【完結】人は生まれながらにして孤独なものである

yanako

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伯爵家長男の俺

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俺は伯爵家の長男である。

紅茶のような赤い髪に、ペリドットの瞳は、母に似ているらしい。


二つ年下の異母妹は薄茶の髪にヘーゼルの瞳。父にとても可愛がられている。

父の目には、俺は映らないらしい。
いや、映したくないのか。
存在すら否定したいもののようだ。

それでも、特に困ったことはないのだけれど。



父にはずっと幼馴染の想い人がいたらしい。
その想い人は平民の娘で、父と結婚することは許されず、愛妾としてならば側においても良いということだった。

父はその条件をのみ、家格の釣り合いから選ばれた伯爵令嬢だった母と結婚した。

母との間に俺が生まれ、跡継ぎができたため、努めは果たしたと父は母のことは無視して、愛妾と共に暮らす日々だったそうだ。

その愛妾との間に異母妹いもうとが生まれた。

父は異母妹をたいそう可愛がった。

しかし、隣国から来ていた高位貴族の方が愛妾を見初め、側妻に迎えたいと言い出した。
父はそれを断ることが出来なかった。
愛妾は隣国へ嫁いで行った。


父は益々異母妹を溺愛していった。


家族で揃って食事をすることは、ほとんどない。
うちはもう、家族として成していないのだ。


食事の前に父は近況を訊く。
俺もそれに答えるが、それに対しての返事は無い。
ただ形式的な挨拶をするだけなのだ。

そして、そこからはひたすらに異母妹に話しかける。
日々のこと。学校生活のこと。将来のこと。
異母妹は時折俺に気まずそうな視線を向けながら、父と話す。



母は、異母妹が居ないように振る舞う。
異母妹は少し寂しそうだが、もはや慣れた様子でもある。
母は俺と話す時にとても愛おしそうに微笑む。
その奥に何か気味の悪さを感じることがある。

母はどうして俺のことを
「おにいさまなんだから」
「おにいさまでしょ?」
などと言うのだろう。
異母妹のことなんか、存在すら無視しているくせに。


ある日、俺は叔父さんと話す機会を得た。
叔父さんは子爵家に婿養子に入っていて、義叔母さんと幸せそうに暮らしている。
従兄弟たちも、明るくて健やかに成長しているのが分かる。


叔父さんに俺は常日頃思っていることを言ってみた。

父が俺を無視すること。
母が俺を溺愛するのが気持ち悪いこと。
「おにいさま」と呼ばれる違和感について。


叔父さんは、お前ももう大人だからと言って、話してくれた。
これは確かなことではなく、叔父さんが推測していることだと言って。



その日は、父も母も食事には来なかった。
異母妹と二人だけの食事。

普段から、異母妹が俺に話しかけてくることはない。


「知っているか?」
「何をですか?」
「俺は、お父様の子どもではない」

異母妹は、目を大きく見開いた。


俺は異母妹に話した。
俺は母と母の義兄との間の子どもなのだと思われると。
母は遠縁から養子に入った義兄に恋慕したのだ。
母にそっくりだと思っていた俺の容姿は母の義兄に似ているのだそうだ。

母は俺の中に、義兄の姿を見て、義兄を愛しているのだ。

異母妹はしばらく黙り込み
「知りませんでした……」
と言った。


「俺が伯爵家を継ぐ権利があると思うか?」
父の子どもではない俺が伯爵家を継ぐ権利は無い。


「お兄様以外に、誰が継ぐんですか?」
「お前はお父様と血が繋がっているだろう?」


「それは……分かりませんわ」
異母妹はそう言った。

異母妹は本当に父の子どもなのだろうか。
父を愛妾は愛していたのだろうか。


黙り込み、血の気のない顔をして、異母妹が俺を見つめる。


「悪かったな」

「お兄様と呼んでも良いのですか?」
と訊かれた。

「他に呼び方があるのか?」
と言うと、なぜか笑えた。


俺は伯爵家の長男で
異母妹は伯爵家の長女


すべてのものの存在が疑わしいものだとしても

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