん、おかえりなさい。」




→END

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