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地元の友情

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月曜日になって職場へ行き、ミーティングが始まるまでパソコンで書類を作っていると、朝から長いため息が出た。
「どうした、いくら月曜日だからって元気なさすぎだろう」隣に座っていた澤田さんが笑って言った。丸い顔で朝からニコニコしている。
「大丈夫、仕事で何か不安なことでもある?」華原さんにも心配そうな面持ちで聞かれた。
「いっ、いや、大丈夫です、なんでもないです」
私が慌てて言った。まさかここで恋愛相談はできない。
「まっ、大変な仕事だからなあ。憂鬱になるのもわかるよ」そう澤田さんが言ったところで、今井さんがやってきて朝のミーティングが始まった。

その日の昼休み、私は携帯で地元の沼津市にいる凪(なぎ)川(かわ)早子(はやこ)という女性に連絡した。彼女とは小、中学校が一緒で、もう十年以上の付き合いになる。早子には6年ほど付き合っている彼もいて、良い恋愛のアドバイスがもらえると思ったのだ。
『久しぶり! 元気にしてる? 相談、いつでも乗るよ。ていうか最近会ってなくない? 久々に旅行でも行こうよ』
彼女も昼休みらしく、さっそく返事が来た。私たちは何度かメールをやり取りし、早子が行きたいという西伊豆にある旅館に行くことになった。


約束の日、私と早子は沼津駅で待ち合わせた。ここから修善寺駅まで移動し、さらに1時間ほどバスに乗って土肥(とい)温泉(おんせん)まで行く。
「久しぶり!」
駅に着くと早子が明るい声で声をかけてくれた。
「久しぶり。元気だった?」私が言った。
「元気元気。それにしてもしばらく会ってなかったよね。歩実が大学生のころは二人とも静岡にいたから頻繁に会えてたのに。神奈川に行っちゃったらすっかり会えなくなって。なんであんた神奈川なんかに就職しちゃったのよ。地元にいればいいのに」早子が口をとがらせて言った。
「それは、ちょっと都会に出てみたかったんだよ。茅ヶ崎に住んでいれば新宿とかも電車で一本で行けるし」
「そうなんだ。どうなのよ、都会の生活は。新宿楽しい?」
「それが、引っ越して初めのころは新宿とか原宿とか、ひと通り行ってみたんだけど、人ごみに疲れちゃうから最近はあんまり言ってない」私が笑った。
「そうなんだ。まあいいじゃない、いろいろ周って楽しそうで」
「用もないのに皇居とかも行ってみたよ。緑の池に囲まれてて、ランニングしてる人がたくさんいた」
「へえー」彼女が返答に困ったような表情で相槌を打った。「でもいいね。私なんてずっと実家にいるから。私も都会、出てみようかなあ」
久しぶりに会って話がはずんでいると、あっという間に旅館の近くのバス停に着いた。海岸沿いに大きな旅館が立ち並ぶ、立派な温泉街だった。
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