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165.聖地巡礼?

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「観光ってさ、どんなところが見たいわけ?」
イザックはリナに訊いた。


「ん~。例えばさ、流行りのお店でランチを食べてみるとか?スイーツを食べてみるとか」

「そんなのでいいのか?」

「王都のあのお店で私も食べたことがある!っていう経験をしたいの」
リナは楽しそうに言った。

「本当に貴族が利用しているお店は、庶民は入れないところも多いわよ?」
アリシアが申し訳無さそうに言った。


「それは、それなの。『この街に憧れの貴族たちが暮らしていて、自分も同じ空気を味わっている!』ってだけで楽しいと思うの」

「なるほどな」
イザックが相槌をうった。

「架空でもいいのよ。『小説に出てくる公爵令息は、ここの公園のベンチに座って恋人を待っていた』みたいなね」

「架空?」
アリシアはリナに訊いた。


「小説のモデルはここだ!っていうだけで、すっごく感動すると思うの。実際にはそんな公爵令息はいなかったとしても。小説の中の彼が実際にいたらって考えるだけでも楽しいな~あーちゃんは?そんなことない?ないか」
リナはアリシアに聞き返したが、アリシアは候爵家の令嬢として生きてきたのだ。そんな風な憧れがあるわけはないか。実際にその憧れの世界の住人だったのだから。
そうリナが思った時、

「分かるわ!」
アリシアが言った。


「私、ここに暮らしていて、昔読んだ物語の町のように思ってきたの。それはね、主人公が病気の療養のために領地に行く話なの。そこで主人公は、領地で同じ年の男の子と仲良くなるの」
アリシアの目が輝いている。

「まだ子どもだから、身分の差なんか分からないのね。ふたりはいつも野原で遊んだり、小川に出かけたりするの。主人公はね、そのおおらかさに心も身体も癒されていくのよ」

「うんうん。それで?そのふたりはどうなるの?」
リナはアリシアに訊いた。

「主人公は病気が良くなって王都に帰るの。また会おう、また来るねって約束をして別れるんだけど、またねは実現しなかったの」

「どうして?」

「主人公が婚約をして、領地に行けなくなったから」

「そっか……」

「でもね、その男の子と過ごした日々が主人公の心の支えになるの。もう会えないけれど、男の子が少しでも幸せに暮らせますようにって」

「へ~」

「フォレールの村を歩いている時、道の向こうから、あの男の子が牛を引いて歩いて来そうな、そんな気がすることがあるわ」
アリシアは胸を押さえて言った。


「あーちゃん!それが萌だよ!聖地巡礼だよ!」

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