【完結】人は生まれながらにして孤独なものである

yanako

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侯爵家令嬢の私

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私は侯爵家の次女。
同じく侯爵家の令息と婚約している。
家格の釣り合いを考えた婚約。
彼は子爵位を賜るらしく、私は子爵夫人になる。
姉は他の侯爵家に嫁ぐことが決まっていて、次期侯爵夫人になる。


同じ侯爵の娘なのに。
年も2つしか、違わないのに。


婚約者の彼は、私に興味がない。
親同士が决めた結婚に従うだけ。
貴族の結婚なんてこんなものである。
いかに利を得るか。それだけ。
子どもですら、駒でしかない。


そんな彼が、学園で事件をおこした。
集団による婦女暴行事件。
学園は聴き取りの結果、事件自体を無いものとしたけれど、学生なら皆が知っている。
男爵令嬢は事件の後、学園を辞めた。


事件に関与していたと思われる令息たちは、それぞれの婚約者と揉めていた。
婚約者を破棄する人、解消する人、関係改善をはかる人。

ウチはどうするのだろう……。


姉の嫁ぐ家に関係者はいなかったが、今回の事件について、我が家に探りを入れてきた。

どうするつもりなのか、このまま結婚するのか。
もし、ことが明るみに出たときに、悪い影響があると困る……と。


姉も、自分の結婚に差支えるから、婚約を破棄して欲しいと言った。

父も姉の嫁ぎ先との関係を悪くしたくないためか、婚約破棄はやむ無しと言い出した。


婚約破棄か……
彼に愛情があるのかといえば、分からない。
けれど、彼と結婚して、子爵夫人になって、子どもを産んで……とぼんやりと描いていた未来は消えて無くなるということだった。


「婚約を破棄ではなく、解消にしていただけませんか?」
私は父に相談した。
「相手に瑕疵があるのだぞ?破棄で良いだろう?」
と父は言ったが
「破棄になると、私の印象も悪くなるので。どうかお願い致します」
とお願いした。


彼との婚約は解消され、破棄と同額の慰謝料をもらった。
解消のサインをするために最後に会ったとき、彼は以前のような高飛車な感じではなく、ただ静かに
「迷惑をかけて、すまなかった。幸せになって欲しいと思っている」
と言った。

あなたもと言って良いのか分からず
「ありがとうございます」
とだけ、返した。


私の次の婚約相手は、40過ぎの子爵だだった。
初婚。女嫌い。小金持ち。神経質。

婚約の挨拶の時には、
「早々に子どもを産んで欲しい」
と言われて、跡継ぎのためだけの結婚なのだと感じた。


ある日、子爵に呼び出された。
そして、押し倒された。

「子どもができるか、分からないからな。結婚してから、子どもができないなんて、困るからな」
子爵はそう言った。

初婚なのは、そのため?
今までにも、婚約者に同じようなことをしていたの?

家に戻り、父に報告すると
「どうせ、卒業したらすぐに結婚するんだ。それにお前は前の婚約解消で、もう傷ものなんだ、つべこべ言うな」
と、にべもなかった。


もう、嫌だ……。
繁殖牝馬と変わらないわ……。



幸運なのか、たった一度で私は妊娠した。
子爵は非常に満足していた。

「あとは、無事に産んでくれたら、それでいい」
と、子爵は言った。


子爵はそれっきり、私に会いに来ることも、呼び出すこともなかった。

妊娠したため、学園は辞めることになった。
実家で、微妙な扱いをされながら出産を待つ日々を過ごした。
姉の結婚式には、体裁が悪いからと、出席することは出来なかった。

未婚で妊娠なんて、体裁が悪いわよね。たとえ相手が婚約者だとしても……。


私は実家の侯爵家で出産をした。
男の子だった。

子爵に連絡すると、早速やって来て、私を労うこともなく
「子どもは私が引き取ろう。君は私と20歳以上も違う。もっとふさわしい人がいるのではないか?幸いに籍は入っていないんだ。結婚はやめよう」
と自分勝手な事を言った。

「私はあなたの子どもを産んだのに……」
「私は女が嫌いでね。一緒になんか暮らせるわけがない。それに、子どもを産むだけでいいと、そちらも納得していたはずだ。成功報酬は払うのだから」



あぁ、もうどうか、私を開放して下さい。



成功報酬を得た父は満足しており
「お前は領地の屋敷で暮らせ」
と言った。

もう、父の言う通りにはならないわ。


私は学園の紹介で、辺境伯領にある孤児院で働くことにした。
貴族籍も抜いてもらった。
平民として、自由に生きたかった。


「こんにちは、お世話になります」
私は少しの荷物を持って、辺境伯領へ移り住んだ。
これで自由になれる。
父からも、貴族としての在り方からも。


「お待たせしました」
玄関に迎えに出てきた職員は、赤茶の髪の毛、ヘーゼルの瞳。
前の婚約者だった。

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