勇者の娘 ~姉妹の物語~

黒山羊

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第五話、フウカの秘密

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10年前。


まだ幼い、フウカとレッカを連れた村長が、村の近くの大木の元にやってきた。

「さて、これから二人が産まれ持った術を調べるとするかの。」

「はーい!
 お義父さん、どうやって調べるの?」

元気いっぱいに妹のレッカが質問する。

「うむ。いまから この大木に触れ、術を発動するのじゃ。
 この木は、術の変化に弱く 影響を受けやすい。
 そこで、この木の変化を見ることで、産まれ持った術の性質が分かるのじゃ。
 どうじゃ、凄いじゃろ。」

「すっごーい!
 じゃあ、私からいくね!」


そういうと、妹のレッカが大木に手を添えたまま、目を閉じ集中し始めた。
すると、大木は その生い茂るような葉を枯らし始めた。その後、枯れた葉は黒く変色し始めた。

「よし、やめ!」

村長は、レッカの手を大木から放すと、レッカに言った。

「レッカの術の性質は、2つもあるようじゃ。
 一つ目は、弱体の性質、もう一つは、炎の性質。」

「弱体に炎?
 その力があれば、お父さんの仇が打てるんだね!」

「うむ。しかし、慢心してはならんぞ。
 ここからも、術の鍛錬を怠らんようにな。」

「はい!」


「では、フウカの番じゃ。」

姉のフウカも、レッカと同じように大木に手を添えると、祈るように目を閉じた。
すると、枝がザワめき 黒く変色し枯れていた葉は全て散り、青々とした若葉が大木を覆う。

「うむ、フウカの術の性質は、癒しの性質のようじゃ。
 ありふれた術じゃが、傷を癒すことが出来る、日常に役に立つ術じゃな。」

「はい。
 なら、レッカがケガしたら、私が治してあげるね。」

「うん、いつまでも一緒だね。」

そういうと、フウカとレッカは、仲良く笑いあう。




それから、暫くしたある日の事、季節外れの強風が吹き荒れた翌日。
折れた木々の片づけや、壊れた建物などの修繕に村人が忙しくする中、
妹のレッカが姉のフウカの元に、何かを優しく包むように持ってやってきた。

「お姉ちゃん、昨日はごめんね。」

「ううん、私も悪かったから。
 レッカ、ごめんね。」

「もう、怒ってない?」

「うん、怒ってないよ。」


フウカが そういうと、笑顔のレッカが距離を縮めてくる。

「ねえ、コレみて。
 昨日の風で 巣から落ちたみたいなの。」

レッカの手に包まれて守られていたのは、まだ生まれてまもない雛鳥であった。
その雛鳥は、翼が傷つき、弱り切っている。

「わかった。私の術で治してみるね。」

「うん、ありがとう!」

フウカは レッカから雛鳥を受け取ると、優しく両手で包み込み、雛鳥に集中する。
暫くたち、フウカが手を開くと、フウカの手の中で冷たく変わり果てた亡骸があった。

「死んじゃったの・・・。」


「・・・。」


「ちゃんと術を使ってくれた?」



「・・・う、うん。」

「嘘!
 ちゃんと使ってくれたんなら、助かるはずだよ!」

「嘘じゃない!
 ちゃんと・・・ちゃんと・・・。」


「嘘!嘘!嘘!嘘!」


小鳥の死に直面した、妹のレッカが大声を上げ始めた。
その異変に気付いた村長が、二人の元にやってきて、フウカの手の中で冷たくなっている小鳥に気付いた。

「レッカ、仕方がない、寿命だったんじゃ。
 どんなに元気にしておっても、いつかは年を重ね死んでいく。
 これは、生き物の定めなのじゃ。」

「レッカ、ごめんね。」

「違うもん、違うんだもん!
 お姉ちゃんなんて、大っ嫌い!」

レッカは 泣きながら家へと駆けこんでいった。
フウカは 自分の手の中で冷たくなっていった命から視線を外すことが出来ずにいた。
そんなフウカに、村長が優しく声をかける。

「フウカ、どんな生き物でも、時が経てば死んでしまう。
 寿命は 癒しの力では救うことはできん。」

「寿命・・・。私・・・。」


呆然と立ち尽くす、二人の間を凄まじい突風が吹き抜ける。

「いかん、風が強くなってきた。吹き返しかもしれん。
 フウカ、すぐに家の中に避難するんじゃ。」

村長に手を引かれるままに、フウカは家の中へと避難する。


(私の力・・・癒しの力なんかじゃない。
    怖い、この力が、怖い・・・。)



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