【完結】人は生まれながらにして孤独なものである

yanako

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孤児で炭坑夫の俺

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俺は孤児だった。
物心ついたときには、孤児院で暮らしていた。
当然、親の記憶はない。
マルコという名前も、院長先生につけてもらった名前だ。


俺にはミアという幼馴染がいた。
同じ孤児院で育った。
そして、いつかここを出て、一緒になろうと約束をしていた。


そんなある日、男爵家の人間がやって来て、ミアを連れて行った。

ミアの父親は男爵様なのだそうだ。

ミアは男爵家に引き取られて、令嬢として幸せに暮らすのだそうだ。

俺とはもう、違う世界に行ってしまったミア。



院長先生が俺を呼び出した。

「男爵様の紹介で働きに行って欲しいところがある。準備金はもう預かってある」
と、金貨を1枚よこした。

「こんな大金、受け取れません」
「でも、ここを出ていくにはお金がかかるからね。このお金で新しい生活の仕度をするといい」

「新しい生活?」
「ここにはもう帰って来ないで欲しいということだよ。男爵様に睨まれたくないものでね」


俺はわずかばかりの荷物と、金貨を1枚もって、炭坑に送られた。

炭坑は劣悪な労働環境で、危険と背中合わせだと聞く。
落盤事故で多くの人が死んだこともある。
罪人が刑務のために送られて来ることもある。そんなところだ。


ミアに関わらないようにするために。
俺を厄介払いしたかったんだな。



炭坑の仕事は辛かった。
一日中穴の中で作業をする。
穴の中では、あちこちで事故が起こり、時々は死人も出た。

親もなく、孤児院にも帰れない。
ミアにも、もう会えない。
生きていても仕方ない。
そう思って過ごす日々。

そんな時、俺の現場で落盤事故が起こり、何人の炭坑夫が亡くなった。
俺は命は取り留めたが、片脚を失った。


もう、炭坑での仕事はできない。
片脚の無い俺は、出来る仕事も見つからない。
いよいよ死ぬしかないのかと思った時に、一人の男が声をかけてきた。

そいつも炭坑で働いていたが、落盤事故で片腕を無くしていた。


「お前、手先が器用だったろ?」
そいつは俺に、一緒に商売をしないかと言った。

「そのネックレス、お前が作ったんだって?炭坑できいた」
「あぁ、結婚を考えていた女に渡すはずだった」
「振られたのか?」
「いや……いなくなった」
「……そうか」


声をかけてきたそいつは、もともとは伯爵家の息子で、王都の学校で何かをやらかして、断絶されて籍を抜かれて、炭坑に送り込まれたそうだ。


「お前のそのネックレスはなかなかに良いよ。俺が王都で売れるように考えるから、一緒にやらないか」

騙されるかもしれない。
利用されるだけかもしれない。
でも、それでもいいのかもしれない。
だって、俺だって
誰かに必要とされたい。


ネックレスを作る材料は、アイツがどこからか用意してきた。
金のことは心配しなくていいとアイツは言った。


王都の少し裕福な平民層をターゲットにするとアイツは言った。
俺は孤児院で作っていたものを応用して、アイツのアドバイスを盛り込みながら、ネックレスを作った。


アイツはどんな伝手があるのか、俺が作った品をあっと言う間に売りさばいてしまった。

アイツが考えて、俺が作る。そしてアイツが売る。
そうやって、俺たちは暮らした。
アイツが字は読み書きできた方がいいと言って、読み書きを教えてくれた。

王都で学校に行っていた、元貴族はやっぱり違うな。

アイツが王都で何をやらかしたのか、俺は聞かなかった。
お互いに、知らない方がいいこともある。


ある日、ネックレスを買い付けに来た商会に、かつて孤児院で一緒だったヤツがいた。
「マルコか?生きてたのかよ!」
ヤツは俺に会えたことをとても喜んでいた。

「ミアのこと、知ってるか?」
「いや。その後、結局男爵家を追い出されて、今はどうしてるか分からん」  
「追い出された?」
「あぁ、何かよく分からんけど、学園で何かに巻き込まれたとかで、追い出されたらしい」
「ミアは、生きてるのか?」
「それも、分からん」
「そうか……」


てっきり、貴族の娘になって、幸せに暮らしているのかと思った。


ミアは、生きているのか。
生きていて欲しい。
たとえ二度と会えないとしても。
たった一人の俺の愛おしい人。



しばらくして、俺に手紙が届いた。
ミアだった。
震える手で封を切る。

「マルコ あなたにあいたい」

手紙にはそう書いてあった。
今は伯爵家でメイド長として働いていることも。

安定した仕事があるなら、こんな炭坑の寂れた町で、俺と一緒に暮らす必要なんてない。
あんなに綺麗で、優しいミアなら、きっとちゃんとした人と一緒になれる。

俺は
『伯爵家で幸せに暮らせ』
と返事を書いた。
アイツに字を習っておいて、良かった。


アイツに手紙を出してきて欲しいと頼んだ。
アイツは宛先を見て、王都の伯爵家に手紙を出すことを不思議がったので、昔好きだった女から手紙が届いたのだと説明した。
アイツは、宛名をみて、そうかと言って手紙を出してきてくれた。

その後、アイツは町を出ると言い出した。

「お前も一人で商会とやり取り出来るだろう?」
「でも、お前が考えてくれるから、俺が作ることが出来るんだろ!」
「製品は商会の担当者と考えればいいだろ」

アイツはとにかくゆずらず、工房の全てを俺に残して、町を去って行った。

「恋人と幸せに暮らせ」
アイツはそう言った。
「俺は、あいつに王都で幸せになれって書いたんだ」
そう答えると、
「いや、恋人は来るよ」
と言って去っていった。


アイツは何を知っているんだ?
なぜアイツはいなくなったんだ?


俺の商売は順調だ。
アイツが全部整えていったから。

そして、ある日、ミアがやって来た。
たった一人の愛おしい人。

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