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6月の雨
しおりを挟む6月に入り、雨の日が増えた。
私は毎朝家でコーヒーを淹れ、絵海にもらったクッキーを1枚ずつ食べた。冷たい雨粒は音もなく毎日降り続け、窓の外の景色を少しだけ色濃くしていた。
絵海とはたまにメールのやりとりをしていたが、彼女は相変わらず休みがあれば実家に帰っているようだった。
絵海とのやり取りがたいして続かない代わりに、築山からはたまにメールが来ていた。
普段は仕事の話や前の職場の同僚の話など、たわいのない話をしていたが、今回は暖かくなってきたしどこかに遊びにでも行かないかとメールが来た。
リビングで椅子にあぐらをかいて座り、ノートパソコンをいじっていた私は、一旦パソコンを閉じて携帯の画面を見つめながら返事を考えた。
そして返信を送れないまま、雨の中傘を持って近所のスーパーに行き、昼ごはん用に牛肉を買って来た。私がキッチンでそれを焼いていると、母親がやって来た。
「ねえ、あなたももうすぐ二十六でしょ。仕事辞めて帰って来たのはいいけど、ほとんど家にいて全然出掛けないわね。誰か誘ってくれるような男の人はいないの?」
私は黙って焼けた肉を裏返した。
「私があなたくらいの頃はねぇ、ちょうどお父さんと付き合い始めた頃でね。好物を作ってあげたくて料理の練習したり、デートに出掛けたり、寒くなったらマフラーを編んだり。仕事してなくたって、やることはいっぱいあったわよ」
母が若い頃を思い出したのか楽しそうに言った。
「はいはい、充実した二十代で良かったね」私はため息をつきながら言った。
「ちょっと気になる人とか、声をかけてくれる男の人とかいないわけ?」
「うん」
「まあ、あんまり積極的に来る人にホイホイついて行くのもいい結果にならないと思うけどね。でもあんた、運命の恋だとか、運命の人なんてものを待ってたら、あっという間に三十越えて、四十になって、おばさんになっちゃうからね」
「そんなもの別に待ってないよ」
私は火を止めて、牛肉を皿に移しながら言った。
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